不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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Ⅶ 単独戦

 山伏の身体が宙を舞い、防人たちの表情が絶望に染まる…そんな中で俺の表情には笑みが浮かんでいた

 

「ぎゃあぁぁぁ──―!! 助けてメブぅぅ──―! バーテックスが、出たぁぁ!」

 

 盾で出来た壁の内側で加賀城の悲鳴が鳴り響いた事で、俺の思考もようやく涼しい状態に戻る

 

「どうしよう!? どうしよう、メブ!? バーテックスだよぉ!」

「落ち着きなさい、雀! あれは完成体のバーテックスじゃない!」

 

 楠の言ってることは間違っちゃいない、外観こそ完全体に近いが所々に未完成の部分が見え隠れしてる…具体的に言うと色が白一色だから八割完全体って感じか

 

「護盾隊! 攻撃に備えて!」

 

 楠の声に従い防人たちは盾を展開し壁を作るが、それは蠍野郎にあっさり崩され…蠍の矛先が国土ちゃんに向く

 

「──誰も死なせないッ!」

 

 楠が国土ちゃんの事を庇い、一撃目は防ぐ…丁度空きも出来たし、そろそろ突っ込むか

 楠たち二人に対して放たれた二撃目は加賀城によって防がれた

 

「加賀城! あと一撃だけ耐えろ!」

「無理無理無理無理ですぅ!」

「お前ならやれっからッ!」

 

 加賀城にもう一撃、蠍の尻尾が放たれた直後…俺は全力で大地を蹴る

 

「まずは、一撃ッ!」

 

 蠍は尻尾を破壊すべし、これは俺が長生きして腐る程戦ってきたことによる教訓なんだが…やっぱ防人用の武装じゃ致命傷は無理か、とりあえず一発与えたがこれじゃダメなことが分かったのでいったん後ろに下がる

 

「銃剣隊、狙い! 撃って!!」

 

 後ろに下がってすぐ、防人たちによる銃撃が蠍の顔面みたいな部分を抉る

 

「塵も積もれば何とやらって感じか…」

「あのぉ、私もそろそろ…ヒィィィッ!!」

「危なかったな」

 

 後ろに下がりがてら加賀城を拾って蠍の攻撃を回避してたんだが、少し刺激が強かったかなどと考えていると後ろから声が聞こえてきた

 

「芽吹さん、やりましたわ! このまま一気に……」

「いえ、攻撃は続行しません、撤退します!」

 

 このままじゃ消耗戦になるのが目に見えてるから妥当な判断か…弥勒も少し不満そうな顔を見せたがすぐに納得の表情に変わる

 

「芽吹先輩…」

「大丈夫よ、亜耶ちゃん。私たちがあなたを守る……撤退を始めるわ! これより私が持つ指揮権は、私を除く指揮官七人に移行する! 番号二から八の指揮官は、他の防人たちと巫女を率い、必ず全員を生きて壁まで辿り着かせること!」

 

 楠の言葉を聞いた指揮官型の七人はその言葉に頷く…こういう状況も想定済みって訳だ

 

「行動開始!」

 

 楠の言葉と共に防人たちは国土ちゃんを連れて壁の方まで歩きだすが、楠に弥勒だけはその場に留まっていたので加賀城を持って二人の元に行く

 

「た、助かったぁぁぁぁぁぁ!!」

「お前らは、撤退しないのか?」

「そうだよ! メブ、逃げよう! すぐ逃げよう今逃げよう真っ先に逃げようよ~!!」

「私は撤退の殿を務め、スコーピオンを部隊全体を守ります。それと──シズクも助けて連れ帰る。私の部隊から犠牲はださない」

 

 ホントに、いい目をするじゃないの……それじゃあ、俺も俺の仕事をするとしますか

 

「楠、それなら蠍は俺が引き受ける。お前らは山伏救出に専念しろ」

「駄目です、危険すぎます」

 

 まぁそうだよな、今回に関しては安芸ちゃんからあんまり動き過ぎるなって言われてるけど…ここは仕方ないか、俺は銃剣の刃の部分で手のひらを切る

 

「なにを…ッ!?」

「うっそ…」

「なんなんですの、それ…」

 

 楠たちが驚くのも無理はない、傷跡から流れ落ちる筈だった血液は形を変えて使い慣れた槍の形に変化したから…というか俺が変化させたんだが

 

「こういう事だから大丈夫、お前らは仲間を救いに行け」

「……わかりました、ですが一つだけ、私からの命令です」

「命令?」

「えぇ、不知火さんも絶対に生きて帰ってきてください、貴方も今は私の部隊の一員ですから」

 

 嬉しいこと言ってくれるねぇ…一方で加賀城はその話を聞きながらうんうんうねっていたが意を決したように楠の方に顔を向ける

 

「…よしっ! メブ! 私も一緒にいる!」

「雀…わざわざあなたまで危険に付き合う必要ないわ、壁の方に向かいなさい」

「危険だって事も、逃げた方が良いって事も分かってる! でも…メブもシズクもほっとけないから、怖いけど私も一緒にいる!!」

「雀さんの言う通りですわ、芽吹さん。あなたとシズクさんを放ってはおけません。犠牲を一切出さないということは、あなただって犠牲になってはいけないのです…もちろん、不知火さんも」

「雀…弥勒さん…」

 

 なんか、聞いてるこっちが気恥ずかしくなってくる…部隊の一員とか言われんの久々過ぎてむず痒い

 

「…そんじゃ、俺は蠍の相手をしてるから救出終わったら合図してくれ」

 

 そういい終わってすぐ、大地を蹴って蠍に突っ込んで行く…山伏にゆっくりと向かっていた蠍もこっちに気づいたようで尻尾を振るって攻撃してくるが

 

