徒歩と電車を使って、俺が降り立ったのは讃州市
こっちの方には来たことが無かったから少々新鮮だ、ホントの所は自転車でサイクリングと言いたいところだがいつ迷子ペット探しの依頼が入るか分からない以上、出来るだけ早く帰れる交通手段の方が良いと思い今回は電車だ。最悪能力使って全力で帰るから問題はない...そうした場合周りの目が少々悲しいことになりそうだが、そうなった場合の最優先事項は飼い主と迷子ペットの再開であるから問題はない
「失礼、君が不知火要くんかな?」
一人駅前で待っていると、中々に威厳を感じさせる男性が俺に話しかけてきた
「はい、不知火要です」
「今日は来てくれてありがとう、東郷堅持だ...詳しい話は車の中でしよう」
「わかりました」
俺は近くに止めてあった車の助手席に座ると、運転席に座った東郷さんが車を出発させる
「...そういえば、どうして俺の事を知ってたんですか?」
「元々家内から聞いていた。年の離れた弟がいると...まさかこんな形で合うとは思わなかったがね」
「そうですね」
会話が弾むこともなく暫く車に揺られていると、新しい木造の屋敷が見えてくる
「ついたぞ、ここだ」
「随分立派なお家ですね」
「これでも頑張って働いてようやく建てた一軒家だからね」
車を止めて二人で家の中に入る
「お帰りなさい、あなた」
「あぁ、ただいま」
家の奥から歩いてきた人物を見て、俺は少し呆然とする
「...誰?」
「あら、誰っているのは流石に失礼じゃない、要?」
「姉貴...なのか?」
奥から出てきた人物に呆然とした理由は簡単である、奥から来たのは和服を着こなした古き良き大和撫子的な女性だったから。俺の知っている姉貴は言い方が悪いがもう少しケバかったしチャラついていた
「いや、すまん...あまりのイメージチェンジに少し思考が」
「まぁ気持ちは分かるけどね。何年も会ってなかった訳だから」
「積もる話もあるだろうが、そろそろ中に入ろう...家内の身体に障る」
東郷さんのその言葉を聞いた俺は応接間に通される
「そうだ、お茶とか用意しないと...」
「久しぶりの再会なんだ、そのくらい俺がやる」
そう言うと東郷さんはそそくさと応接間を出ていき俺と姉貴の二人だけになる
「いい人だな、東郷さん」
「今は私も東郷なんだけど?」
「苗字が変わっても姉貴は姉貴だろ、魔法みたいなイメチェンしててもな」
「それもそうね...でも、本当に無事で良かった」
姉貴のその言葉を聞いた俺は聞かないといけない事を改めて聞くことにする
「そういえば姉貴...兄貴はどうなったんだ?」
「兄さんは...亡くなったわ」
「そっか。やっぱり事故か?」
「いえ、丁度半年前に病気で」
「...そうだったのか」
「えぇ、兄さんも貴方に会いたがっていたわ」
「なら、後で兄貴の墓を教えてくれ...せめて俺が元気だって事ぐらい自分で報告したい」
「わかったわ」
そうして話していると、東郷さんが二人分の湯呑をもってきた
「ありがとうございます」
「ありがとう、あなた」
「気にしなくていい、私は居間にいるから何かあったら呼んでくれ」
「わかったわ」
再び二人になった俺たちほとんど同じ動作で湯呑に口を付ける
「そういえば、姉貴のは白湯なんだな」
「えぇ、今が一番身体に気を使わないといけない時期だから」
そう言うと姉貴はおなかに手を当て優しく撫でる
「マジか...」
「えぇ、マジよ。要叔父さん」
「おじさんはやめてくれ...結構キツい」
二人で少し笑いあうと今度は姉貴の方から俺に質問を投げてくる
「要は...今何してるの?」
「何でも屋」
「何でも屋?」
「あぁ...誰かの為になることを、勇んでやるをモットーに日々近所の人たちの為に右に左に。意外と充実してるよ」
「...収入は?」
「まぁ一人で暮らす分には問題ないレベル、事務所は大赦からの紹介で格安で買ったし」
「...いい、要。出来る事なら早急に安定した職に就きなさい」
「急にどうした?」
「いいから...貴方もこれから先、恋人の一人や二人出来るでしょう。そんな時に貴方が甲斐性を見せないと」
やばいな、暴走モード目をしてる...これは暫く止まらない気もするが、一応言っておくか
「いや、恋人とか作る予定ないから」
「黙らっしゃい! 良い、私はね...要にも幸せになって欲しいのよ」
