日本。門出市。
「うぉぉぉ! 遅刻だー!!」
エンジン音を高らかに鳴らしながら凄まじい速さで一台のバイクが公道を駆ける。ヘルメットの奥で冷や汗をかきながら燈哉は焦っていた。
彼は今まさに遅刻寸前なのだから。腕時計を見ると既に8時15分を過ぎている。待ち合わせの時間は8時20分。このままでは確実に遅刻してしまう。
「急げぇええ!! 間に合ぇええええ!!!」
燈哉は更にアクセルを踏み込む。すれ違った通行人が何事かと振り返る。しかし、それを気にする余裕もない。
「うおおおおお!!!」
遂に燈哉の視界に待ち合わせ場所の公園が見えてくる。中央の噴水広場に眼鏡をかけた少女が立っていた。少女の姿を確認すると同時に燈哉はバイクを止めて飛び降りた。そして、そのまま全速力で走り出す。
「ハァッ……ハァッ……!」
息も絶え絶えになりながらも何とか少女の元へ辿り着く。時計を見ると8時19分。
「セーフ!!」
そう言って燈哉は両手を上げてガッツポーズを取る。
「あはは…………」
そんな燈哉を曖昧な表情で見つめるのは、彼の友人である
「えーっと…………何かあったの?」
「ああ、実はな……。楽しみ過ぎて眠れませんでした」
燈哉は真剣な表情でサムズアップ。
「だから遅刻しそうになったんだ……」
その理由に紗耶は苦笑いを浮かべる。
「楽しみにしてたもんね。博物館に行くの」
「お前もだろ」
二人は見つめ合って笑う。
「何はともあれ、久しぶりだね、燈哉」
「おう! 元気してたか? 紗耶」
二人は笑顔で握手を交わす。燈哉と紗耶は小学生の頃からの付き合いであり、親友同士と言っても過言ではない。
燈哉は幼い頃から冒険家に憧れており、高校卒業と共に世界各地を旅している。世界の全てを見ると言う夢に向かって。
一方、紗耶は大学にて伝承や神話等を学び、研究していた。いつか世界の謎を解き明かすと言う夢の為に。
「うん。今回はどこの遺跡に行ったんだっけ?」
「カナダの遺跡だな」
「カナダかぁ……。どんなところだった?」
「そうだな。珍しい物は無かったけど、ナイアガラの滝は迫力満点だったし、他の観光地も見てきた」
燈哉が得意気に答える。
「へぇ~、いいなぁ……」
「あ、そうだ。これお土産」
燈哉は鞄から小さな箱を取り出して紗耶に手渡す。
その中身は蜘蛛の巣のような円に鳥の羽根がついたお守りだった。
「これは……ドリームキャッチャー?」
「ああ。幸運のお守り。お前には世話になってるし」
「ありがとう。大事にするね」
「おう!」
紗耶は屈託ない笑顔で燈哉を見上げる。
燈哉は照れ臭そうな表情を浮かべる。
「それじゃあ、そろそろ行こうぜ!」
「うん、そうだね」
燈哉はヘルメットを紗耶に渡す。自らもヘルメットを被り、二人はバイクに乗ると再びエンジンを吹かす。
二人を乗せたバイクが勢いよく発進した。
「博物館に到着だ!」
燈哉がバイクを止めると、紗耶が降りる。
続いて燈哉も降りた。バイクを駐車スペースに停め、二人は博物館の中へ入っていく。博物館の中に入った二人を怒号が出迎える。見ると、フロアの片隅で館長と思わしきスーツ姿の男性と燈哉と同年代位の青年が言い争っていた。
「ですから! 無理なモノは無理です!!」
「そこをなんとかお願いします!」
青年が必死に頭を下げる。
「どうしてもですか?」
「残念ですが、それだけは無理です」
「…………そうですか。分かりました。出直してきます」
青年はそう言って一度礼をすると、踵を返す。そのまま博物館を後にするのだった。
「何だったんだ?」
一部始終を見ながら燈哉達は首を傾げた。
薄暗い部屋。石畳で出来たその部屋の中央には丸テーブルがあり、そこでは1人の男が酒盛りをしていた。
額から左眼にかけて大きな傷が特徴的であり、服装もまた奇抜だった。黒を基調としたタキシードは、肩口が大きく開らいており、肌色が露出していた。その露出された肩からは赤い刺青が見える。それは竜を模した入れ墨であった。
