カフェとトレーナー、時々お友だちと懲りない人々   作:fell@かぶとがに

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私たちはずっと一緒だった。
幼い頃から、深く深く繋がって。
だから、アナタの心の揺らぎも分かっていた。
そんなアナタが、今するべきことは……。


アナタも自分の気持ちに、素直になって

ある休日。

今日も今日とてトレーナーさんの料理スキル上達のために、トレーナーさんの部屋で一緒に料理をしていると……。

 

「ん……ちょっと、気分が……」

「大丈夫か? ベッドで横になる?」

「ええ、すみません……少し、休ませていただきます……」

 

不意に、気分が悪くなってしまって。

これくらいなら少し休めば落ち着くとは思うのですが……。

 

「……トレーナーさんとの時間が減ってしまって、寂しいです」

「まぁまぁ、今日は外泊許可も貰ってるわけだし。明日も一日のんびりしたりお出かけしたりできるから、まずは体調を万全にしよう」

「そうですね……」

「なら……よっと」

「わっ……」

 

冷蔵庫に入っていたスポーツドリンクを片手に。

トレーナーさんが寝室へとお姫様抱っこで連れて行ってくれました。

 

私はトレーナーさんの胸元をきゅっと握って。

束の間の密着を満喫して。

 

「ちゃんと体調良くなるまで安静にしてるんだぞ」

 

ベッドに私を横たえて、トレーナーさんが額にキスをしてくれます。

ぽかぽかと、暖かい。

 

「お料理、一人で勝手に続けないでくださいね」

「……うん、大人しく待ってます……」

 

先日も私が目を離した隙に勝手に黒焦げの芸術作品を生み出して、前科一犯。

後ろめたいトレーナーさんは、渋々と寝室を後にしました。

 

「ん……少し、寝ちゃおうかな……」

 

被っている毛布から微かに漂うトレーナーさんの香り。

幸せな空間に、私はうつらうつらとしてきて……。

 

すると微睡む視界の端で、誰かがこちらへ歩み寄ってきました。

その影は……。

 

「どうしたの……?」

 

問いかけへの返答を聞くことは叶わず。

その優しい手に撫でられながら。

私はゆっくりと、眠りに落ちていきました。

 

******************

 

マンハッタンカフェが寝付いてから、溜まっていた仕事を片付ける。

次の出走レースのライバルやバ場のチェック、取るべき戦法の検討、それにカフェのメンタルケア……。

 

「とはいえ、メンタルケアって半ば俺のためにもなりつつあるよな……」

 

愛バのためにすることが、自分のためにもなっている。

互いの思いやりの循環に感謝しつつ、トレーナーは。

 

「……でも俺たちって、恋人、って言っていいのかな……カフェも俺も、気持ちは間違いないんだけど……」

 

考えてみれば、互いに付き合おうと話した記憶はない。

それよりも先日のプロポーズの方が先という、散々段階をすっ飛ばしての関係。

 

「……不純だよなあ、ちょっとなあ……不純異性交遊と言われても仕方ないよなあ……」

 

先週の会議後、理事長に呼び止められて言われたことを思い出す。

 

『分別ッ! 恋煩いもほどほどにな!』

 

全くもって返す言葉がなかった。

幸い理事長はニヤニヤしていたので、糾弾されているわけではなかったのだが。

 

こうして仕事をしている今も、資料中のカフェの写真を見ているだけでポーッとしてしまう。

まるで思春期のような感情に踊らされている自分を省みるたび。

トレーナーの口からはため息が漏れていた。

 

「若いのはいいことだけど……ここまでだとちょっとなあ……」

 

などと呟いていると。

がちゃり、とドアが開いて。

 

「ん、もうちょっと休んでなさいよ」

「寝ようと思ったのですが、寝付けなくて……調子も良くなってきましたし……」

 

入ってきたのは、先程寝かしつけたはずのカフェだった。

 

「お仕事中でしたか……もう少し、続けられますか?」

「そうだね、大した量じゃないから終わらせちゃった方がゆっくりできるしね」

「でしたらコーヒー、お淹れしますね」

「そりゃ助かる、ありがとう」

 

トレーナーの言葉に、カフェが微笑む。

キッチンへと姿を消して暫くすると、湯気が漂う二つのコーヒーカップを手に。

カフェが居間へ戻ってきた。

 

「砂糖とミルク、いりますか……?」

「いや、ブラックで」

 

