カフェとトレーナー、時々お友だちと懲りない人々   作:fell@かぶとがに

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学園の流行にかこつけて。
私は、アナタに囁きたい。
この胸の内の想いを。


耳元で、想いを囁いて

「ASMR……ですか」

「うん、最近みんなの間で流行ってるんだって」

 

カフェテリアでコーヒーを飲んでいたら、ライスさんがそんなことを言い出しました。

 

ASMR……概要は知っています。

環境音、咀嚼音、話し声……様々な音を耳元で流しそれに包まれて浸ることで、リラックスしたり快感を覚えたり……。

試したことはありません。

 

「知ってはいますが……それがなにか?」

「お姉さまもハマってるらしくてこの前お部屋で聴いててね、すごく気持ちよさそうにしてたから、カフェさんも良かったら一緒に試してみないかな……なんて……」

 

お姉さまの光景を思い出したのか。

ライスさんは頬を赤らめて、尻すぼみな声で俯いてしまいました。

 

何となく想像がつきます。

ライストレーナーさんが天井を仰ぎながら口が半開きで悦に浸っている様が。

あの人見かけは凄く美人なのに、時々凄く残念な姿を見かけるんですよね……。

 

「いいですけど……音源はあるんですか?」

「あ、うん。お姉さまにオススメをいくつか貰ったの」

 

そう言いながら、ライスさんが鞄からスマホを取り出します。

画面を見せてもらうと、ラーメン、森の中、焚き火、海などなど……色々な音のタイトルが表示されていました。

 

なるほど、全部が全部万人に受け入れられるわけではなさそうですが。

他にもたくさんの種類があるであろうことを考えると、誰しも何かしらヒットするものはありそうです。

 

……最下段にちらりと見えた、催眠、というのは見なかったことにしました。

なんだかいかがわしい気配がします……。

 

「ライスさんは試してみたんですか?」

「ううん、まだだよ。誰かと一緒にやってみようかと思って」

 

ウララちゃんは遠征中だし、ブルボンさんはイヤホンを壊しちゃうからやめとくって、と。

ライスさんは少し寂しそうに呟きました。

そんな顔をされてしまうと、非常に断りづらいです……。

 

「……いいですよ、お付き合いします。聴いてみましょうか」

「ほんと!? ありがとう、カフェさん!」

 

ライスさんの嬉しそうな声を背に、自分の鞄からイヤホンを取り出します。

北欧メーカーのカナル型イヤホン。

 

頻繁に使っているわけではないですが。

コーヒーを飲みながら雰囲気に浸りたいときなどにたまに使っています。

トレーナーさんと仲を深めてからは、少し出番が減りました。

 

「わ、かっこいいイヤホンだね」

「このあたりのメーカーのデザインが好きですし、あまり誇張されない自然な音が好きなの……で……!?」

 

取り出して前を向いて、驚愕しました。

 

ライスさんは、音楽現場の収録などに使われるような、ゴツゴツとした大型のプロ仕様のモニターヘッドホンを首にかけていました。

それ、ヒト用だと思うんですが……。

 

「……それで聴くんですか?」

「あ、ううん。これお姉さまから貰ったの。首からかけてるとかっこいいでしょ?」

 

そう言ってライスさんは、新しいお洋服を貰った子どものように嬉しそうにくるりと回りました。

 

首から上は西海岸のラッパーのような装いですが。

この前担いでいたカセットデッキもライスさんの趣味だったんでしょうか……。

 

いそいそとウマ娘用イヤホンを取り出すライスさん。

そちらはブルーの可愛らしいデザインです。安心しました。

 

「それじゃあ、ライスから聴いてみるね……」

 

イヤホンを耳に、そしてスマホを操作するライスさん。

画面に表示されているのはラーメンの文字。

 

再生ボタンを押してしばらくすると、イヤホンから微かに麺を啜る音が漏れ出しました。

 

「あ……ラーメンだ……うわあ、美味しそう……ああ、食べたいなぁ……あのお店の……」

 

ライスさんは目を閉じ、流れる音に集中しています。

時折何かを咀嚼するように、夢を見ているかのようにゆっくりと口を動かしています。

 

しばらくして音が止むと、ライスさんはぼーっとした表情で微笑みました。

 

「美味しかったあ……」

「いえ、食べてませんけど……」

 

