「そうか……。皆、やられてしまったか……」
VIPルームにてアンズーが呟く。その声色はどことなく悲しげだ。
「ならば仕方あるまい。今こそ証明してみせよう。」
アンズーが椅子から立ち上がる。そして、右手を掲げた。
「吾輩こそが最強のレジェスターであると!」
瞬間、閃光が迸りVIPルームの天井を破壊。稲妻が天高く立ち昇り、タワーマンションの上空で破裂する。
「かかってくるがいい、仮面ライダー!」
タワーマンションの屋上に降り立つとアンズーが吠えた。
「立脇燈哉、僕と戦え」
「君を叩きのめして、その甘い考えを改めさせる」
広場の中でラウンダーが宣言する。対峙するのは燈哉。突然の出来事には驚き、目を見開いている。
「何言ってんだよ? 聖葉……」
困惑しながらも問いかける燈哉だったが、答えが返ってくる気配はない。ただ敵意だけが伝わってくるだけだ。
「どうする、アスク? 手を貸すのか?」
傍らで見守っていた虎杖がアスクに問いかける。
「まさか。僕らとトーヤの契約はあくまで対龍連合相手の時だけ。手を貸す理由は無いね」
肩を竦めてアスクが首を振る。
「という訳で。僕らは先に進もうか」
アスクは遠くの建物に視線を向ける。そこはタワーマンションの最上階。目に見える程のオーラがそこから漂っている。あの場所にアンズーがいる。アスクはそう確信していた。
「了解」
「了解です」
壱子と虎杖が頷く。そしてアスクを先頭に、燈哉達を残して彼らはタワーマンションに歩いていく。
「さぁ、変身しろ。立脇燈哉」
ラウンダーがアロンダイトを構えながら言う。有無を言わせぬ威圧感だった。燈哉の額から冷や汗が流れ落ちる。
「やるしかないのか……」
燈哉はトロフィーを手に取り、起動させた。
<ジュズマルツネツグ!>
「変身!」
<水勢!推進!遂行!水剣の戦士!!>
<ジュズマルウォーター!>
神器へと変身を果たし、燈哉はジュズマルを手に構えた。だがその表情は戸惑いに満ちている。
「フッ!」
そんな燈哉――神器をよそにラウンダーが仕掛ける。高速の踏み込みからの一撃。しかし神器は咄嵯に反応し、ジュズマルでそれを受けた。
「くっ……」
「一撃では終わらないぞ!」
ラウンダーはさらに斬撃を繰り出す。ジュズマルとアロンダイトがぶつかり、甲高い音と共に火花が散る。そして遂に神器の体勢が崩れた。
「今だ!」
ラウンダーは飛び上がり、上段から勢いよくアロンダイトを振り下ろした。対して神器が選んだ行動はジュズマルを前に突きだしての刺突。アロンダイトの一撃より先にジュズマルがラウンダーを捉えた。
「!?」
ジュズマルの刃がラウンダーに届くと同時にラウンダーの体が液体と化して崩れ落ちた。
「残念だけどそれは水で作った分身だよ!」
背後からラウンダーの声がする。神器が振り返った瞬間、横薙ぎの一閃が首筋に決まる。
「がぁっ……!!?」
勢いよく飛んでいき、噴水の中に落ちた。その衝撃により水しぶきが上がる。
「うぐっ……! ゲホ……ゴホ……」
苦しそうな咳をしながら神器はよろよろと立ち上がる。
「これでもなお、何とかなると思っているのか? まだ楽観的な態度を取れるのか?」
切っ先を向け、ラウンダーが神器に問いかける。
「じゃあ、お前ならどうすんだよ? あの時、俺には他の選択肢なんて無かっただろ!」
神器が叫びながらジュズマルを掲げる。噴水の水がジュズマルに集まっていく。
「俺だって組むんだったら、最初っからお前と組んでたわ!」
激昂し、神器がジュズマルを振り下ろす。噴水の水を纏い巨大な刃となった斬撃がラウンダーを襲った。
「そもそも。元はと言えばお前がアスクに負けて変身出来なくなったのが悪いんだろうが!!」
神器の言葉に、ラウンダーがピクッと反応する。無言でアロンダイトを振るった。その途端、斬撃を展開していた水が一瞬にして水風船の様に弾けた。二人の上から雨のように水が降り注ぐ。
「その通りさ。僕は負けて変身出来なくなった。なら尚の事、アスクと手を組む選択肢なんか出ないはずだ!」
再度アロンダイトが振るわれ、斬撃が神器に襲い掛かる。今度の一撃は今までの斬撃よりも更に大きく、広範囲に及んでいた。斬撃が神器を呑み込む。
<ドウジキリヤスツナ!>
<風雲!風流!封殺!風剣の戦士!!>
<ドウジキリウインド!>
斬撃に風穴が開く。ドウジキリを手にそこから飛び出した神器が滑空。ラウンダーの懐に入った。
「他に手立てが無かったって言ってんだろ!!!」
叫びながら左ストレート。拳がラウンダーの胴に炸裂。続け様に回し蹴りを敢行。
