3月──混乱していた世界もわずかながら落ち着きを取り戻した。それでも拭いきることのできない不安を紛らわすために様々な人が様々な行動をするけれど、勇者部は概ね平常運転
唯一変わったことはあるとするなら──
「そ、そそ、それでは、勇者部部会を始めたいと思います」
先代部長の風先輩が引退し、樹ちゃんが新部長に就任したことだろう
「今日は、来たる新年度四月からの活動について、検討したいと思います!」
「新部長緊張してる?」
「は、初めてのことなので」
「ファイト!」
「は、はい!」
ビックリするくらいカチカチの樹ちゃんを友奈が励まして、東郷が書記。そして今回の議題が──新しいボランティアについて
「社会の仕組みが変わってきたから、私たちの活動も考えないと」
「確かに、これからの勇者部は何をするのが一番いいのかって事よね、でもさ、なんでアンタが居るのよ」
そう言って夏凜が向けた視線の先にいたのは風先輩、讃州中学の制服ではなく普通の私服だが、先代部長は相も変わらず勇者部部室にやって来ていた
「何よ! OGよOG!」
「めんどくさい寂しがりや……」
「なに! 文句あるの!? ねぇってば──」
「はいはい、好きにしなさいよ」
「生活習慣は変わっても、騒がしいのは変わらないなぁ」
「まぁ良いんじゃない、楽しいじゃん」
だだっこモードになってた風先輩だが切り替えの早さは相変わらず、パパっと切り替わって樹ちゃん応援モードになるのだが……当の本人が若干呆れ気味なのは置いておいて良いのだろうか
と言った所で園子が取り出したのは正月に見つけた鍬だった
「あのね、いっつん。これからの事なんだけどね、これ、覚えてる?」
「あっ、お正月の!」
「師匠が言う所の西暦の勇者たちからのバトンだな」
「バンドの次は何? 畑でも作ろうって言うの?」
夏凜の言っているバンドとは、東郷ブラックホール事件の前に色々やってたうちの一つだ。因みにその色々やってたという中には勇者部仕様のバンを作ったり、サバゲ―やったりキャンプしたり本当に色々やっていた
「当たらずとも遠からず、あのね……よく聞いて、これが最後の秘密──いろいろ言われているけど、本土に人はもういないの」
「……続けて」
「不知火さんに聞いたんだ、これをご先祖様に託した。白鳥歌野って言う勇者の事を」
そこから園子が話してくれたのは、師匠から聞いたらしい白鳥歌野という人物のこと。師匠も関わり自体は無かったら乃木若葉から聞いた話だって前置きを付けてから園子に彼女の事を話したらしい
「初代勇者──白鳥歌野は、諏訪地方で最後まで戦った。四国を守る最後の時間を稼ぐためにね」
「ひょっとしてその鍬が、凄い武器って事?」
「この鍬が?」
「業物って、一見地味なモノよ──」
「残念、ビックリするくらい普通の鍬なんよ」
当てが外れた夏凜の顔が真っ赤に染まる。流石にこのミスは恥ずかしい……というかフリーズしたまま動かなくなってる
「でも、どうして白鳥さんはその鍬を?」
「乃木の若葉ちゃんが言ってたんだって。神樹の勇者は戦う事が本懐じゃないんだって、戦いが終わった後、元の暮らしに戻れるよう頑張ること、それが勇者の本懐」
「じゃあ白鳥は、戦いの事を忘れないようにそれを?」
「うん、大赦もね、元々はそういう思いで表舞台に出てきたと思うんだよね」
長い時間を経て体質が変わって行ってしまった。と東郷は言った。現大赦のトップである家系が乃木と上里である以上、組織そのものを作ったのは他でもない初代勇者……けれど、それがここまで変わってしまった。それは酷く残酷な事だけれど、同時にどこか仕方のないことなのではと思えてしまう
「でも、脅威とは誰かが戦わなければならない。甘いこと言っていたら全滅していたわ」
「それはそう。でも、神様と一緒に人間も消えちゃおうなんて選択……白鳥ちゃんたちも怒ると思うんよ」
と、ここまでは良かったのだが問題は次に園子が発した言葉
「それでね! 私良い事思いついたんよ!」
「良い事?」
「大赦をぶっ潰す!」
「アンタまた極端な!?」
