8年前
清瀬澄人12歳。中学1年生。秋。下校途中
この日がオレの人生の転機とも言えた。目の前には白い身体の巨大な化け物。それが異世界から送り込まれたトリオン兵だというのは当然知らなかった。黄色い目を向けられると怖くなった、だけど同時に興奮していた
まるで特撮ヒーローに出てくる怪人たちみたいだ、と。ならばヒーローも本当は居るんじゃないかと期待した。漫画みたいにいないように思うようにされているだけで、実はオレの知らないところでかっこよく戦って平和を守っているんだと。でも、さすがに現実はそこまで思い通りにはいかない
「大丈夫か、君?」
オレを助けてくれたのは刀と銃を持った人たちだった
この人たちは「ボーダー」と言い、
それから2年。身体を鍛えるのが一番とトレーニングをがんばった。木崎さんは父親が消防士ということもあって一緒に鍛えた。とはいえ、さすがにマッチョまでは求めていないので程ほどに
剣は忍田さんに教えてもらった。ボーダーの中じゃ一番強い。けれどたまに訓練のやりすぎで城戸さんの車を切ってしまうことも
林藤さんはからかうのが楽しいのか弟子の
迅くんは1個下だけどゲームを挑んでもいつも勝ってしまうからそこはつまらなかった。その理由がサイドエフェクトという超能力みたいなもので、未来が視えるって知ったらズルじゃんと叫んで、2度と一緒にゲームをしなかった
オレにも少し前からサイドエフェクトらしいものが発現した。それが「味覚当選」。言ってしまえばオレが知りたいことに対して「当りなら甘い」「ハズレなら苦い」と2択に分かれる。なのでクジ運は高くなったし、パーティーなんかでは良い物を当てていった。最終的には選ぶのを最後にさせられて対策をされてしまった
良いサイドエフェクトとその時は思ったけど案外不便。答えが出たら何か食べないと味を変えないと続くし、反応するのは5分以内の物事だけ。迅くんほど未来が分かるわけでもない
何事も順調。ボーダーの目的である橋渡しや交流もオレは賛成だった。世の中にはいろんな人がいるけれど、言葉が通じるなら話し合える、理解できる。協力だって
でも、現実は甘くは無かったし。オレは本当の現実というやつを知ってしまった
「いいのかい? 一度向こうに行けば命の保障は無いんだよ?」
「分かってる。でもオレたちが訓練したりしたのはこういうときのためでしょ? だったらオレだって行くよ」
ヒーローはどんな状況だって恐れず戦いに挑んでいく。そんな姿をオレは憧れていた、カッコいいと尊敬していた。テレビの向こうは虚構だけど、
だが、数時間後には仲間は次々と死んでいった
「っ……なん、で……みんな……みんなぁ!!…風間さん! 相馬さん! 梅先さん! 平良ぁ! 甲斐さん……」
トリオン体は破壊されたからどんなに叫んでも返事は無い。離れたところでは身体を斬られて血を噴出す行方さんがいた
「っっ!! ぁ…ぁああぁっぁっあああ!!…な、なんで殺んすだぁぁぁ!!」
いつも笑って、時にはドジをする行方さん。オレはこの人が好きだった。守ってやれなかった。怒りと悲しみと後悔に支配されたオレは、自分だけに調整された両手剣の
サイドエフェクトを使い右へ左へ攻撃を回避しながら破壊。1ミリも動かないソレを怒り任せに刺し、踏み砕き、切り裂き、叩きつけていった
「っぅ……っぅぅあっぁぁぁ…」
粉々になり跡形もなくなると行方さんのところに。だけど即死だったのか息はしていなかった。想いを一言も告げられず好きな人を失ってしまった
初めて行った
この世にヒーローはいない。いるのは、ただの無力な人だけだ。トリガーを持ったところで結局は強くなった
ボーダーはすでに戦争をしていた。オレはそのことを気づいていなかった。今までずっと格闘ゲームで雑魚を処理していくだけの感覚だったに過ぎなかったのだ。本当はもっと、怖くて恐ろしくて、命を奪い合う血みどろの世界だった
この現実に憧れていたヒーローはどこにもなく、世界の果てまで行ったところでそんな人はいない。そしてオレも、ヒーローにはなれない。戦争を知ってびびったオレは戦うことから逃げた。同じように真都ちゃんもボーダーを抜けた
その半年後には三門市を
オレは何もできず、玉狛の部屋で蹲っていただけだった。オレより小さい桐絵ちゃんは戦った。怖い思いをしたのにすごいと思う
