最強マイラー・タイキシャトル

パワフルで、太陽みたいに笑う彼女とそのトレーナーは学園でも有数の熱々公認カップルだ。

そんなある日、彼女達は喧嘩をしました。

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タイキシャトルと喧嘩しました

 ある日のトレセン学園。レースに向けて励む学生たちと、彼女らを支えるトレーナーたちが仕事をする平和な生活の中、それは起こった。

 

「トレーナーさんのバカ!」

 

「ちょ…待ってよタイキ!」

 

 いつもは太陽のように明るい笑顔を浮かべるタイキシャトルだが、その日は違った。目にいっぱいの涙を溜めて、唇はキュッと結ばれている。

 

 そんな彼女を止めようとトレーナーも去ろうとする彼女の手を取るが、タイキシャトルは強引に振り払った。

 

「来ないでクダサイ!」

 

 そう言って振り返る彼女は怒りながら泣いていた。

 

「トレーナーさんなんか…トレーナーさんなんか…!大きらいデス!」

 

 そう言い残してタイキは俺の前から去ってしまった。振り払われた手をそのままに、呆然とそれを眺めることしか俺にはできなかった。

 

「なんで…こうなったんだよ」

 

ーーーーーー

 

「ヒグッ…ウゥ〜…!」

 

「オー…大号泣デスネ…」

 

「えぇ、そうね…」

 

 タイキシャトルの後輩でありながら、同じアメリカ生まれのエルコンドルパサーとグラスワンダーは目の前でボロボロと泣くタイキシャトルを見て驚いていた。そして彼女に抱きつかれているもう1人の先輩…自分たちを呼んだサイレンススズカも困った顔をしている。

 

「スズカさん、一体何が?」

 

「うーん…実は私も分からなくて。突然抱きついて来たと思ったらずっとこうなの。」

 

 ポンポンとタイキシャトルの頭を撫でながらスズカさんの話を聞くも、彼女自身も理由を分かっていないようだ。とりあえず人目のないところへとスズカのミーティングルームに連れ込んだは良いが、1人じゃ手を負えないと思って私たちを呼んだという。

 

「困りましたね…」

 

「もしかしてトレーナーさんと何かあったのでは?たとえば…ケンカとか!」

 

「「そんなまさか…」」

 

「うえぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 エルの言葉に2人が否定しようとしたら、タイキシャトルの一層大きくなった泣き声がそれをかき消した。

 

「ウソでしょ…って待ってタイキ!苦しい!苦しいから〜!!!」

 

「ケ!?マズイです!スズカ先輩の顔がまっさおデース!」

 

「タイキ先輩!一旦スズカさんを離してあげて〜!!!」

 

 ウマ娘の中でも大柄なタイキシャトルのパワーは学園内でもトップクラス。そんな彼女に力任せに抱きしめられたら例え同じウマ娘でも無事では済まない。青くなるスズカを見てエルとグラスは彼女の救出を急ぐのであった。

 

 

 

「落ち着きましたか?タイキ先輩。」

 

「グスッ…sorry、スズカ…」

 

「スズカ先輩、大丈夫デスカ?」

 

「えぇ…ありがとう2人とも」

 

 ゼェゼェと息を切らすスズカにエルとグラスの2人は安堵の息を吐く。タイキシャトルもまだグズグズと泣いているが先程よりは落ち着いたようで申し訳なさそうにシュン、としている。

 

「コホン…それで本題に入りますね。タイキ先輩。」

 

「ハイ…」

 

「トレーナーさんとケンカしたのは本当なんですか?」

 

(ビクゥッ!)

 

(グラァース!それはストレート過ぎませんカ!?)

 

 親友にしてライバルの質問にエルはそう目で訴えるが、グラスは「エル?」と制された。だが、タイキシャトルは身を震わせるとまたウルウルと瞳を揺らしていた。

 

「タイキ…いったい何があったの?あなたとトレーナーさん、とても仲が良かったじゃない?」

 

「そ…そうデス!学園内でも有名な熱々カップルな2人に何があったのデスカ!?」

 

 そう。2人が言うようにタイキシャトルと彼女のトレーナーさんは学園内でも有名なカップルなのだ。

 

 太陽のようにパワフルな彼女だが、その実誰かといないと寂しくて泣いてしまうほど。特にトレーナーが地方へ出張した際にはキノコでも生えるのではないかという程落ち込むのだ。まるで飼い主に懐く大型犬そのものである。

