公園の中。燈哉とアスクの戦いに乱入してきたのは新たな仮面ライダーだった。
「いいね、いーね! 俺も混ぜてくれよ!」
謎のライダーが手に持つ短剣、スティレットの切っ先をアスクに向けた。楽しげに声を弾ませている。
「君は誰かな?」
アスクが問いかける。とても迷惑そうに。
「俺はシズレク。仮面ライダーシズレク」
謎のライダー、シズレクが構える。臨戦体勢だ。
「さぁ、戦おうじゃないの!」
シズレクが駆ける。素早く懐に入り、刺突。アスクの胸装甲に傷を付けた。
「ちっ……」
後ろに仰け反る。距離を取り、アスクは舌打ち。
「ヒャッホー!」
スティレットを両手持ちし、シズレクが飛びかかる。アスクは右に側転。攻撃を避わす。すかさず、グラムで薙ぐ。
「うおっと!」
シズレクがスティレットで受け止める。刃がぶつかる直前、少し後退。衝撃を和らげた。
「剣がぶつかる衝撃。装甲を断つ感触。これだよ、これ! 最っ高に昂ぶるねぇ!」
「気持ち悪いねぇ、君……」
興奮気味なシズレクにアスクは引き気味だ。それは傍らにいる燈哉も同じ。
「なんだあいつ……」
散らばったアームズトロフィーを回収しながら、変なものを見る目で見ていた。燈哉のそばに紗耶と桃が寄ってくる。
「燈哉。大丈夫?」
「なんとか」
紗耶が声を掛けると、燈哉は苦笑いで返した。それからすぐに表情を引き締め、戦いの行方を注視する。
彼らをよそにアスクとシズレクの戦いは続く。
「フッ!」
シズレクの攻撃が、グラムによって弾かれた。両者の距離が離れる。アスクはグラムを構え直した。その時、遠雷の音が聞こえた。
「!」
何かに気付き、アスクは空を見上げる。いつの間にか空が雲に覆われていた。雷が混じった積乱雲が渦巻いている。
「風向きが変わったか……」
呟くと、アスクは未完の杯を掲げ、空間を歪めた。
「悪いけど、今日はここまでだ」
背後に現れた穴へと入り、アスクは姿を消す。
「あーっ! 逃げやがった!!」
シズレクが叫ぶが、アスクの姿はもうない。公園にいるのは燈哉達だけとなった。
石畳の部屋に戻ったアスクがボロボロになったレジェストライザーを腕から外す。そして、未完の杯に放り込む。瞬間、レジェストライザーが杯の中に消え、即座に吐き出された。それを受け止め、見つめる。
「流石。未完とは言え聖杯の一端。これくらいわけないか」
新たに出てきたレジェストライザーは傷一つ無く、新品同然だった。それを腕に着け直し、笑う。
「さぁて、緊急招集といこうか」
ポケットから携帯を取り出し、耳に当てた。
「ちぇ、逃げられてやんの」
シズレクがベルトからトロフィーを外し、変身を解除した。中から現れたのはハネっ気のある茶髪の青年だった。燈哉達の方を見ると難しい顔をする。
「どうしたもんかなぁ。戦う? うーん。でもなぁ。ここで戦うのもフェアじゃ無いしなぁ。」
「保留でいいか!」
青年は両手を頭の後ろで組み、そう決める。そんな彼の元へ、燈哉達が寄ってくる。
「ええっと、ありがとう……でいいのか?」
燈哉は戸惑い気味に青年に話しかける。
「別に感謝はいらないぜ。事の成り行きだし」
「それで、あんたは誰なんだ?」
一番肝心な事を尋ねる。
「ん、俺? 俺は
青年、羽渡 壕人は笑顔でそう答えた。燈哉達も自らの名前を名乗り、自己紹介をしていく。
「立脇と椿坂、美鶴城ねぇ……。なるほど、なるほど。なら、俺達はこれからトロフィーを奪い合うライバルって事だな!」
「えっ! それはどう言う……」
燈哉達が困惑したその時、眩しい閃光が視界を包み込んだ。刹那、耳を劈くような轟音が響き渡る。曇天の空から稲妻が落ちてきた。
