ヒーロートリガー   作:悠士

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5話 終わりと、罪の味

「っく、あと少しで…?」

 

 あと少しって所で直接トドメをさせたのに、それができなかったことに三輪は悔しさを感じていた。けれど握っていた弧月が何かに刺さったような違和感を感じていた

 アスファルトにでも刺さったのだろうと思い、抜こうと手に力を入れて動かした瞬間、苦痛に叫ぶ声が響いた

 

「っっ……っぁあぁ!……っがっぁあ…ッッあ」

 

「清瀬さん!?」

 

 トリオン体が破壊されたことで広まった煙が晴れていくと違和感の正体が判明した

 弧月の切っ先がアスファルトではなく、澄人の右肩に刺さっていたのだ

 驚いた三輪は慌てて引き抜いた。痛みで肩を抑えても真っ赤な液体が服にジワジワと広がっていく

 

「っ…な、なんで緊急脱出(ベイルアウト)しないんだ…?」

 

「っっ……!!…そんなの…オレのトリガーは、昔のままだから…だよ…っ!」

 

 トリオン体が破壊、またはトリオン切れで解除されると緊急脱出(ベイルアウト)する、というのが所属する隊員たちの常識。むしろそれしか知らないから、脱出機能がない澄人のトリガーは解除か破壊されればその場で生身の身体に戻る

 

「三輪くんっ……分かるかい? 奪われたから……相手にも同じことをする、ってのは……っ、オレみたいに痛みに苦しませる…ってことなんだよ?」

 

「っ!……だけど…だからって黙って耐えろって言うのかよ!?」

 

 肩の周りの神経が寒さで冷えて少しずつ感覚が鈍くなっていく。喋るだけの余裕ができた澄人は復讐をやめるさせるための説得を考えた。三輪の決意が固く失敗になったとしてもそれは仕方ないことだとも思った。大切な人を奪われ、失う痛みや苦しみは知っているから。行き場のない怒りを溜め込んでおくのも苦しいってことも

 

「そう、は……言わない……けどね、どんな理由でも……結局は人殺しに、なるんだっ」

 

 復讐を止めさせたい。けど、やりたいのなら止めない。矛盾をするような思考の答えはどこにもない。自分が答えの行き先を決めなければ止まることがない。だから澄人は三輪の復讐を無理にはとめようとしない

 

 警戒区域に残された僅かな街灯が傷を抑えている手を照らした。鮮血が反射して光りだす。それを見た三輪は揺らいでしまった。いつか近界民(ネイバー)に復讐をするという覚悟が、怒りの矛先が。今まで他人に傷を負わせてきたことがないからというのもある。真っ当に生きていれば誰かを傷つけることなんてない。だが三輪はボーダー隊員だ。ランク戦でも今回の戦いでも、手にしている弧月で幾度となく人を斬ってきた。けれどそれはトリオン体だから。斬っても流れるのはトリオンだけ、倒しても死にはしないという安全があるから

 

「話の続きはあとにしよう。今はこの人の手当が先だよ」

 

 時枝の言葉にまずはそれをするべきだったと気付いた4人。嵐山が背負って本部へ急行した。途中、違う方面から緊急脱出(ベイルアウト)の光が2つほど飛翔した。太刀川と奈良坂が倒されたのだ

 

 ――――――――――――――――

 

 ボーダー本部基地 会議室では入っただけで分かるほど室内の空気がピリついていた。もしかしたらどこからか見えない針でも飛んできそうなほどに

 原因は今回の争奪戦に関して。忍田派の嵐山隊が玉狛の味方をしたことだった

 

 ボーダーには大きく分けて3つの派閥が存在していた

 1つは「城戸派」

 近界民(ネイバー)は絶対敵として考えている

 

 1つは「忍田派」

 近界民(ネイバー)が敵かどうかよりも街や民間人の安全が最優先である

 

 最後は「玉狛派」

 近界民(ネイバー)とも親しくする友好的な派閥。城戸派とは真反対な考えのため事あるごとに牽制や圧力をかけられている

 しかもブラックトリガー風刃を所有しているため、今回の遊真のブラックトリガーも合わせて無視できないほどバランスが崩れた。そこへ忍田派が加わった。本部隊員1/3を占めるため戦力的にも城戸派が劣勢になった

 

「ならば仕方ない。次の刺客には天羽(あもう)を使おう」

 

「っ!?」

 

「なっ!?」

 

 これ以上遊真を狙い続けるのならと、忍田本部長は自身が相手をすると言った。それに対して城戸指令はブラックトリガーを所有するS級隊員・天羽月彦(あもうつきひこ)を刺客として使用することを告げた