 

 そんな相手となったのが彼女のトレーナーだ。パワフルな走りが持ち味なタイキの走りに一目惚れ、そのまま担当トレーナーとなり、今や「最強マイラー」の肩書きを持つタイキシャトルの片翼である。

 

 そんな2人がなぜ付き合っているのか。

 

 それは、URAファイナルズのマイル部門を見事勝ち取ったタイキシャトルが、興奮を抑えられないまま中継があるにも関わらずトレーナーに逆告白。トレーナーもそれにイエスで答え会場が歓喜の悲鳴で溢れたのは学園内でも後世に語り継がれるほど有名なお話である。

 

(あんなことあったのに炎上一つないのが驚きデース…)

 

(お二人の人柄故ですよ。)

 

(ファンからも祝福のオンパレードだったものね…)

 

 普通あんなことがあればゴシップ誌やメディア、タイキシャトルの熱狂的ファンから叩かれそうなものなのだが、驚くほど2人は叩かれなかった。多少はあったかもしれないが、圧倒的な祝福の言葉に埋め尽くされたという方が正しいか。

 

 そんな公認カップルという程の2人が喧嘩することはまずはない。そう思っていたばかりにタイキの現在の様子は信じられない3人だった。

 

「タイキ、良かったら話してくれる?」

 

「そうデス!なんならエルがトレーナーさんを成敗してあげマース!」

 

「エール?まずは理由を聞いてからよ?」

 

 そう明るく振る舞えばタイキもコクンと頷いてくれた。

 

「トレーナーさんが…トレーナーさんが…!浮気していたんデス!」

 

「ヘ?」「ケ?」「はい?」

 

 予想していなかった答えにそれぞれ間抜けな声を上げてしまった。だが、タイキはまた泣きそうになりながら話し続ける。

 

「ワタシの知らない女の人と、楽しそうにショッピングしているのを見ちゃったんデス…!」

 

「…妹やお姉さんじゃなくて?」

 

「トレーナーさんは一人っ子だと聞きマシタ…」

 

「じゃあ、仲の良い女トレーナーさんとか、ご友人では?」

 

「だったら素直に話してくれても良いじゃないデスカ…」

 

「エット…タイキ先輩はなんでその場にいたんデス?」

 

「トレーナーさんと一緒にいこうと思ったのに、「その日は予定がある」って断られマシタ…でも1人で部屋にジッとできなくて…たまたまショッピングモールに行ったら…ヒグッ…ウワァン!」

 

 ワァワァと子供のように泣き出してしまったタイキシャトルを見て3人は顔を見合わせる。これはどう考えてもトレーナーさんに非がある。だが、同時に違和感も感じていた。

 

(どう思う?)

 

(ウーン…今のところはトレーナーさんが完全に悪いデース。デスガ…)

 

(えぇ…あの人が他の女性にうつつを抜かすとは到底思えません。)

 

 バカップルと言われる所以はタイキの積極的なアプローチだけではなく、トレーナーの行動もあるのだ。BBQ好きな彼女のために新型のコンロを購入したり、牧場に連れて行ったり。眠れない夜に車で星を見に行って一緒に怒られたり…話を上げればキリがない。

 

 それにそんなにタイキシャトルとプライベートも過ごして、激務とされるトレーナー業をしながら他の女に手を出す余裕があるのだろうか。結論を言えば全くない。

 

「…ねえ、タイキ。」

 

「ヒック、エグッ…what's?」

 

「アナタのトレーナーさん、その女の人とどんなお店に行ったのか分かる?」

 

 泣きすぎてシャックリをしているタイキにそう尋ねると、彼女は一層悲しそうな顔と、消え入りそうな声でなんとか答えてくれた。

 

「シルバーショップ…デス」

 

(もしかして…)

 

「ごめんなさい、2人ともタイキの事少し頼める?」

 

「ケ?」「スズカさん?」

 

「ちょっと思い当たることがあるの。」

 

 そう言って私は2人に言い残し、ウマホを取り出してある人に電話をかける。彼女が今こんな状態なら、彼もまた…

 

〈もしもし、スズカ?ちょっと今手が離せなくて…〉

 

「それはタイキのトレーナーさんの件?」

 