その手に握られているグラスの中で上質なワインが揺らめいている
男の足元には中身が空になったボトルが幾つも散乱していた。
「失礼します」
その声と共にドアの開く音で男の視線がそちらを向く。
ドアの前にに立っていたのは灰色のローブを着た白髪の青年であった。その容姿は中性的で、一見すると女性にも見えるほど美しい顔立ちをしている。だが、声の低さと喉仏があることから男性だと分かる。
その青年は静かに部屋に入ってくると、テーブルに新聞紙を置く。そして、男の前で恭しく片膝をつく。まるで主に仕える臣下のように。
「お楽しみの最中、申し訳ありません。アームズトロフィーが見つかりました」
男が新聞紙を手に取る。そこに書かれていたのは門出市記念博物館に寄贈されたトロフィー型の出土品についての記事であった。
「そうか。ご苦労だったな」
男が邪悪な笑みを浮かべ、テーブルの上に置かれている小さなベルを鳴らす。その音を合図に男の前にどこからともなく数多の蝙蝠が出現。蝙蝠の群れは一箇所に群がり人型のシルエットに変わる。
「お呼びでしょうか、ファブニール様」
そして現れたのは異形の姿をした怪人だった。人間に近い姿形をしているものの皮膚の色は紫色をしており、口には鋭く尖った牙が生えていて、まるで吸血鬼の様だ。両手には鋭い爪が備わっていて背中にある大きな翼はコウモリのそれだった。
「ヴァンパイアレジェスター。お前に仕事をくれてやる。アームズトロフィーを奪ってこい」
「はっ!」
ファブニールと呼ばれた男の命令を受け、異形の怪人、ヴァンパイアレジェスターは頭を下げ傅く。その後、すぐに立ち上がり、再び蝙蝠の群れへと変わり闇に消える。
それを満足げな表情で見つめながらファブニールはワインを口に運ぶのだった。
先程の諍いから数分後。気を取り直し二人は博物館を歩く。向かった場所は数多の展示品が並ぶフロアとなっていた。
「うわぁ~、凄いなぁ…………」
紗耶が目を輝かせながら呟く。そこにあったのは、門出市内外で出土した土器や石器などの化石類から、歴史資料まで様々だ。
それらを見ながら二人はさらに歩く。しばらくして、あるフロアにたどり着く。そこにはガラスケースに囲われた展示物が置かれていた。
「これか! つい最近寄贈された出土品ってのは」
そこに置かれていたのは、新聞記事にも載っていたトロフィー型の出土品だった。ブロンズの台座の上に日本刀が突き刺さったそのトロフィーは照明に照らされ、刃の部分が赤紫色の輝きを放っている。
「そうみたい。……でも不思議だよね。このトロフィーが造られた時代は推定でも約3万年は前って記事には書かれてて。つまり縄文時代よりさらに前に造られた事になるの」
「でもこれ、日本刀の形してるぜ」
紗耶の解説に燈哉は驚きながらトロフィーを指差す。
「そうなの。日本刀が生まれたのが最も古い物でも古墳時代。のはずだったんだよ、今までは」
「じゃあ…………これは!」
「うん。つまりこのトロフィーには私達がまだ知らない世界の真実が隠されてるって事だよ」
「マジかよ……!」
燈哉は嬉しそうに笑う。
「燈哉、嬉しそうだね」
「当たり前だろ!世界にはまだ不思議な事であふれてるんだから。俺もいつか世紀の大発見をしてやるぜ」
燈哉と紗耶はその不思議なトロフィーを見つめていた。その時である。
「キャァァァァァ!!」
絹を裂く様な悲鳴が上がる。声の先には数多の蝙蝠が渦巻いていた。やがて、蝙蝠達が群がり、ヴァンパイアレジェスターを形作る。その異様な光景に周囲の人々は騒然としている。
「さて、アームズトロフィーは何処だ?」
周りの事など気にせんとばかりにヴァンパイアレジェスターは展示品を見渡しながら歩みを進める。
「何だありゃ!?」
燈哉もまた、目の前の光景に呆然としていた。
「動くな!化け物!!」