ことり、とカフェが二人のコーヒーを置く。

ソファーに座るトレーナーの隣に腰掛けると、カフェは幸せそうに目を瞑って。

身体をトレーナーの肩に預けた。

 

そしてコーヒーをひと口飲んで、トレーナーは。

 

「淹れるの、上手いもんだなぁ」

「そうですか……お口にあって、良かったです……」

 

嬉しそうに笑うと、カフェは静かに、甘えるようにトレーナーの唇を求める。

しかし、トレーナーは首を横に振った。

 

「勝手にそこまでするのはちょっと、いただけないな」

「……ダメ、ですか?」

「んー……それはいつもの悪戯、なのかな」

 

トレーナーは、『マンハッタンカフェ』の頭をぽんぽんと撫でながら。

 

「なぁ、お友だち」

 

そう呼ばれて、少女は。

 

「……やっぱり、愛の力は強し、ですか」

 

大切な親友への思いやりに嬉しさ半分。

そして自分は違うことへの寂しさ半分で、小さく微笑んだ。

 

******************

 

私は、恋を知らなかった。

 

両親と自身のトレーナーから、愛情は貰った。

けれどそれは、親愛と呼ぶものであって。

それはそれで幸せではあったのだけれど。

 

引退後にこの国へ来て、友もできた。

けれどそれもまた、親愛だった。

 

時は流れて、交錯する世界を彷徨い歩いて。

あの子を見つけて、手を差し伸べて、手を差し伸べられて。

そこで得たのもやはり、何よりも大きいものではあったけれど、親愛だった。

 

でもそこから先は、これまでとは違っていて。

少女と守護霊のように結びついて。

心の奥底まで感覚を共有して。

 

すると、私の心の中にまで、少女の想いが流れ込んでくる。

 

『愛しいあの人』

 

少女からもたらされる感情は、私にとって初めてのものだった。

こんなに熱く、燃え上がるような感情があるなんて……。

永く時を過ごしたくせに、私は全く知らなかった。

 

少女が想いを寄せた人は、私のトレーナーによく似ていた。

あの人がもし若かったら、私も少女のように夢に溺れていたのだろうか。

 

この感情はきっと、かけがえのない大切なものなのだろう。

 

私は、いくらでも少女を後押しした。

想いを寄せた相手も少女と同じ気持ちだと気付いてからは、尚更に。

 

けれど、手を尽くせば尽くすほど……私の中に、感情が生まれる。

否、少女の想いが、深く繋がる私自身の想いとして固着していく。

 

私はただ、そばで傍観しているしかない。

愛しい少女が、愛しいあの人と結ばれ、私はそうではない、という現実を。

 

******************

 

トレーナー、こんなに勘が鋭かったかな。

ちょっと、敗北感を感じてしまう。

 

「いつから気付いてたんですか……?」

「やけに戻ってくるのが早いな、とは思ってたんだけど……やっぱりコーヒーの味かな」

「……実はお口にあいませんでしたか?」

「そんなことはないよ、喫茶店よりもよっぽど美味しかった。でも俺の口、完全にカフェのコーヒーに適応してるんだな……ちょっと違うだけで気付いちゃったんだ」

「……そう、ですか」

 

二人の間に入り込む余地はなし。

もとより、入り込むなんてつもりはなかったけれど……。

 

でも、私はあくまで第三者なのであって、『三人』ではないのだな、と感じてしまって。

これを口惜しいとか悲しいとか思ってしまうのは、いけないことなのかな。

 

「そういえば、こうして正面から話すのは初めてだな……それで、さっきのは結局悪戯だったのかい?」

「……そうですよ、いつもの……」

「にしては、きみの感情が素直だったようにも思えるのだけど」

 

本当に優しい人だね、アナタは。

見方によってはカフェの皮を被って騙し食おうとしたとも言える私を、気遣ってくれるなんて。

 

「……私、カフェと深く深く繋がってるんです」

「うん、カフェからも聞いてる」

「だから、感情や想いが常に混じり合っていて……互いの心が、相手にも大きく影響するんです」

 

カフェが嬉しいと、私も嬉しい。

カフェが悲しいと、私も悲しい。

 

「だからきみも、俺を……?」

「……ええ」

 

それは嘘。

本当にそれだけなら、私はもっと割り切れた。

 

カフェを労るアナタを見ているうちに。

カフェだけでなく、私のことも優しく見守ってくれている視線に気付いて。

 

私は……一人のウマ娘として、少しずつ、アナタに惹かれてしまった。

 

「それだけの話です……ほんの気の迷いですよ」

 

