土曜の朝、昨日からぶっ通しで師匠の事を探し回ってた俺は大急ぎで制服に着替えていた。理由は単純で、今日は幼稚園で勇者部の劇を披露するという予定が入っていたから……なのだがガッツリ疲れて帰ってきた俺はそのまま布団に倒れこみ。無事寝坊をしたのである
「やっちまったやっちまったやっちまった、急げ急げ急げ……っと、とりあえずみんなに一言入れてっと。急げ急げ」
にしても、普段なら寝坊とかしない筈なのにどうして今日に限って寝坊なんてしちまったんだよ。父さんも母さんも起こしてくれなかったし……ホント今までこんな事なんて一度もなかったのに
「よし、着替え終了。あとは……あれ? カバン何処置いた?」
カバン何処に置いたか忘れるほどに焦っているのは置いておくとして……いや、それを置いておくのは流石にまずいんじゃないか? そもそも俺はカバンを探している訳でその思考を横に置いておくのは流石にどうかと──
「って、そんなことを考えてる場合じゃないんだよ……あった!」
ベッドの下に滑り込むようになっていたカバンを見つけ、それを取り出すとカバンと一緒に一枚の写真が出てきた
「この写真、こんな所にあったのか」
俺たちが神樹館に通っていたころ、確かまだ銀や園子と一緒に戦い始めたばっかりの頃に”四人”で撮った写真──
「──四人?」
確か先代勇者として戦っていたのは俺と園子と銀だけだったはず……というか待て、さっき”俺たち”って言わなかったか? どうして俺たちって言った?
考えれば考えるほどどんどん思考が沈んでいく感覚に陥る、それにこの写真に写ってるのも四人だ、俺と園子、銀……そして、須美
「須美……? 須美って……誰だ……ッ!」
”須美”という名前を思い出した瞬間、今までモヤのかかっていた部分が一気に晴れる
「そうだ、須美。鷲尾須美……それに東郷美森、勇者部の大切な仲間。俺の、かけがえのない幼馴染……どうして今まで忘れてたんだ」
忘れちゃいけないはずなのに、忘れたくなかったはずなのに……いや、それを考えるのは後だ。今はみんなの所に行かないと
俺が幼稚園に到着したころには、何故か泣いている友奈を園子が抱きしめているという場面だった。二人以外のメンバーの様子を見ると園子の近くにいる銀も少し様子が変なのを見るときっと彼女も思い出している。そして何かの拍子で友奈も東郷の事を思い出したのだろうと予想できる……最も、途中で劇を終わらせる訳にはいかなかったので少しだけ休憩の時間を設けて貰った後にしっかりと劇を終えた
そして今は後片付けを終え、全員で部室に戻ってきたところだ
「二人とも、一体どうしたのよ。徹もさっきからなんか変だし」
風先輩が、様子のおかしい俺たちに向かってそう聞くと、ゆっくりと園子が話を始める
「……よく聞いてね? 今この記憶は、嘘って事」
「へっ?」
「何か、とんでもなく悪いことが起きていて……それが何なのかわからないけど、私たちはそれをなかったことにしてる」
俺たちにも一体何が起こっているのかわからない、けれど……今この場にいない後一人はそれを一人で解決しようと無茶をしているのだろう
「何を言ってるの? ねぇ友奈──」
「私、思い出した……勇者部にはもう一人、とても大切な友達がいたんだよ。絶対、忘れたりなんかしちゃいけないのに……私、どうして……」
「友奈、落ち着いて」
「みんな思い出して! 東郷さん! 東郷美森って子が、ここにいたんだよッ!」
友奈の言葉を聞いた風先輩、樹、夏凜の三人もどうやら思い出したらしい。俺も……ようやく全部思い出せた、園子や銀が戻って来てから確かに途中まで東郷と一緒にいた記憶がある……でも、この場に東郷はいない
「どういう事……? なんで……なんで私たちの誰も東郷の記憶がないの……? これ、最初から世界にいなかったみたいになってる!?」
「私、部長なのに……また……」
「お姉ちゃん……」
「でも、もう思い出した。何で……何が起こってるの……?」
彼女が何処で何をしているのか、どうして俺たちの記憶からなくなっているのか……そして、誰が何故俺たちの記憶を消したのか、それを探るすべを、今の俺たちは持ち合わせていない
「なぁ、徹。不知火さんと連絡つかないのか? あの人なら何か──」
「無理だ。俺も記憶を取り戻す前……それに取り戻した後、何度連絡しても。師匠は出なかった」
「そんな……」
「とにかく、東郷さんを探そう!」
友奈の言葉にうなづいた俺たちは、どこかに消えた東郷の足取りを探し始める