これは昔の話。妲己の策略で両親が死んだ後の話。通報を受けて来た警察は、妲己の思惑通り両親は壮絶な喧嘩の末、相打ちとなった、という事で断定された。残された桃は親族達の助けを借りて、葬式、通夜、火葬を滞りなく終える事が出来た。そんな彼女は今、廊下に座り壁に耳を当てていた。
「それで、あの子はどうする?」
壁の向こう側。親族の大人達が集まったその部屋で恰幅のいい男性が切り出した。
「うちは子供が二人もいる。金銭的に厳しい。引き取るのは無理だ」
男がそう言うと、周囲からも「自分もそうだ」「うちも難しい」と声が上がる。
あぁ、やっぱり。桃が心の内でゴチる。なんとなくそんな気がしていた。だが、いくら予想していたとしても、いざその場に出くわすと心が抉られる感覚に陥る。桃の目に涙が溜まっていく。その時だ。
「なら僕が引き取ります」
その言葉に桃が顔を上げた。部屋の中で一人の若い男が手を挙げている。大洗 成都だ。
「君がかね?」
「はい。僕が引き取ります」
成都が力強く頷く。その目は真剣そのものだ。
「だが、君はまだ店をオープンさせたばかりだろう。流石に厳しいんじゃないか?」
男が気遣わし気に言う。
「では、他に誰かが引き取ってくれるんですか?」
成都が親族達を見渡す。その誰もがバツが悪そうに目をそらしたり、俯いたりしている。
「彼女は今、両親を失って傷ついています。それなのにどうして彼女を押し付け合うような真似が出来るんですか」
「僕達がするべき事は桃ちゃんに寄り添って、傷を癒やしてあげる事のはずです」
成都が立ち上がる。桃の頬を涙が伝い、床へとこぼれ落ちた。だがそれは悲しいからではない。自分を思ってくれる人がいる。その事実が心を満たしているのだ。
「誰もしてあげないなら僕がやります。……勿論、彼女の意思を聞いてからですけど」
成都が部屋の扉に手をかける。それを見て桃は素早く隣の部屋へ移動。近くにあった本を開き、今までそこに居た風を装う。その部屋が開かれ、成都が入ってくる。
「やぁ、桃ちゃん。その、大事な話があるんだ」
成都が桃の正面に正座。両の目でしっかりと桃を見つめる。
「君さえ良ければ何だけど。僕と一緒に住まないかな?」
遠慮がちに。だけど優しい声色で、決意に満ちた眼差しと共に成都が言う。桃の心は既に決まっていた。
「うん」
この日、美鶴城 桃に新しい家族が出来た。
そして現在。桃は苦虫を噛みつぶした顔で妲己の前にいた。妲己はというと、玉座に寝そべり桃を見ている。彼女の傍らには虚ろな目をした成都が立っており、桃の周囲を囲むように四体のレジェスターがいる。このレジェスター達も目が虚ろになっている。
「ねぇ、桃ちゃん。私言ったわよね。神器を殺っちゃいなさいって」
柔和な顔で咎めるように妲己が言う。桃は目を泳がせながら俯く。
「言い付けを守れないなら仕方ないわね」
妲己が左手で合図を送る。呼応するように成都が手に持っていた短剣を自分の首に持っていく。
「待って!」
焦った顔で桃が叫ぶ。額から冷や汗が流れる。
「待って?」
「……待って……ください」
妲己の問いかけに、桃は悔しげに奥歯を噛みしめる。手も血が吹出さんばかりに力を込めて握りしめられていた。妲己が再び合図を送ると成都の動きが止まった。
「なら、それ相応の態度があるんじゃない?」
妲己が地面を指差す。これからさせる事を思い浮かべ楽しげだ。
「……わかりました」
桃がゆっくりと膝を付く。続いて手を地面に付ける。そして最後に額を付けた。
「この度は妲己……様の命令を完遂する事が出来ず、申し訳……ございませんでした」
それは紛うことなき完璧な土下座だった。妲己が玉座から立ち上がり、桃に近づく。そして、
「心が籠もってな~い! やり直し〜」
その頭を足で踏みつける。邪悪な顔で嘲笑いながら。
「ちゃんとやらないと、貴女のだ〜いじな家族の命は無いわよ」
耳元でそう囁く。桃は地面に付けた両手を握りしめる。