本部ができてからの半年は新入隊員の教育をした。自分のトリガーは玉狛に置いて、ボーダーがこれから使うというトリガーを持った。殆どの子が
ボーダーを抜けてからは祖父の店を継いで1日中働いた。覚えることも多く、婆ちゃんに助けてもらいながら4年を過ごした
今でも考える。ボーダーに入らなければ現実を知る必要は無かったんじゃないのか? と。ヒーローじゃなく別のもに憧れていればよかったんじゃないか? と。後悔が次々と出てくる
――――――――
現在 12月18日(木)
清瀬澄人20歳。駄菓子屋店長。冬。仕事中
『こんな小さな物が
『ボーダーは問題は解決したと発表がありましたが、住民からは不安の声が寄せられています』
『マスコットキャラのような嵐山隊の人たちが問題の解決をしたと言っても、我々一般市民には証拠が提示されていない。本当に解決したのか怪しいものだ』
「と、著名人の人たちは言ってますよ? 城戸さん」
「問題ない。反論してくる人がいるのは想定内だ」
いつものようにテレビを点けて仕事をしていると、13日のボーダー掃討作戦で後悔されたトリオン兵の画像がニュースで度々出るようになった。また、コメンテーターや警察や経済などの専門家を呼んで討論をしたりなどボーダーに対して不満を口にしていた
それを一緒に観ていたカウンター越しにいるボーダー最高指令の城戸正宗は動揺することなく答えた
「話は戻るが、我々に協力はしない。ということでいいのかね?」
「しがない駄菓子屋の店長になんで協力を? オレはもう一般人ですよ」
城戸指令が澄人の下へ来たのは玉狛が匿っている
「……そうか。そうだったな。君はもう戦いたくはないと言っていたな」
「それだけじゃないですよ」
「どういうことかね?」
「オレは…確かに戦争から逃げたけど、ボーダーの理想というか目的は今でも賛成です。
恐怖は克服できない。4年半前の澄人の姿を知っている城戸指令はこれ以上の協力はもうしないと諦めた。だが澄人が断ったのはなにも戦うのが怖いのだけが理由じゃない
ボーダーに入って知った活動目的。
「だから今のボーダーのやり方には納得できない。協力できない、ということかね?」
「…うん。城戸さんのやり方が間違っているわけじゃないのは知っている。けれど、オレは……前のボーダーのほうが好きだから」
今のボーダーは大半が
「時間は戻らない。あの頃のようには理想だけではただ蹂躙されるだけだ」
「…………」
何も返せない。城戸指令の言っていることは間違いでもなく、そして澄人自身が理解してしまったからだ
理想をいくら語ったところで、叶えるための準備をしたところで強大な力の前では無力でしかない。その結果が仲間を多く失い、理想とは程遠い目的で表に出たわけだ
「ところで、何も買わないなら帰ってくれないかな?」
「…?……! 長話をしてしまったようだな」
これ以上もう何も話すことは無いだろう。澄人は戦わない。それが分かっただけでも1つの収穫ともいえる。協力はしてくれなくても、玉狛に加担をするということもないのだから
沈黙を破った澄人は本来なら客に対しては失礼なことだが、帰るように促した。城戸指令は後ろを見れば籠にお菓子を入れた子供たちは数人並んでいたのだ。何かを買う予定はなかったから言われたとおり帰るために出口へ向かう。外へ出る前に足を止めた
「清瀬君…君はいくつだったかな?」
「
「そうか。君と飲めないのが残念だ」
「オレも。夢が叶えられなくて残念ですよ」
ちょっとした世間話。久しぶりに会った親戚の子と話すような内容だった。表情も変えず残念と言って店を出て行った
「お兄ちゃん夢叶えなかったの?」
「うーん、お兄ちゃんの夢ってすーーーっごく難しくてね、諦めてしまったんだ」
レジに商品の値段を入力しながら子供たちと会話をする。純粋で気遣うということが難しいだろうから、澄人には耳が痛い会話だった
「どんな夢だったの?」
「悪者と仲良くご飯を食べたりするヒーロー、って感じかな」
ボーダーと一緒に叶えたいと思っていた夢。脱退した今ではそれはもう叶うことがない。困った顔でさっさと会計をして次の子供に変えようと思っていたら、また懐かしい顔が現れた
「澄人君、久しぶり」
コートを着た長い髪の女性。聞き覚えのある声にお釣りを返す手を止めてしまった
「っ……真都、ちゃん…?」
