不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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Ⅷ 胸騒ぎ

 壁の内側に歩いているうちに、身体も少しずつ楽になってきたが、今だ気怠い体を適当に動かしながら壁の内側に戻ると楠が居た

 

「不知火さんっ!」

「お前ら、まだ戻ってなかったんだな」

「…あなたも、私の部隊の一員ですから。放って帰るわけにはいきません」

「そうか、それじゃ俺達も戻るか」

「はい…あの、大丈夫なんですか?」

「大丈夫って、何が?」

「一人でバーテックスの相手をして、大丈夫だったんですか?」

「大丈夫だったよ、ひたすら逃げてるだけだったし…逃げるのには慣れてたし」

 

 実際には倒したんだが、俺は勇者じゃないし…倒したなんて言ったらどうやって倒したのかみたいなのを聞かされそうで少し面倒だし

 

「そうですか、でも…無事で良かったです」

「お前らも、犠牲者も重傷者もなかったんだろ?」

「はい、一人の犠牲もなく…撤退することが出来ました」

「そうか、それなら良かった」

 

 今回も犠牲者なしで良かった…それに、楠の表情もスッキリしたものになっている

 

「…ホントに、良かった」

「何か言いましたか?」

「いや、別に……何でもねぇよ」

 

 それから、ゴールドタワーに帰還した俺は楠と別れて展望台に向かうと、いつもの神官服を着た安芸ちゃんがいた

 

「安芸ちゃん、何してんの?」

「要さん…無事で良かった」

「無事でって、別に危ないことはしてねぇよ」

「嘘をつかないでください、ボロボロになったその服装を見ればわかります」

「ボロボロなのは服だけで、身体は何ともないから…ホントに心配ねぇよ」

 

 体質的にも死ねない老いない、嫌になることも多かったが今回ばっかりはこの体質に感謝してる

 

「そういえば、今回の一件はもう報告貰ったのか?」

「はい、楠さんの帰還が遅くなると報告を受けていたので、弥勒さんから簡単に…後ほど楠さんからの報告を聞くつもりです」

「そうか、わかった」

「何か気になることでも?」

「そう言うのがあるわけじゃない…ただ、漠然と嫌な予感がするだけだ」

 

 こういう時の予感はすぐに、とは言わないが大抵どっかしらで当たるから嫌なんだ…今まで嫌な予感が外れたこともないし、今回ばっかりは杞憂で終わって欲しいんだが

 

「とりあえず、俺ももう休むよ…安芸ちゃんも早く休みな」

 

 それだけ言うと俺も部屋に戻る

 

 

 

 

 それから数日の時が経ち、少しごたごたしてたらしいも落ち着き、情報をまとめ終わった安芸ちゃんから俺が聞いたのはあの任務の翌日、楠たち四人が病院で検査を受けた結果、彼女たちは火傷を負っているとのことだった

 今までの調査では防人は誰も火傷を負わなかった以上、今回の調査で何かしら予想外の事態が起きたという事になる……防人の戦衣の作成及び調整を行っているが冬馬達で、それ抜きにしても春信や上里の現当主であるひよりが少なからず関わってる以上手を抜いてる可能性はない、そう考えると

 

「壁の外で燃え盛ってる炎が大赦の想定を超えたって事になる」

 

 そう考えると、あんま時間がないのかも知れないな……このまま打開策を見つけられなかった場合、人類は滅ぶ

 

「もしかしたら、そっちの方が楽かもしんねぇな」

「あんまり不吉な事を言わないでくれます?」

「…いつの間に思考盗聴できるようになったのさ、春信」

 

 大赦の中でもそこそこの役職についている出世頭こと三好春信君が、わざわざゴールドタワーまでやってくるとは

 

「要さんが分かりやすいだけですよ」

「あっそ……そんで、今日は何か急ぎの要件か?」

「緊急の打ち合わせです、戦衣の耐熱性を壁の外の炎が超えた可能性があると聞いたので」

「あぁ、その件か」

 

 やっぱり問題になるか、それは分かってたにしても、そう簡単に解決できる気はしないけど

 

「要さんも、せっかくの休みなんですから少し外の空気でも吸ってきたらどうですか?」

「…そうだな、そうするわ」

「そうだ、要さん」

「どしたって…おっとと」

 

 春信の言葉に従いエレベーターの方に向かおうとした時、何かを思い出したらしい春信が俺に投げ渡してきたのは、入館許可証? 