「本当に申し訳ございませんでした。どうかお許しください」
妲己が桃の髪を引っ掴み、顔を持ち上げる。涙に濡れ、悔しげな顔が露わになった。
「ぷっ! あはははは!! 無っ様〜」
桃の顔を指差し嘲笑。
「あ~、面白かった。良いわ。その顔に免じて今回は許してあげる。次は無いわよ」
妲己は踵を返し玉座に戻る。再び寝そべると桃に声をかける。
「もう下がっていいわよ。私も行くところがあるから」
桃は静かに立つと、その場を後にした。
「僕と手を組まない?」
石畳の部屋でアスクが問う。そんな彼を見つめ、燈哉はゴクリと唾を飲み込む。
「何だよ急に」
「対龍連合。それなりに大きな勢力みたいだからね。流石に僕一人じゃあ手を焼くと思ってね」
「だから手を組うぜって事か」
燈哉は納得がいった顔をする。
「君は街を守れる。僕は大量のトロフィーを手に入れられる。お互いWin-Winだ」
「……」
燈哉は考える。最終目的を考えると不信感しかないが、アスクという戦力は魅力的だ。だからこそ悩む。
「……手を組むにあたって、条件がある」
燈哉が人差し指を立てる。
「手を組んでる間は対龍連合以外と絶対に戦うな。勿論、向こうから襲ってきた場合は仕方ないけど。後、美鶴城が出てきたら倒さないで俺に連絡してくれ。あいつとはもう一回話さなきゃいけない」
「なるほど。良いよ、分かった」
アスクが頷く。すると、燈哉が手を差し出す。
「一時的だけだけど、一応よろしく」
葛藤に満ちた顔でアスクを見つめる。
「あぁ。よろしくね」
一瞬目をパチクリさせると、フッと笑いアスクがその手を取る。ここに打倒対龍連合同盟が結成された。
門出市のタワーマンションの最上階。VIPルームの中でアンズーが高級椅子に腰掛けている。その眼前に五体のレジェスターが立っていた。そして、アンズーの横には妲己がいる。
「皆に紹介しよう。新たに我が軍門に下った緋眼妖華の妲己だ」
「皆様ご機嫌よう。緋眼妖華よりまかりこしましたフォックスレジェスター・妲己にございます。これよりどうぞよろしくお願いいたします」
妲己が恭しくお辞儀をする。
(思っていたより簡単に入り込めたわね)
妲己は内心ほくそ笑む。彼女の目的は対龍連合に入り込み、自らの能力で内側より味方を増やし、勢力を拡大させる事だ。
「ワタシは反対したいのですが……」
そう声を発したのは髪のように頭部から大量の蛇を生やした女性のレジェスター。ギリシャ神話でも有名な怪物、スネークレジェスター・メドゥーサだ。
「弱そうだ弱そうだ。そいつが役に立つのか!」
粗暴な口調で喚くのは燃え盛る炎が人の形をしたレジェスター。炎の魔人、ジンレジェスター・イフリート。近くにあったグラスを手に取った瞬間、火がまわり燃えカスとなる。
「使えなかったら殺せばよいのですよ」
厭味ったらしく言うのは大きな蝉のレジェスター。アイヌ神話の妖怪、シケイダレジェスター・アペヤキ。神経質な顔で妲己を値踏みするように見ている。
「……」
何も言わず、瞑想しているのは五体の中で最も体躯の良いレジェスター。旧約聖書にて名が語られた巨人兵士、ジャイアントレジェスター・ゴリアテ。
「某の前で狐とは。いやはや運命を感じますな」
にこやかに笑いながら腰にさした刀に手を掛け鯉口を切るのは被り笠を身に着けた狸のレジェスター、ラクーンドッグレジェスター・ギョウブ。
そんな彼、彼女らを目の当たりにし妲己は内心たじたじとなっている。
「皆、鎮まれ。これは現当主たる吾輩の意向だ。異論があるならば力で示すがいい」
アンズーがレジェスター達を諫める。彼の言葉に気圧されたのか、皆が押し黙った。
「吾輩達はファブニールを打倒すべく徒党を組んだ。しかし、行動を開始する前に奴は討たれた。この街の者達によって」
アンズーは吐き捨てるように言う。その目には怒りと憎悪に満ちた光が点っていた。
「故にこの街を牛耳り、証明する。吾輩達、対龍連合こそが世界最強なのだと!」