ヴァンパイアレジェスターの背後から警備員達が現れる。手には警棒を構えている。しかし、ヴァンパイアレジェスターは警備員達を一瞥した後、特に気にした様子もなくまた歩みを進める。
「こいつ!」
その態度に腹を立てた警備員の1人が警棒を振り上げ、駆け出す。警棒がヴァンパイアレジェスターの背中に直撃する。だが、ビクともしない。
「なんだと!」
警備員は驚くと同時に恐怖に慄く。
「おい、貴様」
ヴァンパイアレジェスターが振り返り、警備員の首を掴む。そのまま、警備員の体を持ち上げる。
「人間風情がこのオレの邪魔をするな!!!」
怒りの形相を浮かべ、ヴァンパイアレジェスターは手に力を込める。
「ぐあっ!!」
鈍い音を立て、警備員の首が絞まる。口から泡を吹き、警備員の体がだらりと垂れ下がる。フン、と鼻を鳴らすと、ヴァンパイアレジェスターは警備員を放り投げる。警備員は地面を転がり、燈哉達の目の前で止まる。その命が事切れている事は燈哉達の目にも明らかだった。
「ひっ!?」
恐怖で力が抜けたのだろう。紗耶は尻もちをつく。その拍子に、トロフィーの置かれたガラスケースにぶつかり、激しい音が響く。
「ん?」
ヴァンパイアレジェスターの視線が紗耶を向く。いや、正確には紗耶の近くにあるトロフィーにだ。
「そこにあったか、アームズトロフィー!」
ヴァンパイアレジェスターの顔が喜色に染まる。そして、意気揚々と向かってくる。
「やべぇ! 紗耶、逃げるぞ!!」
「ごめん。足が……」
紗耶の足が震えている。恐怖で体が動かないのだ。
「クソッ!」
燈哉は絶命した警備員から警棒を拝借。紗耶を庇う様に前に出る。
「お前の相手はこの俺だ!」
「ほう? 威勢の良い人間がいたものだ」
ヴァンパイアレジェスターは嘲笑う。燈哉は警棒を構える。
「さあ、来いよ」
燈哉の挑発を受け、ヴァンパイアレジェスターはゆっくりと近づく。
燈哉は警棒を振る。ヴァンパイアレジェスターはそれを難なくキャッチ。そのまま握り潰す。
「どうした? そんな攻撃ではオレを倒すことなど出来んぞ?」
ヴァンパイアレジェスターは不敵に笑う。
「クソッ!」
燈哉は悔しそうに唇を噛む。
「さて、そろそろ終わりにしてやろう」
ヴァンパイアレジェスターが燈哉の腕を掴むと、展示品目掛けて投げ飛ばす。
衝撃によりガラスケースが割れ、中のトロフィーが地面に落ちる。
「ガハッ!」
壁に叩きつけられた燈哉はそのまま力無く倒れる。
「燈哉!!!」
紗耶が叫ぶ。ヴァンパイアレジェスターが紗耶を見つめる。
「ほう。中々に美味そうな娘ではないか。ついでに食ってやろう」
ヴァンパイアレジェスターが舌舐めずりする。
「ひぃ……!」
青褪めた顔で紗耶が悲鳴を上げる。恐怖に怯えたその表情を見ながら、ヴァンパイアレジェスターが紗耶へと迫る。
「諦めろ。貴様はここで終わる運命なのだ」
ヴァンパイアレジェスターが紗耶へと手を伸ばしたその時、背後に衝撃が走る。ぶつかって来たのは燈哉だった。服はボロボロ、顔には血が滲んでいる。だが、その瞳はまだ死んでいない。
「貴様か。いい加減しつこいぞ!」
「へっ! 俺は諦めが悪いんだよ!」
燈哉が拳を振り上げる。
「ふん。無駄な事を」
ヴァンパイアレジェスターは軽くあしらう。
燈哉の拳が空を切った。
「何度やっても結果は同じだ」
ヴァンパイアレジェスターは余裕の笑みを浮かべながら、燈哉を嘲笑う。
「だとしても俺は諦めない! 俺の運命は、俺のこの手で斬り拓く!!」
瞬間、燈哉のその声に呼応する様にトロフィーが光輝き宙に浮く。そして、光からベルトが現れ、燈哉の腰に巻き付く。
<ヒロイックドライバー!>
ベルトの中央にスロットがあり、右側に装飾の無い人の顔が刻まれている。
燈哉は眼前のトロフィーを掴む。
「うえっ!?」
燈哉の脳裏に濁流の様に情報が流れ込む。それはこのトロフィーの使い方。刀を手にした仮面の戦士の光景。
「これなら行ける!!」