 

「なんだこれ」

「どうせ行くんでしょ、丸亀城…大赦の幹部権限で一般じゃ入れない場所にも入れるよう連絡しておいたんで、入る時にその許可証見せてください」

「ホントに、お前は余計な事を……でもま、ありがとな」

 

 春信に礼を言って、俺はゴールドタワーを後にする

 

 

 

「そんなわけで、やってきました丸亀城」

 

 ゴールドタワーから徒歩で大体一時間、所々新調されていても相も変わらず懐かしい雰囲気を感じさせる町の中を歩きながら到着したのは丸亀城…最近はこれてなかったこともあって中々に懐かしい感じがする。平日の昼間という事もあり、ガラガラの敷地内を歩いて受付に許可証を見せた後、その足で向かったのは教室がある場所まで向かう

 

「ここに来るのも、久しぶりだな」

 

 一体いつ以来だろうな、この場所に来るのも…いざ懐かしの場所までやって来てこの空気に触れると、やっぱり寂しいという気持ちが出てくる

 

「気が遠くなくらい昔の事なのに、こうして思い出せる辺り…お前らと過ごしたあの時は、俺にとって大切なモノなんだってのを嫌でも思い知らされるよ」

 

 若葉たちだけじゃない、西暦で出会ったやつらに神世紀で知り合ったやつら、その全部が俺にとってかけがえのないものだって事を、嫌でも理解させられる

 

「…こんなの思い出しちまったら、死にたいと思っても死ねないだろうが」

 

 先に逝っちまった者たちから託された祈り、これから逝っちまう奴らが俺に託すであろう願い

 

「そんなもん、託される前に終わらせないとな…このクソみたいな戦いを」

 

 さてと、気分も晴れた事だし…楠たちの見舞いにでも行ってやるか

 

 

 

 

 青果店でフルーツの盛り合わせでも買って楠たちの病室までやって来たのだが…なんで病室の前に行列が出来てんだ

 

「あっ、不知火先生、お疲れさまでーす」

「お疲れ…で良いのか?」

「良いんじゃないですか?」

「あぁ、そう…それより、大人気のラーメン屋を思い出すような行列は何事だ?」

「何事って、楠さん達へのお見舞いですよ?」

 

 お見舞いに見えねぇから聞いたんだけど

 

「それより、先生もお見舞いですか?」

「まぁな」

「それじゃあ、最後尾にお願いしまーす」

「……あいよ」

 

 お見舞いって、一体何だったけなぁ……

 

 それから俺が入れたのは最後も最後、他の防人のメンバーも帰り俺が入るころには楠たち四人に国土ちゃんが残ってるだけだった

 

「よう、息災か?」

「不知火さん、来てくれたんですね」

「まぁな…それとこれ、見舞いの品だ」

「おぉ! フルーツだぁ!」

「良いんですか?」

「良いんだよ」

 

 目を輝かせてた加賀城にフルーツの盛り合わせを渡して、椅子に腰かけると病室が中々に愉快なことになっていることに気付いた

 

「すっかり好かれてるみたいだな」

「そうですね、悪い気はしません」

 

 ホントに、すっかり丸くなった…というより、色々と気づいたみたいだな。ほんとにいい顔してる

 

「…そうだ、不知火さんに少々お聞きしたいことがあるのですが」

「聞きたい事?」

「えぇ、実が──」

 

 弥勒から聞いた所によると、どうやら大赦の女神官…というか安芸ちゃんが病室に来たことがあったらしい。会話もしないで四人の容態を見るだけ見て帰っちまったとのこと

 

「なるほどなぁ」

「えぇ、多分お見舞いだろ思うのですが……って何を笑ってますの?」

「くっ、はははっ」

「……何かおかしかった?」

「へっ、何々?」

「ははっ、いや、すまん…まさかそんなことを聞いてくるとは思わなくてよ」

 