 

 だがコレにはさすがに城戸派である幹部たちも戸惑いがあった。天羽のブラックトリガーは圧倒的な強さを誇るが、その戦う様は表に出せないほど問題が多く、広報の根付がボーダーのイメージが下がってしまうと苦言を呈した

 

「A級トップを相手に1人で倒す迅に、忍田本部長が加わるとなれば手段を選んでいる場合ではないだろう?」

 

 ボーダーのイメージはある程度悪いのは理解している。それでも成り立っているのは日々の防衛による街の安全と、近界民(ネイバー)は敵として掲げていることだった

 4年半前の侵攻で無事だった人も傷を負った。トラウマを抱えてしまった人だっている。近界民(ネイバー)と戦う組織として成り立っている以上、多少街へ被害が出ようとも排除できるのなら構わないという考えだ

 後の会見などで施設の一つを隠れ蓑にしたとか、そこにいる職員たちを洗脳して操っているなどと言えば風評被害は幾らか回避できる

 強引だとしても、もし天羽が出ることになればそう対応するしかないのだ

 

「で、ですが…問題はもう一つ、あの清瀬くんの介入も」

 

「問題あるまい。怪我をして今はこの本部基地にいる。記憶処理してしまえば次はないだろう」

 

 根付はもう一つ、危惧していることがあった。それは澄人だ

 未確認のトリガーを使用して戦闘に介入した。A級数名を相手に孤軍奮闘して任務遂行不可能までに追い込んだ

 けれど鬼怒田が問題ないと言った。三輪の弧月により負傷した彼は現在本部の医務室で治療している。そのまま記憶処理をして今日のことは無かった事にすれば、次も介入することはないと考えていた

 現に一般人のトリガー所持、使用による戦闘行為、ボーダー隊員への攻撃、警戒区域への不法侵入など言い訳もできないほどに罪があった

 

「失礼しまーす」

 

 会議室が更にピリついた空気になり、内部分裂が起こってもおかしくなさそうになったところで扉が開き、陽気な口調で人が入ってきた

 

「どーもみなさんお揃いで。会議中にすみませんね」

 

 その人物は迅悠一。今回争うことになった原因の1人だ

 

 迅がこの場に来たのは交渉をするためだ。わざわざこのタイミングで? と根付たちは理解ができず、もしかすると全面戦争するための宣戦布告にでもしに来たのかと考えた。けれどそれはちがう。唐沢は瞬時に理解した。A級トップチームを撃退し、忍田派と手を組んで戦力的にも勝った。だから今が交渉をする絶好の機会だと

 

「こちらの要求は二つ。うちの後輩、空閑遊真のボーダー入隊。2つ目は清瀬さんの復帰を認めていただきたい」

 

「なに…? どういうことだ?」

 

 入隊と復帰。どうしてそんなことを求めるのか鬼怒田は分からなかった。仮に2人をボーダーを入れたところで得をするとも思えなかったからだ

 それに答えるように迅は言った。ボーダーの規則で仮入隊の間はボーダー隊員ではないと。これの補足をするように唐沢が、ランク戦以外での隊員同士の争いを禁ずるという項目を盾に守ろうとしたいのだろうと言った

 

「私がそんな要求を飲むと思うか?」

 

「もちろんタダでとは言わないよ。代わりにこっちは風刃と、清瀬さんが隠し持っていたブラックトリガーを出す」

 

「「「「っっ!?」」」」

 

 迅は近界民(ネイバー)を敵として見ている城戸指令の首を頷かせる為に用意をしていた。それが風刃と、ネックレスの形をしたブラックトリガーだった

 これには全員が驚きを隠せていなかった。というよりは驚かざる得なかった。風刃を差し出したことも当然だが、澄人がブラックトリガーを持っていたということが一番大きい

 

「な、なぜ彼がブラックトリガーを!?」

 

「もしかしてさっきのあのトリガーか!? だがそれじゃボーダーのトリガーを使えたことがおかしい!?」

 

「………迅。どういうことだ?」

 

 動揺する幹部をよそに城戸指令は問い掛けた。なぜ、澄人が持っているのか?と

 

「5年前だよ。あの日、清瀬さんはブラックトリガーを入手したんだ。製作者は行方楓。けど清瀬さんは使うことができなかった。だから自分のトリガーで戦ったんだよ」

 

 迅は見ていた。サイドエフェクトで行方が作ったブラックトリガーを手にして泣くのを。そして、その先の未来で澄人を助けるために存在しているのを

 

