玉狛に戻ることになった澄人は年末の大掃除に支部に来ていた
人数も増えたことで半日で終え、木崎が用意した年越しそばも食べ終えた。残り十数分で新年を迎えようと言う所で、屋上で三門市を眺めていた
視線の先にはボーダー本部基地があった
後悔、無力、喪失などマイナス感情が入り混じった複雑な気持ちで眺めていた
「風引くぞ?」
「…林藤さん」
一人でいたところでに林藤支部長がコートを着てきた
「飲むか?」
「……ビールはすこし苦手かな」
隣まで来てビール缶を差し出すも澄人は苦手だった。日本酒や果実酒などは平気なのだが、ビールは少し苦手意識がある
「そっかーそいつは残念だな」
「飲めないわけじゃないんだけどね…」
「……無理はしてないか?」
「うん。大丈夫。模擬戦も何度かしてるけど林藤さんが心配してるようなことは今のところないよ」
人を相手にして戦うことにトラウマを抱えてしまった澄人を林藤支部長は心配していた
ヒーローに憧れ、ヒーローになろうとボーダーに入った澄人は現実を知り、ショックを受けた。仲間である林藤支部長は近くで見ていたからこそ、抜けることに反対はしなかった
だからこそ、こうして戻ってきたとき本当は無理をしているんじゃないなと。支部長としてではなく、かつての仲間だった者として確かめるために声を掛けた
「そっか……なら、これ以上は聞かなくても十分かもな」
澄人はもう20歳の成人した大人だ。自分の言葉には責任を持たなくてはいけない歳なってきてるから、本人が大丈夫だというのならその言葉を信じて背中を押してやらなければな、と林藤支部長は口にしたタバコを離して肺の中の空気を吐いた
「清瀬は吸わないのか?」
「吸いませんよ。舞のためにも肺がんにはなりたくないから」
ポケットからタバコを差し出されるも、澄人は吸わないため断った。妹の高校入学や卒業、学校行事とか成人式とか両親の代わりに見届けてあげなくてはと。その為には長生きをするために健康的な生活を送ることを心がけている
「遠まわしにオレにも言ってる…?」
「そう聞こえたなら禁煙したらどうなんです? 陽太郎くんのためにも肺がんで早死になんてしたくないでしょ?」
「ははは…手厳しい」
まだ5歳の息子の陽太郎君のためにも林藤支部長には長生きをしなくてはいけないと澄人は考えていた。親のいない生活というのは意外と、いや、結構寂しいものだ。澄人は反抗期やその終わり頃に親を亡くしたが、舞はまだその頃は小学生だった。まだまだ頑張っている所を見て欲しい頃だったのだ
だから澄人は陽太郎くんにそんな悲しい思いをさせてたくはないと、させないで欲しい考えを含めて林藤支部長に言った
「それにしてもいつの間に結婚してたんですか? 5年前まで独身だって思ってたんですけど?」
「ん? いや、オレは今でも独身だぞ」
「…え!?……じゃぁ……陽太郎君は…林藤さん……」
のだが、返ってきた言葉は親子関係を否定をしてきた
ならば陽太郎くんは? と考えた次に浮かんだのは、遊んでできてしまった子、だった。仲間として信頼していたのに、遊び人だったのかと軽蔑の眼差しを向ける
「ちょ、誤解してないか? っつーか忘れたのか? 陽太郎はアリステラで助けた子だぞ?」
言葉の意味と軽蔑の視線を向けられて林藤支部長は動揺した。さすがにそんなことはしないぞ、と。すぐに誤解を解かなければと陽太郎の正体を明かした
「…え……そ、だっけ…?」
確かに5年と少し前にアリステラから救援要請があり、戦いの果てに王族の子を救出し国を脱出するという最悪の少し手前の結果になってしまった。その時に助けたところまでは澄人も覚えていた。だが、多くの仲間を、片想いの子を失ったことで茫然自失となり林藤支部長たちの会話をろくに聞いてもいなかったのだ
「おーいたぞ!」
「どうした陽太郎?」
澄人にとっては新事実を知って驚いていたところに、話に出ていた陽太郎がやってきた
「レイジが『もうすぐだぞ』といっていたぞ」
「あーもうそんな時間か」
木崎から年越しのカウントダウンがもうすぐ始まるから呼びに行こうとしていた。そこに陽太郎が行きたいと言ったので簡単な言葉を聞いて伝えてきたというわけだ
「陽太郎。こいつな、お前を助けるためにがんばってくれたボーダーの1人なんだぞ」
「ちょ、林藤さん!? まだ5歳なのに言っても意味が―」
「そうなのか!?
