不知火 要は勇者でない   作:SoDate

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勇者の章,7 日常

 目を覚ますと、俺たちは讃州中学の屋上まで戻されていた。最後の一瞬で何が起こったのかはよくわからないけれど、目の前に広がっているのはいつもと変わらない青空

 

「生きてる……のか?」

「帰って……きた……」

「世界は──」

「ちゃんと、あるね」

「神樹様は……?」

「消えた……散華?」

 

 自分たちが勝ったのか、どうなのかはよくわからない。けれど今、自分の近くで泣いている友奈の様子を見てわかることは一つ……友奈は犠牲になることがなかった。取り戻したんだ──日常を

 

 

 

 

 

 天の神との戦いが終わった後──勇者システムは機能を停止した。スマホの画面にはヒビが入り起動することはない。四国を守っていた壁は消え……俺たちの当たり前だった世界は終わりを告げた

 壁の中で教授していた平穏も、神樹がいることで得られていた恩恵もすべてなくなり。残ったのはこれからどうなるのかわからない未来だけ

 

「お待たせ、徹くん」

「お待たせ」

「いや、そんなに待ってない。それより、身体は大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよ」

 

 それでも、こうしてまた一緒に歩ける場所を守れたという事実だけで、戦い抜いた価値はあったと思う。そんなことを考えながら、俺は東郷と友奈の二人に並び学校へ向かった。その日のホームルーム

 

「以上が、大赦から要請があった通達事項です。壁がなくなったことで、これから生活のルールが変わるとのことです。次の通達があるまで、学校も休校になります──」

「先生、神樹様が枯れんだってニュースで言ってました」

「壁の外には、人が生きてるんですか?」

「まだ調査中とのことだから、滅多なことを言ってはいけません。噂や嘘を言う人が沢山出てくるでしょうけど、くれぐれも惑わされないように」

 

 こうして事実を突きつけられると、やっぱり自分の心に重く突きつけられるものがある、けれどこれが、俺たちの選択……一を捨てて全を取るのではなく、全を捨てて一を守った勇者の身勝手……駄目だな、こうして考えれば考える程、思考が黒い靄で覆われてしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴールドタワー前、この前起こった戦いの後を眺める為に、俺は色々な場所を見てまわっている。有名な所だと剣山。恐らく神樹が最後の力を使って出来る限りで修復を試みたのだろうが、それでも寿命の近かった老木には限度ってもんがある……このゴールドタワーも、修復が間に合わなかった場所の一つなのだろう。何だかんだ思い入れの合った場所を眺めていると、少し離れた場所に見知った顔を二つ見つける

 

 楠と国土、防人部隊の隊長と巫女だった彼女たちもまた、天の神と戦い未来を選んだ

 

「これ、全部直すのかな? プラモみたいにはいかないわよね」

「まだ、何も決まっていないと思います。大赦も混乱したままです」

「……結構な人数が消えたのよね」

「残された神官は、自分の信仰が足りなかったのだと苦しんでいます。防人の皆さんは?」

「待機命令の後も連絡は取りあっているけど、上からの音沙汰はなし。雀なんか家で震えあがっているよ」

 

 あの戦いで、多くの神官は神樹と一つになる道を選び人としての姿を失った。現実世界における彼らの扱いは行方不明、恐らくこの事実は公にされることはなく大赦が厳重に保管していくのだろう

 

「……アプリもエラーが出て使えなくなってる」

「神樹様のお力によって機能していたものは今後使えません」

「……そうね」

「神樹様が消えた事は本当です」

 

 さてと、ずっと盗み聞きしてる状態なのもアレだしそろそろ出ていくか

 

「随分と、暗い顔してんじゃねぇか」

「不知火さん……」

「久しぶりだな、楠……にしても、随分派手に壊れちまったな」

「そうですね……それより不知火さん、その大荷物は一体──」

「これか? 実は今、四国のあちこちを見てまわっててな、変わっちまったもんを目に焼き付けてるところ」

「……まさか、私たちの代でこんなことになるなんて思いもしませんでした」

「だろうな、正直、俺もこうなるとは思ってなかった」

「……祈ることも罰を受けることもできない。私もこれから、どうしたらいいのか」

 

 国土は巫女として生きてきた。だからこそ神樹が──信仰の対象が消えてしまったという事実が影を落としてしまっているのだろう──っと、考えていた所で手に付けていたデジタルウォッチから電子音が鳴る

 

「っと、時間か……俺はもう行く」

「えっ? はい……わかりました」

「そんじゃあな」

 

 あの二人の事も気になるが、とりあえず今は次の目的地に向かおう

 

 

 

 

 

 

 俺が次に向かったのは讃州中学、ゴールドタワーからは結構な距離はあったが今の俺にとっちゃ特に問題はない。というよりもあの戦いの後に元々持ってた不死の力を取り戻したのに加えて、だいぶ体力やらなにやらが上がっているから問題はない。それに加えてあいつらから託された力の結晶であるブレスレットも左腕に残ったまま

 

「……まぁ、これで何が出来るのかもよくわかんねぇけど」

 

 あの時みたいにあの鎧と陣羽織を纏えるだけなのか、それとももっと色々な力を持っているのかわからないがそこら辺は追々だろう……っと、目当てのやつがいたな

 

「おーい、八重樫」

「……えっ? 師匠?」

「この前ぶりだな」

「本当に……師匠ですよね? 幽霊とかじゃないですよね?」

「幽霊なわけねぇだろ……っと、そんなのは置いといて、お前にちょっと渡したいもんがあってな」

「渡したいもの?」

「あぁ」

 

 そう言って俺が八重樫のように渡したのは事務所の鍵、正直今の俺にゃあんま必要ないし。まぁ渡された本人は困惑したような表情を浮かべてるけど

 

「あの……この鍵って」

「ウチの事務所の鍵」

「スペアキーとかですか?」

「いいや、俺スペアとか作らない主義だし……と言うことで、ウチの事務所今度からお前が自由に使っていいぞ」

「自由にって……それじゃあ師匠は何処に住むんですか!?」

「それはまぁ、心配すんな……それに事務所もそろそろ畳もうと思ってたし。そう言うことで任せた」

「いきなり過ぎますって!」

「ローンは全部返したから心配すんな、そんじゃ頼んだぞ」

「ちょっと、師匠──」

 

「あぁ、そうだ。八重樫…………あんま思い悩むなよ、未来は誰にもわからないからな。どんな未来も──お前が動けば掴み取れる」

 

 それだけ言い残すと、俺は八重樫に背を向けて歩き始めた

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