 本部の医務室で治療を受けていたところを迅が訪れ、常に肌身離さず持っていたブラックトリガーを譲ってもらうように頭を下げた。5年の歳月もあれば未来視のサイドエフェクトがどういうものなのかが理解していた。正解かどうかは分からなくても、澄人はこうして戻る決意をしたこと、戦うことになること、行方が作ったブラックトリガーが必要になることが用意された未来なんだと

 だから澄人は言った

 

「…迅くん、()()()()のため…だったらいいよ……きっと楓ちゃんもそのためなら許してくれると思うから」

 

 想い人が遺した物を手放すのは寂しい。けれどボーダーが変わってしまったことのほうがもっと悲しい。あの頃には戻れないと分かっていても澄人は昔のボーダーが好きだった

 だからと言って澄人はボーダーを変えようとは思っていない。それはするべきでない、する資格がないのだ

 

 多くの仲間を失い、こちらの世界にも多くの人たちが死んでしまった。こうなってしまってはボーダーが存在するためには、存在理由を大衆に認めて支持してもらえるようにするしかないのだ。「近界民(ネイバー)を排除すべき敵」として

 

「分かってるよ。清瀬さんがどれだけみんなのことが好きだったのか、オレはわかっているから。んじゃ! あとはこの実力派エリートが解決してくるよ」

 

 切磋琢磨しあい、同じ釜の飯を食べ、怒られたり喧嘩したり、世界を守るための組織だというのに家族や親戚の集まりみたいな光景は、まさにテレビのヒーローが基地で仲間たちと過ごす時間のように思えた。だから澄人は、ボーダーが好きだった。オレも、ヒーローの一員なんだって思えたから

 

 澄人の想いと一緒に受け取ったブラックトリガー。それを躊躇いもなく出す迅

 幹部たちはこの交渉は利益が大きいと考えた

 遊真が持っているブラックトリガーと秘匿所持していたブラックトリガー。この2つは適合者がいるかどうかも分からないためどの程度の価値があるか不明だった。けれど風刃は違う

 

 かつて適合者多数いたため、その人たちで争奪戦を行ったことがあった。結果は迅の勝利。その日から今日まで所持し使用していた。だがそれを今度は手放す。再び本部の管理下に戻るということは戦力が増し、もし遊真が問題行動など起こせば風刃を持たせて対処することができる

 

 しかも攻撃手(アタッカー)1位の太刀川を退けたということは、単純にそれだけ高性能だという「箔」も付与し風刃の価値を高めた。ノーマルトリガー最強の忍田本部長を除いた最強の隊員を倒せる、と

 

 本部にとって価値の大きい交渉。調査しなければ不明だが澄人が持っていたブラックトリガーも合わせて2つも得る。玉狛は1つ手放し戦力が減少。おいしい交渉に幹部たちは城戸指令に受けるべきだと言った

 そして、考えを纏めた城戸指令は答えた

 

「……いいだろう。空閑遊真の入隊を許可する。ただし、清瀬澄人に関しては――」

 

 ――――――――――――――――

 

「はい、骨が少し切れているからできるだけ動かさないように」

 

「ありがとうございます」

 

 傷の手当が終わり、痛み止めの薬を受け取ると帰ろうと医務室を出ると、壁にもたれるように三輪が待っていた

 

「あれ? 帰らなかったの?」

 

「…どうしてアンタは……近界民(ネイバー)を信じられるんだ? 奴らは、オレたちから大切な物を奪っていくんだぞ?」

 

 怪我をさせたことを謝りに待っていたのかと考えたがそうではなかった。最愛の姉を殺された三輪にとって近界民(ネイバー)は恐ろしい敵でしかない。だから迅や澄人のように近界民(ネイバー)を信じ、守ることが理解できなかった

 

「そうだな、近界民(ネイバー)は恐ろしい敵でもある」

 

「だったらなんで!?」

 

「そんなの人だからだよ?」

 

「それが、なんの関係が…?」

 

 澄人にとっても近界民(ネイバー)は敵である事は理解している。けれど同時に敵でもない。矛盾した考えだけれど、しっかりと言葉を交わし意思疎通ができる相手だと知っている。事実、玉狛には協力してくれてる近界民(ネイバー)がいて、一緒の時間を過ごしたことだってあった

 雅臥祢(まさがね)だって我侭を言って作ってもらった。時折意地悪だってされる。けれどそこに悪意はない。学校のじゃれあいのようなものだ

 

「だから近界民(ネイバー)は敵でもあれば味方。友達や仲間にだってなれる」

 