イヤホンをしているライスさんには、私の声は届かなかったようです。

続いてもう一つ、ライスさんは再生しようとしたのですが……。

 

「あっ、指が滑って……」

 

押してしまったのは…………催眠、の文字。

 

「ひぅっ!?」

 

ライスさんの尻尾と耳がピンと立ちました。

天井を斜めに見上げ、その頬は紅潮しています。

半眼で口が僅かに開き、そこから熱っぽい息が漏れていました。

 

「あっ……だめ、だめだよ……そんな……お姉さま、ぁ……あ……」

「あ、あの……ライスさん……?」

 

私の声は全く聞こえていません。

次第にライスさんの身体が震えだし、呼吸も荒くなってきて……。

 

なんだか不味そうなので、スマホを奪い取って音声を止めて。

イヤホンをライスさんの耳から外しました。

 

「ら、ライスさん、大丈夫ですか……?」

「ASMR……すごいね、お姉さま……」

 

未だライスさんはナニカに陶酔しきっていて。

危険を感じたため、とりあえず頭にチョップを落としました。

 

「ぴっ」

 

小さく鳴き声を上げ、ライスさんが頭を抱えます。

小動物ですかアナタは。

 

しばらく頭を擦ったあと、どうやら正気に戻れたようでした。

 

「あ、ありがとね、カフェさん……」

「……では、私はこれで」

 

私はいそいそと荷物を纏めようとします。

ですが、その腕をライスさんに掴まれて。

 

「待ってえ! カフェさんもやろうよASMR!」

「ええい、放してください! こんな危険な部屋にはいられません!」

「死んじゃうよお! カフェさんそれ雪山のロッジで殺されちゃうよお!」

 

ハッとして周りを見てみると、観衆がザワザワとざわめいています。

どうやら会話内容は届いておらず、私がライスさんを泣かせているように見えるようです……。

 

私はため息をついて座り直しました。

 

「はぁ……ちょっとだけですからね」

「……うんっ! カフェさんにぴったりなのも用意してるんだよ!」

 

私のイヤホンをスマホに繋ぐと。

ライスさんは意気揚々と音源を選び始めました。

 

「それじゃ、流すね」

「は、はい……」

 

先程のライスさんを思い出し、僅かに緊張が走ります。

人前であんな無様な姿を晒すわけには……。

 

「……あ……」

 

耳に聞こえてくるのは、ざらざらと粒が流れ込む音。

それに続き、めきめきと砕く音が聴こえる……これは……。

 

「コーヒー豆を、挽く音……」

 

聴き慣れた音ですが、こうして耳に深く届くと。

いつもとは違った陶酔感を覚えます。

 

更にそこから今度は……これまた聴き慣れた、お湯を沸かす音。

ポットでしょうか……。

 

そしてぺりぺりと紙を剥がす音。

なるほど、これはドリップコーヒーですね。

 

私はサイフォンを使うことが多いですが。

トレーナーさんが忙しい時などは、時々ドリップに頼っています。

 

そこに挽いたコーヒー粉を入れて……沸いたお湯を注いで……。

あ……コーヒーが綺麗に泡立つ音が……泡が膨らむ音が聴こえます……ああ……ここから暫くの後、極上のコーヒーが……。

 

『どうぞ』

 

「っ!?」

 

ビクリと全身が震えます。

聴こえたのは私の声……のように、感じましたが。

 

よくよく聴いてみると、それは私の声ではなく……いつも私と一緒にいる……。

ズズ、と熱いコーヒーを恐る恐る啜る音がして。

 

『うん、上手くなったね、お友だちも』

 

「ぁ……あ……!」

 

脳に突き刺さるように、愛しい人の声が深く深く聴こえました。

 

一番の親友を、最愛の人が褒めている……。

嫉妬で乱されそうになりつつも、どこか、このまま聴いていたいなどと思ってしまう、イケナイ自分がいて……。

 

心なしか、私の吐息も荒くなっています。

 

『カフェのコーヒーと比べて、どうですか……?』

『……正直に言っていいかな?』

『ええ』

『このコーヒーはとても美味しいけど……やっぱり、一番大好きなのは、カフェの味かな』

 

ああ……。

ああ、ああ、ああ……!!