 電話に出てくれた私のトレーナーさんにそう告げれば、彼は驚いていた。だが、すぐに納得してくれたのかその口調は落ち着いていた。

 

〈もしかして、そっちも?〉

 

「タイキは彼が浮気したって泣いているけど、どうも信じきれなくて…」

 

 そう話すと彼は「分かった」と一言告げた。

 

〈今からオレもこのバカ連れて戻るよ。場所は?〉

 

「私たちのミーティングルーム。」

 

〈了解。すぐに戻るから待ってて!〉

 

 そう言ってトレーナーさんは電話を切った。後ろの方から泣いている男の人の声が聞こえたが、向こうもタイキと同じ状態になっているらしい。

 

(ハァ…どっちもどっちなんだから。)

 

 私は深くため息をつくが、同時に少しだけ羨ましいな、なんて思ってしまった。まずは、彼らが着くまでタイキを励まさないと。そう思って私は再び彼女たちの元へと戻った。

 

ーーーーーー

 

 時は遡り、学園の屋上。男2人は柵に寄りかかりながら話し合っていた。いや、話し合うと言うよりは、一方が悩みを聞いてやっている…そんな形だった。

 

「タイキちゃんとケンカしたぁ!?」

 

「グスッ…うん」

 

「いや、〝うん〟じゃねえよこのスカタン!」

 

 バシッと隣で泣く友人の背中を叩く。というかいい歳した男が泣きながら〝うん〟とか使うんじゃない。

 

「原因は?」

 

「オレがタイキとの買い物デート断って、シルバーショップに行ったのを見られた…」

 

「お前、それ誰と行った?」

 

「エアグルーヴのトレーナー…」

 

 それを聞いてバカでかいため息を吐いた。思わず呆れてしまった。

 

「全面的にお前が悪いわこのスカタンが!」

 

「だよね!?でもまさか見られていたなんて思わなかったんだよ〜!!!」

 

「知るか!」

 

 もう知らん。と言いたいところではあるが、同期でライバルでもあるコイツと、タイキシャトルの付き合いの良さは知ってはいる。口を開けばタイキとの惚気話が出てくるこの男が浮気なんてできるはずもないだろう。

 

「で?なんでエアグルーヴのトレーナーとそんな店行ったんだよ?」

 

「彼女…エアグルーヴに婚約指輪贈ったじゃん。」

 

(あー…なるほどな。)

 

 スズカやタイキより一つ上であるエアグルーヴは、学園卒業後に彼女のトレーナーと共に同棲、結婚も前提としたお付き合いをしている。

 

 エアグルーヴはもちろんの事だが、彼女のトレーナーはスレンダーなモデル体型で長い黒髪でちょい垂れ目で別嬪さん。そりゃあもう男から引くて数多。互いに男避けも兼ねて婚約指輪を身につけており、薬指を見るたびにこの上なく幸せそうな顔をしているのはトレーナー間でも有名な話だ。

 

 そんな彼女も俺たちの同期なので、付き合いは長い。同じ立場であるこの男に相談されて、快く引き受けたのだろう。だがそこで一つ疑問が上がる。

 

「なんでタイキちゃんは気づかなかったんだ?俺ら6人、知らない仲じゃないだろう?」

 

 俺たち3人組は同期で、担当バの3人も同じように仲の良い友人にしてライバルということもありトレーナーも交えて雑談したり、合同トレーニングもすることがある。今更顔を間違えるようなことはないハズだが…

 

「身バレ防ぐからって変装してきたんですよ…コレ写真。」

 

 そう言って俯きながら携帯画面を見せてくるが、そこには尻尾とウマ耳を除いたエアグルーヴのそっくりさんが写っていた。多少膨らみは足りてないが、それを除けば姉妹といっても過言ではない程のクオリティである。流石女帝の唯一無二の杖。変装もお手の物ということか。だがしかし、これはこれで…

 

「やりすぎでは?」

 

 全面的にこの男が悪いと思ったが、多少彼女にも非がありそうだ。近づけばウマ娘なら匂いで分かるだろうが、流石にここまで別人間と言えるような変装をされてしまったら、遠目から見ただけでは判断もできないだろう。

 

「せめて正直に言えば良かったじゃないのか?」

 

「サプライズ…」

 

「あー…うん、分かった。もう何も言うな。」

 