そう、自分に言い聞かせるようなダブルミーニング。

涙は流さない。

そんなことをしてしまえば、優しいこの人は気付いてしまうから。

 

「こう見えても私、アナタたちよりもかなり長く生きて……生きて?いますから。ご心配なく」

 

するとカフェのトレーナーは、頭を抱えながら苦笑して。

 

「……はは、きみは嘘が苦手なんだな」

「え……?」

「いつもあんな軽口叩いてケラケラ笑ってるのに、今日はやけに真剣で饒舌じゃないか」

「あ……」

 

カフェの身体を借りているからかな。

気付かないうちにカフェに感化されたのか、この人と喋っているからなのか……。

 

私の表情と声色は、言葉そのもの以上に雄弁に。

私自身の心を語ってしまっていたみたい。

 

「俺はさ、これからも三人で仲良くいたいから……ちゃんと、知りたい。きみの気持ちを」

 

なんで。

なんで、そんなこと言うの。

私が黙っていれば、一時の夢と思って忘れれば、それで済む話なのに。

 

「だって、カフェと繋がっているんだろう? だったらこれからもきっと、何度も同じ感情が頭をもたげてくる。なら、きちんと話さないと」

 

ああ、そうか。

そういえば、この人はカフェをG1に導くほどのトレーナーなんだ。

私のメンタルなんてお見通しだし、担当か否かに関わらず、見捨てることなんてできない人なんだ。

 

本当に……本当に、お人好し。

どこまでも、あの人にそっくり……。

 

「なあ、カフェもそう思わないか」

 

目の前のトレーナーがそう口にしたとき。

私は身体の自由を失い、代わりに口が勝手に動き始めた。

 

「そうですね……お友だちの気持ちは私も薄々、感じていましたから……」

 

眠りから目を覚ましたカフェが、心のすぐ隣にいた。

 

******************

 

私の心の隣にいるお友だち。

彼女がトレーナーさんに惹かれつつあることは、私も気付き始めていました。

 

温泉宿で憑かれたのを見て本気で怒ったのだって。

 

お礼をしたときにトレーナーさんをつまみ食いしたのだって。

 

先が長くないと勘違いしたときに泣きじゃくったのだって、そのあと軽い話だと分かって怒りながらも安堵していたのだって。

 

少しずつ、少しずつ、彼女自身にとってもトレーナーさんが大切な存在になりつつあったから。

 

そして、私がトレーナーさんからプロポーズされて。

将来をリアルに夢見るようになって。

きっとお友だちも、そんな私の気持ちに感化されて、より一層……。

 

「私は、アナタの本当の気持ちが知りたいの……怒らないし、否定もしないから……ね……?」

 

そう言って、私は再び身体をお友だちに委ねました。

再び自由を得たお友だちは、何を言うべきか迷っていて。

 

だからいつもお友だちがしてくれるように。

今日は私が、その背中を優しく押しました。

 

「っ……」

 

俯き、一瞬お友だちは黙り込んで。

小さく、本当の気持ちを口にし始めました。

 

「……置いていかれるのが、嫌だった」

 

「もう、一人になりたくなかった」

 

「しかもその相手が、いちばん大切な二人だったから」

 

「愛されたかった」

 

「愛を知りたかった、感じたかった」

 

「恋愛というものをしてみたかった」

 

「大切な人に甘えてみたかった」

 

「大切な人に身を委ねてみたかった」

 

「溢れそうな感情を注ぎたかった」

 

「想いを通わせて溶け合いたかった」

 

「だって、私だって一人のウマ娘だから」

 

「でも、それはカフェを傷つけることで」

 

「トレーナーが想っているのはカフェであって」

 

「私は、私は……」

 

震える身体、震える心。

 

いつか私の胸の中で泣いたときのように。

この瞬間、お友だちの心は曝け出されていました。

 

そんな私たちの身体を、トレーナーさんは優しく抱き締めて。

 

「思うにさ、きみは二人いると思うんだ」

 

トレーナーさんが、お友だちに語りかけます。

 

「いつもケラケラ笑いながら、タキオンの資料を燃やしたり、フクトレーナーに喧嘩を売りに行ったりするきみ」

 

お友だちはそんなトレーナーさんを、見た目相応の少女の目で見つめています。

 

「そしてもう一人は、カフェと共にここまで過ごしてきて、一心同体……心を通わせ、姿を重ねるきみ」

 

トレーナーさんが私の頭を撫でます。

その暖かな感触は、私とお友だち、二人に同時に伝わっていて……。

 

