不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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Ⅵ 同行

 展望台にいるのは三十二名の防人と俺、安芸ちゃんはまだ来ていない…全員揃ってから少しすると、見慣れた大赦仮面姿の安芸ちゃんが姿を現れた

 

「本日までの結界外の調査任務、ご苦労様でした。あなたたちの努力のお陰で、壁の外の大地と燃え盛る炎に関する調査は終了しました」

 

 安芸ちゃんは、いつも通り淡々と告げる…だがここまではあくまでも前段階、本当の話はむしろここからだ

 

「防人の任務は、調査から次の段階へと進みます」

 

 その言葉共に安芸ちゃんが防人たちに見せたのはプラスチックのシャーレと、その中に入っている一粒の種…防人たちにとっての任務はこれからが本番だと言ってもいい

 

「これを壁の外の土壌へ埋めてください。その後、巫女が祝詞を唱えます。この種は巫女による呼びかけに反応し、壁の外でも発芽して成長する……想定通りにいけば、種を植えた個所に緑が戻るでしょう」

「巫女が祝詞を……まさかあややを外に出すの!?」

 

 加賀城の反応は当然だ、国土ちゃんは巫女…非戦闘員だからな、戦闘員である防人とは比較するまでもなく戦闘経験なんてもんはからっきしだ

 

「そうです。巫女である国土さんがタワーにいるのは、この任務を想定していたからでもあります」

「待ってください、彼女を壁の外に連れ出すのは危険すぎます。そもそも結界外の灼熱に、巫女では耐え切れないでしょう」

「心配無用です。あなたたちの戦衣と同様、巫女専用の装備が用意されます」

「ですが、星屑とバーテックスは?」

「あなたたち防人が、巫女を守ればいいのです…それに―」

 

 安芸ちゃんがそう言ったタイミングで彼女の言葉を手で制すと、防人たちの前に出る

 

「それに、今回の任務からは俺も同行する」

 

 俺の言葉を聞いた防人たちは少しざわついた。そりゃそうだ、こいつらからしたら俺は只の大赦関係者な訳だからな…まぁ、立場だけ見りゃ間違っちゃいねぇか

 

「巫女護衛の最終防衛ラインには俺が入る。それに楠、お前が…お前達が培ってきた経験があれば出来る筈だ」

「あなた達には期待しています。国土さんを…よろしくお願いします」

 

 今までは淡々と話していた安芸ちゃんだったが、最後の言葉だけは微かに感情が籠っていた

 

「種を植える……今後は壁の外の大地に、植物を復活させていくつもりなのですか?」

「いいえ、細かくやっていては時間がいくらあっても足りませんし、種もそれほど多くはありません。植物を植えた場所を通路…いわゆる橋頭堡(きょうとうほ)としてある場所にを目指します」

 

 橋頭堡、橋の頭に建造する砦…敵地等での自分たちにとって不利な地理的条件で戦闘を有利に運ぶための前線拠点。本来の意味は橋の対岸を守るための砦らしい、俺も暇つぶしに本読んでたら出てきた言葉を何となく若葉に聞いたらそう返ってきたのを思い出しただけだ

 

「それで、私たちは何処に向かうんですの?」

「遠い昔、西暦の時代に『近畿地方』と呼ばれていた場所です。近畿地方に辿り着き、陣地を築くこと。そこまでがあなた達の任務です」

 

 近畿地方か、四国来るまでにちょろっと通ったけどあんま覚えてねぇな

 

「……その後は、勇者の任務ということですか?」

「あなたたちが知る必要はありません。伝達事項は以上です、今後も全力で御役目を果たしてください」

 

 その言葉を最後に、安芸ちゃんは出て行った、楠は…少しイラついてるみたいだな

 

 

 

 その日の午後、訓練の様子を見てるが…案の定と言うべきか随分と荒れてるな

 

「いつも見たいな動きが出来てねぇな…いや、感情に任せて動いてるだけか」

 

「次、来なさい!」

「では、この弥勒夕海子がお相手いたしますわ! 新たな任務が始まるのですから、その前祝いとして我がライバル、芽吹さんを倒してみせましょう!」

 

 そう言うと弥勒と楠の模擬戦が始まったのだが…弥勒はあっさり負けたな

 

