勇者御記を開いた俺たちが読んだのは、西暦勇者……園子のご先祖様たちの戦いの記録。所々は検閲され、黒く塗りつぶされてしまっていたけれど。それでも彼女たちがどのような戦いをしてきたのか、それは伝わってきた
「それで……」
「それがこの代での最後の戦いだったみたい」
西暦、そしてまだまだ未発達だった勇者システム。俺や東郷達三人が小学生時代に使っていた勇者システム同様バリアは存在しない。もしかしたら今の俺たちのものとは比べものにならない程に弱いものだったのかも知れない……それでも、あの人たちは戦い抜いた
「その後は、どうなったんですか?」
「……その後、天の神を鎮める奉火祭が検討、決行。巫女達が奉げられ当代の勇者たちが出撃することはなかった、これで記録は以上みたい」
「奉火祭って、つまり時間稼ぎってことよね」
「三百年ものね」
その言葉を聞いた樹ちゃんは、少しだけ不安そうに風先輩の方を向いた
「園子先輩のご先祖様たちが守ってくれなかったら、私たち生まれてこれなかったんだ……世界を守るってこういうこと?」
「託されちゃってるんだねぇ、次の代へ託すのも、それを終わらせるのも勇者次第」
「不吉なこと言わない」
「でも、私たちの戦いはもう──」
「──終わったと、思いたいけどね」
そう言った園子は、再び包みの方へと向かおうとしたところで、チャイムが鳴る
「そのっち、お客さん?」
「丁度いいタイミングだぁ」
玄関の方へと歩いていった園子は誰かと話している、その話声は少しずつこっちに近づいてきて。俺たちの視界に来客の姿が映る
「よう、新年あけましておめでとう」
「……師匠?」
「うん、実は先生の名前が書かれてたって知ってからこっそり呼んでおいたんだぁ」
「唐突な連絡だから何事かと思えば……そう言うことか」
風先輩の手に持っている勇者御記を見た師匠は、とても懐かしそうに視線を向けてくる。その視線は俺たちではなくもっと遠く、どこか別の場所を見ているような感じがした。その様子を見て、何となくだけど御記の中に書かれている不知火要という人物と師匠は同一人物であるのだと理解する
「師匠……」
「皆まで言うな、聞きたいことは後でしっかり話す」
色々聞きたかった俺の言葉に対してそう言った師匠は包みのある方にゆっくりと歩いていく。包みの中を確認すると端の方にあった大きめの白い箱を取り出してこっちに戻ってきた
「何処にあるんだと思ってたが……まさか、こんな所にあったとはな」
「あの、それって──」
「バトンだよ、大切な仲間から。西暦の勇者たちに渡された……とても大切なバトン」
その言葉と共に師匠は箱を開いた。その中に入っていたのは汚れた布で巻かれている鍬と、刀身が真ん中位でかけてしまっている鉈
「鍬に……壊れた鉈?」
「それがバトン……なんですか?」
「あぁ…………お久しぶりです」
そう言った師匠は、その手に持った鍬と鉈を大事そうに抱えると立ち上がる
「さてと、とりあえずお前らは勇者御記を読んだ……で良いんだよな?」
「うん、それで私たちのご先祖様はどんな人だったのか、それが少しだけわかったんだ」
「なのに俺を呼んだって事は──」
「その通りぃ、実際にご先祖様たちがどんな人だったのか……それに、西暦の時代に何があったのか。それを実際に見届けた人の口から聞きたいんだ」
「やっぱり、そうだよな」
師匠は抱えていた鍬と鉈に少しだけ目を向け、少しだけ目を閉じる。ほんの数秒、その後ゆっくりと目を開く
「お前らも、何があったのか聞きたいのか?」
師匠の発したその言葉に対して、俺たち勇者部一同は頷く。それを見た師匠は軽い笑みを浮かべた後、スマホを操作してどこかに電話をかける。電話を終えた師匠は改めて俺たちの方を見ながら言葉を紡いだ
「それじゃあ、行くか」
「えっ?」
「あの……行くって、何処に──」
「……いつか、アイツらの事を話すならここにしようって決めてた場所。こんな時ばっかりは大赦様様だな」
勇者部一同を連れてマンションの外に出ると、既にやってきていた車に乗り込んで目的の場所まで向かう。讃州市から離れ、丸亀市までやって来た
俺が若葉たちについて話すのなら、彼女たちと過ごし、思い出を作ってきた場所が良い……俺が西暦の勇者について、俺たちの戦いの記録についてを話す上で最もふさわしいと思ってる場所、それは──
「ここって、丸亀城?」
──そう、あいつらと過ごした思い出の場所、丸亀城
「目的地って、ここなんですか?」
「あぁ、許可は取ってるみたいだし……ついてきてくれ」
勇者部一同を連れて、丸亀城の中を進んでいく。階段を上がり、目的地まで続く廊下を歩いていると目の前に見知った顔が一人いた
「あー、お姉ちゃんだぁ」
「わざわざ悪いな、無理言っちまって」
「この程度の事なら構いません。それに園子も、久しぶりですね」
「うん、久しぶりー」
「今日は様付けじゃないんだな」
「ここに居るのは大赦のではなく、上里家の一人娘ですから」
「そうか」
とりあえず、この場に役者は全員揃った、後はこれまでの事を話すだけだ。目的の場所──教室の扉を開けると、随分と嗅いでいなかった懐かしい匂いが俺の所まで届く
正直、感傷に浸りたい気持ちもあるがこれからするのは彼女たち当代の勇者と、勇者と共に戦う戦士について重要なことであるため我慢する。ひとまず全員を席に座らせて、改めて俺とひよりの二人は勇者部の前に立つ
「色々話す前にまずは紹介、こっちのは上里ひより」
「上里ひよりです、以後お見知りおきを」
「う、上里って……あの上里?」
「えぇ、考えていただいている上里で間違いないですよ、夏凜さん」
少し硬直してしまっている三好だったが、固まってる場合じゃないと思ったのかすぐに元に戻った。とりあえず全員がこっちを向いたのを確認できたから、始めよう──
「それじゃあ、ちょっとした授業形式で初めて行くぞ。西暦の勇者と、彼女たちの戦いの話を」
──少しだけ長い、歴史の授業を