「奉火祭…だと」
「はい、大赦は奉火祭を執り行う事を……決定しました」
春信に呼ばれ旧事務所へとやって来た俺が聞かされたのは、二度と聞くことは無いと思っていた忌々しい言葉
「お前らは…大赦は、アレをまたやるって言うのか?」
「はい、ひより様は最後まで反対していましたが、反対派に比べて賛成派の方が多かった事……そして、奉火祭を執り行う事以外の策が無かった事が決定打になってしまいました」
「……ふざけるのも大概にしろよ」
流石に今回ばかりは抑えることが出来ない、そのまま事務所から出ていこうとしたが、春信が俺の腕を掴んでくる
「放せ」
「それは、できません」
「もう一度だけ言う…その手を放せ」
「今あなたの手を放したら、取り返しのつかない事になる…だから、放すことはできません」
「なら、お前は…お前らは人柱になるところを黙って見てろって言うのか」
ふざけるなよ、一度目の奉火祭の時…俺達は何もすることが出来なかった。天の神に書き換えられた世界を前にして、ただ従う事しかできなかった
「仕方ない…と言葉で言うのは簡単です…けど、今は耐えてください。今ここであなたが暴走したら、初代勇者様が…あなたの大切な友が守り続けてきた世界を、滅ぼすことになるんですよ」
「お前……嫌な言い方出来るようになったな」
「これでも、嫌な大人に普段から囲まれてますから」
ホント、最悪の気分だよ…だが少しだけ、頭の中が冷静になった
「それで…わざわざ引き離して俺に伝えたって事は、防人の奴等にも説明はしてるんだろ?」
「はい、防人たちへの説明は安芸さんが行っています」
「人選が最悪すぎるだろ…大赦は安芸ちゃんの事が嫌いなの?」
「最良の人選だとは思っているんだと思います」
腸が煮えくり返ってるがそれでも頭が冷静になってる、だからこそ…頭も回ってきた。火の勢いが強まったのも仮説は出来た
「春信、大赦が建ててた計画…わかる範囲で良いから教えてくれ」
「わかりました」
春信から話を聞く、大赦が防人を使って何をしようとしていたのか、一体何を考えているのか
「大赦が防人を使って行っていた事は…国造りの儀式を行うための下準備です」
「国造りの儀式を行うための…下準備だと」
「はい、現在の大赦の目標は国を護るではなく、国の奪還」
「国の奪還に国造り…つまり大赦は、天の神が行ったことをやり返そうとしてる訳だ」
「大雑把に言えば、そう言う事です」
天の神に書き換えられた外の世界の理を、今度は自分たちで書き換える…そして防人が行っていた神樹の種云々もそのための下準備だったって事か
「だが、そこまでならわざわざ奉火祭を行う必要はない…それなのにわざわざやるって事は、外の炎が強まったのに理由があるんだろ?」
「お見通し…みたいですね」
「腸煮えくり返ってるが頭は冷えてるからな、いつもより頭が回るんだ…それで、大赦の見解は?」
「見解…と言うより巫女に神託が降りました、天の神の怒りだと。人類が進めてきた反抗計画に当代の勇者による四国を覆う壁…西暦時代から結ばれた契約のの象徴を破壊した上、人類は秘密裏に反抗計画を進めていた。その事が天の神の逆鱗に触れ、バーテックスではなく天の神がそのものがこの地に降臨しようとしている」
成る程な…正直な話、俺個人としては天の神が降臨してくれりゃ直接叩く機会が手に入る訳だからオールオッケー何だが、それを抜きにしても今回の大赦は流石に杜撰すぎる
「今回は流石の大赦も焦りすぎたんじゃないか…三百年といちょっと見てきた身からすると、平和ボケしすぎだ」
若葉たちの言ってた大赦は形だけ残り、中身は劣化していくだけ…そのころには俺も崇められるが大赦に関与するのは難しくなる…ドンピシャで当たってる辺り流石は若葉たちと言うべきか
「予想外は、俺の思ってた以上に大赦の劣化が酷かった事だが…平和ボケしてる奴等がここまで杜撰な計画を立てるとは」
「それだけ大赦の上層部も焦っているんです、神樹様の寿命が想像よりもはやく尽きかけていますから…寿命が尽きる前に計画を推し進めなければいけなかったという事です」
ホントに、最悪以外の何物でもないな
「…話はそれだけなら、俺はもう行くぞ?」
「わかりました、今日はわざわざ時間を貰ってしまってすいません」
「気にすんな…それより、お前らも気を付けろよ」