 

大好き。

 

左右の耳の奥まで潜り込んでくるトレーナーさんの穏やかな声が、私をどこまでも狂わせます。

 

大好き……大好き、大好き、大好き!

 

私も大好きです、トレーナーさん……!

 

「……あのー、カフェさん?」

 

何やら声が聞こえますが、私は全く意に介さず……。

 

「カフェさーん、女の子がしちゃいけない顔してますよー?」

 

ふと我に返ると。

目の前には真っ赤になって顔を手で覆うライスさんと、私の顔を心配そうに覗き込むフクキタルさんの姿がありました。

 

「…………はっ!?」

 

慌てて口元を拭います。

どうやら私は緩みきった顔で、少しヨダレも垂れていたようで……。

 

遠くから何度か、ぱしゃりとスマホのシャッター音がした気がします……。

 

「よほどいい音声だったんでしょうねえ……トレセンASMR陶酔ランキング上位に食い込みそうな勢いでしたよ」

 

なんですか、そのランキングは。

 

「ちなみに本日の日刊一位はラーメンASMRを聴いてるファインさんです」

 

何となくランキングの趣旨が分かりました。

 

「カフェさん……凄かったよ……お姉さまみたいな顔で……あんなに……」

「待ってください……この数分の間に私に何が……!?」

 

というかそもそも、先程の音声は……。

 

「……なんでトレーナーさんとお友だちの音声が……?」

「えっ? タキオンさんとモルモットさんが、シャカールさん発明の『隣室の音が距離指定でよく聴こえる君』で録音したって……」

「…………」

 

研究資料を燃やすくらいでは、反省できないみたいですね……。

 

******************

 

ライスさんとフクキタルさんと別れてから。

名案を思いついた私は、トレーナーさんを空き教室へと呼び出しました。

 

空き教室のドアを開けると、既にソファーにトレーナーさんが腰掛けていました。

 

「あ、カフェ。用事ってなんだい?」

「大したことではないですよ……」

 

私はトレーナーさんの隣に腰掛けて。

そして耳元で、小さく、けれどもはっきりと囁きました。

 

「トレーナーさん……大好き、です……」

 

するとトレーナーさんは、ビクリと震えたあと、すぐに耳を押さえて仰け反って。

 

「かかか、カフェ!?」

「ふふ……最近流行りのASMRって、ご存知ですか……?」

「ご、ご存知ですけど」

「ご経験はありますか……?」

「ええと……ライストレーナーに勧められて、何度かは……」

 

またアナタですか……。

 

「でしたら、話は早いですね……」

 

がっしりと、トレーナーさんの身体を抱き締めて逃さないようにします。

何をされるのか薄々勘付いているであろうトレーナーさんは、冷や汗を流しながらこちらを見ました。

 

「あの、カフェさ――」

 

再び、トレーナーさんの耳元で囁きます。

 

「……私だけの、トレーナーさん……」

「っ……!」

 

私の口から漏れる、愛する想いと熱い吐息。

それが耳に届くと、トレーナーさんは軽く俯き、頬を赤らめながら耐えるように深く息を吐きました。

 

「アナタのためなら、私はなんだってできます……なんだって捧げられます……」

 

その手を取って、胸元で握りしめて。

 

「感じてください、私の体温を……鼓動を……」

 

甘く囁くたびに、トレーナーさんの悩ましい吐息が聴こえます。

そうこうしているうちに、私の心も徐々に熱を帯びてしまって……。

 

「ふふ……ばぁか……世界で一番大切な、愛しい人……」

 

トレーナーさんが私の手を握る力も、どんどん強くなっていて。

やり場のない想いを、私の手を握りしめることでなんとか発散しているようで。

 

私は、トレーナーさんの手を握りしめるだけでは物足りず。

トレーナーさんに身体を擦り付けるように抱きついて。

止まらない吐息と共に、想いの丈を囁きかけようとしたとき。

 

「えっ……!?」

 

トレーナーさんがいきなりこちらを向いて。

真っ赤に上気した顔で私の頭を優しく抱え込むと。

耳元で小さく……けれども砂糖菓子のように甘く、囁きました。

 

「愛してるよ、カフェ」

「あ……ぁ……!」

 

『愛してるよ、カフェ』

 

トレーナーさんの声が、何度も何度も耳の奥で、頭の中でリフレインして。

 

