仮面ライダー神器   作:puls9

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第十六節 黒鉄の戦士、始動

荒波が絶え間なく生まれては消えていく海の上。一隻の漁船が漁をしていた。

 

「せーのっ!」

「おう、こりゃ大漁だ! 今夜はご馳走だな!」

 

船上のクレーンが動く。海面から網が引き上げられた。そこには大量の魚が入っている。乗組員たちはその光景にご満悦の様子だ。しかしその喜びは長く続かなかった。突如、上空に雲がかかる。それは雷を伴った積乱雲だった。

 

「いかん! 総員、撤収するぞ!」

 

立派な髭を蓄えた船長らしき男が叫ぶ。しかし時すでに遅し。大粒の雨が降り注ぎ、瞬く間に嵐となった。雷が落ち、耳を劈くような轟音が響く。

 

「な、何だありゃ!?」

 

そこで乗組員達は見た。嵐の中に巨大な影を。それは大きな翼を持った怪物の姿。瞬間、突風が吹き荒れ、波が船を飲み込んだ。船が転覆し、海の底へと沈んでいった。

 

「さぁ、見えてきたぞ。我らが栄光の地」

 

怪物が遥か向こうに視線を送る。その先には日本列島があった。怪物は翼をはためかせ、再び動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

石畳の部屋。そこには多くのレジェスター達がひしめき合っていた。おなじみのウェアウルフにヴァンパイア。他所からやって来たカッパやセイレーン等が所狭しと集結している。その中央。豪華絢爛な椅子の前で一際体格の大きいウェアウルフレジェスターが拳を掲げ宣言する。

 

「ファブニールはもういない! これより、この俺様がここを統べるリーダーだ!」

 

その言葉に賛同するように腰ぎんちゃくらしきウェアウルフ達が雄叫びをあげる。だが当然、その声に異が唱えられた。

 

「愚かな事を。腕力が取り柄なだけの犬畜生に務まるものか」

 

不気味な仮面をつけたヴァンパイアレジェスターが鼻で笑う。取り巻きのヴァンパイアレジェスター達が口元を手で覆い、嘲笑している。

 

「リーダーの座はヴァンパイアレジェスターの中で最も高貴なるこの私にこそ相応しい」

 

酔いしれるように両手を広げる仮面のヴァンパイアレジェスター。だが、さらに異を唱える者達の声があがった。

 

「だったら、ワタシでも良いんじゃな〜い?」

「そうだそうだ。我らカッパレジェスターにもチャンスは有る!」

 

セイレーンやカッパ達が口々に言う。代表者達の視線がぶつかる睨み合いだ。

 

「なら、僕も立候補しようかな?」

 

後方から手が挙がる。レジェスター達の間を掻き分け出てきたのはアスクだった。

 

「プッ! アッハッハハッ!!」

 

その姿を認識し、集ったレジェスター達が嗤う。石畳の部屋は爆笑の渦に包まれた。

 

「お前がリーダー? おいおい、冗談はよせよ!」

「そうだぞ。お前みたいな半端者がリーダーなぞ笑わせる」

 

笑い声が響き渡る中、アスクだけはその端正な顔から表情を崩さない。レジェスター達の罵倒にも動じていないようだ。

 

「この中で強いものこそがリーダーに相応しい。なら僕にも資格は有ると思うんだけどなぁ〜」

 

椅子の前に近づき、反転。全員が見える位置に移動したアスクが懐からあるレジェスタートロフィーを取り出した。その正体を見て、笑い声が止まる。何故ならアスクの手に握られていたのはファブニールレジェスタートロフィーだったからだ。

 

「ねぇ、君達は知ってる? 何故、レジェスターは仮面ライダーに変身しないのか」

 

出来ないでは無く、しない。明確な理由がそこには有る。そしてそれはここにいる者全員が知っている事でもある。

 

「例えば、鋭い牙を持つ者がいたとしよう。仮面に覆われては噛みつく事も出来ない」

「例えば、空を飛ぶ為の羽があったとしよう。装甲に阻まれ空も飛べない」

 

アスクは口元を吊り上げた。ここからが本題だと言うように。

 

「でも僕は違う。君達の言うように半端者だ。だからこそ、この力を使うメリットが存在する」

 

アスクに怪人態は存在しない。鋭い牙も空飛ぶ羽も無い。故に、彼だけが次の行動に意味を持つ。懐から別のトロフィーを取り出した。ファブニールを討ち取ったあのアームズトロフィーだ。

 

<ヒロイックドライバー!>

 

アスクがトロフィーを腰に翳し、ドライバーが装着される。すかさずトロフィーを押し込み、起動させた。

 

<グラム!>

 

ベルトにトロフィーをセット。歓喜に満ちた表情で言葉を紡ぐ。

 

「変身」

 