「なんだぁ?!」
いきなりの事に燈哉が面食らう。慌てて空を見上げるとそこには信じられないものが浮かんでいた。
それはライオンの顔に山羊の角が生え、大きな鷲の翼を広げた巨大なレジェスターだった。
「ご機嫌よう、この街の者達よ。吾輩の名はビーストレジェスター・アンズー」
突如現れた異形の怪物は高らかに名乗りを上げる。その圧倒的な存在感と威圧感に、この場にいる誰もが身動きが取れなくなっていた。
「今日この時を以ってこの街は対龍連合が貰い受ける。抵抗せし者は一切の容赦なく吾輩達が叩き潰してくれよう」
アンズーの宣言に街がどよめく。
「さぁ、始めるとしようか」
そう言うとアンズーが手を上げる。瞬間、街の至る所から悲鳴が木霊した。対龍連合のレジェスター達が出現したからだ。突如として現れた無数の怪人を前に混乱と恐怖が広がっていく。
「おいおいおい、やべぇぞこれ!?」
「ど、どうするの!?」
突然の出来事に戸惑う燈哉達。その目の前で壕人が震えている。
「いよっしゃァー!! やっべぇ、テンション上がってきたぁ!!!」
彼は嬉しそうに拳を握り、天に突き上げる。
「レジェスター斬り放題! 殺し放題! こりゃもう戦うしかないよな!」
壕人がアームズトロフィーを取り出した。それはシルバーの台座の上に青銅色のスティレットが突き刺さったアームズトロフィーだった。
<ナーゲルリング!>
トロフィーを起動させ、ベルトにセット。
「変身!」
そして高らかに宣言し、ベルトのボタンを押した。
<最優の切れ味! Made In Alberich!!>
目の前にスティレットが出現。スティレットから次々と小人が現れ、アンダースーツを纏った壕人の体へ青銅を押し付けトンカチを叩く。たちまち壕人の体が青銅のチェーンメイルに覆われ、シズレクへと変身が完了する。
<ナーゲルリングタイニー!>
最後に複眼が黄色に輝いた。
「というわけでお先!」
「えっ!? ちょ、ちょっと!!」
燈哉達にそう告げるとシズレクは颯爽と喧騒の中へ駆けていった。
「しょうがねぇ。美鶴城、俺達も行くぞ!」
燈哉がそう言ってトロフィーを取り出す。しかし、返事が返ってこない。
「美鶴城?」
振り返ると桃が青褪めた顔で携帯を見ていた。口元が微かに震えている。
「ごめん。急用が出来た!」
そう言うや否や、桃は壕人とは逆方向へ走り出した。
「ちょ、嘘でしょ! マジ!?」
そして、公園には燈哉と紗耶が取り残された。
「あー、もう!? 仕方ない」
<カイノクロコマ!>
燈哉がクロコマイルズを呼び出す。クロコマイルズに乗りながら紗耶に声をかけた。
「紗耶、乗れ」
「う、うん!」
慌ててクロコマイルズに乗り、燈哉のお腹に手を回す。すぐさまアクセルを踏み込み、喧騒の中心地へと急いだ。
「はぁ」
対龍連合による侵攻が始まり、喧騒冷めやらぬ門出市の建物の上。一体のセイレーンレジェスターが寝っ転がっていた。かつて卓人と戦い、緋眼妖華のアジトを教え、見逃されたあのセイレーンレジェスターだ。
「はぁ」
もう一度ため息を吐く。あの一件以来、何をするにしても身が入らず、こうやって日がな一日ぼーっと過ごしていた。
(あ~、なんかモヤモヤする)
セイレーンレジェスターは自分でも良くわからない感覚に頭を悩ませる。
その時、建物の下で争う音が耳に入った。
「何?」
気になって覗くと、セイレーンレジェスターの目が大きく開かれる。そこにいたのは恐らく対龍連合の配下であろう二体のレジェスターと彼らに向かって鉄パイプを振り回す卓人の姿だった。
(あいつは!)