アンズーの宣言に呼応するかのように、五体のレジェスター達の顔が真剣味を帯びる。
「それでは本格的に始めよう。ファブニールを打ち倒した者達の討伐。即ち、仮面ライダー狩りを」
その言葉を受け、五体のレジェスター達は次々と姿を消す。
(さぁて、私はどう動こうかしら)
思案に暮れながら妲己も姿を消した。
「♪〜」
鼻歌を歌いながらご機嫌に歩くのは人間態となったセイレーンレジェスター。その後ろを卓人が続く。手には両手いっぱいの紙袋を持っている。
「どうしてこうなった……」
苦々しい表情で卓人が呟く。ここは門出市の外れにある大型ショッピングモール。ちょうど対龍連合の被害を免れたエリアだ。
紙袋の中には可愛らしい私服と日用品が山ほど入っている。その全てが卓人のお金で支払われていた。
「あら、文句があるわけ? 私は命の恩人よ?」
「助けてくれなんて頼んだ覚えは無い」
むすっとした表情で睨みつけるがセイレーンは気にせず、自分のペースで歩いて行く。
「次は美味しいスイーツが食べたいわね」
舌なめずりしながらセイレーンレジェスターが辺りを見渡す。
「勿論、あなたの奢りよ」
なんて言いながら、セイレーンレジェスターが卓人の方を振り返る。上機嫌に笑いながら。そんな彼女を前に卓人の怒りが遂に爆発した。
「ふざけるな!! 僕はこんな事をしてる暇なんて無い!! 」
「別に良いじゃない。どうせあなたに出来る事なんて無いんだから」
セイレーンレジェスターがあっけらかんと言う。今の卓人にトロフィーは一つも無い。つまり変身も出来なければ、戦う事も出来ない。
「っ……」
何も言い返せない自分に腹が立つ。だが事実だ。
卓人は無力感に苛まれ、俯く。そんな彼を見てセイレーンレジェスターがクスッと笑う。
「それと私の機嫌を損ねない方が良いわよ。私はここで暴れても良いんだから」
このショッピングモールでセイレーンが暴れたら、どうなる? 多くの人々に被害が出るのは確実だ。となれば卓人には大人しく従うほかない。その時だ。
「見つけましたよ、仮面ライダー」
ハッと顔を上げると二人を取り囲むように複数のレッドキャップレジェスターが集結している。その群れを掻き分け、シケイダレジェスター・アペヤキが姿を現す。
「早速で悪いのですが、死んでいただきますよ」
アペヤキの合図を受け、レッドキャップレジェスターが一斉に動き出す。両刃の斧が卓人に迫る。
「ハアッ!!」
怪人態となったセイレーンレジェスターがレッドキャップレジェスターを蹴り飛ばす。
「逃げるわよ!」
セイレーンレジェスターが卓人の襟首を掴み、飛翔。レッドキャップレジェスター達の頭上を飛び越え、一気に飛び立つ。
「逃がしませんよ」
アペヤキが羽を広げ、飛ぶ。その速さはセイレーンレジェスターの速度を上回っており、すぐさま追いつかれてしまう。
「ちっ!」
アペヤキがセイレーンレジェスターの周りを旋回。徐々にスピードを上げると、やがてアペヤキが炎を纏う。
「食らいなさぁい!」
アペヤキが弾丸のように突進。その勢いのままセイレーンレジェスターに体当たりする。
「くううっ!!」
炎を纏ったアペヤキの体がセイレーンレジェスターを焼く。悲鳴を上げ、墜落するセイレーンレジェスター。二人は地面に倒れ伏す。
「死になさぁい!!」
アペヤキが追い打ちをかけようと迫る。二人にぶつかるその直前。別の何かにぶつかり弾かれた。卓人達を庇うように立っていたのは燈哉とアスクだった。
「無事か、聖葉!」
燈哉が振り返らないまま聞く。トロフィーを取り出し、アペヤキを見据えている。
「立脇君! どうしてアスクと一緒にいるんだ!?」
燈哉の隣にいるアスクを睨みながら問いかける。その表情には警戒の色が浮かんでいる。
「手を組んだからさ、トーヤとね」
「なっ!?」
ちらりと目だけを卓人に向け、アスクは笑みを浮かべる。その答えに卓人は驚愕に目を見開く。相手は自分を傷つけ、トロフィーを奪った元凶だ。無理もない。