ベルトのボタンを押す。トロフィー横のプレートが展開。ベルトに北欧の戦士の顔が出来上がった。

 

<龍殺しの魔剣!DEAD END!!>

 

アスクの目の前で漆黒のロングソードが現れる。ロングソードから黒い龍が亡霊のように揺らめき、アスクに纏わり付いた。

 

<グラムファイター!>

 

全身を覆う白のアンダースーツに、漆黒のラメラーアーマー。頭部には龍の顎を模した仮面。変身の完了と共に、複眼が赤色に輝く。

 

「リーダーとして君達に最初の命令を与える」

 

黒鉄の戦士、仮面ライダーアスクが龍殺剣<グラム>を引き抜き、その切っ先を向ける。

 

「全員、死ね」

 

瞬間、仮面のヴァンパイアレジェスターの首が飛ぶ。あっという間に距離を詰めたアスクがグラムを振るい、その剣先から血が滴り落ちる。

 

「えっ」

 

静謐な石畳の部屋にレジェスタートロフィーの落ちる音が響く。それが合図だったかのようにレジェスター達がハッと我に返る。

 

「貴様!」

 

最初に動き出したのは取り巻きのヴァンパイアレジェスター達。鋭い牙を剥き出しに飛びかかる。

アスクは慌てる様子もなく、軽くいなすと次々と切り捨てていく。ある者は胴体を泣き別れにし。またある者は縦に真っ二つ。瞬く間に、ヴァンパイアレジェスター達が全滅した。

 

「ヤバい! に、逃げろ!」

 

誰かが叫ぶ。レジェスター達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出し始めた。

 

「逃がすわけないだろ」

 

アスクが逃げるレジェスター達を背後から切り伏せていく。カッパレジェスターを背後から切り裂き、セイレーンレジェスターにグラムを投げつける。

 

「ひっ!?」

 

振り返ったセイレーンレジェスターは胸部を貫かれて沈黙する。それを踏み越え、向かってくるウェアウルフレジェスターに足払い。倒れた所で容赦なく脳天にグラムを突き刺した。

 

「ふーむ。逃げられたか……」

 

部屋には多くのレジェスタートロフィーが散らばっている。しかし、数が合わない。一部のレジェスター達はここから脱出したようだ。

 

「それじゃあ、楽しい鬼ごっこを始めようか」

 

仮面の奥で加虐的な笑みを浮かべ、アスクが部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺達の勝利を祝して!」

「乾杯!!」

 

門出市の公園。その屋根付きの休憩スペースにて、燈哉がオレンジジュースの入った缶を掲げる。

 

「「……」」

 

それを見つめる目が三つ。右に卓人、左の桃、テーブルを挟んで紗耶が座っていた。桃は呆れた目で、卓人が苦笑している。

 

「か、かんぱーい」

 

唯一、紗耶だけが空気を読んで乾杯してくれた。緑地のペットボトルを手に気遣わしげな顔で燈哉を見ている。その優しさに燈哉の心は救われた。

 

「何、お気楽な事を言ってるのよ」

 

桃が頬杖をついて言う。

 

「結局、ファブニールのレジェスタートロフィーは見つからなかったのよ」

 

ファブニールとの戦いの後、その周辺でトロフィーは見つからなかった。多くの人々は戦いの最中に避難した事もあり、誰かが持ち去ったとは考えづらい。

 

「最悪、ファブニールが生きている可能性もある」

 

卓人がブラック缶コーヒーを啜る。その表情は硬い。

 

「大丈夫だって。俺達には新しい力がある」

 

燈哉が五つのアームズトロフィーをテーブルに置く。オニマル、ジュズマル、ドウジキリ、ミカヅキ、オオデンタ。天下五剣の名を冠するそのトロフィー達を眺めながら笑う。

 

「それでもギリギリだったじゃない」

 

桃は微糖の缶コーヒーを手で玩びながら燈哉を睨む。

 

「だったら強くなればいいだろ? 仮にファブニールが生きてたとしても、ダメージは大きいだろうから暫くは動けない」

「その間に俺達が強くなって、ファブニール? 俺達三人で余裕だぜ! って勝ち誇ってやればいいさ」

 

燈哉は屈託のない笑顔で親指を立てる。どこまでも前向きなその様子に、もはや何も言えない。卓人と桃は閉口した。

その時、悲鳴が聞こえてくる。

 

「どけ!」

 

ウェアウルフレジェスターが一体、行き交う人々を突き飛ばしながら疾走していた。何かを警戒するように頻りに周囲を見渡している。

 

「レジェスター!」

 

燈哉達が椅子から立ち上がり、駆け出す。すぐさまウェアウルフレジェスターの前に立ちはだかった。

 

「待て!」

 

ウェアウルフレジェスターが足を止める。

 

