週明けのある日、俺が部室にやってくると何やら机の周りに集まっているみんなの姿が目に入る
「お疲れ様です……って、一体何の騒ぎですか?」
「実は樹が家庭科でケーキを作ったらしくてね、徹もさっさと座っちゃいなさい」
「ケーキですか、珍しいもん作るんすね」
風先輩にそんなことを言いながら俺も席に座り、目のまえにある白い箱を見る。そして、箱が開かれケーキが姿を現す……のだが、それは何とも言えない形をしているというか、随分と独創的な見た目をしていた……目の位置から動物である事には間違いないのだろうが、これは一体なんだ?
「作りすぎたから持ってきちゃった」
「偉いぞ、我が妹!」
「……独特のセンスね」
「表現力が豊かだと言いなさい」
表現力……というか、想像力というかなんというか、というかマジで何だこれ、狸……いや、猫か?
「それじゃ、さっそく切り分けて食べよ食べよ」
そして切り分けられたケーキが目の前に出されるのだが、何だろう、この絶妙に切り分けられた謎生物を見ているとどことなく呪われそうな気がしてくるのだが……まぁ、そんなことはどうでもいい、重要なのは味! どんなに見た目がゲテモノだとしても味が良ければ全て解決だ
という事で、恐る恐る一口食べてみる
「どうです?」
「うん、見た目はともかく──」
「美味しい!」
「お姉さんプロだねぇ!」
「うん、ホントに美味しい!」
「……美味い」
「樹が遂に食べられる料理を、うぅ」
「お姉ちゃん、帰って傷つくよ……」
見た目は横に置いておくとして本当に美味い、奇跡だなこれは
「いっつん、いっつん! お店屋さんやろう! ゆくゆくはフランチャイズで!」
「園子さんはスケールが大きすぎて、ボケなのか何なのかわかんないですよ。でも、ありがとうございます」
そして目の前に出されたケーキを食い終え、皿の方を見るとそこに残っていたケーキはあと一つだけだった
「「「「「「「あっ……」」」」」」」
さて、こうなると誰が食べるのかで譲りあいになるのが我が勇者部なのだが、そんなことをやっている間にどうして一つ残っているのかを軽く考えてみる
「風先輩、何で一つ余るように切っちゃったんですか?」
「何でかしらね、いつもの癖?」
「癖……?」
「え? あ、いや……やっぱり何となく?」
何だろう、昨日も感じたモヤモヤがさらに強くなった気がする、なんといえばいいのかわからないけれど……俺は、俺たちは大切な何かを忘れてしまっているような、そんな感覚
その後、園子が残り一つになったケーキかなり細かい制度で再び人数分に切り分けたり、日曜の打ち合わせをしたりしていたのだが……俺の頭にそれは殆ど入ってこなかった
そんなことがあった日の帰り道、友奈もどこかこの日常に引っかかりを覚えていたようであまり会話もなく家の近くまでやってきたところで、ふと足が止まった
「どうしたの?」
「いや……なんかこの家、既視感がある気がするんだよな」
「言われてみれば、確かに……」
友奈と話をすればするほど、やっぱり何処か違和感を覚える。まるで形の違うパズルのピース同士を組み合わせて無理やり絵を完成させているように、記憶と記憶の間にあった何かを切り取って張ったようなような感覚
「友奈、悪い……今日はここで!」
「えっ? 急にどうしたの!?」
「少し調べたいことが出来た! それじゃあな!」
友奈と別れて家に帰った俺は今までのアルバムを引っ張り出して写真を確認する。やっぱり、一見すると何の変哲もない写真だけどその間には不自然な空白がある。それは俺が勇者になって園子や銀と一緒に戦い始める前から続いてる
「やっぱり、俺は忘れてる。自分にとって大切な誰かを……」
自分にとって忘れている誰か、それを思い出すために俺がしないといけない事……それが一体何なのかを考える
「……そうだ、師匠」
もしかしたら、師匠なら……そう考えた俺は携帯を操作して師匠に電話をかけるが────師匠が電話になることはなかった
相も変わらず炎の海に白い塊の大群、こっちに向かってくるあの大群を形状変化させた旋刃盤で防ぎながら次の手をどうしようか考える。あのブラックホールに突っ込む以上それなりに体力は残しておく必要がある
「……だから、雑魚どもを相手して無駄に体力を消耗するのは愚策」
さて、どうしたものか……などと考えていると、とあることを思いついた
「やってみるか」
大群から外れた俺は、もう一度向かってくる星屑の攻撃を避けずそのまま食われた……がそのまま食われる程俺は甘くはない、槍を取り出して口が閉じないようにしてそのまま上空に向かっていく
「ここら辺で良いか」
ある程度まで上がったのを確認したのでそこで星屑を消滅させて周りにいる星屑を足場にブラックホールに近づいていく。こっちを狙ってくれるおかげで勝手に足場がやって来てくれるのは有り難い
「っと、こっからは自力で飛ぶか」
回線を繋げて大天狗の血戦偽装を展開して、そのままブラックホールに突入した
「ぐっ……身体……潰れ……!」
思った以上の重力がきつかったがそこは想定内、全方位を覆うように血液で壁を作って守り入る……のだが、流石にどれだけ続くのかわからない以上、こっからは耐久するしかない
そして、ずっと壁を作り続け、どれだけの時間が経ったのかわからないがようやく四方から襲い掛かってきていた重力の檻から解放されたような気がする
「ようやく……目的地か……」
周囲を見回してみるとどうやらここが目的の場所らしい、何もない空間の中心に巨大な鏡のような何かが見える。流石に血を使い過ぎて若干意識が朦朧としてきているが、それでも彼女を助けさえすれば任務完了────
「くっそ──流石に────油──断────」
彼女の元に向かっていた俺の上空から降ってきた槍に身体中を貫かれたのを最後に……俺の意識は完全に途切れた