この調子で少しずつ進めていきたいと思います
光が晴れた目の前に広がっているのは、森の中に似た風景
「準備はいい?」
「あぁ」
「そう、それじゃあ...行くわよ」
その言葉と共に千景は勇者アプリを起動すると着ていた服が勇者の物に変化する
それを横目に俺は右腕の親指を噛み切り、流れ出た血を槍の形に変化させた。
「実家から戻って早々、やる気十分だね!」
「高嶋さん...病院は?」
「検査だけとは言え、大事を取るようにと言われてなかったか?」
「みんな戦ってるのに、お休みなんて出来ないよ!」
「......そっか」
高嶋が来たことで柔らかい表情を見せる郡の姿を確認すると、俺は二人に声をかける
「先に行くぞ」
「えぇ」
「了解!」
二人から離れ、星屑を殲滅する為に動き始めた俺は右腕に持った槍を振るい星屑を薙ぎ払っていく
「...他に人いないし、試してみるか」
他の勇者との距離が開いている事を確認した俺は自分の腕で星屑を思い切り殴りつける
それを見た星屑は好機とばかりに俺の腕を噛みつく、噛みつかれた激痛と共に意識を失いそうになるが唇を噛んで耐える
腕から血が流れ始めるのを感じると意識を集中させ巨大な刃のイメージを頭の中で形作った
その瞬間星屑を血液で形作られた巨大な刃が引き裂いた
「成功だ」
星屑が消滅すると時間が巻き戻るように俺の身体に血液が戻り、噛みつかれた傷も治っていく
「...よし、次に行こう」
完全に治った右腕を動かしながら、今の場所よりも星屑が集中している場所に向かった。槍を振るい星屑を倒していくと見慣れた姿を確認する
「タマ、杏」
「不知火!...ってどうしたその服!?」
「何かあったんですか!?」
「気にしなくていい、少しアクシデントがあっただけなんだ」
「気にしないわけあるか!後で詳しく聞くからな」
「...わかった」
「今は星屑を倒して若葉さん達と合流しましょう」
「おう!前衛はタマ達に任せタマえ!」
「殲滅する」
俺とタマの二人は星屑に向かって突っ込むと二人で星屑を殲滅していく
「タマ!」
「おうよ!」
俺はタマの持つ旋刃盤を踏み台にして高く飛び上がる
「枝分かれ...貫く!」
飛び上がった俺は槍の先端を細かく分岐させ周りにいた星屑を貫いた、星屑の消滅を確認した俺は枝分かれした槍を元の形に戻してタマ達の元に戻る
「やったな不知火!」
「それにしてもすごいですね、要さんの力って」
「あぁ、力の使い方を朧気に思い出し始めて、改めてその凄さに驚かされてばかりだ...早く乃木の所に行こう」
俺たち三人が乃木の元に向かっていると、少し遠くに巨大な影を見る
「進化体だ!」
「どうする、杏」
「若葉さんと合流したいですけど、進化体の方に行きましょう」
「おう!」
「わかった」
進路を変更して進化体バーテックスの方に向かっているのに気が付いたのか、星屑が俺たちの方に向かってきた、迫ってくる星屑を倒しながら進化体の方に近づいていくと、周りで起きている違和感に気づく
「進化体の周りにいる人の数が多い...?」
進化体バーテックスの周りにいるのは全部で七人、俺たちの人数は全員で六人だ。それなのにも関わらずバーテックスと戦っている数は俺たち全員の人数を含めても一人多い
星屑を相手にしながらよく目を凝らす、すると進化体の周りにいる人物の持っている武器は鎌でそれを振るう人物はすべて同一
「もしかして、あれが切り札か?」
勇者が自分に精霊をおろし、その力を振るう事の出来る文字通りの切り札
だが、切り札の行使には身体的に大きな負担がかかるから出来る限り使わないよう大社に言われていると聞いている
「郡が使っているのか」
切り札を使っていることが分かった以上、出来るだけ早くこの戦闘を終わらせないといけないと考えていると、七人の郡が鎌を振るい進化体バーテックスを打ち倒した。それと同時に周りにいた星屑を殲滅し終える
それからすぐに樹海が光に包まれ、先ほどと変わらない光景が広がっていた、郡と話をするために辺りを見回すと少し離れていた場所で高嶋と話をしている郡の姿が目に入った
「どこにいくつもりだ?不知火」
郡の方に向かおうとした瞬間、後ろからタマに声をかけられる
いつもと変わらない筈のその声は俺にとって少しの寒さを思わせるもので、ゆっくり後ろを振り向くと満面の笑みのタマと杏が目に入る