「いやぁ...しばらく独り身でいいかなぁって言うか考えるのは速いかなぁって」
「馬鹿ね、兄さんなんて小学生の時にはもう将来の相手を見つけようとしてたわよ」
「いや、マセすぎだろ兄貴、小さい頃から何考えてんだよ...」
まさかこのタイミングで兄貴に関する衝撃のカミングアウトをされると思ってなかった
「というか、生活は大丈夫だって。大赦...というか大社から退職金はふんだくったし」
「なら良し」
「そう言うと思った...にしても姉貴は聞かないんだな、何をしてたのか」
俺がそう言うと姉貴はあっけらかんと言った風に答える
「どうせ勇者様と一緒に戦ってたんでしょ?」
「どうせって...」
「だってそうでもしないとアンタ一人で壁の外から帰ってこれるわけないし、一応これでも祖父母は神職よ、その程度で今さら驚きもしないし、会おうとしても会えなかった理由を考えるとそれくらいしかないからね」
相変わらず、変に割り切っているというかこざっぱりしている人だと思うよ
「そういえば、要。今日はどうするの、止まっていく?」
「どうすっかな...悪い、電話だ」
「気にしないで」
携帯を取り出して画面を見るとタマの名前が表示されていた。いつもなら電話なんてかけてこないし急な用事でもあるのだろう
「もしもし、どうかしたのか?」
『要! 今どこにいるんだ!』
「何処って、張り紙に書いてあんだろ? 用事で讃州」
『いつ頃帰ってくる!?』
「わからん、用事もないし明日くらいにって...そっちこそ急な要件だろ?」
『早く帰って来てくれぇ! 寒すぎて凍え死ぬぅ!』
「自分の家に帰って身体温めて寝ろ!」
『ちょ? かな―』
タマからの電話を切ると、今度は杏に電話をかける
「もしもし、杏か?」
『要さん、どうかしたんですか?』
「さっきタマから電話があったんだが、事務所に入れなくて困ってるそうだ。引き取ってくれ」
『タマっち先輩、逃げたと思ったらやっぱり要さんの事務所に...って要さん、もしかして事務所にいないんですか?』
「あぁ、用事で讃州に来ててな」
『そうなんですね、とりあえずタマっち先輩の事はわかりました。通報ありがとうございます!』
「通報って、タマのやつ一体何をやらかした」
杏からの電話を切った俺はそんなことを思いながら、席に戻ると姉貴がキラキラした目で俺の方を見てきた
「ねぇ要、どっちが本命?」
「そんなんじゃねぇ! 勘違いすんなアホ姉貴!!」
その日は東郷家に泊めてもらった翌日、俺は姉貴から教えてもらった兄貴の墓にやって来ていた
「えーっと、ここ...か?」
墓地を歩いていくと、兄貴の墓であろう目の前に一組の親子が立っていた
「あの、ここって藤原巧さんのお墓であってますか?」
「えぇ、そうですけど...貴方は?」
「俺は藤原巧さん...というか不知火巧さんの弟の不知火要です」
「貴方が...あの人の弟さん。言われてみれば、確かにあの人の面影があるかも」
そう言ってくる女性の横にいた子は俺の事をじっと見ていた
「花...供えても良いですか? ようやく会いに来れたので」
「えぇ、あの人も喜ぶと思うから」
女性の許可を取った俺は、墓に花を供えると手を合わせる
「兄貴、会いに来るの遅くなってごめん...姉貴から兄貴のこと聞いてさ、一応顔見せと報告に来た。半年くらい前には色々あったけど、今の俺は楽しくやってるよ...こんな形になっちまったけど、会いに来れてよかった」
そこまで言うと俺は、立ち上がって二人の前まで戻る
「ありがとうございました」
「いいえ、私の方こそありがとう...わざわざ主人に会いに来てくれて」
「...お母さん、この人だれ?」
「この人はね、パパの兄弟...貴方の叔父さん、かな」
「...初めまして、俺は不知火要。君は?」
「藤原...智花」
「智花ちゃんか...智花ちゃんはお父さんのこと好き?」
「うん! 大好き!」
「そっか...よかった...」
智花ちゃんのその言葉を聞いた俺は安心すると、二人に頭を下げて駅まで向かう
形は違えど、兄貴にも...姉貴にも会うことが出来たし、これからは会いに来ようと思えばいつでも会える。だから今は帰ろう、俺の帰る...俺の家に
「それにしても結婚とか恋人ねぇ...いや、ないな、ないない」
昨日姉貴にさんざん言われて少し意識をしたが結局の所、今は考えても仕方ないと結論付けて。俺は再び帰路につく