不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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勇者の章,6-4 決戦Ⅲ

 意識を取り戻し、俺の目に映ったのは一面に広がる青空

 

「ここは……どこだ……?」

 

 一体ここがどこなのか、自分が何故ここにいるのかを理解できなかった俺は身体を起こした時に、自分の身に起こっている違和感に気付いた。俺の身体を蝕んでいたはずのタタリが消え、戦いで失ったはずの右腕や片目も元に戻っている

 

「治ってる……けど、不死の力が戻ったわけじゃない……よな」

 

 今の自分に一体何が起こっているのか状況を飲み込む事の出来ない。この場合一番考えられる状況として可能性の高いものは天の神との戦いが終わったか──

 

「俺が死んじまったか……だよな」

「正確にはまだ死んだわけじゃないよ」

 

 やけに聞き馴染んだ声の方を振り返ると、そこに立っていたのは雪花……だけどこれまで半透明の幽霊モードだったのと違ってしっかりとその姿は目に映っている

 

「死んだわけじゃないって、どういうことだ?」

 

 最近ずっと一緒にいたからか感動の再会感は全然ないからそこら辺はひとまず置いておいて、まずは一番気になっていることを訊いてみる

 

「そのままの意味、今の要は肉体と精神が一時的に分離した状態なんだ。それで今ここに居る要は──」

「精神体って事か……それならここってどこなんだ? 俺の送られる地獄にしては随分と穏やか過ぎる気がするんだが」

「えーっとね、ここは何て言えばいいのかな……神樹の中って言うか、微妙に違うっていうか……」

「曖昧な感じだな」

 

 正直な所、ここが何処なのかわからない事には現実世界へと戻る方法の検討もつかない。あっちがどうなっているのかわからない以上早急に戻りたいところなのだが──

 

「実際に曖昧な世界だからな」

「えっ──」

「久しぶりだな、要」

「若葉……」

「ありゃ、出てきちゃったの?」

「説明をするのに出る必要があったと思ったからな」

 

 思わぬ人物の登場に少し呆気にとられたが、俺自身僅かな懐かしさを感じつつも思った以上に冷静でいられている

 

「とりあえず、説明頼んだ」

「あぁ、頼まれた」

 

 若葉はこほんと咳払いをする。その様子は久しく見ていない光景だったからかやっぱり懐かしい気持ちが溢れ始めてきたりもするが若葉の話に耳を傾ける

 

「まず、私たちのいるこの世界は樹海と限りなく似た場所だ」

「樹海に限りなく似た場所……って事は、ここも神樹が作り出した場所なのか?」

「それは違う、ここは神樹様の中に内包されてる勇者たちの力で作り出された場所」

「今までの勇者の力で作り出された場所……それなら、どうして俺はここに?」

「……それは」

「要に私たちの力を託すため、だよ」

「お前らの……力?」

 

 俺に、力を託すって……一体どういうことだ? 

 

「今、勇者部のみんなは神に人として生きる意志を伝えようと頑張ってる。けど……今のままじゃ後一歩足りないかも知れない」

「残酷なようだが、今の彼女たちではあと一歩……」

 

 彼女たちの意思が神に届かないかも知れない、二人の言っているのはあまりにも残酷過ぎる真実。けれど、それでどうして彼女たちが力を俺に託すのかがわからない

 

「それで、それがどうして俺に力を託すって答えになるんだ?」

「要には今を生きる彼女たちの背中を押してあげて欲しい」

「今の私たちじゃ、力を……思いを託すことしかできない」

「そう言うことか、でも現実の俺はボロボロな訳だろ? それで何をするってのも──」

「それなら問題はない。力を託す時に、僅かな時間だが天の神のタタリが無効化できる」

 

 天の神のタタリが無効化されるって事は、もしかして──

 

「俺の不死の力が、その瞬間だけ戻るのか?」

「うん、でも本当に僅かな時間だけ」

「いや、十分だ」

 