「それじゃあタマ達にわかるよう説明しタマえ、その服の事を」
「今じゃないとダメか?」
「当然です!要さんは気が付いてないのかも知れないですけど、服の端に血が付いてますよ」
「えっ?」
思わず破けた服の端を見るが血なんてついていない、はめられた
「確認するってことは、心当たりがあるんだな?」
「心当たりがあるなら早く教えてくれよ、し・ら・ぬ・い」
「...わかった」
俺がやったことを話すと、タマと杏から怒りの声が飛び病院に行くよう言われた
「検査の結果は問題なし、健康そのものだね」
タマと杏に言われ病院にやって来た俺は、冬吾さんに一通りの検査をしてもらうと検査着を着直す
「それにしても、今度は一体何をしたんだい?」
「怪物の口に腕突っ込んで意図的に噛み千切らせました...自分の血が何処まで武器になるのか確認したくて」
「はぁ...あのねぇ、君のその戦い方は正気の人のそれじゃないよ?」
自分のやったことを言うと冬吾さんは呆れたように息を吐き、自分に向かい椅子に座るようジェスチャーをする。
そのジェスチャーに従い席に着くと冬吾さんはゆっくりと話始める
「いいかい要くん、君の身体は異常だ...本来腕を食いちぎられたり血を出し過ぎると人は死ぬ、それはわかるね」
「はい」
「ならいい、だけど君の場合原理は不明だが致命傷であったとしても元通りに傷が治る...医者としては商売あがったりだがそれに関しては置いておこう」
言葉に一区切りつけると、冬吾さんは俺の方を真っすぐ見て言葉を続ける
「君のその体質は便利なものだが完全ではない、もしかしたらどこかのタイミングで体質がなくなるかもしれない...なら私から言えることは、あまり自分のことを軽視した戦い方はしないでほしいという事だ。今は短い付き合いでも勇者の少女たちは君にとって大切な仲間と言えるほどなのだろう、なら彼女たちに心配をかけないようにした方が良いと、私は思う」
「...そうですね」
「本当にわかってるのかい?」
「はい、試すにしても別の方法があったと今になって思います、それに彼女たちに相談をすることも出来たのにそれをしなかったんです、なので今回に関しては自分が一番悪いんだと思います」
「そうか、ならば良いとは言えないが出来る限り彼女たちを頼るのが良いと思うよ、人に信頼してもらうには、自分がその人を信頼するのが一番だからね」
その後、冬吾さんと世間話をした後に診察室を出ると、エントランスホールで郡とばったり出会う
「検査は終わったのか?」
「えぇ、特に問題なしだそうよ」
「そうか...本当に大丈夫なんだな?」
「やけに心配するわね、急に何?」
怪訝そうな顔をする郡に対して、郡に対して素直な気持ちを口に出す
「杏たちから、切り札の使用は身体的な負担が大きいと聞いたからな」
「そういうことね...別に問題ないわ」
「そうか、ならよかった」
その言葉を聞いてひとまず安心する、俺が来る前ではあるが高嶋は切り札を使用したことで検査入院をすることになったという、なら郡がそうならないという保証もなかった以上心配するのは道理だろう
そんな俺の様子を見ていたのか、今度は郡から俺に話しかけてきた
「ねぇ...貴方はどうして私に話しかけてきたの?」
「え?」
「貴方と私は一緒に敵と戦うだけ、必要以上になれ合う必要はないと思うのだけれど」
「そうだな...最初は郡の母親について勝手に聞いてしまった事を謝る為に声をかけた」
「...なら、貴方の目的はもう果たしたでしょう、なのに何故?」
「最初に入院した時、お世話になった医者の先生に言われた...相手から信頼を得るにはまず自分から信頼をしろと、それが理由だ」
「え?」
「俺は郡達に背中を任せたいと思ってる、ならまずは自分の背中をみんなに任せることにする...だが、これから信頼しようと思っている仲間が代償のある力を使ったなら心配するのが道理、なのだと思う」
「仲間...」
「変だろうか?」
「いいえ...そんなことないと思うわ」
「そうか、ならよかった」
それから俺と郡の間に会話はなかったが、自分の正直な気持ちを伝えた事で少しだけ仲間に近づいたのではないかと...何となくそう思った