数日経って21日の今日。澄人はいつものように開店準備のためにシャッターを上げたら珍客が来ていた
「っしょ…っぅわ!? 城戸さん? いつから」
「いま来たところだ」
開けたら目の前に誰かが立っていれば驚くのは当然だ。たとえ知り合いだったとしてもだ
「入ってもいいかね?」
「…来るなら開店してからにして欲しかったですけどね」
ずっと外に立たせるわけにもいかないため、仕方なく店内に入ることを許した
澄人は並べる必要がある商品を見て、奥から大きな籠に入れて戻ってきた。しばらく無言で作業をしていくが、先に澄人から話を切り出した
「わざわざ城戸さんが来るなんて、もしかしてこの前のことそんなに怒った? だったら記憶処理は閉店後でいい?」
「君が参加したことには驚いたが、記憶処理に関しては今は考えてはいない」
「ん? どういうこと?」
ボーダーの指令が直々に来るなんて相当怒りを買ってしまったんだなと澄人は考えた。それもそうだろう、引退した一般人がトリガーを持って戦場に戻れば驚きもするが、任務の邪魔をされたと説教や文句の一つでも言いに来るのは当然だ。加えて一般人が警戒区域に入るだけも記憶処理の対象になるのだから、そのお迎えにでも着たと思っていた。だが返ってくる言葉は予想に反して違っていた
「これは? ボーダー…入隊申請、書?」
「君の事に関しては色々問題はあるが、ブラックトリガーの献上とボーダーの戦力増強のほうが利益が大きいと判断して復帰を許可する。だが、違反行為の数々からそのまま復帰させるわけにはいかないため、C級隊員からやり直してもらう」
「あー……なるほど。そういうことか」
ブラックトリガー争奪戦の日の会議室。迅の交渉により遊真の入隊が認められ、澄人の復帰も無事に許された、というわけにはいかなかった
ブラックトリガーでもないのにA級数名を退けた澄人の力は想像以上で、いずれ来るであろう大規模侵攻を考慮して戦力の確保をするためにボーダーに入れておきたい。けれど嵐山隊も巻き込んで暴れまわったり、トリガーの所持など違反の数々から城戸指令はC級隊員からの再スタートならばと許可した
「君のトリガーは正隊員になってから持つことを許可する。それと―」
「ん? ほかにもなにか?」
「
「あー…そうだね。うん……めっちゃ痛かった………みんなも、あんなに痛かったのかな…」
本部未承認のトリガーをC級が持つわけにいかないため、再び
確かにそのほうがいいと澄人も納得した
初めて感じた痛みに澄人は、死んで逝った仲間たちのほうがもっと辛かったんだろなと声を低くして言った
「………」
城戸指令は何も返さなかった。その通りかもしれないし、そうだったとしても死ぬほどの痛みを経験はしたことがないため言えなかった。代わりに顔にできた目立つ傷を触った。一瞬なにが起こったのかわからなくなるほどの激痛。今は痛みが無くとも、城戸指令は忘れずに覚えている。
「……今書くから少し待って」
レジに座って申請書に必要な項目を書いていく。氏名、年齢、性別、住所など埋めていくと最後にサインが必要になり部屋で印鑑を取りに行く
ケースに付いている朱肉でインクを移して判を押す
「よし、書いた……城戸さん?」
書類ができたから城戸指令に渡そうとしたら、半分も埋まるほど商品を詰めた籠が置かれた
以前来たときはただ邪魔をしてしまったから、今度は客として来た。申請書はついでということにして
「…まあ買ってくれるのは嬉しいんですけど…客として来るならせめて、開店してからにしてください」
「無論、次からはそうするつもりだ」
本部へ向かう前に澄人の入隊申請を割り込ませるために開店前に来たのだ理由だ
店側としての文句は言いつつも、大量に買っていってくれるのでしっかりとレジのテンキーを打って値段を入力していく
会計を済ませると澄人はまだ未開封の駄菓子のチョコ饅頭も入れようとした
「それは買っていないが?」
「ん? サービス。それに、城戸さんコレ好きでしょ? 玉狛に持っていったらいつもコレ食べてたじゃん」
まだみんなと楽しく過ごせいていたとき、差し入れで店の商品を持って行く事をたまにしていた。その時、城戸さんは毎回マシュマロに包まれたチョコのお菓子をよく食べていた
