傭兵達の幸福追求   作:黒ピ

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#1 傭兵たちの一日

かつて繁栄を謳歌した『人間』という種族が滅亡した後、彼らによく似た知的生命体達が産声を上げた。

 

その生命体の名は『ヒューマ』。

 

『人間』を元に創り出されたその存在は、宇宙の様々な星へと降り立って子孫を増やし、

それから数万年が経った現在、彼らは宇宙の生物達の霊長の一種にまで成り上がっていた。

 

まぁ、かく言う俺――『リツ・ツキミツ』も、そんなヒューマの一人だったりするのだが…

 

 

 

「おっはよー!おーはーよー、リツ!」

「…ああ、おはよう」

 

 

 

俺の一日は、桃髪の恋人に起こされるところから始まる。

 

ここ数年で随分寝起きが悪くなった俺は、比較的早起きな彼に、毎日こうやって覚醒を促してもらっている。

 

「リツー、早く早くー♪ 」

「分かった…、分かったから、そんなに急かすな」

 

チハル・ヒナタ、猫の耳と尻尾を持つ『ベスティア』と呼ばれるヒューマ。

 

24という年齢の割には多少幼さの垣間見える彼は、俺の大事な恋人でもある。

 

 

 

 

 

俺とちぃ(チハルのことを俺はこう呼んでいる)は、傭兵達の集団である「宇宙海賊『暁』」に所属している。

 

「海賊」などと名乗っているのは、此処のリーダー…、

もとい船長が「その方が自由な感じで良い」という安直な理由で決めたからとのこと。

…まぁ、あの船長なら仕方ないと言ったところか。

 

「さぁて、今日はどんな依頼が来てるかなーっと」

 

味気のない携帯食料を食い終え、身体に密着した戦闘スーツに換装した俺達は、

「今日の仕事」を探すために、ある部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、いらっしゃい。」

 

壁じゅうに備えられた無数の機械達。

 

その部屋の中心にある椅子に腰掛けているのが、

いつも依頼を渡してくれる『暁』の情報兼整備担当ーー『クレハ・アカツキ』だ。

 

「さて、今日はどんなのを受けてみる?」

 

炎のような赤い色をした長い髪を揺らしつつ、柔らかな笑みを浮かべながら彼は、

複数の依頼が表示された半透明の立体映像を俺達の前に差し出してくる。

 

「お、とびっきり悪いヤツはっけーん♪」

「ん、ああ…、コイツは確か、子供ばかり狙って…」

 

…俺達『傭兵』の主な仕事は、宇宙警察の手に余るような凶悪犯や脱獄犯をこの手で『狩る』ことだ。

 

 

 

 

 

『――――うみゃあ!コイツ、めちゃくちゃ殺しにかかってくるよ〜!!』

「……そうか。なら、今はそのまま奴を引きつけてくれ」

 

所変わって、ここは辺境の惑星。

 

クレハ謹製の小型の宇宙船に乗り、狩りの『対象』の元へ向かった俺達は、

程なくして発見することの出来たそいつを追い詰めるべく、行動を起こしていた。

 

『はいはい、分かってるよう。リツもおれが良いって言うまで動いちゃダメだからね?』

「ああ、お前も殺されないように充分気をつけろ」

 

頭部に装着しているフルフェイスメットに内蔵されている通信・通話機能でちぃと連絡を取り合い、

目の前のバイザーに表示されている彼とターゲットの位置情報を確認する。

 

ターゲットを示す赤色の×型のマークは左右に揺れ動きながらバイザー上部の方向へ急速に進み続け、

それを追いかけるちぃを示す桃色の丸いマークは、

ターゲットから限りなく近い距離にありながらも、それ以上は近づかずに一定の間隔を保っている。

 

…両方共、俺の居る場所からは目と鼻の先にいる。

 

俺は今回、この場に隠れてターゲットを遠距離から仕留める役目に回っている。

何故なら、それがちぃの頼みだったから。

 

…だから俺は、彼を信じて待機している。

 

その間俺は、左腕に付けたバングルのパネルを操作し、バイザーの右側に表示させたターゲットの情報を改めて確認した。

 

 

『グレアム・デヴォル』――伸縮性のレーザーブレードを用いて、己の快楽のためだけに罪のない人々を手当り次第に惨殺している通り魔。

こいつによる犠牲者は世間的に公表されている限りでも1000人は下らず、宇宙警察も捕縛に躍起になっているのだが、

100人の警察官達を一網打尽にしてしまう程の高い戦闘能力を誇るため、なかなか捕まえられないのが現状だった。

 

 

「…胸糞悪い」

一瞬だけ過去のことを思い出してしまうが、今は仕事中だ。

それをどうにか振り切って、ターゲットの情報を閉じ、再びちぃとターゲットの位置情報に目を向ける。

 

桃色のマークは、☓印の周囲を細やかに、しかし不規則に動き続けており、

☓印も建物を示す四角い形を背に視点を変えているようだった。

 

「いい感じに追い詰めてるな…」

 

それを見ながら俺もまたいつ合図が出てもいいように、左腕に抱いていたマスケットの形をしたレーザー銃のスイッチを入れる。

銃口が淡い光を帯びたことを確認した俺は、窓の僅かな隙間にそれを充てがった。

 

