不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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Ⅹ 無駄じゃなかった

 具体的な解決策が見つからないまま、夜が明けると俺と楠は安芸ちゃんに呼び出しを受ける、待っている場所に向かうとそこにいたのはいつもの仮面装束の安芸ちゃん

 

「先日、結界の外に埋めてもらった種を、回収して欲しいのです」

「回収? なぜですか」

「あの種も神樹様の恵みの結晶です。回収してお返しすれば、神樹様のお力に戻る、国造りの計画が凍結された今、結界外に種を残しておく理由はありません。神樹様のお力は人々の生活の為に、そして世界を炎から守るために、少しでも無駄には出来ないのです」

 

 結局、何の成果も得られず……何もかもが無駄だったって訳か

 

「それでは、失礼します」

「そんじゃ、俺ももう行く」

「不知火さん、あなたはもう少し残ってください」

「……あいよ」

「不知火さん、先に失礼します」

「あぁ」

 

 楠が出ていくと、安芸ちゃんはようやく肩の力が抜けたように息を吐く

 

「すみませんでした、こういった形になってしまって」

「別に謝る必要はないよ……こっちこそ、辛い役回りを押し付けちまって悪かった」

「気にしないでください……私の元々、こういう役割でしたから」

「嫌でも気にする……俺は結局、何もできなかったから」

「そんな事──」

「あるさ、鷲尾達の時も、勇者部の時も今回も……何も出来てない」

 

 誰に何を言われようと、その事実は変わらない。今までずっと……伸ばした手は届かずじまいだった

 

「俺も、もう行く」

「分かりました」

「……それと、全部終わったら防人の奴等に謝ってやってくれ」

「えっ」

「俺には無理でも……あいつらなら、絶対に国土ちゃんを救ってやれるからな」

 

 その言葉を最後に、俺は安芸ちゃんのいる部屋を後にする

 

 

 

 

 そして、新しい任務の日。俺達を含めた防人たちは結界の外に出る

 

「昔に存在した、とある国の刑務所では『午前中に穴を掘って午後にそれを埋める』という労働があったそうですわ」

「穴を掘って埋めるだけ? それって何の意味があるの?」

「意味なんざねぇよ、その労働……ただ無意味な事をして精神と肉体を摩耗させるためだけの労働だからな」

「今の私たちが、まさにそのような状況です」

 

 にしても、その国何処だっけな、ヨーロッパかどっかだった気がするし……かなり前に読んだドストエフスキーの小説にもそんな感じの文章があったような気がする

 

「……暑っついな」

 

 徒労で終わる可能性が無きにしもあらず……などと考えていると、目の前に忌々しい一群が見えてきた

 

「銃剣隊、射撃用意! 撃って!」

 

 向かってくる星屑に対して防人たちは銃弾を放つ

 

「楠……先行するぞ」

「わかりました……ですが、危険だと判断した場合すぐに下がってもらいます」

「了解」

 

 手に持っていた銃剣を地面に突き刺して自身の血で槍を形成し、厚い弾幕をすり抜けながら全力で星屑に向かっていく

 

「まずは、手傷を負った奴から潰していく」

 

 手傷を負った上でこっちに向かってくる奴をまずは一匹、背後から迫る弾丸を気配で避けて続けざまにもう一匹

 

「この調子でもう一匹……ぐッ!?」

「不知火さんっ! 下がってくださいっ!」

「もう少し行けるッ!!」

「下がりなさい! 命令です!」

「……了解」

 

 武器をボウガンに切り替え、迫ってくる奴を射抜きながら少しずつ部隊の方に後退する

 

 

 

 

 何とか一群を退けた俺達は、種を植えた場所まで辿り着いた。火の海に一か所だけ存在する緑に覆われた地の中心に植えられている種を楠が回収するとすぐさま緑に覆われていた筈の大地は炎に包まれた

 

「さて、長居する必要はないわね。帰りま──」

「ででで出たぁぁ~~っ!! 助けてメブぅ~~~っ!」

 

 振り返ると、クソ暑い炎の中で、冷や汗が流れる。乙女座、山羊座、魚座の三体同時襲撃……モドキにしても、流石にこの戦況は最悪だ

 

「どうしよう!? どうしよう!?」

「どうしようなんて決まってる! 逃げるのよ! 総員撤退!! 反撃は一切考えず、逃げる事だけに専念して!」

「殿は俺がやる! だから後ろは気にせず壁に向かって進め!」

 

 最後尾で化け物どもを牽制しながら壁の中に向かって走る、場所は壁から遠くないし蠍、蟹、射手のクソゲートリオでもない以上、生存の可能性は高い

 

 そう考えた次の瞬間、地面が凄まじい勢いで揺れ始める

 

「メメメッ、メメッメッブ~!? なななっ、何がっ、起こって、てて、るの~!」

 

 かなり前に食らったことある、山羊座の自身攻撃だ

 

「銃剣隊ッ! 射撃用意ッ!!! ──」

「余計な事はしなくていいッ! お前らは逃げることに専念しろッ!」

 

 銃剣の切っ先で腕を切り裂き、手に持っていた一本とは別に新たに三本を生成し、地面に突き立てる事で無理やり自分の姿勢を安定させると、残りの一本を槍からスナイパーライフルの形に変化させ、放つ

 足にぶち当たり多少のひびは入ったが東郷の持ってる銃程の威力は出ない

 