 もっと別の事を聞かれるもんだと思ってたから、あまりに予想外の質問で思わず笑っちまった…にしてもそうか、安芸ちゃんがねぇ

 

「そんなことって、これでも結構気になっていたんですが…」

「普通に心配してきたに決まってんでしょ…それ以外で病室に来るわけねぇよ」

「でも、彼女は…大赦は私たち防人の事を道具としか……」

「そりゃ違うぞ楠、それにこの際だからここに居る全員に言っとくとな、神官さんのあの態度はあくまで自分が大赦側だからなんだよ」

「大赦側だから…」

「…どういうこと?」

 

 この際だから、少しだけバラしちまってもいいか…口止めすれば問題なさそうだし

 

「こっからの話はオフレコで頼むな…国土ちゃんも、そこで果物…というかみかんを貪り食ってる加賀城もな」

「わかりました」

「ふぁい」

 

「それで、どういうことですか?」

「…簡単に言うと大赦側の一枚岩じゃないって事、そんで中には立ち位置が難しい人もいてあの神官さんがそれって事」

 

 俺だって大赦の中にも反りが合う奴合わない奴ってのはいる

 

「けど、そんなの関係なしに大赦の職員は勇者に防人…前線で戦ってる奴には必要以上に接触しないってのが最低条件なんだよ」

「それって……」

「いくら勇者適正があるって言ってもお前らは只の子供、それは防人だろうと勇者でも変わらない。だから必要以上に関わっちまうと傷ついていく姿を見て、こっちまで罪悪感を感じちまう…だからある程度距離を置くんだよ」

 

 それ以外のも理由はあるのかも知れないが、俺はそう考えてる…実際問題、二年前に起きた最後の戦いの後、安芸ちゃんは見てられないくらい心にダメージを負っちまっていた

 

「だから、あの神官は私たちに対して」

「そう言うこった、でも…アイツはアイツなりにお前らの事を心配してるしのは間違いない」

「それにしても、不知火さんも妙に実感こもってるんですのね」

「二年前、お前達みたいに勇者を鍛えてたからな……大切な時に何もできなかった無力さだけなら嫌と言うほど分かってるよ」

 

 今は全員揃って讃州にいるって言っても、俺がもう少しあいつらの負担を抑えることが出来てれば、もっと違う結末になったかも知れないからな

 

「…そんじゃ、俺ももう帰るかね」

「えっ、もう…ですか?」

「あぁ、あんま長居する気もなかったし、そろそろ日も暮れてきたからな…国土ちゃんはどうする?」

 

 病室の窓に刺さっていた日も傾き始めていた

 

「そうですね…私もそろそろお暇したいと思います」

「わかった…不知火さん、亜耶ちゃんの事お願いします」

「追い、任しとけ」

 

 俺と国土ちゃんの二人は病院を出て、ゴールドタワーに向かう道を歩き始める

 

「あの」

「どうかした?」

「今日は、ありがとうございました」

「ありがとうって…何が?」

「神官さんの事、説明してくれて」

「あぁ、別に気にする必要ねぇよ…今回は只の気まぐれみたいなもんだ」

「それでもです…ありがとうございます」

 

 そこまで素直に感謝されると、普通にむず痒い…最近は何でも屋の仕事も出来てなかったし。何だかんだでこういう感謝の言葉を貰ったのも久しぶりだな

 そこから普通の世間話をしている間にあっという間にゴールドタワーまで帰ってきた

 

「ありがとうございました」

「おう、ゆっくり休めよ」

 

 国土ちゃんと別れ、俺も自分の部屋に戻っていく

 

 

 

 それからしばらくの間、何事もなく時間は過ぎていった、楠たちも無事退院し、次の任務に備えて訓練を続けていたある日の事、朝食を食べていると、楠が国土ちゃんに話しかけた

 

「どうかしたの、亜耶ちゃん?」

「なんのことですか? あ、今日の私、巫女のお勤めで、大赦にお出かけしますね」

 

 そう言った国土ちゃんの表情は何処かぎこちない…いまだ消えていなかった胸のざわつきが一層強くなるのを感じながら、俺は目の前に置かれていた緑茶を飲み干した

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