「弥勒さんは勢いに任せて突っ込みすぎです! だからいつも不要な危険を負うんです!」

 

 そう言った楠は防人全員の方を見て声を張り上げた、それはどっちかって言うと責めるというよりも当たり散らすって言った感じか

 

「みんな、全然訓練が足りてない! そんなことじゃ、次の任務か、次の次か──いつか重傷を負うか、殺されてしまうわよ! 大赦は私たちを使い捨ての道具としか見ていない! あいつらは私たちを守ってくれはしない! 私たちのみは、私たちで守らないといけないの! あなたたちの弱さじゃ…そんなことだから勇者になれないのよっ!」

 

 納得する部分はあるが、楠が放った言葉の最後を聞いた瞬間…頭に血が上ったが何とかそれを抑え込む……ここで俺が出るのはお門違いだ、あいつらの問題はあいつら自身で解決しないといけない

 

「弥勒さんは何も思わないんですか。私たちの新しい任務は……単なる勇者たちの露払いですよ! 今までの調査任務も、これからの任務も、私たちはこれだけの危険を負っているのに……! 命を削ってるのに、与えられている任務はあまりにも下らない! 弥勒さんは悔しいと思わないんですか!?」

「──悔しいに決まってますわ。ですが、大赦のわたくしたちに対する今の評価は、死に程度と言うことでしょう。悔しいですが、駄々をこねて喚いても、何にもなりませんわ。でしたら、今できる事をひたすら全力でやるべきです」

 

 何と言うか、少し懐かしい気持ちになる…何だかんだ言っても、あの残念お嬢も弥勒の血筋か

 

「ですが―」

「それに私は、与えられている任務がくだらないものだとは思いません。確かに調査も陣地設営も地味な仕事ですが、戦には不可欠な役割ですわ。それに、実績を積み上げて積み上げて積み上げて……そうしていけば、いずれ上が見えてくる筈です。いつかは勇者か、それに匹敵する御役目を任されるはずです。そう考えれば、私たちにとって『くだらない任務』など存在しませんわ! すべて大きな価値のある任務です!」

 

 弥勒の言葉を聞いた楠は、何かを思い知らされたと言った顔をしている

 

「私たちは調査任務をほとんど犠牲泣く終えることができました。犠牲を前提とした防人というシステムに対し、これは大赦の想定を覆す大きな実績に違いありませんわ。陣地設営の任務でも、同じように大赦の想定以上の実績を上げれば、彼らはきっと私たちを軽視できなくなる。今、我々がやっていることは、建物作りで言えば基礎工事のようなものです。大工の娘であるあなたなら、その重要さがわからないはずないでしょう!?」

 

 どうやら、楠の方も憑き物が落ちたみたいだな…それを見届けると訓練場を後にする

 

 

 

 そして──新しい任務が始まった

 今回は俺も防人たち…というより国土ちゃんの近くを歩いているが、さっきから嫌な気配がひしひしと伝わってくる。それは遮熱機能がある防人も変わらないらしい、特に楠は無意識ながらそれを強く感じているっぽい

 

「大丈夫、亜耶ちゃん」

「芽吹先輩…気遣ってくれてありがとうございます。でも、大丈夫です。こんなことくらいで弱音吐くわけにはいきません。私の所為で速く進むことが出来ないのですから、せめて頑張るくらいさせてください」

「どうしても辛かったら声かけてくれ」

「不知火さんも、ありがとうございます」

 

 楠…というか防人たちはそんな俺を不審な目で見てくるが、そりゃそうか…他の防人とおんなじ素材の装備を使ってるにしても俺は汗一つかいてないわけだし

 

「あの、不知火さんはどうしてそこまで涼しそうなんですの?」

「俺は…まぁ、慣れって感じだな」

「慣れ?」

「慣れって…一体どういう」

「詳しい話はいずれ話す」

「…相変わらず、不思議な人」

 

 それからしばらくの間、歩き続けていると再び国土ちゃんが楠に話しかけていた

 

「芽吹先輩は、羽衣伝説という者を聞いたことがありますか?」

「羽衣伝説? いいえ、知らないわ」

「天女の羽衣を人間が盗んでしまうお話です」

 