「そんなの……いつか裏切られるにきまってる…」

 

「まあ…確かにそなるかもしれないね」

 

 三輪が復讐をしたいのは知っている。けれど誰を失ったのかは澄人は知らない。分かるのは余程仲がよかったということだけだ。仲間を失った澄人にもその気持ちは痛いほどに分かる

 

「けど、復讐をするってことはな………人を殺すってことなんだよ? その意味はわかってるの?」

 

「そんなの…当たり前だ。やられて当然のことをあいつ等はしてきたんだ!」

 

 やられたらやり返す。まるで子供の喧嘩論だなと思った

 

「三輪くん…オレもさ、復讐はしたことがあるんだよ」

 

「……え?」

 

「さっきの、迅くんに渡したブラックトリガーを作った子が好きでね。殺されたと思ったとき、どうしようもない怒りと殺意でいっぱいになって……気付いたら四肢を切り飛ばしてて、痛いって、助けって泣いてる姿見て、オレは知ってしまったんだ。1人の命を奪ってしまったことに」

 

「っ……だから、なにが言いたいんですか?」

 

 澄人にとって好きな人が殺されたのだから、その近界民(ネイバー)は殺されて当然だとも思った。だが、その時を語る澄人の顔は悲しく罪悪感を感じた表情をしていた

 復讐ができてよかったじゃないか、と口にすることをしなかった。してはいけないと三輪は感じていた

 

「どんな理由があってもな……結局は人殺しでしかないんだよ。近界民(ネイバー)かどうかなんて関係ないよ」

 

「それでも…あんたは、まだ近界民(ネイバー)を、信じられるのかよ……」

 

「ああ。近界民(ネイバー)はオレたちと何一つ変わらない人間だ。だから話したり、理解だってできる。許すことも許されることも」

 

 この世界において澄人は罪人ではない。けれど命を奪ったことは事実。そこに理由があろうとも「人を殺す」という行為が正当化されることもないし、澄人自身もしてはならない一線を越えてしまったことを自覚している

 

 罪の意識を忘れずいるためにも、行方のブラックトリガーを持っていた理由のひとつだった。5年の月日が経てば精神的にも落ち着いて整理だってできた。だからあの日のことを思い出しても震えることも怯えることもなくなったし、こうして戦いに復帰できる程度に覚悟もできてきた

 

「城戸さんも、忍田さんも、迅くんも、林藤さんもみんな…大切な仲間を失って近界民(ネイバー)が恐ろしい相手だってことは知っている」

 

「っ!?」

 

「道は違えたけど…それでも玉狛に残ったメンバーは近界民(ネイバー)のことが好きなんだよ」

 

 三輪は玉狛にいる人たちは近界民(ネイバー)の恐ろしさを知らない。大切な人を失って傷ついたことがないんだと思い込んでいた。けれど違うと知った

 玉狛支部の全員ではないにしても大切な人たちを失う悲しさを経験している。それでもなんで、まだ近界民(ネイバー)のことを信じられるのか? 三輪は理解に苦しんだ

 

 澄人は話が終わると帰ろうと止めていた足を動かすが、三輪の横を通ろうとして止まった

 

「あ、そうだ。はい」

 

「…これは?」

 

「ラムネ。あげる」

 

 ポケットから緑色のプラスチックの容器を取り出して三輪に渡した

 

「…いりませんよ、そんな気分じゃ」

 

「いいからいいから、まだいっぱい持ってるから」

 

 なんでラムネ? と三輪は困惑してから返そうとする。でも澄人はポケットからさらに6本も未開封のラムネを取り出した

 

「あ、コーラ味がよかった? それともブドウ? ソーダもあるよ?」

 

 三輪に渡したのは至って普通のラムネだけど、もしかして他の味がよかったのかと次々と渡した。徐々に顔が険しくなっていくのを気付きながらも、敢えて無視した

 

「じゃあ! 手持ちはそれだけだけど店に来れば沢山あるから! ついでに売り上げにも貢献してくれ!」

 

 結局全部あげて澄人は帰っていった

 

「~~ッッ!!」

 

 一人残された三輪は無理矢理持たされたラムネを見つめて苛立っていった

 

 




ワートリ杯が終わったからか…創作意欲がゴッソリ消え去った……
他のにも中々手が付けられない……

そういえばキャラ設定を考えるとき、よくイメージCVを考えるんだけど。澄人くんって誰が合うんだろ…?

追記
次で最終話の予定です(上手く収まれば……
あとは、おまけでも1つ書けたらいいなと思っています
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