「俺とカフェが積み上げてきたもの、気持ち、関係の中にはさ……きっと既に、もう一人のきみが沢山重なってるんだよ」

 

私自身も、思い返せばそんなことが沢山ありました。

 

自分の感情なのかお友だちの感情なのか分からなくなったり。

自分の意思で行っているのかお友だちの意思で行っているのか分からなくなったり……。

 

少なくとも、私がここまでトレーナーさんへの想いを深め、愛したのは。

私一人の心ではありませんでした。

 

きっと結びついている根っこに、互いに水を与え、肥料を与え。

二人で慈しんで育ててきたもので……。

 

「そうですよ……アナタはもっと素直になっていいんです……私たちは、二人で一人なんですから……」

 

お友だちの身体が、私の身体から離れました。

前髪の白い流星の下で、目元はよく見えませんが、雫が頬を伝って。

 

トレーナーさんと二人で抱き締めると。

お友だちの口から、小さな嗚咽が漏れました。

 

「トレーナーさんに甘えたくなったら……私のところへ来てください。一人で抜け駆けされるのは、流石に困りますけど……」

 

私が身体を重ねると、再びお友だちが私の中へと入ってきて。

 

「……私はアナタで、アナタは私。あの日から私たちは、ずっと同じだったんです……ですよね、トレーナーさん?」

「カフェはそれでいいのかい」

「だって、お友だちは私ですから」

 

そう告げて、『私』はトレーナーさんの胸に縋って。

そして紅潮した上目遣いで、その顔を見上げて。

 

「……大好きです……愛しています、トレーナーさん……」

 

その言葉は私のものでしょうか、お友だちのものでしょうか。

 

……いえ、きっとそれは、『私』の声で。

寸分の狂いなく重なった私たちは、ただ一人の『私』となっていて。

 

静かに、けれどいつもよりも熱く唇を奪うと、涙が溢れてきて。

いつもよりもひときわ熱い感情が、胸の中に溢れてきて。

 

『私』はようやく、想いのままに。

トレーナーさんを抱き締めることができました。

 

******************

 

一方その隣室のモルモットルームでは。

 

「ぐぬぬぬ……どけェタキオン……!」

「モルモットくん……一番聞こえのいいこの場所は譲れないねぇ……!」

 

いつぞやのように壁を奪い合うアグネスタキオンとモルモット。

 

「別れ話に発展するに人参三本」

「いーや、愛は勝つに人参五本」

 

マンハッタンカフェたちをダシに、人参賭博に明け暮れるフクトレーナーとライストレーナー。

 

「ろまんちっくだ……ろまんちっくだよ……!」

「しかし……これはこれで不純異性交遊と言えるのでは……!?」

 

隣室の状況を各々の感覚で分析するライスシャワーとマチカネフクキタル。

 

茶菓子やジュースを床に広げ、トレカフェ鑑賞会が開催されていた。

 

「しかし片割れは幽霊もどきとはいえ、ある意味で両手に華か……見た目は可愛いしな……アイツ本当に羨ましいやつだな……」

「そんなこと言ってると夕ご飯抜きですよッ!」

「モルモットくん……やっぱり今夜、私も泊まって……」

「外泊許可取ってないだろ、良い子は帰りなさい」

「お姉さま、ハートフルなお話って心が癒やされるね!」

「うんうん、ライスちゃんはそのまま純真に育ってね」

 

などと、ワイワイガヤガヤ。

そんな物音が隣室に聞こえないはずがなく。

ガチャガチャ、と、モルモットルームのドアノブが音を立て始めた。

 

「……なんか覚えがあるな、これ」

「だ、だが前回壊れてから強化したんだろう……?」

 

過去を思い出し震えるタキオンとモルモット。

六人がドアを見守る中、強化されたらしいドアノブは儚く散り、抉じ開けられた先からカフェの姿が現れた。

 

「……これはこれは、皆さんお揃いで……」

「や、やぁ、カフェ……奇遇だねぇ……今日はカフェだよねぇ……?」

「ええ、私ですよ……お友だちと一緒、ですが」

 

パチンとカフェが指を鳴らすと。

その顔から歪んだ笑みを浮かべたお友だちの顔が浮かび上がった。

 

「オーバーソウル……憑依合体じゃねえか!」

 

フクトレーナーが退却準備を始めた横で、まずは。

 

「てやーっ!」

「とうっ!」

 

身体を丸め、腕を胸の前で十字に組んだライスシャワーとライストレーナーが、ガラス窓を突き破って外へと飛び出した。

 