「その攻撃は、いい加減慣れたんだよッ!」

 

 槍を使い棒高跳びの要領で尻尾を避ける…パパっと倒してもいいし久々に暴れたいってのが本音だが、今回の目的はあくまで時間稼ぎ…下手に倒して大量の星屑が撤退してる防人たちの方に向かいました何てことになったら目も当てられない

 

「鬼ごっこしようぜ、蠍野郎」

 

 武器を槍やらボウガンへ変換させて、蠍に撃ち込んでいると…蠍の背後にキツいのを一発ぶちかましてる山伏の姿があった。それに気づいた蠍も標的を俺から山伏に目標を移した

 

「おい、何やってんだッ!」

「さっきの一撃、このエビ野郎にお返ししてやらねーと気がすまねぇんだよ!」

 

 そう言った山伏は銃剣を尻尾に突き刺して銃撃をしながらそのまま横に切り裂いた…俺の気遣い全部無駄になったじゃねぇかよ

 

「シズク~~! 無事で良かったぁぁぁっ!」

「汚ねぇ顔してんじゃねぇ、涙と鼻水くらい拭け。つーか、そんなにオレが生きてて嬉しかったか?」

「だってだって、シズクを抱えて行かなきゃいけなかったら、私が生きて帰るのが絶対難しくなったからぁぁ! 自分で動けるようで良かったよ~!」

「お前は…オレの事を心配してんのかと思ったら、結局自分の心配じゃねーか。まぁ、お前らしいか」

 

 話しているのを横目に見ていると、蠍の方から殺気を感じたため、武器の形態を旋刃盤に変化させて四人の事を突き飛ばした瞬間…蠍の針が俺に襲い掛かってきた

 

「きゃっ」

「うおっ」

「ひゃあぁ」

「な、何事ですの!?」

 

「ぐ、うぅぅぅぅぅぅぅぅッ!」

 

「不知火さんッ!?」

 

 何とか軌道を逸らしたが、さっきの一撃で旋刃盤を装備した左腕がジンジンする…やっぱ体のなまりは中々治るもんじゃねぇな

 

「大丈夫ですか!」

「あぁ…心配ねぇ」

「さっきの一撃…危険ですわね」

「危険なんてもんじゃないよ! 一回でもくらったら絶対死ぬ!」

 

 そうだな、確かに一発食らっただけで死ぬな…経験者が心の中で言ってんだから間違いねぇ

 

「とりあえず、お前らはさっさと撤退しろ」

「けどっ──」

「…はっきり言うが、お前らいると気にしちまって戦えねぇ、だからさっさと戻れ」

「…命令、絶対に守ってくださいね」

「大丈夫だ、死んでも守れっから」

 

 いまだ戸惑ってる楠たちの背中を押して無理やり撤退させると改めて蠍と向かい合う

 

「…そんじゃ、始めるか」

 

 武器の形状を旋刃盤から刀へと変化させ、抜刀の体勢に入る……尻尾が迫ってくる

 

「若葉、お前の技…借りるぞ」

 

 眼前に迫った尻尾をギリギリの所で避け…刀を抜刀、一太刀で尻尾を切り裂いた

 

「一閃・緋那汰」

 

 若葉から借りた技の名前を言い終わると同時に刀を納刀する…にしても、若葉の奴もっと他に技名あっただろうが

 

「あぁ、ハズい…何て言ってる場合じゃねぇな!」

 

 蠍の野郎、尻尾の先の針ついてる所ぶった切ってやったのに今度は刺殺じゃなくて撲殺狙いに来やがった、殺意高すぎだろ

 

「やっぱ爆発力で叩き壊すのが一番手っ取り早いなッ!」

 

 武器を刀から籠手に変更、そして尻尾を避ける為に取っていた距離を一気に詰める…振るってきた尻尾を踏み台に天高く飛び上がり、今回は自分の切り札を切る……一回試したことあるが精霊の力を借りられるのは壁の中限定らしい。炎に包まれてる壁の外じゃ力を借りられないっぽい、支配圏の違いって奴だ

 壁の外は天の神どもに有利、壁の中は地の神有利、樹海はどっちにも可もなく不可もなくだがどちらかと言うと地の神有利…クソみたいな相性ゲーだ

 

血戦偽装(けっせんぎそう)── 一目蓮(いちもくれん)

 

 身体が沸騰するように熱くなり、少しずつ体中から血液が滲みだしてくる…その血液は体に装甲として装着され、装備状態になる

 

「友奈、お前の技も借りるぞ…我流! 勇者…パンチッ!」

 

 血戦偽装によって重装化した籠手で思いっきり蠍の事をぶん殴ると、蠍の身体中にヒビが入り崩れた…地面に着地した俺はそのまま偽装を解き、燃え盛る地面に膝をつく

 

「流石に……キッツいな」

 

 自傷ダメージでボロボロになった身体を自己治癒によって少しずつ治しながら俺も壁の方に向かって歩き出した





〈topic〉
 不知火要の切り札である血戦偽装は壁の外で使うと通常以上に負荷がかかり、壁の外で精霊を降ろす事が出来ない

【血戦偽装使用時の負荷の強さ】
壁の内側 → 通常の西暦勇者と同等
壁の外側 → 不老でなければ一度の使用で死亡

 負荷の強さが違う理由は、壁の外は天の神有利である為負担がより強くなり、壁の内は地の神有利である為負担は減少される
 また、不知火の血戦偽装は神樹の中に存在する精霊に”神樹の仲介なし”で接続している為、普通に精霊を降ろすよりも更に負担がかかっている
 それ故に壁の外で血戦偽装を使うという行為は正気の沙汰ではない行為である

壁の外で精霊を降ろせないのは、不知火自身が神樹と繋がっていないから
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