 天女の羽衣を人間が盗む…ねぇ、国土ちゃん曰く天から降りてきた天女が水浴びしてるのを見てた男が羽衣を盗み、隠した…羽衣を失った天女は天に帰ることが出来なくなった。

 その後天女は地上での生活を始め、羽衣を盗んだ男と夫婦になり、四人の子供に恵まれ幸せな家庭を持った…しかしある時、天女は隠してあった羽衣を見つけ、男と子供を残し天へと帰り、残された男と子供たちは、嘆き泣き続けた…か

 

「ずいぶんと身勝手な話ね」

「私もそう思います。羽衣を盗んだ男の人も身勝手ですし、子供たちを置いていった天女も身勝手です。ですが、とある伝承によれば天女は天に帰った後、泣き続ける子供と夫を愛しく思い、一念に一度だけ会うことが出来るようにしたそうです。愛しく思っていたのなら……天女は、本当に天に帰りたいと思っていたのでしょうか」

「帰りたいなんて思ってなかっただろ」

「えっ?」

 

 国土ちゃんの言葉に、何気なく答える…別に天女の気持ちなんざ知ったこっちゃないが、多分そうだろ

 

「確かにどっちも身勝手だが、大切なモン残して帰りたいなんて気持ちが生まれる程…感情出来ちゃいねぇよ」

「…随分と知った風に言うんですね」

 

 楠の言葉を聞くと、思わず笑っちまった…知った風に言うか、確かにそうかもな

 

「長いこと見送る側だからな…俺より先に逝っちまう奴はみんな、今際の際(いまわのきわ)にゃ謝罪か感謝だ…すまないかありがとう、だから知った風じゃなくて知ってるんだよ……一人を残して先に逝っちまう奴の気持ちと、一人残されちまう奴の気持ちは…悪い、話が逸れたな。兎に角、まともな感性してりゃ愛しく思う相手を置いてとっとと帰っちまう奴はいねぇって事だ」

 

 そこで話をとっとと終わらせる、少し余計な事を喋りすぎたな…と思っていると加賀城の悲鳴が聞こえてきた

 

「ぎゃああ、助けてメブゥ~~! 来たよぉぉ! 星屑がッ来たぁぁぁぁっ!」

「護盾隊は国土亜耶を中心に盾を展開! 私たちの任務は、巫女を目的地へ無事たどり着かせることよ! 不知火さんも私の指示に従ってもらいます!」

「了解、何をすればいい?」

「亜耶ちゃんを、お願いします」

「あいよッ!」

 

 今回は他の防人同様に銃剣を武器にする、流石に俺個人の力は温存しておく

 

「メブゥ~~、星屑は防ぐからぁぁ! でもこの前みたいなでっかいの出たら、絶対私を守ってぇぇぇ!」

 

 盾持ちが自分を守ってくれは、役割的に本末転倒だろ…とか考えながら銃撃で星屑を蹴散らしていく

 

「私は盾の外で戦いますわよ!」

「オレも外で戦わせて貰うぜ! いいだろ、楠!!」

 

「弥勒さんとシズクに戦闘を許可する! 番号一から六、および弥勒夕海子と山伏シズクは盾の外で星屑と戦闘を銃剣隊の他の者は、盾の内から応戦を! 不知火要は国土亜耶の護衛を! 今回も一人の犠牲も出さず、御役目を成し遂げてやりましょう!」

 

 成る程な、これが楠芽吹に防人隊、か…間近で見て分かったが、ホントにいいチームじゃねぇか

 

 

 そして戦いながら、なんとか目的地まで到着する。護盾隊が盾を展開している中で国土ちゃんが地に種を植え祝詞を唱え始める。少しすると地面から緑の芽が現れ、その芽は盾の中だけでなく外にまで広がった

 

「成功したの……!?」

 

 炎に包まれた大地が緑に包まれ、地面が再生していく…次の瞬間、俺の感じていた気配が一層強くなった直後、山伏の身体が吹き飛ばされる

 

「うおおぁぁっ!?」

 

 俺にとっては、良く見慣れたクソ忌々しい尻尾を持つ化け物の姿が映る…コイツと会うのも何回目だろうな

 

「スコーピオン・バーテックス……!」

 

 芽吹が口にしたのは、蠍座の名を冠する化け物の名前、何回か殺されかけた事のあるその化け物に防人たちは絶望しているのだろうが…その中で俺の表情には、自然と笑みを浮かんでいた

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