 どうやらこの男、惚れた彼女にカッコつけたかっただけのようだ。その気持ちは分からんでもない。男は幾つになっても、惚れた女にカッコつけたい生き物なのだから。

 

 要するに、愛しのタイキちゃんに指輪をサプライズで贈ろうとしたが、初めてのことで分からないし男1人でシルバーショップに入る度胸もなかったために彼女…エアグルーヴのトレーナーを頼ったのだろう。その結果がコレである。

 

(これで報われなければ三女神様を呪ってやる)

 

 学園のシンボルでもある噴水の三女神に悪態をつきながら、エアグルーヴのトレーナーに連絡を入れる。彼女からも経緯を説明した方が良いのは明白だ。

 

 連絡を入れ終えて、次にどうするかと悩んでいたら携帯が震える。電話先は俺の愛バからだった。

 

「もしもし、スズカ?ちょっと今手が離せなくて…」

 

〈それはタイキのトレーナーさんの件?〉

 

 リンと鈴を鳴らしたような声が電話越しに聞こえてくる。そしてうっすらとタイキちゃんの泣き声も。どうやら向こうもこちらと同じ状況らしい。

 

 スズカに話を聞いたら、タイキちゃんは案の定このスカタンが浮気したと疑ってしまっていてどうしようもないとのことだ。それで泣きじゃくってしまったらサプライズもクソもない。

 

(はー…全く)

 

 一つ貸しだ。今度うまい酒と、飯。あとは…シルバーショップの店も詳しく教えてもらおう。

 

「おい、早く行くぞ。」

 

 しょぼくれている彼の肩を叩き、俺は出口へと向かう。彼は最初は分からない顔をしていたが、ハッとするとすぐに俺の後に続いてきた。

 

ーーーーーー

 

 スズカトレーナーに連れられて、俺は件の部屋の前に立つ。扉を開けようとするが中からタイキの泣いている声が聞こえてきて胸が締め付けられて、苦しくて仕方なかった。

 

「はー…ったく面倒な男だなお前は!」

 

「ちょ、トレーナーさん!?」

 

「ぐわしっ!?」

 

 痺れを切らしたのか後ろからスズカのトレーナーに背中を押され、俺は部屋に飛び込むように入室した。そこには目を腫らして驚くタイキと、彼女を励ましてくれていた後輩のエルコンドルパサーとグランワンダーが待っていた。

 

「え?」

 

「あらあら…エル?」

 

「¡Sí!おじゃま虫は撤退シマース!」

 

「グラス!?エル!?」

 

 全てを察したグラスとエルは阿吽の呼吸で部屋を出ようとする。タイキは「置いていかないで!」と不安そうに名前を呼ぶが、2人は敢えて無視をした。だが、俺の横を通り過ぎた際に、聞こえるかどうかの声でこう言ってきた。

 

「トレーナーさん…お覚悟はできていますね?」

 

「もしまた泣かせたら…地獄のブランチャお見舞いデスよ?」

 

 レースさながらな気迫に俺は冷や汗をかく。流石は〝不死鳥〟と〝怪鳥〟の通り名を持つウマ娘達…チラリと目があったが全く笑っていなかった。逆に言えば、それだけタイキのことを心配してくれていることが分かった。本当に感謝しても仕切れない。

 

「うん。大丈夫。2人ともありがとう。

 今度、お礼するから、あとは任せて。」

 

 そう返すと、2人はニコリと笑って部屋を出て行った。

 

 パタン、とドアを閉められると部屋の中は静まり返り、外から学生の声がよく聞こえてくる。

 

「隣、座ってもいい?」

 

「ドウゾ…」

 

 彼女に許しをもらってオレは彼女の横に腰を下ろした。チラリと横を見ると一瞬彼女と目が合う。だけどすぐにタイキは目を逸らしてしまう。

 

「タイキ…」

 

「No!何も聞きたくアリマセン!」

 

 ギュッと体を縮めて、耳を畳んで手で覆いタイキはそう叫ぶ。

 

「トレーナーさんなんか…嫌いデス!大嫌いデス!ワタシ以外に付き合っている人がいたのに!なんで…?なんで黙ってたんデスカ?」

 

 次第に小さくなる声に何も言えなかった。あぁ、そうだ。彼女は、人一倍寂しがり屋さんだった。いつも太陽のように明るいけど、常に誰かのそばにいないと寂しくて泣いてしまう…人懐こい女の子だ。