「どういう事だ立脇君!!」
詰め寄らんばかりに燈哉を睨みつけ、卓人の顔はより一層険しくなった。
「おやおや。私を無視して仲間割れですか。呑気なものですねぇ」
アペヤキが立ち上がり、不愉快そうにしている。その周りにレッドキャップレジェスター達も集まり、臨戦体勢だ。
「話は後だ!」
「そうだよ。戦えない奴は引っ込んでなよ」
燈哉とアスクがトロフィーを起動させる。
<ムラマサ!>
<グラム!>
「「変身!!」」
二人の前に日本刀とロングソードが出現。人魂が燈哉に、龍がアスクに纏わりつきその姿を変える。
<抜刀! 決闘! 激闘! 妖刀の戦士!!>
<龍殺しの魔剣! DEAD END!!>
仮面の複眼が輝き、変身が完了した。
<ムラマサブレード!>
<グラムファイター!>
「行くぜ!」
真っ先に動いたのは神器。ムラマサを手に駆ける。そして、応戦するレッドキャップレジェスターを次々と斬っていく。
「雑魚は任せたよ、トーヤ」
アスクがグラムの切っ先をアペヤキへの向ける。
「お相手はあなたですかぁ。一対一とは舐められたものですねぇ」
アペヤキが羽を広げ、飛ぶ。けたたましい風切り音を響かせ、アスクの周囲を旋回する。
「ふむ。なら、僕も飛ぼうか」
<ヴァンパイア!>
<コンバイン!!>
レジェストライザーにヴァンパイアレジェスタートロフィーをセット。背面に翼を装着し、アスクが飛び上がる。
「ふっ!!」
一直線に迫り、グラムを振り下ろして攻撃。しかし、その一撃はギリギリで回避された。
「やりますねぇ。ですが、」
アペヤキがスピードを上げ、火を纏う。そのまま足を突き出しキックを放つ。
「おっと」
グラムを盾には攻撃を受け止める。だが、その衝撃で後方へ大きく吹っ飛ぶ。バランスを整え、地面へ着地。
「ふぅ~」
安堵の息を漏らした。
「くっ……」
そんな彼らの戦いの傍ら、卓人は蚊帳の外だ。悔しさで唇を噛みしめる。今すぐ立ち去りたい衝動に駆られ、走り出した。
「ちょっと、どこに行くのよ!?」
セイレーンレジェスターが慌てて後を追う。そんな二人を余所に戦いは激しさを増してゆく。
「……戦い方を変えようか」
<ケンタウロス!>
<コンバイン!!>
アスクがレジェストライザーにケンタウロスレジェスタートロフィーをセットした。馬の下半身を元にしたアーマーが出現。アスクに合体し、ケンタウロスの如きシルエットへと変化する。
「やァッ!」
高速で駆け出し、アペヤキへ近づく。馬の馬力を活かし跳躍。グラムでアペヤキを打ち落とす。
「グエッ!」
地面に叩きつけられ、アペヤキが悲鳴をあげた。
「トドメにしよう」
追撃とばかりにアスクがグラムを振り下ろす。その刹那、真横から飛んできた火球がそれを阻む。咄嗟に後方へ飛び退き、無傷ですんだ。
「ヒャハハ。やるな、仮面ライダー!」
笑い声をあげて現れたのはジンレジェスター・イフリート。両の掌には火球が浮かんでいる。
「ぐぉっ!」
神器が吹き飛ばされ、アスクの隣に転がり込む。視線の先にはジャイアントレジェスター・ゴリアテがゆっくりと歩み寄ってきていた。
「あらら。上級レジェスターが三体かぁ……。それに数的に向こうが有利ときた」
「その通りだ。諦めるがいい!」
アペヤキ、イフリート、ゴリアテ。三体の上級レジェスターと取り巻きのレッドキャップレジェスターが徐々に迫っている。
「うん。保険をかけて正解だったね」
<ゲイボルグ!>
<必殺神技!!>
そんな声と共に上空より無数の槍が降り注ぐ。槍は次々と枝分かれし、レッドキャップレジェスター達を一掃した。
「何だと!?」
そして、二つの人影がアスクの元へ飛び込んでくる。着地を決め、姿を現したのは二人の仮面ライダー。片や刺繍の模様が入った蒼いチェーンメイルに槍を携えた勇士。片や深緑色の挂甲を纏い、刀を構えた戦士。
「フフフ。これで形勢逆転だね」
アスクが不敵に笑った。