「うぐっ……!?」
ラウンダーが後退した。
「何でか分かんねぇけど美鶴城は襲ってくるし、新たなライダーが乱入してきたと思ったら勝手に敵陣に突っ込んでいくし、もうアスクと組むしかねぇだろうが」
神器が畳みかけるように喋りながら追撃。ラウンダーはアロンダイトで捌くものの、徐々に防戦一方になり始めた。
「だったら一度、持ち帰れば良かったじゃないか!」
隙を突き、ラウンダーが反撃開始。横薙ぎの一閃が神器を襲った。しかし、間一髪ドウジキリが間に合う。甲高い金属音が響いた。
「一度持ち帰って相談するって言う選択肢だってあったはずさ」
「お前は相談してくれないのにか?」
神器の言葉にラウンダーの動きが止まる。
「……えっ?」
「人には相談しろって言うくせにお前は俺に相談してくれないじゃねぇか!」
驚きの声を漏らすラウンダー。それに対し今度は神器が激昂する番だ。
「だってお前は……俺の事、信じてないだろ!」
「そんな事は……」
無い。そう言おうとして口籠る。そして、ラウンダーの、卓人の脳裏に去来するものは……
「ふむ。来たか」
屋上に仁王立ちしたアンズーが嬉しそうに口元を吊り上げる。背後から現れたのは壕人だった。
「よう、ラスボス。来てやったぜ」
壕人がアームズトロフィーを構え、不敵に笑う。
<ナーゲルリング!>
「変身」
スティレットが目の前に突き刺さり、壕人がチェーンメイルの装甲を纏う。
<最優の切れ味! Made In Alberich!!>
<ナーゲルリングタイニー!>
ナーゲルリングを手に、シズレクがアンズーへと駆ける。
「ハアッ!」
ナーゲルリングが振り下ろされる。アンズーはそれを左手で難なく受け止めた。そのまま右手を突き出す。電撃を纏った爪がシズレクの装甲を傷付けた。火花を散らしながらシズレクが吹っ飛ぶ。
「ぐおっ!?」
地面を転がり、飛び降り防止の柵に激突した。
「まだまだ!」
すぐに起き上がり、再びアンズーへ挑む。剣と拳がぶつかる刹那、シズレクがサイズを小さくした。股下を抜け背後へ。大きさを元に戻し、ナーゲルリングで斬りかかる。
「甘い」
アンズーが羽を広げ、飛ぶ。攻撃が空を切り、シズレクがバランスを崩した。
「フンッ!!」
そこへ飛び蹴りが炸裂。柵を越え、シズレクがタワーマンションから落下した。
「まずは一人」
「まずはじゃない。それで最後だよ」
アンズーが振り返る。そこにはアスク達がいた。全員変身済みだ。
「君は僕達が倒すからね」
アスク達がバラバラに駆け出す。アルスターが右、サマイクルが左。アスクは正面からアンズーの元へ向かう。
「やあっ!」
先手を取ったのはアルスター。ゲイボルグで足元を突く。アンズーが飛び上がって回避。だがそれは計画通り。横脇からアスクがグラムで一閃。
「む!?」
アンズーを襲う。だが、アンズーは体勢を強引に曲げ、左手で相殺。更に反対の爪で薙ぐ。アスクはグラムで受け止めた。ギリギリと鍔迫り合う中、次に仕掛けたのはサマイクル。
<雷神の龍!>
<召喚!!>
クトネシリカから二匹の龍が飛び出し、アンズーへ牙を剥く。一匹は真っ直ぐ突っ込み、もう一匹は迂回して左右から挟撃を試みる。
「甘いわ!」
龍へ向け爪を振り下ろす。激突の瞬間、アンズーの体から電流が迸り、二匹の龍がアンズーの中へと吸収された。
「!?」
「グオォォォァッ!!」
今まで以上の電撃が三人のライダー目掛けて放出される。電撃が床に亀裂を作り、タワーマンションの屋上は白い閃光に包まれた。
聖葉卓人にとって立脇燈哉とは導くべき後輩である。それは自分より後に仮面ライダーになったからであり、トロフィーについても、レジェスターについても何も知らなかったからでもある。そして、彼の戦う覚悟を間近で見たからでも。
だからこそ正しく導こう。そう思った。けれど、現実は理想通りには進まない。燈哉の成長は目覚ましかった。多くのトロフィーを手に入れ、多くの戦いを経験し、上級レジェスターに一目置かれるまでになった。決定的だったのはファブニール戦。歯が立たず、サポートに回る事しか出来なかったあの戦い。その中心にいたのは間違いなく燈哉だった。存在を遠くに感じた。背中を見せるべき相手はいつの間にか自分を追い越している事実を突きつけられた。
(僕は選ばれて仮面ライダーになったのに……)
悔しい。羨ましい。良くない感情が心の澱に溜まっていくのを感じた。
「だってお前は……俺の事、信じてないだろ!」
だからこそ、この言葉は深く胸に突き刺さった。
僕は立脇燈哉を信じていたのだろうか?