ソレを思い出した澄人は箱ごと上げようとしたのだ。もちろん商品としてあげるが、支払いは澄人だ
「……そんな昔のこと、よく覚えているな。だが箱は要らない」
まさか気付かれていたことに、覚えていたことに城戸指令は驚いたが。さすがに好きだったことまでバレているとは思わなかった
結局、箱ごとは多すぎるからと10個だけにした
――――――――――――――――
「それじゃ、家のこと頼むな」
「いいけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。久しぶりに仲間に会いにいくだけだから」
店も閉めて夕ご飯も食べた澄人は大量の荷物を持って、家のことを妹の舞に任せて出かけた
「にしても玉狛に行きたいから迎えに来てって連絡来たときはどうしたのかと思ったぞ?」
「しょうがないじゃん。片腕じゃ運転できないし」
表で澄人を待っていたのは林藤支部長だった。肩の怪我は大分よくなっているけれど、運転するには首から提げてる包帯が取れてからだ。そのため荷物を持って玉狛支部に行くには誰かに迎えに来てもらう必要があった
「今の玉狛はどう? 人って増えたの?」
「ああ、結構増えたぞ。っつても、前ほどじゃないけど」
揺れる車の中で今の玉狛のことを澄人は知りたかった。覚えている限りじゃ残っているのは5人。林藤支部長、ゆり、小南、木崎、迅たちだ。そこから7人も増えたという。澄人も加われば合計で13人になる
城戸指令、忍田本部長、桐山は本部へ移籍した。少し寂しいなと思うものの、それぞれの業務を考えれば支部より本部にいるほうが都合がいいため仕方ない
しばらく車が走ると目的地の玉狛支部に到着した
玄関を開けて中に入り、ダイニングルームに行くとにぎやかな声が聞こえてくる。澄人は少しだけ昔みたいだなと懐かしさを感じた
ドアノブを掴んで扉を開けると、賑やかだった空間が静まって全員が澄人を見た
最初に声を出したのは小南だ
「な、なんでアンタがいるのよ!?」
「いちゃ悪いか? 古巣に戻ってきたというのに」
指を指して信じられない様子で澄人がいることに驚いた。もう戦いたくないと、そう言って玉狛を去って行った男が居れば驚くのも当然だろう。木崎もいつもより目を見開いてしばらく声を出すことを忘れていた
「烏丸先輩、あの人は?」
「いや、オレも知らない」
三雲修は師匠である烏丸京介に問い掛けるが望むような答えは来なかった
「あー、確かに増えてるな…なら自己紹介しとくか。はじめまして、オレは清瀬澄人。桐絵ちゃんやレイジと同じボーダーの古いメンバーだ。今は駄菓子屋の店長だけど、今度からボーダーに戻ることになったからよろしくな」
2人の会話を聞いて自己紹介をする必要もあるなと思い、簡単に名乗った
澄人が戻ることに三雲は一度辞めたんだと気付くと、当然「何故辞めたのか?」が気になった。けれど聡い三雲は恐らく容易に踏み込んでは失礼だろうと口にはしなかった
他に復帰することに驚いたのは小南だった
「っは!? 弱虫のアンタが戻る!? なんで今更!」
「弱虫って……色々あってな。それに……考えや心の整理もできたから」
「だからって…部屋で閉じこもってたアンタが戦えるわけないでしょ!」
5年前のアリステラの救援に行って経験した戦いで、澄人は傷を負い戦いから逃げるようになにもしなくなった。それを小南は弱虫だと、そんなんで逃げるならボーダーにならなければよかったのに、と思っていた。だから澄人が戻ると言うことに反対でもあったし納得ができなかった
整理ができたからって、何故今更なんだと
「それより」
「それよりじゃないわよ! ちょっと!」
小南が怒るのも分からなくもない。あんな思いをしたくないなら戻らなくてもいいと、暗に言っているのを澄人は気付いていた。騒がしい子なのは変わらないが、仲間思いの子のままでいてくれたのは嬉しいことだった
小南の文句よりも澄人は知りたかった。現在の玉狛にいる人たちを
「こいつは烏丸京介。オレのチームにいる」
「はじめまして。烏丸です」
黒髪がふわふわしている烏丸をレイジが紹介した。その次はオペレーターだった
「どーもー! 敏腕オペレーターの宇佐美栞です!」