驚くセイレーンレジェスターを余所に卓人が立ち向かっていく。鉄パイプを渾身の力で振り下ろす。相対するは、赤錆色の帽子を被り両刃の斧を携えたレッドキャップレジェスター。その内の一体が卓人の攻撃を軽々と受け止める。
「生身で俺達に挑むなんて、馬鹿な奴だな!」
レッドキャップレジェスターが鉄パイプごと卓人を振り回し、建物の壁に叩きつける。
「ぐっ!」
その衝撃に思わず声が出る卓人。病み上がりの体に鞭を打ち、すぐさま立ち上がる。アスクに敗れた卓人が目を覚ましたちょうどその時、アンズーによる侵攻が宣言された。止める流川を振り切り、卓人は外へ飛び出し、周囲を探索中に眼前のレジェスター達と邂逅。そして今に至るという訳だ。
(馬鹿な奴)
それを見たセイレーンレジェスターが鼻で笑う。しかし、そんな態度と裏腹にセイレーンレジェスターは建物から飛び出した。
翼を大きく広げ、急降下。足の鉤爪で卓人の襟首を引っ掴む。
「久しぶりね。会いたくなかったわ」
「君は!?」
戸惑う卓人を無視して、セイレーンレジェスターは徐々に上昇を開始。呆然とするレッドキャップレジェスター達を残し、飛び去っていってしまった。
門出市の繁華街は地獄絵図と化していた。好き放題暴れまわる対龍連合のレジェスター達。ある者は店から食い物を奪い食べ散らかし、またある者は宝石等の高級品を盗み身に付けている。中には人々に襲いかかる者も。
「うおりゃぁ!!」
叫び声と共に襲いかかる一体のレジェスターの顔面にバイクの前輪が叩き込まれる。そのレジェスターが後方へぶっ飛び、他の仲間を巻き込んで倒れる。攻撃を食らったレッドキャップレジェスターが顔面を抑えながら相手を睨みつける。彼の元へ人型の上半身に馬の下半身がついたレジェスターと茶釜のような鎧を着込んだ狸のレジェスターが集う。全員武器を手にしている。
「おいおい。レジェスターめっちゃ居るじゃんか!」
クロコマイルズから降り、燈哉が呟いた。
「赤い帽子はレッドキャップ。人馬一体のはケンタウロス。茶釜?みたいな鎧を着てるのは狸のレジェスターだと思う」
クロコマイルズに乗りながら紗耶が補足する。
「分かった。紗耶は危ないからクロコマイルズに乗っててくれ!」
「うん」
燈哉がアームズトロフィーを取り出し起動させる。
<ムラマサ!>
「変身!」
<抜刀!決闘!激闘!妖刀の戦士!!>
<ムラマサブレード!>
神器へと変身を完了させ、ムラマサを手にレジェスターの軍勢へと向かっていく。
「ハアッ!!」
神器がムラマサで斬りつける。それをレッドキャップレジェスターが斧で受け止める。その両脇からケンタウロスレジェスターが剣を、ラクーンドッグレジェスターが茶釜の蓋で殴り掛かる。
「うおっと!……危ない、危ない」
後方へ飛び退く。既の所で回避し、神器が胸を撫で下ろす。しかし、その背後で悲鳴が聞こえた。
「きゃあ!」
背後から挟撃に現れたレッドキャップレジェスターが紗耶へと斧を振るう。体を下へ倒し、ギリギリ回避。そして、それが功を奏した。反射的に伸びた手がバイクに付いたボタンに触れる。
<アニマルモード!>
「ふぇ!」
瞬間、バイクが変形を開始する。タイヤが中に入り、ボディが持ち上がる。サイドの装甲が四つ下へ伸び、地面に立つ。そして、フロントの装甲が割れ、中から顔と首が飛び出した。完成したその姿はまさしく馬。
「ヒヒーン!」
機械の馬、アニマルモードのクロコマイルズが嘶く。レッドキャップレジェスターに尻を向け、後ろ脚で勢い良く蹴り飛ばす。レッドキャップレジェスターがくるくると回転しながら吹き飛んだ。
「無事か、紗耶!」
神器が慌てて駆けてくる。
「う、うん」
戸惑いながら紗耶が頷くと神器は安堵の溜め息を吐いた。そのままクロコマイルズへと近づく。
「まさか、バイクが変形出来るなんてな……。びっくりだぜ」