 後一歩彼女たちの想いが届かない、それで何も出来ずにバッドエンドなんてのは流石に悲しすぎる。その結末を俺が背中を押すことで帰られるのなら。それをしないという選択肢は存在しない

 

「俺の方から頼む……お前達の力を、託してくれ……あいつらの背中を、一押しするために、力を貸してくれ」

 

 そう言って俺は、目の前にいる二人に頭を下げる

 

「オッケー、託すよ。私の力と、私の想い」

「私も、いや……私たちの力も、要に託す」

 

 二人がそう言うと、俺を中心に様々色の光が集まり始める。紺、橙、淡黄、濃桃、深紅、緑、紫、白、それ以外にも様々な色が黄金の光で一つになり、俺の中に集まり温かい光に包まれる

 

「頼んだぞ、要」

「掴んでね、未来を」

「あぁ……絶対に掴み取る。アイツらと一緒に」

 

 その言葉を最後に、俺の視界は光に包まれた

 

 

 

 

 目を覚ますと、視界に映ったのは半分が真っ黒になっている空。そこにあるのは相も変わらず天の神の紋章と焦げ付いている樹海。身体を起こしてみると案の定右腕がなくなり目の半分も潰れたまま。唯一違うのは左腕に付けられている中心に虹色の結晶が装飾されている銀色のブレスレット

 

「確かに身体を蝕んでた倦怠感はない……って事は」

 

 いつもの感覚で少し力を込めるといつもよりゆっくりではあるが消失した右腕と片目が治る……がその直後に襲い掛かってきた倦怠感と共に修復が止まる

 

「……完璧じゃないが、少しはマシになったか。それなら──」

 

 

 眼前の神様にアイツらの想いが届くよう、一発ぶちかます。俺のその意思に呼応するようにブレスレットから光が放たれ俺の身体を覆い尽くしていく。白銀の籠手や臑当て、そして胴当てが装着されその上から白い陣羽織を羽織る

 武器を持っていなかった手に出現したのは弓と淡く輝く一本の矢……成る程、これを天の神まで届ければいいのか

 

「それなら、やるべきことは簡単か」

 

 弓に一本の矢を番え、眼前に存在する天の神の中心へと狙いを定める

 

「ッ、はー……」

 

 呼吸を整える、もしもの事なんて考えない……俺に託してくれた者達の想いを、力を無駄にしない為に

 

「……届け」

 

 俺も一人の人間として、精一杯の願いを込めて放つ。一直線に放たれた矢は淡い黄色の軌道を描きながら突き刺さる。それを見届けると。個々とは少し離れた場所で大輪の華が咲き誇る

 

「あぁ────なんというか、ビックリするほど綺麗だな」

 

 

 

 その後、咲き誇った華は七色の光と共に、赤く染まった空を砕く

 それと同時に始まるのは樹海の崩壊、目に映るのは満開の花を咲かせた神樹──そして、その華が散っていく姿を見ると同時に、悟る

 

「──長く続いた戦いも、ようやく終わるんだな……掴み取ったんだな、未来を」

 

 ふと横に気配を感じ、そちらを見るともうひとりの俺が立っていた

 

 ──ここで立ち止まるのも、いいかも知れないな

 

「そうだな……それでも、俺はここで立ち止まりたくない」

 

 ──三百年頑張ったんだ。もう十分だろう

 

「いいや、まだまだやりたいことが残ってる」

 

 ──ここで立ち止まれば、アイツらに会えるんだぞ

 

「中途半端な所で立ち止まっちゃ、合わせる顔がねぇよ」

 

 ──それならお前は、これからどうするんだ? 

 

「そうだな……とりあえず、行けるとこまで前に進んでみるさ」

 

 ──そうか、それなら……行ってこい

 

「あぁ、行ってくる」

 

 もう一人の俺にそれだけ言うと、一歩前に踏み出した

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