メガネを掛けた黒髪の女性が宇佐美栞。木崎隊のオペレーターを勤めていて、かつてはステルス部隊の風間隊のオペレーターをしていたという。その腕前は高いようでトリガーの変更から、性能を変更したトリオン兵のプログラミング、隊服のデザインなど幅広い
そんなオペレーターをよく引き抜けたなと澄人は驚いていた
「僕は三雲修です」
「雨取千佳です」
「空閑遊真。よろしく」
「空閑…? もしかして有吾さんの子?」
次は三雲たちが順番に自己紹介をしていった。3人目の髪が白い遊真の苗字が「空閑」だと知ると、もしかしてと聞くと口が甘くなると同時に「そうだよ。親父を知ってるんだ?」と答えが返ってきた
「一応、ね…オレは有吾さんとはあまり面識はないけど、
多少の剣の手ほどきや、
城戸さんが
「あれ? これだけ…残りは?」
「ああ、ゆりとミカエルは県外にスカウトに行ってるよ」
まだ少し人数が足りないなと聞くと2人はどうやら県外へスカウトに行っていると林藤支部長から教えられ納得した
「あの、その人たちは――」
「ちょっと! アタシの話がまだでしょ!!」
「……じゃあどうしたら納得してくれるんだよ?」
スカウトに行った2人を知らない三雲は聞こうとするが、小南が声をあげて遮った
「ボーダーに戻るってならあたしと戦いなさいよ! 本当に戦えるならだけど」
「わかった。それで納得するならいいよ」
「……え…?」
小南の中ではトリオン兵相手ならギリギリ戦えるが、人が相手だと何もできない奴、としか知らない。だから戦いを挑めば澄人が負けて、ボーダーに戻れない。たとえ戦えても戦い続けてる自分が強いと自信満々だった
けれど、澄人があっさりと承諾したため少し拍子抜けしてしまった。対人は辞めてほしいとばかり言うのだと考えていたから
「どうしたんだ? 桐絵ちゃんと戦って勝てばいいんでしょ?」
ブラックトリガー争奪戦の件を知らない玉狛メンバーは、澄人が人を相手に戦えれるように回復していることを知らない。知っているのは迅と林藤支部長だけだ
「そ、そうだけど…あ、あんた本当に戦えるの!?」
「ああ、大丈夫だ。今日は、
「っっ…いいわよ! こてんぱんにしてやるわよ!」
戸惑いでやせ我慢をしているんじゃないかと考えるも、澄人の口から「当たり」と出るとそれは虚勢でもなんでもなく、本当に戦えることを示していた
澄人のサイドエフェクトは知りたいことに対して当たりかハズレを味覚で判断する。ただ、ハズレのときに嘘と本音が違いすぎるほど苦味は増していく
小南の予想は余程苦くて演技で取り繕うことができない。だから表情が歪むと思っていたのに、澄人の顔は当たりを引いた甘くて嬉しそうだったのだ
本当に戦える。ならば
四方と上下に真四角な白い空間、訓練室として設置されている部屋に澄人と小南は立っていた
「10本勝負でアタシに勝てたら認めてあげなくは無いわよ!」
「あはは、随分甘く見られたなー」
二人はトリオン体に換装しており、それぞれ武器を手にした
『それじゃ、始めるぞ……始めっ!』
木崎の声がスピーカーから聞こえ、バトル開始の合図が告げられるた
最初に動いたのは小南で、手斧の双月をクロスした腕から広げるようにして凪ぐように斬りかかる
澄人は一歩下がりシールドで防御。解除した直後に下から
追いかけようとするが足元に
下半身が吹き飛んだあと、少ししてトリオン体が再生すると立ち上がる
「驚いたな。置き弾なんて繊細な戦い方ができるようになったんだ」
「当然でしょ! アンタと違ってあたしたちはずっと戦って強くなってんのよ」
小南の強気の言葉は意地でも思い込みでもなく、磨き上げた技術で裏づけされた強さなんだと澄人は遅れて理解する
加えてトリガーは澄人が知る頃よりも増えてる。知らないトリガーを入れている可能性もあると、頭の中に置いて2戦目が始まる
「今度はオレから行くよ!」
「…っく!! あぃ…変わらず…重たいわね」
前へ跳んで1回転しながら
だが、元から重量のある
「まぁ…ねっ!!」
澄人は舞空の力の方向を変え、同時に持つ手を変えながら身体を回転させて左から横薙ぎに払う。吹き飛ばされた小南は着地するも、回転して飛来してくる
「澄人さんは…」
「こっち…よっと」