「仮面ライダー!? クソッ! こんな時に」

 

ウェアウルフレジェスターが舌打ちする。冷や汗をかき焦った表情をしていた。

 

「最後の一体、見〜っけ!」

 

ウェアウルフレジェスターの背後より声がかかる。それはとても上機嫌で楽しげな声だ。ウェアウルフレジェスターがビクリと肩を震わせ、怯えながら振り返る。そこに居たのは漆黒の仮面ライダー。即ち、アスクだった。手には網目状の袋を持っており、その中には複数のレジェスタートロフィーが入っている。

 

「仮面ライダー!?」

 

背後から現れた人物を見て、燈哉達も驚愕に目を見開いた。グラムを肩に担ぎ、アスクはゆっくりとウェアウルフレジェスターに近づいていく。

 

「ヒッ! く、来るな!」

 

ウェアウルフレジェスターが一歩、後退る。その顔は真っ青だ。

 

「俺が悪かった! お前に忠誠を誓う! 何だってする! だから命だけは助けてくれ!」

 

耳をペタリと倒し、土下座でもするように必死に訴えるウェアウルフレジェスター。もはや威厳の欠片もない。

 

「ふーん。で?」

 

アスクが興味なさげに足を進め、目と鼻の先まで接近する。

 

「残念だけど、君を殺すのは既定路線なんだ。どのみち、勝てないからって媚びへつらう奴なんて要らないしね」

「この……ちっくしょう!!」

 

自棄になったウェアウルフレジェスターが爪を伸ばし突き出した。破れかぶれの一撃に価値はなく、アスクのグラムが難なく弾き返す。そのまま回し蹴りで追い打ち。吹っ飛ばされたウェアウルフレジェスターが地面を転がる。

 

「はい、おしまい」

<グラム!>

<必殺神技!!>

 

トロフィーをグラムにセット。グラムの刀身が赤く輝く。

 

「ハアッ!」

 

グラムから放たれた斬撃が龍を形取り、ウェアウルフレジェスターを喰らう。

 

「ぎぃやぁぁああぁあああ!!」

 

ウェアウルフレジェスターの断末魔が轟く。赤い刃は一撃で肉片となったウェアウルフレジェスターを粉砕し、消滅させた。

 

「さて、」

 

アスクが燈哉達に向き直る。変身を解除し、その姿を晒す。その正体を見て、燈哉達は二度目の驚愕を迎えた。

 

「アスク!?」

 

アスクの姿を見て燈哉は口を大きく開けて絶句する。その反応にアスクがニヤリと笑う。

 

「やぁ、久しぶりだね。トーヤ」

「なんでお前が!? ていうか、仮面ライダーだったのか……」

 

燈哉は狼狽。面白い程、動揺していた。

 

「うん。折角だ、挨拶していこう」

 

顎に手をあて一人ごちると、アスクは仰々しく両手を広げ、優雅に一礼する。

 

「やぁやぁやぁ。仮面ライダー諸君。驚いている所申し訳ないけど、宣戦布告をさせてもらおう!」

 

その時、アスクの中からトロフィーが現れる。それはブロンズの台座の上に人の首が置かれたレジェスタートロフィーだった。

 

「僕はアスク。人にして人ならざる者。ヒューマンレジェスター・アスク」

 

アスクは楽しげに笑う。しかし、その目だけは笑っていない。虚空を見つめるがの如く、深淵を覗かせる。

 

「これより我が願い成就の為、君達の持つ全てのトロフィーを頂く」

「!?」

 

その言葉に卓人と桃が警戒を強め、鋭い目でアスクを睨む。燈哉は理解が追いつかず呆然としている。

 

「今一度言おう。これは君達に対する宣戦布告だ!

君達のトロフィーを手に入れ、僕は願いを叶える。全ては世界を滅ぼすために」

「……とまぁ、こんな感じかな」

 

肩を竦め、アスクは苦笑。そこにはさっきまでの凛々しさは無い。だが、それがよりいっそう得体のしれなさを醸し出している。

 

「次会う時は、容赦しない。よく覚えておくといいよ」

 

アスクは跳躍する。その飛距離は常人を遥かに超えていた。そのまま、マンションの屋上に着地した。一度振り返り、笑うとアスクは逃走。屋根伝いに家から家へと飛び移りその姿を消した。

 

「へえ、これはこれは」

 

それを見つめる影一つ。遠くの高台から双眼鏡で一部始終を見ていた青年がいた。ハネっ気のある茶髪を揺らしながら楽しそうに笑う。

 

「天鎧さんの言う通り、荒れ始めたな……。さぁて、俺も動きますか!」

 

そう言って、双眼鏡を仕舞うと青年は鼻歌を歌いながら踵を返した。右手でアームズトロフィーを弄びながら。

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