「流石にスケールがデカすぎるだろ……でも何だろう、どっかで聞いた事あるような……」
すんごいデジャブを抱えてながらとある方向を見ると、顔を青くしている東郷と何か思い出したくない記憶を思い出している様子の風先輩が目に入る。そう言えばあの二人も手段は違えど大赦潰すのと似たようなことしてたっけか
「ぶっ潰せるの?」
「そこ気にするところ?」
「今の混乱に乗じて、乃木園子の特権と私が放った草を最大限利用すれば──」
「ちょっと待っただ、園子」
「そうよ、ちょっと興奮するクーデターだけど落ち着いて、もう争いごとはダメよ」
「うーん、今、超グダグダな大赦に任せておくと、またじゅくじゅくして間違った事しちゃうと思うんだ。だったら私が」
園子が何を言いたいのかわかった。確かにこのままじゃ人間はまた間違った道を選択してしまうかもしれない。だから彼女は自分が犠牲になろうとしているんだろう。けれど、それに対して疑問を投げかけたのは、他でもない樹ちゃんだった
「園子さん、そうすることが、初代勇者の想いに繋がるんですか? 人間の暮らしが元に戻るように頑張るのが勇者だとしたら、若葉さんや白鳥さんを想うのでしたら──」
少し顔を伏せた樹ちゃんだったが、決意をした瞳を園子に向ける
「わかりました! 讃州中学勇者部は! これからもっと勇者部になります!」
「えっ?」
「変身なんかできなくても、人の為に出来ることは沢山あります! 今、不安になってる人、困ってる人、大勢います。そんな人たちの為に、率先して世の為人の為になることを続けます! それが私たちの方法です、それじゃダメですか?」
「だ、だめじゃないです」
「だから園子さん、もう危ないことはやめてください。私たちは中学生なんです、勉強も部活も青春も、大切なモノは沢山あるんです」
「うん……わかったよいっつん」
「……良かった」
知らない間に、すっかり成長していたらしい樹ちゃんと、平和的に大赦を見守るという何とも少し不安なような気がする返答に困惑しながらも、なんとか収まるところに収まったらしい
これから大変なことは沢山あるのだろう、けれどきっと何とかなる。窓から見える青空に目を向ける
──師匠、勇者部はこれから問題なさそうです……俺たちこれから頑張っていきます!
勇者部は今日も、平和に張り切っていきます!
…………そう言えば、師匠は一体どこに居るんだろう
日本本島──旧諏訪地方
「ぶぇっくしゅん! 風邪か?」
必要なものを最低限まとめたリュックサックを横に置き。目の前にある小さな墓に手を合わせる
「取り戻しましたよ、先輩。世界を」
──随分と、長旅だったみたいだな
「えぇ、本当に……長い旅でした。けどまだまだこれからです、いろんな場所、いろんな世界を巡ってみようと思います」
風邪に混じって聞こえた、幻聴かも知れない声にそう答えると、リュックサックを背負い直して空を見上げる
「よし、次の目的地は──北海道だな!」
どんな場所、どんな世界でも助けが必要なら向かう。青い空の下に歩き始めた
不知火要は勇者でないの読者の皆様
最終回まで読んでくださってありがとうございます
不知火要は勇者でないはこれにて完結となります。途中、なんか雑になってないとか思った部分もありましたが、乃木若葉の章から書き始めた不知火要という人物のお話も、これにて完結
西暦から神世紀を駆け抜けた不知火に対して、作者からお疲れさまでしたの言葉を送らせていただきます
ですが、不知火要の物語はこれから先も続いていきます。彼自身、これから色々な場所、色々な世界を巡り、困っている人を助け、時にはちょっとした騒動を起こしながら過ごしていくと思います
もしかしたら私の書く作品にチラッと出てきたりするかもしれませんが、その時は不知火の奴こんなとこまで来てんのか程度に思ってください
何はともあれ、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
そして出来ることなら、不知火要という男のことを忘れないでくれると幸いです
SoDate
PS.不知火関連のこれからは活動報告の方に書かせていただきます