美人になっていた九条真都が店の入り口で立っていた
ボーダー本部に戻った城戸指令は司令室に向かっていた。その途中の廊下で外務・営業を担当している
「どうです? 外部の助っ人は得られそうですか?」
「いや。断られた」
「ということは、すでに玉狛が手を打っていたと?」
「それも違う。彼はもう戦う意思はないということだ」
「なるほど」
ブラックトリガーを相手にできるだけの力量を持った遠征メンバーに三輪隊を含めたとしても任務を達成できるかは不明。だが必要以上に戦力を費やせば余計な被害を招いてしまう。だからボーダーを抜けて協力できそうな澄人の下へ向かった
結果は残念だったが、戦う意思が無いことが分かっただけでも玉狛にも協力はしないということが分かった。サイドエフェクトもあり戦闘センスもあるため念のための行動だった
「ブラックトリガーの回収任務は予定通りに行う」
「澄人くん大きくなったね」
「そりゃぁね…確か……180だったかな? そん位だった気がする」
減った商品の補充や整理をしながら九条と他愛もない話をする。昔に戻ったような錯覚がして澄人は少し嬉しかった
「え、なにが?」
「なにって、真都ちゃん綺麗になってるし。服だって洒落た着方してるから。今の流行とか人気のスタイルとか一番に知れるんだなって」
九条は脱退して県外に引っ越したから、いまどう過ごしているのか知らなかった。アパレルメーカーでショップ店員として働いている。それを知った澄人は納得した
「そ、そう…ありがとう」
「あ、今照れた?」
「ちょっと、からかったの!?」
「そんなわけないって!」
「澄人くんはいつもそう! 面白そうなことがあるとからかってくる! レイジ君の時だってそう!」
「アレはむしろ弄ってくださいと言ってるようなもんだろ!? というか、真都ちゃんだって『あら、アタシよりゆりちゃんのほうがかわいいの?』って抱きついたじゃないか!」
「あ、あれは…!!……もう……澄人くん、変わったのは外見だけみたいね」
「えーひっで。カッコいい青年になったと言ってよ」
「垢抜けない少年の間違いじゃない?」
「……っぷ、あははは!」
「…っふ、ふふふふ」
まるで何気ない日常を謳歌する学生のような会話。この数年昔の仲間と会うことのなかった澄人にとって嬉しくて、楽しくて、懐かしく感じる時間だった。昔は川の上に建つ玉狛の拠点でこんな馬鹿みたいな日常が続いていた。大人のはずの忍田さんもうっかり車を壊すほどに
こんな日々が続くと、誰もが思っていた
「……ボーダーには、もう……」
「オレも抜けたよ。4年前に」
「4年? あたしより1年もあとに?」
最近のことは話し合ったが、九条は自分がボーダーを抜けてからのことをテレビでしか知らない。だから澄人が1年後になって抜けたのをはじめて知った
九条が知らないことを話し、聞いていくうちに表情は暗くなっていった
「そう……すごく、大変だったのね……ごめんなさい。いきなり抜けて」
「真都ちゃんが悪いってことはないよ。ただ、オレが甘かったんだ。現実はヒーローみたいに優しくはないってことを」
「……ねえ、澄人くん」
九条もまた逃げるようにボーダーを抜けた。誰も止めなかったから知ることが無かった。何があったのかを誰も伝えなかった。九条に非は無い。誰も責められる理由はどこにもない
少しの沈黙のあと問い掛けるように優しい声で口を開いた
「…なに?」
「いま、どんな味がしてる?」
「っ……どんなって何のこと?」
「後悔してる? ボーダーに入ったこと」
確かめるような問いかけ。澄人のサイドエフェクトは当時のメンバーは全員が知っていたことだ。嘘をつく事ができない正直者な副作用
答えは、甘かった
「甘いんだね」
顔に歪みがないことはハズレの苦味ではないということだった。つまり澄人はボーダーに入ったことは後悔はしていないということになる。九条は続けて質問していった
「みんなと仲良くならなければよかった?」
苦い
澄人にとってかけがえのない仲間であり、友人であるから
「救援に行かなければよかった?」
苦い
「戦闘員じゃなければよかった?」
苦い
後方で支援をするのは落ち着かず、仲間が傷つくのを見ているだけなのは不安がいっぱいだったから
「…戦うのが、怖い?」
甘い
命を失うのが、奪われるのが当たり前のように行われるのが怖い。大切な人を失ってしまうのがイヤだから