漏れる吐息はコーヒーよりも熱くて。

緩む表情はクリームよりも蕩けて。

 

たった一言で心を壊された私は、トレーナーさんに身体を預けるしかありませんでした。

 

「はぁ……はぁっ……とれーなー、さん……」

 

荒い呼吸でトレーナーさんを見上げると。

トレーナーさんもまた、熱っぽい吐息を漏らしていて。

 

「カフェ……」

「とれーなー、さん……私も、愛してる……」

 

互いに顔が近づいていって。

唇が触れ合おうとした、その瞬間。

 

「――ッ!!!」

 

勢いよく空き教室のドアが開き、顔を真っ赤にして怒り顔のお友だちが飛び込んできました。

呆気にとられている私たちに詰め寄ると、涙目で何かを抗議しています。

 

「ええと……要は、自分を除け者にするとは何事だと」

 

トレーナーさんの言葉に、お友だちは頬を膨らませながら何度も頷きます。

私にこっそり黙ってコーヒーを淹れたりしていたのに、盗っ人猛々しいお友だちです。

 

ですがお友だちは尚も納得がいかないようで。

地団駄を踏んでからトレーナーさんの懐に飛び込みました。

 

頭を何度も擦り付け、目を潤ませてトレーナーさんを見上げ、私を指さして抗議を続けています。

 

「……あ、そうだ。なら、アナタもやってみる……?」

 

私は名案を閃き、ポンと手を打ちました。

隣のトレーナーさんを見ると同じことを思いついたらしく、少々意地悪い笑みを浮かべています。

 

「……?」

 

状況を理解していないのは、私たちが単にイチャついてただけだと思っているお友だちのみ。

頬を膨らませたまま、私たちが何やら企んでいるのを察知したのか、少し不安げな表情をしています。

 

「よっこいせっと」

 

トレーナーさんは懐のお友だちを抱き上げると、私とトレーナーさんの間のスペースにぽふんと座らせました。

お友だちは私たちを交互に見比べ、未だに状況を理解できていません。

 

そこで私たちはそんなお友だちの耳元で、左右から同時に囁きかけました。

 

『大好きだよ』

 

びくんと、お友だちが震えました。

その顔はみるみる赤面していき……。

 

『いつもありがとう』

『ずっと一緒だよ』

 

私たちが囁やきかけるたび、お友だちは口をぱくぱくさせながら萎んでいって。

止めは、トレーナーさんの一言でした。

 

「可愛いよ、■■■■」

 

私が教えた、お友だちの名前。

 

耳元で可愛いと囁かれながら名前を呼ばれ、お友だちは完全に轟沈。

真っ赤な顔を両手で覆って、黙り込んでしまいました。

 

「お友だちも乙女なところがあるんだな……いでででで! ほっぺたつねるなって!」

「……つーん」

 

確かにちょっと良いものを見れたとも思っていますが。

それと、トレーナーさんがお友だちに甘い言葉を囁くことへの嫉妬は別問題です。

 

「いたた……でもさ、カフェ」

 

ぷんすか怒りながらそっぽを向く私の耳元に、トレーナーさんの顔が寄せられて、ぼそりと。

 

「嫉妬してるカフェも、とっても可愛いよ」

 

ボンッ、と顔の熱が臨界点を突破して。

お友だちと二人並んで、私も真っ赤な顔を両手で覆う羽目になりました。

 

******************

 

翌日、トレセン学園にて。

掲示板の学園新聞のASMR陶酔ランキング番外編欄に、マンハッタンカフェの幸福そうな顔写真が堂々と貼り出されていた。

 

「いやあ……カフェさんもこんな顔するんですねぇ……」

「私たちはASMR程度では何とも思わなくなってしまったからな……初々しいな……」

 

マチカネフクキタルとフクトレーナーは、達観した表情でカフェの写真を眺めていた。

 

「全く、あたしも罪な女……また一人、迷える子羊ちゃんを沼へ突き落としてしまったわ……」

「あのね、お姉さま……今度は音源じゃなくてね……お姉さまに、直接耳元で……」

「だ、ダメよライスちゃん! その一線を越えてしまったら、あたしたちは……あたしたちは……!!」

 

熱の籠もった視線で見上げるライスシャワーと、一人悶絶して胸を押さえるライストレーナー。

 

