今回はマジで山も谷もありません
「えーっと、今日は...急ぎの依頼もなし」
依頼書の束を見ながら、そう呟くと今日の予定を考え始める。普段なら依頼が溜まっていることの方が多い為こういう事は珍しい、何かやる事は無いかと席を立つと来客用の茶葉が切れていることに気付く
「そういや茶葉を買い足しに行こうと思ってたの忘れてた...どうせ暇だし今から行くか」
ぱぱっと余所行き用の服に着替えると、事務所の鍵を閉めて行きつけのお茶屋さんがある商店街に向かう
「おや、不知火君じゃないか」
「お久しぶりです、おばあちゃん」
「いちいち畏まらなくても良いよ、いつものだよね?」
「あぁ、いつもありがとな」
「気にしなくていいよ、こっちも仕事だからね...いつもの200g、1600円だよ」
「それじゃあ2000円で」
「400円のおつり、また来ておくれよ」
「言われなくても、ここ以外じゃ茶葉は買わねぇよ」
茶葉の入った袋を受け取りながら婆さんにそう言う
「はっ、そんな事言われても割り引いたりはしないからね」
「元から期待してねぇよ、じゃあな」
お茶屋から出ると、冷えた風を感じつつ商店街を歩く
「それにしても、もう冬か」
冷え切った風を感じていると、雪花と一緒にいた時の事を思い出す。向こうはこっちと違って年中これくらいの寒さだったなと考えて、少し変な気分になる
思えば俺もすっかりこっちの生活に慣れきっているな等と考えながら商店街を歩く
「...要君?」
声をかけられて振り返ると、そこにはコートを着て片手にゲーム屋の袋を持っている千景が居た
「千景か、久しぶりだな」
「...そうね、要君はここで何を?」
「来客に出す用の茶葉がなくなってたからな、買い足しに来た。そういう千景は?」
「...私は、新作の発売日が今日だったから」
どうやら彼女は新作ゲームを取りにここまでやって来たらしい、千景の隣に並んで歩いていると彼女が俺に話しかけてくる
「...最近は、どう?」
「最近か、まぁボチボチだな。俺の仕事は信用第一だし、でもま、食いっぱぐれない程度には生活できてる。そっちは?」
「...私も似たようなものよ」
「千景は、配信者だっけか?」
「...えぇ、最初の頃は批判も多かったけど、もう慣れたわ」
「そうか」
彼女は戦いの後、自分のやりたいことをすると言って電子の海に飛び出した。動画投稿サイトで主にゲームの生放送や実況動画を上げている、確かに最初の頃は批判もあったが、今はすっかり固定ファンもついてかなりの人気を獲得している...因みにだが俺もチャンネル登録していたりする
「そういえば、高嶋さん達と久々に会ったわ」
「会えてなかったのか?」
「...えぇ、中々時間が取れなかったから」
「どうだった、久々に会った感想は?」
「...すごく、安心したわ。それと懐かしい気持ちにもなった」
黙って千景の話を聞いていた俺の方を向かず、言葉を続ける
「不思議ね...まだ半年しか経っていないのに、皆で暮らしていた時のことが凄く昔に思える」
「...あの時は俺たちも全力だった。けどその分充実してたのかもな」
「...そうね」
雪花と暮らしていたあの場所と同じくらい、今の俺にとってはみんなの居るこの場所も大切な居場所になっている事を、千景の言葉で改めて実感する
「もう、分かれ道ね」
「そうだな、それじゃあ...またな」
「えぇ、また」
千景と分かれた俺は一人事務所に戻る
事務所の中へ戻る前にポストの中を確認すると一通の手紙が入っていた
「東郷堅持...誰だ?」
見知らぬ名前の書かれた手紙を確認するのと冷えた身体を温める為に事務所に戻った俺は、自分用の茶葉を使って茶を入れると飲みながら手紙を読み始め...少しだけ動揺する
「マジかよ...」
東郷堅持という人物から届いた手紙の内容はシンプルだった、自分の妻に会って欲しい。それだけの内容だが彼の妻と言う人物の名前は俺にとって縁の深い人物だったから
彼の妻の名前は東郷紫...旧姓は不知火、俺の姉貴だ
手紙には丁寧に住所と電話番号も書かれていたが、正直今さらあってどうにかなるのか、何を話すのかという気持ちが強いがそんな事はどうだっていい...問題はどうして手紙を送ってきたのかだ。偶然どこかで俺の名前を知って手紙を書いたのか、それとも俺の名前が公表された時点から手紙は送られ続けていたが、大社によって俺の元に届く前に止められていたのか。正直後者の可能性が高い気がする
「讃州...ね」
合わなくても問題ない気もするが、姉貴が生きているのなら兄貴について何か知っているかも知れない...両親以外の家族の動向が知れると考えるとあってみても良いかも知れないな
そう考えた俺は、暫く留守にする旨と、急ぎの用の場合は電話をするようにと張り紙をして讃州まで向かうことにする...前に先方に確認を取っておくのが常識か
そう考えた俺は固定電話を使って東郷という人物に連絡を取る