弾いたからと言って舞空で制御している以上油断はできず、意識を向けながら澄人を探す。最初にいた位置からはおらず、周囲を見ていなかった。ならば上かと見上げた瞬間澄人が目の前に着地、近距離では繋げた状態は不利だからと分離をするが遅く、腕を掴まれて小南振り上げられた
「っく!…ちょ、そんなのあり!?」
空中ではなす術がない小南は視界が逆さまのなんとか状況を理解をしようとするが、弾いたはずの
トリガーを投げ出して投げ技で無理矢理空中に放り出す。こんな無茶苦茶な戦い方は初めてな小南は驚きと戸惑いを感じていた
「これで1勝1敗」
「っ……もう勝たせないわよ!」
「そうか? それはそれで桐絵ちゃんが強くなってるってことで嬉しいんだけどね」
「このっ…!」
この男には敗北の2文字がいやじゃないのか? 疑いたくなるほど負けてしまうことに悔しさを感じさせなかった
3戦目が始まると小南からの先制攻撃
突撃しながら
「エスクード」
トリオンを物質化し、シールドより強度が上がった防壁を展開して
回り込んで攻撃しようとしたとき、煙の中から4つの光が見えて飛び出した。トリオンで生成されたブレード「
スコーピオンよりは数倍の硬さがあるが、足を止めて双月で器用に弾いていく。それが澄人の狙いだった
「エスクード!? しまった!」
足を止めたことで澄人はエスクードを展開し閉じ込める。いくら高威力の双月でも狭い空間では繋げて振り回すことはできない。逃げ道は上にあるものの罠であるのは明白
そう考えて
「っっ! もー逃げ場が…っ!?」
爆発の影響を受けないように咄嗟に固定モードにしたシールドで防御するが、小南のトリオン体は
「な、んで…なんで刺さるのよー!」
エスクードと固定シールドを突破して小南を倒した澄人。これで2勝目だが、そもそも防御性能が高い2つを貫くことができるなんて強すぎる。なんで突破できたのか小南は理解できなかった
「なんでって…勢いをつけた
小南の予想通り囲ったエスクードの近くには澄人がいた。小南が
間に合えばと閃剣を放ったら当ってその場で爆発。今ならエスクード内にいる小南は動けないから舞空で勢いをつけた
「澄人さんて…こんな戦い方してたっけ……?」
「うーーん……最近のゲームや特撮ヒーローの影響かな?」
「なっ……ヒーローって……」
力技なようで高い技術をもった戦い方に小南は以前の澄人がこんな戦い方だったかと思い返した。けれどいくら思い出しても
もしかして自分たちが知らないだけで、実はどこかで訓練でもしていたのかと考えたが違った。ゲームや澄人の好きな特撮ヒーローの影響だと言う
つまり、ぶっつけ本番の攻撃に小南は2度も負けてしまったのだ
「なんか……なんか納得できなーい!!」
沢山訓練して実力をつけてきたのに、思い付きの攻撃で負けた小南は悔しさに叫んでしまった
その後、残り7試合をした結果
3勝5負け、2引き分けで澄人が負けてしまった
「負けちゃったか…やっぱ4年のブランクは大きいな。 強くなったね、桐絵ちゃん」
「当然でしょ! でも本当に…
勝ったことに安心する小南だが、序盤の型破りな戦い方には翻弄されていた。しかも4年という時間がありながらも
人と戦うこと関しても躊躇がなくなっていた。昔の澄人からは想像できなかった小南は驚きもあったし、嬉しくもあった。また、一緒に戦えるかもしれないと
試合の結果からすれば澄人は負けで、復帰することはできないのだが。内容からすれば木崎たちは満足していた。
そのことも理解している小南は澄人が戻ることを許した
「え、いいのか? なら遠慮なく
「…少しくらいは遠慮はしたらどうなのよ…」
「いやいや、今さら桐絵ちゃんたちに遠慮することなんてないでしょ? それに、オレは本部より
「…っ! っそ……トリガー、早く新しくしなさいよね。そのままじゃ危ないんだから」
「そうだな……さっ!! 今日は店からいーっぱい駄菓子を持ってきたんだ! 好きに食って楽しもうぜ!」
無事玉狛に戻れることになった澄人は、新しく入った仲間や
「おい、清瀬…大丈夫なのかこんなに…?」
「ん? へーき。全部オレの財布から買い取ったから気にしないでくれ」