「あ゛ーっ! 俺の部屋の窓!」

「よし、逃げるぞフク」

「それじゃあタキオンさんモルモットさん、また会う日まで!」

 

叫ぶモルモットを背に、今度はフクトレーナーがフクキタルをお姫様抱っこしながら割れた窓から飛び出した。

 

「くっ、こうなっては致し方ない……さらばモルモットくん!」

「まてェ俺はお前らみたいなフィジカルモンスターじゃないんだぞ!!」

 

往生際悪くタキオンの足を掴むモルモット。

 

「死ぬときは一緒だぞ、タキオン!」

「今聞きたいセリフではないねぇ!?」

 

そんな会話が繰り広げられている後ろから。

ドスの利いた声で、カフェが告げる。

 

「安心してください……あの四人も、逃しはしませんから……」

「ひっ……」

「え、ええとカフェ……できれば、優しく……」

 

タキオンとモルモットの表情が恐怖に染まると共に。

いつかのように、モルモットルームの明かりが消えた。

 

******************

 

制裁を加えてから部屋に戻って。

体調が実はまだ戻りきっておらず、疲弊してしまった私は。

 

「すみません……ベッドをお借りして、もう一眠りしても……?」

「あー、お疲れ……実は俺も少し眠くてね……」

 

しょぼしょぼ下目を擦るトレーナーさん。

私から離れたお友だちも、どこか眠そうにしています。

 

「ああ、お友だちも眠いのか……なら、みんなで昼寝でもするか?」

 

トレーナーさんがお友だちを見ながら提案します。

……って、トレーナーさん、今……!?

 

「あの……もしかして、お友だちが見えてます……?」

「え? 見えてるけど……お友だちが実体化してるんじゃないのか?」

 

その言葉を聞いて、お友だちはブンブンと頭を横に振って。

そしてワンテンポおいて、パァーッと満面の笑顔になると、狂喜乱舞といった様子でトレーナーさんに纏わりつきました。

 

「ま、待てって! 嬉しいのは分かったから……!」

「ふふ……完全に見えるのなんて、私ぐらいでしたから……それもトレーナーさんに見てもらえて、よほど嬉しいみたいですね」

 

お友だちは喜びのあまり、トレーナーさんに抱きついて何度も何度も頬にキスをしています。

……って!

 

「そ、それはやりすぎ……!」

 

慌ててトレーナーさんに駆け寄り、お友だちから奪い返します。

 

「ぐるる……!」

「か、カフェ……そんな猟犬みたいな……」

「アナタは黙っててください!」

「はいっ!!」

 

トレーナーさんを黙らせ、お友だちとしばしの睨み合い。

ですが、そんな時間が長く続くこともなく。

しばらくして、互いに笑いが噴き出しました。

 

「はぁ……私もオトナ気ないですね。お昼寝しましょうか……」

「うん、そうしようか」

 

お友だちもうんうんと頷き、嬉しそうに寝室へ着いてきます。

そして壁から順に、お友だち、トレーナーさん、私と横になって……。

 

「両側から密着されるって、ちょっと新鮮だな……」

「……お友だちに変な感情抱いたら怒りますよ」

「いや、カフェサンドされてるとか思っちゃうとどうしても……いでっ!? どつかないでくれよ!」

 

トレーナーさん越しに見ると。

お友だちもムッとした顔でトレーナーさんを見ています。

 

もしかしたら私は、面倒な相手に塩を送って、ライバルを生み出してしまったのかもしれません……。

 

「……でもそこも含めて『私』、だから」

 

そんなことを小さく呟き、トレーナーさんの右半身に抱き着き、身体を寄せると。

反対でお友だちも同じように、トレーナーさんの左半身に、幸せそうに身を委ねていました。

 

「……良かったね、やっと見つけてもらえて」

 

私の声が聞こえたのでしょうか。

お友だちは無垢な表情で、穏やかな眠りに落ちていました。

 

******************

 

「いたっ……!?」

 

お昼寝が始まってほんの十分程度。

うつらうつらしていた私は気付くと、ベッドの外に押し出され、床に落ちていました。

 

「え……トレーナーさん、いつも寝相いいのに……」

 

と思いながら、打った頭を押えて立ち上がると。

眉間にシワを寄せながら寝苦しそうにするトレーナーさん。

そして、トレーナーさんにのしかかって幸せそうにヨダレを垂らす、お友だちがいました。

 

寝ぼけてベッドを這い回ったお友だちに蹴落とされたようで……。

 