「そっか……じゃあ最後にするね。ボーダーを抜けてよかった?」
「………っっ」
苦い
「……アタシね、澄人くんのこと好きだったんだよ?」
「…ふへぇぇ!? な、ちょ…ええええ!!?」
「最初はヒーローに憧れる可愛い弟って感じだったんだけど、少しずつ強くなっていくし、よく笑うし、家族を大切にしてて……いつのまにか好きになっちゃってんたんだよね」
突然の告白。数秒遅れて言葉を理解するとまともな言葉を発することができず変な声が出てしまった
「でも澄人くん楓ちゃんのこと好きだったでしょ? 知ってた? 楓ちゃんも澄人くんのこと好きだったんだよ?」
「っっ!?…うそ……だって…そんな素振り……」
澄人は行方のことが好きで、密かに想いを寄せていた。それは相手のほうも同じだったのだ。両想いだと知り、余計に告白すらしなかったことに後悔した
「高校生になってまだフリーなら告白するって言ってたんだけどね…でもその前に…」
「っぅ……っ…か、楓ちゃん……っ」
「澄人くんが好きになったって自覚したのは夢の話を聞いたからなんだ」
「ゆめ…?」
恋を自覚したのは当時語っていた澄人の夢だと九条は言った
「
九条もそれを聞いてイイ夢だとも思えたし、ボーダーの理想の一つとも言えた。同時に自身も澄人の隣で夢を叶えてあげたいと思っていたのだ
「……それじゃ私はもう行くね……澄人くんが元気でよかったよ」
「ん…オレも真都ちゃんが元気でやれているようでよかったよ」
他に話すこともなくなってきて九条は帰ることにした。いや、あるにはあっただろう。だけどそれはお互いに触れては欲しくない部分だから。心の傷は簡単には治らない、目には見えない傷だから安易に触れていいことではない
「夢…か……」
九条が帰り残った澄人はポツリとつぶやいた
いつか夢見た。大人になった澄人が
『グハハハ!! どうだ! ドラゴンレンジャー? 貴様たちの希望は費えたぞ?』
『っくそ……ブルー! イエロー! グリーン! ピンク!!…オレたちは、まだ負けるわけにはいかないんだ!』
色々知らなかったことを聞いて、思い描いていた夢を思い出していたとき、流していたヒーローの動画が聞こえてきた
竜をイメージした5色のヒーローたちが倒れていて、ボスキャラの大将が見下ろしていた。レッド以外は動く様子もなく、そのレッドもボスに踏まれていた
『無駄だ。貴様らは我々大ガダルガー帝国に敗北するのが定めッガ!?…なんだ!?』
『はぁ、はぁ……そうは、させるかよ』
『ブルー!』
圧倒的力で組み伏せた大将は勝利を確信していた。地球もはるか宇宙の先にある帝国の支配下に置かれようとしていた。だけど、レッドの呼びかけによって目覚めたブルーが武器を持って撃った
『そうだな。どんなに苦しくても…負けるわけにはいかない』
『地球に住む人たちの夢を奪わせないために、諦めないためにも!』
『私たちが負けるわけにはいかないの!』
イエローたちも立ち上がっていき諦めずに、守るために戦おうと再び武器を手にした
『愚かな。貴様らが抗わなければシルバーは死なずに済んだ。ここで大人しくやられて我々に従えば犠牲は少なかったのに』
『たとえそうだったとしても! シルバーはこの地球のために戦った! オレたちが負けることは今日まで繋いでくれたシルバーに顔向けができねぇんだよ!』
最後にレッドも立って5人が揃う。澄人はきれいごとだなって思う反面、空想の物語である世界が羨ましくて好きだなと感じた
『たとえ何度挫かれようと、諦めない心と支えてくれる仲間がいる限りオレは諦めない!!』
「諦めない……か。諦めたく………ないな」
満身創痍のレッドが力強い言葉で大将を倒すために真の力を解放した。そこからはギリギリの戦いで、仲間たちと連携し攻撃し、攻撃されながらも最後の必殺技を放って撃破した。こうしてヒーローたちは地球を守り、人々の夢と希望と平和を守った
エンディングロールが流れ始め、今期のヒーローは終わった。澄人は棚に飾ってあるフィギュアを見てしまいこんでいたはずの感情が燻ってきた
大人になってもヒーローが好きな人はどう思います?
オレは良いと思いますよ?派手なアクション劇は男心を燻らせてくれますよw
ちなみに今嵌っているのは「救星戦隊ワクセイバー」です。知ってる人いたらいいな