「ヒヒーン!」
神器の声に応えるようにクロコマイルズが嘶く。どうやら自動で動くようで、神器の周りを上機嫌で回る。
「自動で動くのか……。なら、紗耶を頼むぜ」
「ヒヒーン!」
神器がそう言ってレジェスター達へと向き直る。
「これで心置きなく戦える」
ニヤリと笑いながら神器が駆け出した。それに呼応するようにケンタウロスレジェスターとラクーンドッグレジェスターが上から、左右から襲いかかる。それを跳躍し避けつつ、前宙。そのまま宙で一回転し、ケンタウロスレジェスターとラクーンドッグレジェスターの頭上から斬りつける。
「うりゃぁ!!」
ラクーンドッグレジェスターが茶釜の蓋で剣を受け止め、ケンタウロスレジェスターは後ろへ跳び退く。
<ジュズマルツネツグ!>
アームズトロフィーを切り替え、フォームチェンジ。
<水勢!推進!遂行!水剣の戦士!!>
<ジュズマルウォーター!>
ジュズマルから泡を放射。ケンタウロスレジェスターとラクーンドッグレジェスターの頭部を包む。
「ゴボボボボ!?」
ラクーンドッグレジェスターとケンタウロスレジェスターは呼吸が出来ずにもがき苦しむ。神器はその隙を見逃さなかった。
<ジュズマルツネツグ!>
<必殺神技!>
水の刃が二体を切り裂く。ラクーンドッグレジェスターとケンタウロスレジェスターは断末魔を上げ、爆散した。
「キシャァァァ!!」
レッドキャップレジェスターが背後から攻撃を仕掛ける。ムラマサでそれを受け止め、左脚を突き出す。
「ぐあっ!?」
レッドキャップレジェスターが尻餅をつく。神器は切っ先を向け、迫る。
「さぁ、トドメだ!」
その時、真横から氷の龍が神器に噛みつく。
「なっ!?」
激しい痛みが神器を襲った。地面に叩きつけられる。振り向くと、そこには天華が居た。
「みつ……るぎ……?!」
彼女の傍らにには妲己と怪人態の四体のレジェスターが控えていた。
「さぁ、神器を殺っちゃいなさい。桃ちゃん」
妲己が天華に近づき、その耳元で囁く。妖艶な甘ったるい声で。
「……」
それには答えず、天華は無言で神器に向かっていく。
「おい、美鶴城! どう言うつもりだ!」
神器は立ち上がり、構える。しかし、それを見ても天華は止まらない。
「……あなたには関係ない」
天華がレイエンキョを振り下ろす。それをムラマサで受け止めた。
「今現在、思っきし関係あるんですけど!」
だが、天華の攻撃は激しい。レイエンキョで何度も斬りつける。
「ぐわぁぁぁぁ!!!」
たまらず神器が吹っ飛ぶ。地面に転げ回り、うずくまる。
「美鶴城さん。もうやめて!」
紗耶がクロコマイルズに乗って神器の傍に合流。天華へ向かって叫ぶ。それを無視し、天華がレイエンキョにトロフィーを取り付ける。
<レイエンキョ!>
<必殺神技!!>
レイエンキョにエネルギーが集う。レイエンキョを構え天華が振るう。
「ハアッ!!」
氷の龍が顕現。再び神器へ迫る。
<オニマルクニツナ!>
<必殺神技!!>
どこからともなく炎の斬撃が飛んできて氷の龍を相殺。熱と氷がぶつかり、霧を発生。やがて霧が晴れるとそこには誰もいなかった。
「あ~あ、逃しちゃった」
妲己が楽しげに嗤った。
「うわぁぁぁ!!」
石畳の部屋の中。空間に穴が開き、神器と紗耶が転がり込んでくる。その衝撃で燈哉の変身が解け、クロコマイルズがトロフィーへと戻った。
「ここはいったい……?」
燈哉達は驚いた顔で辺りを見渡す。そんな彼らに声がかかる。
「ようこそ、僕のアジトへ」
部屋の中央。豪華な椅子に腰掛け足を組んでいるのはアスクだった。
「アスク!」
燈哉がアスクを見て身構える。紗耶も警戒体勢を取る。
「単刀直入に言おう」
それを気にする事無くアスクが右手を差し出した。不敵な笑顔を浮かべながら。
「僕と手を組まない?」
「え」
間の抜けた燈哉の声が部屋に響いた。