 

 長い付き合いで失念していたのかもしれない。だから、オレはもう一度彼女と向き合わなければならない。だって、どうしようもない程に彼女が、タイキシャトルのことが好きなのだから。だから、ちょっとだけ強引な手に出るとしよう。

 

「ねぇ、タイキ。あの女の人ね…」

 

「聞こえナイ!聞こえナイ!!」

 

「タイキ!」

 

 そう叫び、オレは耳を塞ぐ彼女の両手首を掴んで、強引に体をこちらに向かせた。彼女の青い瞳が不安そうにこちらを見つめる。だけどすぐに拒むように暴れ出した。それでも加減しているのか、オレが吹き飛ばされるようなことはなかった。

 

「イヤ!離して!」

 

「アレは!エアグルーヴのトレーナーなんだ!!!」

 

「…Huh? 」

 

 大声で真実を伝えると、タイキは目を点にしてオレと目を合わせる。

 

「ウソ…ウソデス!だって見た目が…」

 

「身バレを防ぐために変装してたんだよ。これが証拠の写真。」

 

 そう言って画面にエアグルーヴのトレーナーの変装姿を彼女に見せる。それでもまだタイキは混乱しているようで、狼狽えていた。

 

「え…エ?」

 

「まだ疑ってるよね?今から彼奴に電話かけて説明してもらうから。聞いてくれる?」

 

 そう言ってエアグルーヴのトレーナーに電話をかける。事前にスズカのトレーナーが手を打ってくれたのもあって、彼女はすぐに電話に出てくれた。

 

〈タイキちゃん!本当にごめんなさーい!〉

 

 キーンと耳が痛くなるほどの大声の謝罪。タイキも驚いて尻尾がビーンと伸びている。

 

「え?じゃあ…ワタシの勘違いデスカ?Really?」

 

〈本当に!ほんっとーにごめん!

 私はエアグルーヴと婚約している身だから…流石にそのままの姿で男とシルバーショップに入っているのをゴシップ誌とかに取り上げられるのは流石に厄介で…ていうかあの時貴方のトレーナーも変装してたのに、よく分かったね?〉

 

 そう言われてオレも「たしかに」と頷いた。彼女ほどではないがオレも付け髭、眼鏡、幅広の帽子をして一目では〝タイキシャトルのトレーナー〟とは分からない格好をしていたのだが…なぜタイキは分かったのだろうか?

 

 そう不思議に思いタイキシャトルを見るとプシューと顔を赤くしていた。なんで?

 

「だって…メガネも、帽子もワタシがプレゼントしたんデスヨ…?それに、毎日見てるトレーナーさんの顔を見間違うワケないデス…」

 

 頭から湯気でも出るんじゃないかって顔を赤くして、手で顔を覆うも尻尾はパタパタとソファを叩いている。なんだこのカワイイ生き物は。寿命が伸びるわ。

 

〈アー…なんか誤解解けそうだね。〉

 

「うん…ありがとう。」

 

〈まぁ私の所為でもあるし…あ〜絶対エアちゃんに怒られる…怖いなぁ…〉

 

 そればかりは変わることができないので、「頑張れ」とだけ伝えてオレは電話を切った。

 

 そして再び横を見れば、指の隙間からこちらを見てくるタイキシャトルと視線が合う。

 

「…なんで、黙ってたんデスカ?」

 

「君にカッコつけたくて…サプライズ、タイキ好きでしょ?」

 

「…アタシの指のサイズは?」

 

「トレーナー室で君が寝てる間にコッソリ。」

 

 そこまで言うと彼女は恥ずかしそうにバタバタと足をバタつかせる。時折尻尾がオレの腿を叩いて痛いが、こんなにカワイイ彼女が見られるなら安いものだ。

 

「ワタシ…たくさんヒドイこと言っちゃいマシタ…」

 

「まぁ、オレも誤解させたからお互い様ってことで。」

 

「優しすぎマス…」

 

「タイキをたくさん泣かせちゃったから、これで済むなら安いくらいだよ。」

 

 そう話すとタイキは顔を覆う手を下ろし、恐る恐ると腕を広げた。

 

「タイキ?」

 

「hug…してくれますか?」

 

 目が潤み、そうねだる彼女は仲直りのハグを求めてくる。オレは「もちろん」と笑って、ギュッと彼女を抱きしめた。

 