「もう一発──」

「後は任せろ! オレが銃剣で直接、叩き斬ってやるッ!」

「シズク!? この揺れじゃカプリコーンまで近づけない! 危険すぎる!」

「いいや、オレなら出来る。お前はオレに勝ったんだ。そしてオレはお前に従うって約束した……だからオレが指示に従うのはお前だけだし、そいつの命令に従う通りは無い。それに、お前の目標はオレの目標でもある。犠牲ゼロにするんだろ?」

「シズク……」

「そーいう訳で、よろしく」

「……わかった、ヤバくなったら援護はしてやるから存分に突っ込め」

「おうっ!」

 

 大地を蹴った山伏……いや、シズクは普段と変わらない速度で突っ込んでいく。その間に俺がやるのは

 

「……横やりが入らないように、他の牽制をする」

 

 乙女座の放ってくる弾丸を着実に一発ずつ撃ち落としていく

 

「足、もらってくぜ!!」

 

 山羊座の足を斬り飛ばして転倒させた直後、シズクは白い帯に弾き飛ばされた

 

「シズクっ!!」

「くそッ!」

 

 持てる力のすべてを使って飛び上がり、シズクに向かっている乙女座の弾丸を撃ち抜きながらシズクの首根っこを掴む

 

「大丈夫かっ!」

「あぁ──って、危ねぇッ!!」

 

 一瞬の気の弾丸の内一発が近くに来てることに気付くのが遅れたが代わりにシズクがそれを撃ち抜くが、流石に距離が近すぎた。空中で体勢を動かしシズクを庇うようにしてすぐ、地面に叩きつけられる

 

「ぐぅっ……」

「大丈夫か!?」

「あぁって、前見ろッ!」

「間に合わね──」

 

 さっきの衝撃で少し動けなくなっていたところにこれか、せめてシズクだけでも……と考えていたところで弥勒が俺達と弾丸の間に割って入ってきた

 

「シズクさん! 不知火さん!」

「弥勒!」

「バカッ! お前何──」

 

 その瞬間、撃ちもらした弾丸が弥勒に直撃する、咄嗟にスナイパーライフルを布状に変形させてこちら側に弥勒を引っ張るがそれでもダメージは殺しきれず弥勒の身体からはかなりの量の血液が流れていた

 

「弥勒!」

「シズク! 弥勒しっかり掴んでろ!」

「お、おう!」

 

 布状にしたものを巻き付けてたままだったので、楠の方に弥勒ごとシズクを投げつける

 

「弥勒さん! 何をやってるんですか、あなたは!」

 

 楠の言葉に弥勒は何か言っているようだが、その声は俺には聞こえない……眼前には敵が三体、相手にとって不足無しだ

 

「不知火さんっ! あなたも早く!」

「……悪いな、それは出来ねぇ」

「あなた……まさかッ!」

「そう言うこった、悪いな」

 

 気合いを入れ直すと、武器形状を刀に変化させ、もう一方の腕に槍を出現させ……目の前のバーテックスモドキに向かって突っ込む。幸いなことに相手の注意は俺の方に向いてる、それがラッキー以外の何物でもない

 こっちに撃ち込んできた弾丸二蹴りを入れて爆発させる、片足は吹っ飛ぶがすぐに再生するから気にする必要はない。一気に突っ込んで乙女座に槍を突き立て、ぶっ殺す

 

「次……ッ!?」

 

 相変わらず素早い動きだった魚座のヒレが眼前に迫ってくるがそれは楠の振るった銃剣によって切り裂かれた

 

「楠!? おまえどうして──」

「言ったはずです、私の部隊から誰一人として犠牲者は出さないと」

「でも、弥勒は!」

「弥勒さんは雀たちに任せてきました……私は、あなたを一人で逝かせたりしません」

 

 その言葉を聞くと、流石に目頭が熱くなってくる……両目を布で拭うと楠の隣に立つ

 

「さっきの見ただろ、俺は死ねない……だから先に逝くなんてことは出来ないんだが?」

「それでもです……帰りますよ、一緒に」

「あぁ、背中は預けたぞ……芽吹」

「はい!」

 

 俺と芽吹の二人は、目の前にいる二体のバーテックスを相手にする、乙女座を殺したと言っても完全に消滅させたわけじゃない、星屑はくっつけば復活する以上、あんまり時間をかけてられない

 再生しかけていた山羊座の足を切り払い、星屑の大群は芽吹が二丁持ちした銃剣を乱射して消滅させていく……決定打にはならないが、確実に数を削っていくことは出来る

 

「削れてるって言っても……流石に数が多いな」

「弱音ですか? らしくないですね」

「お前に、何が分かるって言いたいところだが……もうそこそこの付き合いか」

 

 冗談交じりに言うが、傷は治ってもダメージを負った際の疲労は治らない以上……流石に疲れてきたな

 

「って……マジかよ」

 

 そうこう言ってる間に乙女座が復活しやがった……天の神め、本格的にここで俺達を殺すつもりみたいだな

 二人で武器を構えた直後、後ろから声が聞こえてきた

 

「銃剣隊、構え!! って──ー!」

 

 後ろを見ると、傷だらけの弥勒は加賀城たち護盾隊がガードし、他のメンバーがバーテックスにダメージを与える

 

「楠さん、それに不知火先生も、勝手に死なないでください!」

「犠牲ゼロを目指すんでしょう!」

「体勢を立て直して! その間、私たちが援護するから!」

 

「あなた達……」

「……どうやら、無駄な事なんて何一つなかったみたいだな」

「そうみたいですね……行きましょう!」

「……おう!」

 

 その後、楠の奮闘に防人たちの協力の甲斐ありバーテックス三体を無事殲滅し、壁の内側に帰還した。重傷者一名、それも予断を許さない状況ではあるが……防人たちは、生存と言う確かな成果を勝ち取った

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