樹海の中を走りながら、友奈の元に向かう俺たちの目に映ったのは樹海の一部──木の根が蠢いている光景。それはうねうねと動きながら俺たちに向けて振り下ろされた
「あっぶなッ!」
「これって、まさか──」
「神樹様に、妨害されている!?」
「知るかぁぁッ! たとえ神樹様でもね、今回だけは譲れないッ!」
叩き潰さんと言わんばかりに振り下ろされる根を避けながら、走り続けていると、背後からとてつもない爆発音が鳴り響く
「あれって……」
「あれも、天の神の攻撃?」
迫ってくる光を見る限り、あの光の中に入ったら俺たちもただでは済まないって言うのは何となくわかる。ならやるべきことは一つ……友奈の心に一番寄り添える人を友奈の元に送る
「風先輩」
「えぇ……東郷、やれる?」
「……必ず」
「なら、道は……私が! 切り開く!!」
風先輩は満開ゲージを使い切ると手に持った大剣を肥大化させて無理矢理道を作り東郷の事を送り出した。ゲージを使い切った風先輩はかなり消耗したようで膝をつく
「風先輩ッ!」
「大丈夫ですか? 風先輩」
「えぇ……大丈夫よ」
後ろを向くと、光はすぐ近くまで迫っている
「樹……」
「……行きましょう、先輩。三人の所に」
「……えぇ」
俺が風先輩に肩を貸し、銀が地面に突き刺さっていた大剣を引き抜くと、三人で迫ってくる光と対峙した
天の神の攻撃はどんどん激しくなっていった。蠍、蟹、射手のコンビ攻撃を始め、羊の電撃。今の俺でも武器の形状を変化させるだけなら出来るし、ちょっとした無茶も身体が切り札バフのお陰で問題はない
「ぐぅッ! アンドロイドは何とかの夢を見るかとはよく聞くが……あの作品の羊は放電しねぇだろッ! 大丈夫かッ! お前らッ!」
「こっちはなんとかッ!」
「私も……大丈夫ですッ!」
武器の形状を旋刃盤に変えて電撃を防ぐが、こうも足止めされてると近づくこともできない……って、もう次の攻撃が来るのか
「次ッ! ドリル来るぞッ!」
「それは私が!」
電撃から何とか離脱したらしい犬吠埼妹が緑の糸を伸ばして網を作ることでそのドリルを粉々にする。ほんと糸使いってなんというかこういう場所だと便利だと実感する
──パキリ
「……?」
そんなことを考えていると、身体の内側から何かがひび割れていくような音がした。それに続いて聞こえてきたのは雪花の声
『要、これ以上はダメ』
「駄目って、どういうことだよ?」
『魂が崩れるのを抑え込む為にずっと内側にいたけど、これ以上無茶をすると──』
「……そう言うことか、でもな。無茶をしないといけない場面ってのも。案外ある」
そう言いながら俺が見たのは攻撃を受けながらも前に進もうとしている乃木と三好の姿。個々の力はちっぽけだとしても、仲間を思う心は神すらも凌駕する少女たちの姿、そしてその少女たちが神に一矢報いている光景だった
「あいつらが結城の帰る場所を守るなら、俺は……命を懸けて帰る場所を守ってる彼女たちを守る」
どれだけ心ない言葉を受けようとも人々を守り、バトンを繋いだ……俺の大切な仲間たちがそうであったように、そして他でもない。俺の身を案じて一人で四国に行くよう言った大馬鹿野郎みたいに
『ホント、お人好しだね……要は』
「自分じゃ、案外わかんねぇもんだけどな」
身体に刻まれているタタリの紋章が疼く、洒落にならないものが来る……なんとなくだがそれは理解できる。それなら、俺のとるべき行動はシンプル。落ちてきた二人を受け止めに向かう。どうやら犬吠埼妹も同じ考えだったようで落ちてくる二人をキャッチする
「犬吠埼ッ!」
「はいっ!」
そこからは全速力で離脱する、少しばかり諦めた表情をしていた三好と乃木だったが早々に諦めさせるわけにはいかない
「不知火先生、どうして……」
「結城の帰ってくる場所を守るなら、そこにお前らがいないと意味ないだろ……つっても、この調子じゃ少しキツいか」
樹海を焼き尽くしていく炎の速度は想像以上に速い、このままじゃ追いつかれるのも時間の問題だろう。それがわかった俺は声に出さず雪花に問いかける
『雪花、全力で無茶したら。俺はどうなる?』
『私が全力で繋ぎとめて、ギリギリ生きるかどうか』
『そうか、それなら。そん時は頼んだ』
『……ホントにやるの?』
『あぁ、こいつらを生かす為なら……やるだけやってみる』
「犬吠埼! 乃木を頼む!」
雪花にそれだけ伝えると、俺は乃木を犬吠埼妹の方に向けて投げると迫ってくる炎の方に対峙する
「ちょっと、何する気ッ!」
「さっさと行け、炎くらい俺が少しは受け止める」
眼前まで迫ってきた炎を旋刃盤で受け止めると、そこで僅かに炎の勢いが停滞した……が、それも一瞬の事ですぐに動き始め、俺の身に卸していた大天狗は光が霧散するように消え、切り札状態が解除される
「まだだッ! 輪入道! 雪女郎! 七人岬! 酒呑童子! 尾裂狐! そして大天狗ッ! 最後に全員力を貸しやがれぇッ!」
──バキリ
何かが砕ける音がする、今までのように細かく割れていくのではなく、真っ二つに砕けるように、俺の中の何かが割れる。そして、それと同時俺の中に流れ込んでくるのは考えるのも億劫になる程強大な力と、負の感情……正直理性が吹っ飛びそうだが、なんとか堪えて炎の進行を阻む
少しずつ霞んできた視界で後ろを確認すると、あまり影響はなさそうな所まで三人は退避している。それを確認した俺は目を閉じる
「……もう、大丈夫そうだな」
身体を焼き尽くすような感覚に襲われる、片方の視界は真っ黒に染まり、右腕が消失していく……身体の中に留まっていた力が抜けていく感覚と共に、俺は地面に叩きつけられ、意識を手放す
最後に聞こえてきたのは、何かがバラバラに砕ける音だった