不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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今回はいつもより少々少な目です
お話の時系列は原作の4話の前半部分に当たります


4話-日常Ⅰ-

「勇者と言うのは、本当にすごいんだな」

「だろぅ!もっと褒めタマえ!」

 

丸亀城に住み始めてから数日の時が流れ、少しずつこの場所の空気にも慣れ始めたころ、俺は机の上に広げられた雑誌をタマと杏の二人と共に眺めていた

 

「おっ、ここに不知火の事も書かれてるぞ!」

「本当だな、小さい記事だが」

「まだ発表されてからあんまり時間は経ってない筈なんですけどね」

「壁の外の生存者...か」

 

勇者の記事に混じって小さく取り上げていた俺に関する記事に書かれていたのは、壁の外から来た生存者という文字

今の俺には壁の外で生きてきた記憶がない、そんな俺が壁の外の生き残りと言っていいのだろうか

 

「......そういえば高嶋と郡は?」

 

そのことを考えないようにするために、辺りを見回すと高嶋と郡の二人がいないことに気付く

 

「友奈さんは初めての戦いで切り札を使った副作用が無いかの検査をしに病院に行っています」

「郡も一緒にか?」

「いや、彼女は特別休暇で高知の実家に帰省している」

「帰省?」

「あぁ、母親の病状が悪化したそうだ」

「母親の...病状?」

 

郡の母親は何らかの病気なのだろうか、それも郡が帰らないといけない程の。

そんなことを考えているのがわかったのか杏が乃木達3人に話かけた

 

「あの、みなさん...記憶喪失の要さんは天恐の事を知らないんじゃ」

「そういえば、そうですね」

「それなら、天恐の事を少し不知火に話しておくか」

「あぁ、タマは説明とか苦手だから任せた!」

 

タマはそういって自分の席に戻っていくのを切っ掛けに、上里と杏も自分の席に戻る

それを確認した乃木は黒板にチョークで書きながら説明を始める

 

「天恐――天空恐怖症候群は3年前に初めてバーテックスが襲撃をして以来、バーテックスに対する恐怖によって多くの人々が発症した精神の病」

 

説明を続けながら黒板にバーテックスと思わしき絵を描いていくが少し独創的だった、だがバーテックスとわかるため何も言わずに説明を聞くことにする

 

「病状の進行に伴い、徐々に日常生活が困難になり最後には記憶混濁や自我崩壊に至る」

「郡の母親は、その病気を患っているんだな」

「あぁ、一応治療も出来るんだが千景の母親は恐らく...」

 

彼女に関して俺は何も知らない、どんな環境で育ってきたのか

自分の事をほとんど覚えていない俺だからこそ知っていかなければならない...彼女たちの事を、この世界の事を

 

「少し聞きたいんだが、この近くに図書館とかないだろうか」

「図書館?」

「もう少しこの世界の事を知っておきたい」

「それなら私が案内します、そういう場所には詳しいので」

「なら、頼む」

「わかりました」

 

乃木との会話を聞いていた杏が図書館に案内してくれると言ってくれた。ならその言葉に甘えることにする

 

 

 

 

「よろしく頼む」

「任せてください、それじゃあ行きましょう」

 

授業が終わり、俺と杏は二人で図書館に向かっていた

ぼーっと夕陽に照らされる街の風景を見ながら歩いていると杏が俺に話しかけてくる

 

「そういえば要さん、どうして図書館に行こうって思ったんですか?」

「あぁ、乃木にも言ったがもう少しこの世界についてを知りたくなったんだ」

「急にですか?」

「...郡の母親の話を聞いて、改めて俺は何も知らなかったんだと思わされたから」

「私は仕方ないと思います、要さんは記憶喪失な訳ですし」

「記憶喪失は常識に対して無知でいいという言い訳にはならないだろう」

 

そんなことを話しながら歩いていると、程なくして図書館に到着する

 

「時間が時間なのであまり長居は出来ないですけど」

「なら、今回は図書館で読まないで借りていくことにする」

「じゃあ利用カードを作っちゃいましょう、要さんって何か身分を証明できるものを持ってますか?」

「身分証...と言うより生活に必要なものは大社から用意されている、問題はない筈だ」

「わかりました、行きましょう」

 

杏に手伝ってもらった俺は図書館の利用カードを作り終えるとこの街の歴史に関する本を幾つか手に取り、杏の方を向く

 

「今回はこの辺りを借りようと思うんだが、どうだろう」

「いいと思いますよ、どれも比較的読みやすいものですし」

「わかった、それと杏のオススメの本があったら聞きたい」

「私のオススメ...ですか?」

「検査で時間に追われていた病院の時よりも増えた自分の時間をどう使えばいいのかわからなくて、どうせ図書館まで来たんだから杏が面白いと思う本でも読んでみようかと思ってな」

「それなら、私の部屋にある本を持っていきます!」

「本当か?」

「はい!タマっち先輩は本とか読まないから感想を言い合える人が欲しかったんです」

「そうか、なら時間がある時にでも持ってきてくれ」

「わかりました!楽しみにしててください!」

「...それと杏、図書館では静かにだろう?さっき見たルールに書いてあった」

「あっ...すみません」

 

その後、俺たちは受付で本を借りて帰路につく

来るときは夕暮れだったが日はすっかり落ち、空には星が広がっていた

 

 

 

 

 

 

 

翌日、部屋から出て昨日借りた本を片手に教室に向かっている途中で郡と出会った

 

「おはよう」

「...えぇ、おはよう」

 

特に話もなく二人で歩いていると、手に持った本を見た郡が俺に話かけてきた

 

「その本、どうしたの?」

「昨日、杏に案内してもらって行った図書館で借りてきた」

「図書館?どうしてそんなところに」

「...昨日、郡の母親の事を聞いて、この世界で何が起こったのかを知らないといけない気がしたんだ」

「ッ!...そう」

「その件に関しては謝らせてほしい」

「謝る?」

「人のプライバシーを勝手に聞いてしまうのは、いけない気がした。だから郡に対して謝っておく...すまなかった」

「...あなた、変に真面目なのね」

「そういう実感はないが、どうなんだろう」

 

郡の方を向くと、少しだけ柔らかい表情になっている気がしている

それが少しだけ嬉しくて、自然と笑みがこぼれそうになった瞬間――世界の時間が止まる

 

「これは...」

「敵の、襲撃」

 

その言葉と共に俺と郡の二人は光の中に飲み込まれた

 

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