燈哉はゆっくりと顔を上げる。そして、トロフィーの上部を掌で押し込む。
<ムラマサ!>
ベルトのスロットにトロフィーを勢い良くセット。
「変身!!」
右手の親指でベルトの真横に付いたボタンを押す。
瞬間、トロフィーの右横に付いたプレートが左側へ展開。ベルトに刻まれた顔と重なり、侍を思わせる顔に変化。
<抜刀!決闘!激闘!妖刀の戦士!!>
燈哉の目の前で空から日本刀が床に突き刺さる。日本刀より10の赤紫色の人魂と1つの青白い人魂が出現。赤紫色の人魂が手や足へと次々に纏わり付き、鎧となって装着され、最後に青白い人魂が顔に張り付く。
<ムラマサブレード!>
光が収まり、姿を現したのは、黒のアンダースーツに赤紫色の鎧を纏った戦士。後頭部から刀の柄の部分がちょんまげの様に突き刺さり、額には2つの刀身が交差した冠が付いている。
「姿が変わった……。」
紗耶が目を見開く。
「そんな馬鹿な!仮面ライダーになっただと!!」
ヴァンパイアレジェスターもまた、燈哉の姿に驚愕を顕にする。
(いや、恐れるな。奴は今始めて変身した。つまり、勝機はある。)
そう思い直したヴァンパイアレジェスターは燈哉へ向って飛びかかる。
「フッ!」
燈哉は左手に持った鞘から日本刀<妖刀ムラマサ>を抜き、向かってくるヴァンパイアレジェスターへ応戦。
「何!?」
ヴァンパイアレジェスターの拳を受け止め、そのまま弾き返す。更に踏み込みながら渾身の一閃を放つ。
「グァァァァ!?」
ヴァンパイアレジェスターが壁に激突。そのままの勢いで、外へ吹っ飛ぶ。
「凄い……」
紗耶はその力に感嘆の声をあげる。
燈哉はヴァンパイアレジェスターを追い外へ向かう。そこには肩を押さえた立ち上がるヴァンパイアレジェスターがいた。
「ハア……ハア……貴様ァ!!」
怒りの形相を浮かべて襲いくるヴァンパイアレジェスター。
しかし、燈哉はそれを冷静に見据えると、静かに構えを取る。
「フゥー」
息を整え、集中力を研ぎ澄ます。
「セヤッ!!」
燈哉の鋭い一撃がヴァンパイアレジェスターの腹部に命中する。衝撃に吹き飛ばされ、ヴァンパイアレジェスターは地面を転がり、うつ伏せに倒れる。
「これで終わりだ!!」
ベルトのトロフィーを引き抜き、妖刀ムラマサの柄にあるスロットへと取り付ける。
<ムラマサ!>
そして、刀に付いた引き金を引く。
<必殺神技!!>
妖刀ムラマサを赤紫のオーラが包む。燈哉が妖刀ムラマサを振り上げる。
「ハアッ!」
その刃を倒れ伏すヴァンパイアレジェスターへと振り下ろす。妖刀ムラマサから放たれた斬撃がヴァンパイアレジェスターを切り裂く。
「グワァァァ!!!」
断末魔と共に爆発。戦いを終えた燈哉は変身を解き、元の姿に戻る。
そこへ、椿坂紗耶が駆け寄ってくる。
「燈哉、大丈夫? 怪我は無い?」
「ああ、なんとかな。そっちこそ怪我は無いか?」
「うん、私は平気だよ」
2人は互いの無事を確認し、安堵のため息をつく。
「それにしても、さっきの姿は何だったの? 見たことないけど……」
「ああ。あれは、」
その時だった。爆発で発生した炎から無数の何かが燈哉達目掛けて飛来する。それは4、5羽の蝙蝠だった。蝙蝠達は一塊となりヴァンパイアレジェスターの上半身を形成。
「クソッ!せめて貴様だけでも道連れだ!!」
ヴァンパイアレジェスターの鋭い爪が迫る。
だが、燈哉達は動けない。完全に油断していた事が災いして、体が反応出来ない。
(マズイ!?)
走馬灯の様に周囲の流れがスローモーションに映る。迫り来るヴァンパイアレジェスターの爪を見て、燈哉は死を覚悟する。
しかし、次の瞬間、人影が割り込み、ヴァンパイアレジェスターを叩き斬る。そして、断末魔を上げることも叶わず塵と消える。
「「えっ!?」」
燈哉と紗耶は驚きの声を上げる。そこに立っていたのは、騎士だ。青いアンダースーツに白銀の鎧を装着した騎士が立っていた。そして、騎士はゆっくりとこちらを振り返り…………。