腰を落として頭を撫でながら、林藤支部長は澄人がアリステラに助けに来てくれた昔のボーダーの1人だってことを教えた
5歳に言葉の意味をしっかりと理解できるわけがないと思い込んでいたのだが、陽太郎は確かに理解し、澄人のことを「恩人」と言った。しかも自分の出生やここにいる経緯までもすでに知っていたことに澄人が驚いた
「ありがとう」
「っっ!」
感謝の言葉を口にした。5歳の子供が自分のことを理解し、そのためにどんなことがあったのかも知っている。だからこそ、陽太郎の口から放たれた感謝は澄人の心を響いた
「
「っ……そっか、それは……よかったよ……っ…っぅ」
沢山の犠牲を払い、深い傷を負ってまで得た結果の
あるとするならばそれは、涙を流すことができる純粋な言葉だけだろう
5歳の陽太郎は深い考えなんてまだできない。だからこそ、放たれる言葉は本心で純粋だ
堪えたい涙は止まらず、雷神丸に乗っている陽太郎を抱えて見えないようにした。だがそれは逆効果だった。まだ小さい手が澄人の頭を撫でたのだ
「ど、どこかいたいのか!? おれがわるいのか!? ぅ、ご…ごめん」
いけないことを言って泣かしてしまったと勘違いした陽太郎は謝った
「よう……たろうぐ、んは…わるく、なぃよ……」
何年被りに澄人は泣いた
仲間も失い、親も失って散々泣いて枯れたと思っていたはずの涙は、もうしばらくは止まらなかった
――――――――――――――――
「あ、レイジさん。澄人さんたちは?」
「清瀬たちは…もうしばらく外にいる」
「えー? なにそれ、風邪引いても知らないわよ」
影から会話を聞いていた木崎はそっとしておこうと静かに中へ戻っていった
小南はカウントダウンが始まるのに、と呼びに行こうとするが引き止める。いまもまだ泣いているであろう澄人の邪魔をするわけにはいかないと
――――――――――――――――
「……はー…」
「スッキリしたか?」
「ああ……少し楽になったよ」
大人気なく、とまではいかないが泣いて満足した澄人は少しばかり、表情が晴れていた
「よし! ならばレイジたちのところにもどるぞ!」
「そうだね……でも、そのまえに」
心も不思議と軽くなると少しばかり、羽目を外して騒ぎたい気分になった澄人は、林藤支部長が持ってきた缶ビールを開けて飲んだ
「苦手なんじゃないのか…?」
「っぷは……飲めないわけじゃないですよ…ぅ…やっぱ匂いは慣れなさそう……」
ビール特有の苦味とのどをぴりぴりと突く刺激は炭酸ジュースにはない。ビールだからこその味なのだが、やはり匂いが苦手な澄人は一瞬で気分を落とされてしまった
「ぶははは。ビールの良さがまだ分からないようじゃ、まだまだ子供だな」
「っ…悪かったな。ビールも分からないお子様で! どーせオレはヒーローが夢見がちな子供だよ!」
平気な林藤支部長は少しからかい、それに乗った澄人は不貞腐れたように自分は子供だと自虐した。残りのビールも煽りつつ屋内へ戻り新年を迎えた
予告していた通りおまけの話です
正真正銘これで終わりです
ワートリ杯が終わるまでに書けたらよかったのですが無理でしたねww
ここまで読んでくださってありがとうございます
感想、評価をしていただきありがとうございます
続きを書く予定は現在ございませんので、楽しみにしている方には申し訳ありません
ワートリ杯に参加できてよかったです
お疲れ様でした!!
☆*.。・:+(゚∀゚*感謝・感激・雨嵐;;;゚д゚)i||i||||i||i