俺、不知火要はゴールドタワーの展望台で丸亀城を眺めつつ、少し前に行われた第五回壁外調査の資料に目を通していた
「今回も死者はなし…これも楠が隊長だからか」
まぁそこに関してはいつも通りだから問題なしっと
「…防人の装備じゃ星屑は兎も角、合体した奴等の相手はキツいか」
個人的な視点になるが、こうして生き残ってこれたのは楠の指示に各自の状況判断…後は単純に運が良かっただけだ
「個人の練度は確実に上がってるが……装備も強化していかないと限界がくる」
どうしたところで、ここで資料を見てるだけだと始まらないか
「…あぁ、久々に壁の外行きてぇな」
「何を物騒な事言ってるんですか、要さん」
「……安芸ちゃんか、何の用?」
「一応、調査の進捗をと思っていたのですが…必要なかったみたいですね」
「あぁ、資料には目を通したから問題なし…防人の奴等も着実に強くなってるし楠の指示も一回目に比べると確実に成長してる…してるんだが」
「装備の問題ですね」
「そう言う事、何とかして強化して貰えるよう頼めねぇか?」
「一応弾薬や装甲などの強化案は採用され、少しずつ進められています」
あくまで弾薬に装甲か、武装そのものの強化はなし…まぁ全部なしって訳じゃないだけマシか。安芸ちゃんに貰ったコーヒーを一気に飲み干して席を立つ
「もう行かれるのですか?」
「あぁ、十分に休んだし……それに、そろそろ気合いを入れないといけないからな」
「…それは要さんも壁の外に行く、と言う事ですか?」
「…五回目の調査で射手座が出てきたってことは、そろそろ俺の出番だろ」
今までは大型個体だけだから防人たちでも何とか対処出来た、だが今回で十二星座の名を冠する個体が出てきた以上…弾薬や装甲を強化したところで防人では無理だ
「だから俺が出る、あいつらを信じてない訳じゃないが…もしの可能性を考慮しておきたい」
「…そうですか」
別に死にに行くわけじゃないのに、随分と暗い表情をする
「安心しろって、アイツらは死なせないし俺も死ねない」
「…今日、楠さんにも言われました」
急に脈絡のないことを言われて頭に? が浮かんだが、その後の言葉で納得する
「自分の部隊では絶対に死者を出さない、それが自分が自分に課した制約だって」
「へぇ、楠がそんな事をねぇ」
まだ変わりきれてる訳じゃなさそうだが、アイツが前に言ってた勇者になる…その目的は変わってるわけじゃなさそうだが、その執念がそうさせたって考えるべきか
「そんで、お前はそれに対して何て答えたんだ?」
「それは、隊長としての誓約か…と聞きました」
「そしたら?」
「人間としての誓約だ、天の神の使いだか人類の天敵だが知らないが、化け物に人間が殺される時代は終わらせないといけない…と」
「はっ、違いねぇや…確かに、化け物に人間が殺される時代はさっさと終わらせねぇとな」
人間が化け物に殺される時代…か、確かに楠の言う通りだな…こんな時代、さっさと終わらせねぇといけない、そのために戦って来たんだもんな
「そんじゃ、俺はもう行くわ」
「わかりました…あの、要さん」
「どうした?」
「あっ、いえ…なんでもありません」
「そっか…それじゃあな」
その言葉を発すると、俺は展望台を後にした
要さんが展望台を出て行ったあと、私は彼の去った場所を見る
「要さん、あなたは…」
展望台を去って行ったとき…違う、私が展望台にやって来た時からあの人の目はとても冷たかった
「あなたは…一体何と戦っているんですか」
あの人が何と戦っていたのか、初めて会ったあの時じゃない…神樹館で、あの子たちを見ていた時から、彼が何と戦っているのか分からなくなってしまった
そしてある日の早朝、いつもより早く起きた俺は訓練場で一人槍を振るう。ただ無心で、敵を屠る為に槍を振るう、頭の中でシュミュレートするのは襲い掛かってくる敵の動きを…無造作に襲ってくる敵の動きを。頭の中で作り上げる
地面に突き刺しているのは、槍の他にも刀、銃、斧、鎌、ボウガン、大剣、鞭、弓矢。そして右腕には細工を施した籠手を、左腕には旋刃盤を、俺が知っているすべての勇者の武器を用意し、イメージトレーニングを行う
「…ふっ」
流れで槍を地面に突き刺し、刀を手に取って仮想の敵を切り裂く、そして続けて斧に鎌、大剣を次々振るう…一通りの武器をすべて使い終えた所で長い息を吐く
「お疲れ様です」
「……楠、見てたのか」
「えぇ、何か参考になるかと思ったので」
「そうか、それで…何か参考になったか?」
「いえ…流石にあの動きを参考にはできませんでした」
「そうだな、それがいい…訓練場片付けるから待っててくれ」
地面に突き刺した武器を手に取りつつ、片付けを始める
「あのっ!」
「どした?」
「あなたは…」
そこで楠は何かを考えるように一度言葉を止めた後、意を決したように口を開く
「あなたは、何と戦っているんですか?」
何と戦っている…か、ここ三百年それは忘れることはなかったし、今も尚忘れないでいる
「決まってんだろ? バーテックス…人類の脅威だよ」
西暦の…若葉たちと一緒に戦っていた時から三百年、第一線での戦いを退き、勇者と共に…いや、勇者の少し後ろで時に手を貸し、見守り続けてきた。そんなことをしている間に随分と錆びついちまってたが、防人たちか無事生き残ることが出来るのかという認識で、昨日の安芸ちゃんとの話、楠が言ったらしい人間が化け物に殺される時代…という言葉でようやく目が覚めた
あの時見た地獄を、地下に積みあがった人々の残骸を、青く広がっていた地平が、炎に包まれる光景を…最後に見たアイツの顔、これまで託されてきた
「よし、片付け終わり…お前も訓練、頑張れよ」
「は、はい…」
だから俺は…俺がバーテックスを潰す、二度と目の前で死ぬ様を見ない為に