一つ一つが安いとは言え、数が集まれば駄菓子でも店の経営に響くんじゃないかとレイジは不安を口にする。それに対して澄人は平気と答えた
「だが、お前さん。コレだけあると結構な額になったんじゃないのか? 大丈夫なのか?」
林藤支部長も心配していた。自身の財布から買ってといっても総額5000円はいくだろう。駄菓子屋ん経営は厳しいだろうから、遊ぶためのお金を使ってもいいのか心配になっていた。いざとなれば玉狛支部の経費として買い取ることも考えていたが、それは杞憂だった
「実はな……」
「な、なんだ…?」
「副業でもしてんのか?」
2人にだけ聞こえるように声を低くして澄人は答えた
「競輪で儲けてんだ」
「……」
「………おまえ、そんな趣味があったのか?」
競輪で儲けてる。澄人は確かにそう言った。レイジはまさか博打していたことに驚いて言葉が出ず、林藤支部長は呆れていた
「儲けてるといっても舞の学費や生活費、店の経営に必要な分だけだけどね」
日々
澄人が継いだ駄菓子屋も例に漏れず、売り上げだけでは生活ができないほど。だけど大好きな店を続けるためにはお金が必要。そこで考えたのが賭け事だった
幸いにも澄人にはサイドエフェクトがあり、どれが勝つのか知ることができた。と言ってもあまり稼ぎすぎるのも注目を浴びたり、八百長などの疑いも掛けられたりするので月に1度、必要な額だけ稼ぐことを決めていた
「まあそういうことだから、店や財布の心配はいらないよ」
「そ、それならいいが…」
「あんまりやり過ぎないようにな…」
問題にならない程度にはルールを決めてやっているのなら大丈夫だろうとレイジも林藤支部長も一応安心した。危ないことをやっているんじゃないかと思ったけれど、その心配は杞憂に終わった
「んぉっっんぐ!!?」
「遊真くん? もしかして」
「ハズレ、引いたのか…」
お菓子を空けて楽しく談笑をしていたグループでは奇声があがった。声の主は遊真で、口を尖らせて渋い表情をしていた
「運がなかったな、ゆーま」
「っぅぅ…オレには運がなかったか」
三雲の手にはプラスチックの容器の中に3つの窪みがあった。近くにあった袋にはガムのお菓子だというのが分かる。それを見て澄人はアレかとすぐに理解した。3つの丸いガムが入っているそれは、1つだけがすごくすっぱいガムだったのだ。遊真は見事にそれを引き当ててしまったのだ
「すっぱいだろ? くじ運はなかったみたいだな」
「っぐ……じゃあ清瀬先輩、オレと勝負する?」
すっぱさは引いていくだろうが、それでもまだ口に残っているようで表情は戻らなかった。遊真は未開封のガムを取って澄人と運試しをしようとするが小南のストップが入った
「やめといたほうがいいよ。澄人さんに運試し系の勝負はぜーーーったいに勝てないから」
「ふむ…なんでだ?」
「サイドエフェクトよ! くじとかそういうのじゃ百発百中のイカサマよ!」
「い、いかさまって…さすがに酷いな…」
小さいときに澄人に何度も敗北している小南は敵意剥き出しで言った。ズルだなと自覚はありつつも、さすがにいかさまと言われたのは初めてで少し心にダメージが入った
「………やっと、一歩…かな」
澄人は呟くように言った
勝負できなくてちょっとだけ残念そうにする遊真。ビールを模した容器に入ってるラムネを食べる三雲。ヨーグルトっぽいお菓子を食べる雨取。「人参」と書かれたぽんぽん菓子をあけるレイジ。一口サイズの硬いプリンを食べる小南。チューブに入ってるゼリーを吸う陽太郎
みんなそれぞれ澄人が持ってきた駄菓子を食べて、笑って、渋い顔して楽しんでいた
叶えたかった夢はまだだけど、一歩目くらいには前に進めたんじゃないかなと思えていた。目の前に広がる光景が、そう思わせるには十分だった
「なーに満足そうな顔してるのよ? 早く食べないと無くなるわよ?」
「それは困るな…オレもそろそろ食べるかな」
みんな駄菓子は最近食べたことないからと次々と食べていた。小南が声を掛けなければきっと澄人はそのまま眺めていたかもしれない
手を伸ばして一つとって食べる。そういえばオレも食べなければ意味がなかったな、と今更になって澄人は気付く
それからは日を跨ぐまでゲームをしたり、身の回りの話をしたりなど楽しくも騒がしい時間を過ごした