「……次からは私が壁側にしてもらおうかな……」

 

お友だちをトレーナーさんから引っ剥がして部屋の隅っこにポイッと投げてから。

トレーナーさんの上で安眠スポットを確保します。

 

「うん……やっぱり、ここがいい……」

 

ぬくぬくとトレーナーさんの体温を感じます。

トレーナーさんの眉間には相変わらず重苦しそうなシワが寄っていますが。

 

一方、ポイッとされたお友だちは尚も幸せそうに、近くにあったトレーナーさんのジャケットを抱き締めてスヤスヤと寝ています。

まぁ今日のところはこれで良しとしましょう……それじゃあ、おやすみなさい……。

 

******************

 

週が明けて、トレセン学園にて。

三女神像の前には人だかりが出来ており、笑い声とスマホのシャッター音が響いていた。

 

「私はアレか……囚われのウルトラマンかリリスかなんかか……」

「そこは宗教人としてキリストとか言っておいた方がですねぇ……」

「うち、神道だろう……」

 

十字磔のような姿で晒されているマチカネフクキタルとフクトレーナー。

 

「お、お姉さま……お膝が、お膝が痺れて……」

「耐えるのライスちゃん……これを耐えきったとき、きっと更なる力が……」

「ふえぇ……何かに押さえつけられて身動きできないよぉ……」

 

芝生の上に何かの力で強制正座をさせられているライスシャワーとライストレーナー。

 

四人の前には、『私たちがやりました』と書かれた看板が建てられていた。

 

それを人だかりの中から眺めながら、アグネスタキオンとモルモットは。

 

「……私たちは逃げなくてよかったかもしれないねぇ……」

「恐怖ではあったが……一瞬で済んだからな……」

 

自らの身にも降り掛かったかもしれない惨状に身震いしていた。

 

「良かったですね……本当に、あのとき逃げないで……」

 

そしてふわりと、その背後よりマンハッタンカフェ。

 

「ひいっ?! マンハッタンカフェ!」

「た、頼むカフェ! もう耐久お友だちくすぐりタイムは許してくれ……!」

 

怯えるモルモットとタキオン。

仄暗い笑みを浮かべてにじり寄るカフェ。

三者の緊張がピークに達したとき、その後ろから……。

 

「こら、お友だち。いつまでも虐めないの」

 

カフェのトレーナーが現れ、カフェの頭を小突いた……いや、よく見るとカフェの前髪には流星があり……。

 

「もうっ! 私のふりして変なことしないで!」

 

更に遠くから、四人を見つけて駆け寄ってくるカフェ。

タキオンとモルモットが目を白黒させていると、お友だちはぺろりと舌を出して。

クスクスと笑いながら、その姿を消していった。

 

「なぁ……お友だちとやらさ、前にも増して自由奔放になってきてないか……?」

「そうなぁ……もう少し落ち着いてほしいんだけど……」

 

モルモットの言葉に、トレーナーは苦笑する。

けれどトレーナーには、今のお友だちは活き活きしているように見えて。

前よりも楽しそうに時間を過ごすお友だちに、嬉しさも感じていて。

 

「……トレーナーさん、またお友だちのこと考えてますね……」

「えっ、いやまぁ、その……」

「つーん……今日のお弁当、あげるのやめました」

「ええっ!? ごめんカフェ!」

 

慌てて謝るトレーナー。

その肩を、誰かがちょんちょんと突いて。

 

振り返るとトレーナーとカフェだけに見えるお友だちが、少し恥ずかしそうにお弁当箱を差し出していた。

 

「あ、くれるのか?」

「!! 待って、待ってください! あげます、あげますから私が作ったお弁当!」

「だ、大丈夫だから! 両方食べるから!!」

 

一転、必死にお弁当をトレーナーに押し付けるカフェと、楽しそうにクスクス笑うお友だち。

お友だちが見えずに状況を理解できないタキオンとモルモットは。

 

「アイツ……とうとう可能性の先を光景を見始めちまったのかな……」

「……なんだか羨ましくないねぇ……」

 

青春なのかホラーなのか分からない光景に。

どういった感情を抱けばいいのか、頭を悩ませていた。




アグネスタキオンだ!
カフェとお友だちは一心同体……今日はお友だちがしっとりしていたねぇ……。
確かに、互いに影響しあっていればこうもなろうさ。

しかしカフェは心が広いねぇ……。
私なら第二の私と薬盛りデットヒートでも繰り広げそうだよ。
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