×印を付けられたターゲットは桃色の猫の相手をするので精一杯で、

自分の生が間もなく終わることはおろか、俺の存在にも未だ気づいていないようだ。

 

片目を瞑り、スコープモードに切り替えたバイザーでターゲットを注視し、銃の引き金に俺は指を掛け、それから、ちぃに向けて叫んだ。

 

「ちぃ、伏せろ!」

 

よく目立つ桃色の髪が素早く地に伏せた直後、俺は光を帯びた鋭い直線を放ち、ターゲットの胸を貫いた。

 

奴は「訳が分からない」とでも言いたげな困惑した表情で少しの間直立していたが、

やがて建物の壁に身を預け、そのまま動かなくなった。

 

「…任務完了、だな。」

 

 

 

 

 

 

仕事が終わり、クレハを通じて報酬を受け取った後、俺達二人はスーツを脱いで身体検査を受けていた。

 

「では、コアハートを見せてもらう」

 

無機質な声の主は、『暁』の医務担当であるソワール。

クレハによって作られた緑色の髪を持つ機械生命体『マシーヌ』で、

俺達『暁』の船員達の身体の状態を逐一チェックしてくれる。

 

「よろしく〜♪」

「ああ、よろしく頼む」

 

俺達は胸に両手を当てながら短く念じる。

 

すると、胸からハート型の容れ物が内側からゆっくりと現れてきた。

 

『コアハート』

それは、俺達ヒューマが生きていくために最も重要な臓器だ。

『ブラッドオイル』という体を循環する生命力を内包しており、

『基本的には』一人一つしか持てないため、これが何らかの理由で失われるとヒューマは死んでしまう。

旧時代の人間で言うところの『心臓』とほぼ同義と言えるだろう。

 

 

「リツは、問題なし…、だな」

 

診断を終えると、俺はコアハートを胸の中にしまった。

コアハートは持ち主の意思以外では取り出したりすることが出来ないため、

検査の時はこうして俺達が自ら出す必要がある。

 

「次に、チハルは…」

 

服を着ながら俺は、まだ診察台に寝ている恋人の方に目をやった。

 

彼の胸には、8個ものコアハートが浮かび上がっている。

 

先程も述べた通り、コアハートは一人一つしか持つことができないのだが、

ちぃだけは体内に複数のコアハートを持つことが出来るようになっている。

 

しかし、それが何故なのかは頭の良い科学者達にも未だに分からないとのことらしい・・・。

 

「チハルも、問題なし。」

「やったー♪ リツー、早くお部屋帰ろー♪」

「ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はー…、疲れたあー」

 

部屋に戻った俺は、ベッドに腰掛けながらちぃの髪を撫でていた。

一方、ちぃは俺の両膝を枕代わりに、ふにゃりと全身を脱力させている。

 

「今日もよく頑張ったな、ちぃ。」

「えへへ〜、もっと褒めて〜♪」

 

柔らかな手触りがする桃色の髪は、仕事終わりで疲れた俺の心を、暖かな毛布で包むように癒やしてくれる。

俺の身体に触れてくるやや高めの温度は、目の前に居る彼が、『今日も無事に生きて帰ってきたんだ』ということを実感させてくれる。

 

…『傭兵』は、いつ生命を落としてもおかしくない職業だ。

だからこそ、また今日もこうして二人で一緒に生きて帰ってこれたことに、心の底から安堵できる。

 

「リツ」

「ん、どうした?」

「手ぇ、握って?」

「…ああ、いいぞ」

 

俺がちぃの右手を握ってやると、ちぃもまた安心したように微笑みながら俺の手をギュッと握り返してくる。

 

「はぁ。リツの手、ひんやりしてて気持ちいい…」

「…いつも言ってるな、それ」

 

自分の左手に伝わる心地の良い温もり。

何よりも暖かいそれが、今ここに生きているという喜びで、心を満たしてくれる。

 

…ちぃと出会う前までは微塵も想像できなかった、自分自身の幸福な姿。

 

けど、半年前のあの時、ちぃが俺に『生きること』を望んでくれたから、今の俺が在る。

 

「リツ、リーツ♪」

「ん?」

「えっとね…」

 

俺の最愛の存在もまた、今が一番幸せだと言わんばかりの輝くような笑顔を浮かべながら、俺に向けて言葉を紡いだ。

 

「…今日も、生きててくれてありがと。」

「……ああ。」

 

…今日も俺は、ちぃの『幸せ』のために生きることができた。

 

それでちぃが笑顔になれるのなら、俺にとってもすごく幸せなことだ。

 

「リツー、そろそろご飯食べに行こう?

おれもうお腹ペッコペコだよー。」

「…そうだな、俺も腹が空いてきた」

「今日のご飯は何だろうねー?」

「さぁな。けど、レイの作るやつならハズレは無いだろ」

「まぁ、それもそうだよねー。」

 

…だからこそ俺は、絶対に生き延びなければならない、

 

彼に、『二度目の喪失』を味わせないためにも……。

 

「リツー、早く行こー?」

「あ、ああ。分かったから、そんなに引っ張るな…」

 

最愛の者の手に腕を引かれながら、今日も俺は明日のためのエネルギーを補給しに行くのだった…。

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