「うぅ…うぇぇ…!」

 

「安心した?」

 

 そう聞くと彼女はコクコクと何度も頷いてくる。タイキの髪に顔を乗せる。タイキの甘い匂いと、ほんのり香るシャンプーの匂いにちょっとクラクラした。

 

「トレーナーさん…!好きデス…大好きデス…!」

 

「さっきまで嫌いって言ってたのに?」

 

「それは!その…ゴメンなさい。たくさん、たくさんトレーナーさんを傷つけマシタ…」

 

「冗談だよ。寂しがりなタイキに黙ってたオレも悪いしね。まぁ…本当に嫌われたら死んでたかも…」

 

「…じゃあ、たくさん愛し合いまショ?」

 

 そう言って少し離れて、オレの顔を見上げるタイキ。涙で潤む瞳と、ほんのりと染まった頬が魅力的で、吸い込まれそうだった。

 

「タイキ…」「トレーナーさん…」

 

「なぁに他人様の部屋で盛ろうとしてんだこのスカタン!!!」

 

「イッデエエエエエ!!?」

 

 勢いよくドアが開けられると同時にオレの頭にスパコーン!と革靴がぶち当てられた。おかげで正気に戻ることはできたが、スズカのトレーナーは怒り心頭である。

 

「そういうのは卒業してから2人きりでやれ!スズカの教育上も良くないわ!」

 

 スズカの耳を塞ぎ吠える彼だが、学生の3人はバッチリ聞いていたため顔が見事に赤くなっていた。というかスズカに至っては満更でもなさそうにお前のこと見てるけどそれは良いのか?まぁ、良いのか、多分。

 

「まぁまぁ…とりあえず収まったんだし、良かったんじゃない?」

 

「そ、そうですね。」

 

「ウゥ〜…顔が熱くて仕方ないデース…」

 

「3人も、タイキを励ましてくれてありがとう。本当に助かったよ。」

 

 そう3人に改めてお礼を言えば、タイキもあとに続いて感謝のハグをお返しにした。いつものパワフルさはなく、ギュッと優しく抱きしめるそれを皆笑顔で受け入れていた。

 

「で?どうするんだ?」

 

「何が?」

 

「指輪だよ指輪。いつ渡すんだ?」

 

 4人が楽しそうに話しをするのを眺めながらスズカのトレーナーは聞いてきた。

 

「そうだな…タイキの卒業と一緒に渡すよ。」

 

「ま、妥当だな。今度は俺にも店紹介しろよ。」

 

 その言葉に驚いて彼の顔を見る。「別にいいだろ?」と不敵に笑う友を見てオレも笑った。

 

ーーーーーー

 

「…そんなこともありましたね。懐かしいです。」

 

 シルバーリングを眺めながら、彼女ーオレの妻になったタイキシャトルは嬉しそうに話す。

 

 あの騒動から数年が経ち、タイキとオレは無事結婚を果たした。今は、婚約指輪と結婚指輪の2つのリングが互いの薬指で輝いている。

 

「スズカ一家はお腹に赤ん坊がいるんだっけ?先越されちゃったね。」

 

 オレたちだけではなく、スズカ達も学園卒業後に結婚を果たした。しかも、彼女のお腹の中には新しい命が宿っている。安定期に入ったら、彼女の家にお土産を持って皆でお邪魔する予定だ。

 

「ふふ、ワタシ達はワタシ達のペースで頑張りましょう?」

 

 日本での生活も長くなり、タイキの流暢な日本語を聞いて「成長したなぁ」としみじみと思う。 

 

 確かに、子供は授かりもの。焦ったところでどうこうなるものではない。彼女いう通り、オレ達はオレ達のペースで頑張ることにしよう。

 

「そうだね。それにまだカワイイ奥さんを独り占めしたいしね。」

 

「じゃあ…ワタシも旦那様を独り占めです。」

 

 フニャ、と幸せそうに笑って抱きしめてくるタイキ。オレもお返しと抱きしめると「きゃー」とわざとらしくカワイイ声が聞こえてきた。

 

「タイキ。」

 

「ハイ?」

 

「今もオレのこと好き?」

 

 ちょっとあの時のことを思い出しながらそう聞くと、彼女も察してくれたように笑った。

 

「はい!大好きですよ!トレーナーさん♡」


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