そんな四人からコソコソ隠れるように。

アグネスタキオンは一枚の紙を片手に、何度も何度も魔法の呪文を読み上げていた。

 

「モルモットくん……だいす……だい……す……」

 

その顔には脂汗が滲んでおり、この苦行がタキオンに大きな負荷を与えているのが見て取れる。

そんなタキオンの背後からかけられる声。

 

「こんなとこで何してんだタキオン」

「ひっ!? も、モルモットくん!?」

 

慌てて紙を後ろに隠し、引きつった笑みを浮かべながら振り返るタキオン。

モルモットが何か聞こうとすると先手を打ち、饒舌にペラペラと喋り始めた。

 

「いやあ、このところ学園内でASMRとやらが流行っているそうじゃないか! どうやら精神面に大きな影響を与えるようでね……皆は娯楽の一環のように扱っているが、これをレースに向けて実用化したならばメンタル向上に役立つのではないかと思ってねえ! いやいや、決してモルモットくんに気持ちを囁いてみたいだなんて! そして反応を見てみたいだなんて! 思っていないとも、そうだとも!!」

 

語るに落ちたタキオン。

最早聞かなかったフリも難しいモルモットはなんとも言えない表情で、この思春期の少女にどう対応するか頭を悩ませていた。

 

「あー……なら、実験台になってやろうか」

「……! そ、そうだねぇ、是非お願いするよ!」

 

モルモットがしゃがみ込むと、タキオンは今一度カンニングペーパーに目をやって。

覚悟を決めるように大きく深呼吸をしてから、虫のような小さな声で、モルモットの耳元でぼそりと呟いた。

 

「モルモットくん……いつも、ありがとう」

 

モルモットは思ったより普通の言葉に胸を撫で下ろす。

だが、その直後……。

 

「……大好き、だよ」

「いっ……!?」

 

まさかタキオンがそこまで口にするとは思っておらず。

不意打ちを受けたモルモットが視線を向けたときには、タキオンは既に全力で走り去っていた。

 

「……それはちょっと卑怯だって、お前……」

 

モルモットは、自分の鼓動の高鳴りを自覚しながら。

担当愛バとどういう距離を取るべきなのか、悩み始めていた。

 

******************

 

一方、空き教室では。

カフェとお友だちに挟まれてソファーに腰掛けるトレーナーは、真っ赤な顔を両手で覆っていた。

 

「許して……もう許してください……」

「ダメですよ……私たちの想いはこんなものではありませんから……」

「逃げようったって……そうは行かないよ……?」

 

お昼休みの間の約三十分。

トレーナーは絶え間なく続く左右からの愛の囁きに、脳がパンクしそうになっていた。

 

『トレーナーさん……』

『好き……』

『大好き……』

『ずっと一緒……』

『愛してる……』

『アナタは私たちだけのモノ……』

 

囁かれるたび、トレーナーの熱い息が漏れる。

そして囁く二人も、三人だけの世界に浸りきっていて。

 

唇と耳が触れ合いそうなくらい密着しての言葉に、いよいよトレーナーの自制に限界が来そうになっていた、そのとき。

 

「わ、私は何をしてたんだー!」

 

顔を真っ赤にしたタキオンが空き教室に飛び込んできた。

 

「あ、タキオン」

「あ、タキオンさん」

「あ、薪」

 

そして、ソファーで呼吸荒く寄り添う三人を見て。

 

「ここもふしだらじゃないかーー!!」

 

タキオンは大粒の涙を浮かべると、そのまま空き教室を飛び出して走り去っていった。

それを見送りながら、三人は。

 

「……ふしだらでしょうか、私たち……」

「健全、とは言えないだろうなあ……」

「私としては、それはそれで」

 

少し体面を気にして気が抜けたカフェ。

ようやく解放され、安堵しつつ冷静にコメントするトレーナー。

人目を全く気にせず、にこにこしながらトレーナーの膝に寝っ転がるお友だち。

 

昼休み終わりを予告するチャイムが鳴って。

いい加減午後の準備をするか、と、それぞれ素面に戻って重い腰を上げた。




アグネスタキオンだ!
最近は単発怪文書に浮気していたねぇ。
しかし、ASMRがここまで強力な兵器だったとは……。
べ、別に私も味を占めたとか……そんなことはないからねぇ!?
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