「はい」
春信と別れてゴールドタワーに戻ると、入口では楠が待っていた
「どうした?」
「不知火さん、私と一緒に展望台まで来てください」
「…わかった」
エレベーターの中での会話は一切なく、展望台に到着すると、楠を除く防人全員がそろい踏み…俺はいつものように防人たちの後ろで展望デッキに寄りかかると、みんなの前に立った楠が話始める
「今回の大赦の決定に、私は納得していない! みんなはどうなの!?」
今回の決定…というのは恐らく奉火祭の事だろう、成り行きを見守る為に防人たちの事を見ていると、一番最初に加賀城が声を上げる
「…納得なんて……してないよ、あややが犠牲になるなんて」
国土が犠牲になる、その言葉を聞いた瞬間、なんで春信が奉火祭が行われる事しか伝えなかったのかという理由が何となくわかった…確かに、そこまで伝えられてたら腕振りほどいて大赦を叩き潰してた
「あややはね、私が防人になったばっかりの頃、どんなに怯えてても、情けないこと言っても、私の事バカにしなかった。防人の御役目に参加してるだけでもすごいって言ってくれた。すごくいい子なんだよ! なんで犠牲にならなきゃいけないの! そんなの許せない…でも、大赦もうは決定したって……」
「私は没落した名家、弥勒家の娘です。弥勒家の名前など、もはや多くの人々は知りませんし、知っている者は嘲りの篭った口調で、『あぁ、あの弥勒家』ねと言います。特に名家の人間や大赦の関係者は大概そうです。ですが……国土さんは違いました。彼女は弥勒家を、私の誇りを認めてくれました。そんな子が…犠牲になっていい筈がありません」
「……国土は、いい子。……死ぬなんて、いや」
加賀城だけじゃなく、弥勒や山伏、それ以外の防人も奴等も次々と声を上げていく…ホントに、国土ちゃんがどれだけ信頼され、愛されていたのかを知ることが出来る
勇者になれず、大赦からは使い捨てのような扱いを受けていた彼女たちだからこそ、一人一人を認め、信頼する……今まで見てきた勇者と違う信頼の形、それでも勇者たちの絆に勝るとも劣らない程の強さがある
「だったら―だったら、私たちで亜耶ちゃんを助ける方法を考え出しましょう! まだ奉火祭が行われるまで一週間ある! 絶対に何か方法がある! 私は諦めない! みんなもそうでしょう!? 私が指揮する部隊に”犠牲”と”諦め”はない!」
諦めの悪い奴等の事を見ていた俺の表情に笑みが浮かんだ…これからどうしようかと考えていると、楠が俺の前にやってくる
「不知火さん、亜耶ちゃんを助ける為に…あなたの力を貸してください、お願いします!」
楠だけでなく防人の全員が俺に頭を下げてきた
「…楠、この前、お前が言った言葉を覚えてるか?」
「私の言った…言葉?」
「俺もお前らの部隊の一員だってやつ、言ったろ? 嬉しかったって…だから、頭なんて下げなくても協力するよ」
「ありがとうございます!」
「…それで、具体的に何をするのかは決まってるのか?」
言葉が消えた、この感じはアレか…これから考えるって奴だな。まぁ案の定ここから防人たちで話合いを行っていたがこれと言った具体策は出ない。個人的には弥勒の天の神を打ち倒すってのに賛同したかったが…流石に戦力不足だ
天の神が降臨して、俺が一人で戦うって言ったのも死ねないのを利用したゾンビ戦法で勝算は殆どなしだったからな
「犠牲なしで、奉火祭と同じ効果を持つ儀式があれば…」
「神事の専門家の大赦が見つけられなかったものを、ボクたちで見つけられるの?」
「可能性は薄いけど、それしか方法はなさそうね…」
「何か資料はない? どうやって調べればいい?」
「そう言うのに詳しいのって、まさに神官か巫女やろうね…センセは何か知らないですか?」
ここで俺に振ってくるか
「資料だけなら事務所にあるが、事務所の場所が讃州だから取りに行くのも一苦労だな…一日は欲しい」
「神官は大赦の手先…って言うか立場的に協力してくれそうにないし、亜耶ちゃん以外の巫女は?」
「その巫女とコンタクトを取る方法は?」
まーた俺の方を見てきた、確かに一応大赦に近い人間ではあるんだが
「巫女の知り合いなんざいないぞ…いや、一人いるがそいつとコンタクトを取るのも難しいだろうし」
少し手詰まり見たいになってきたが、それでも諦めず、彼女たちは方法を模索し続けた