僕は彼にどう接していたのだろうか?
そんな考えが頭の中を巡る。そして、やっと気付いた。
「そうか……。僕は……。君を下に見ていたのか……」
額に手を当て、ラウンダーが自嘲気味に呟く。
「僕は君に嫉妬していたんだ」
「聖葉……」
ラウンダーの突然の告白に神器は剣を下ろす。
「僕は君が羨ましかったんだ。無謀とも思える状況を覆し、切り開いていく君が」
ラウンダーが俯く。その声は泣き出しそうな程か細い。
「だから強くなりたいと思って! でも、アスクに負けて、変身出来なくなって……。やっと戦えたと思ってたら、君がアスクと組んでいた」
「君に、僕は役に立たない。アスクと組む事が正しい。そう言われているような気がして。八つ当たりしてしまった……。ごめん……」
神器は言葉に詰まる。
「僕は君を対等に見ていなかった。なら、信じてないって思われても仕方ない。……ごめん」
「そっか」
神器がゆっくりと歩き出し、ラウンダーの元へ行く。
「なぁ、覚えてるか? 俺達が出会った時の事」
「……」
ラウンダーは何も答えない。ただ静かに俯いている。
「俺はお前に命を救われたんだ」
なし崩しに変身し、ヴァンパイアレジェスターと戦った初陣。倒しそこねたヴァンパイアレジェスターの手が燈哉に迫った。そこに割って入って斬り伏せたのが卓人だった。
「だからさ。俺の功績はお前の功績でもあるんだ。お前があの時助けてくれなかったら、今の俺はいない」
神器の手がラウンダーの肩にそっと触れる。優しい手つきにラウンダーはどこかほっとするのを感じていた。
「お前が助けてくれて、一緒に戦ってくれたから、夜行衆を退けて、ファブニールに勝つ事が出来た」
「お前は凄い奴だ。他の誰でも無く俺が一番分かってる。だからこそ頼ってほしいんだ。俺にも恩返しさせてくれよ」
神器は親指を立てサムズアップ。一点の曇りもない信頼が籠った声だった。
その真っ直ぐな想いをラウンダーは眩しいと感じた。
「うん。ありがとう」
ラウンダーが小さく呟く。
「んじゃ、続けようぜ」
神器は剣を肩に担ぎ、言う。
「えっ?」
「いや、なんかこう、中途半端だし……。どうせだったら、気がすむまでやろうぜ」
気恥ずかしそうに言う神器にラウンダーが小さく笑う。
「仕方ないなぁ。続けようか」
二人は剣を構え、再び斬り合う。神器が風に乗り背後から迫れば、ラウンダーがそれを躱し、カウンター。激しい攻防が繰り広げられる。しかし、先ほどとは打って変わって、二人は仮面の奥で笑顔を作る。
「これならどうだ!」
<ミカヅキムネチカ!>
ミカヅキライトニングにフォームチェンジ。光速で背後に移動。ミカヅキを振り下ろす。
「甘いね!」
ラウンダーの体が液状に崩壊。分身だ。死角からアロンダイトで一閃。神器がかろうじてミカヅキで受け止めた。
「読まれてたか……」
「君は大体背後から来るからね。ワンパターンじゃ勝てないよ」
「こんにゃろうめ」
神器の剣を絡めとり、弾き飛ばす。神器はバックステップで距離を取る。
<オオデンタミツヨ!>
オオデンタグランドへ形態を変え、再び挑む。オオデンタを地面に叩きつけ、ラウンダーの足場を崩す。そして、隙を突いて斬りつけた。だがこれも分身。死角からラウンダーが迫る。
「これ以上同じ手は食わないぜ!」
神器は即座に反転。渾身の力で振り抜く。オオデンタとアロンダイト。激しい音を立てて、両者の剣がぶつかり合う。その威力は互角。互いの剣が手から溢れる。
「ちぃっ!」
「なら!」
二人は拳を作り、殴る。両者の拳が交差し、互いの頬へ。二人はよろめき、そのまま倒れ込んだ。地面に着くと同時に変身が解ける。
「倒れるの。お前の方が早かった。だから、俺の勝ちだな」
「いいや。君の方が早かったよ。ビデオ判定してもいいくらいだね」
「いや、カメラないだろ」
互いに息を切らしながら、軽口を叩き合う。
「プッ!」
「「アハハハハッ!!」」
途端に笑いが込み上げ、二人は笑い始めた。一度笑い始めたら止まらない。二人はお腹を抱え、暫し笑い続けた。
「ふぅ~。……久しぶりに笑った気がするよ」
ひとしきり笑った後、卓人が感慨深げに言う。
「良かったじゃん」
燈哉も笑顔で答えた。卓人がゆっくりと立ち上がり、燈哉に向き直る。
「散々醜態を晒した後だから、言う義理も資格もないかもしれない。それでも聞いて欲しい」
卓人が真剣な顔で燈哉に手を差し出す。燈哉もまた、その思いに応えるべく卓人から目を離さない。
「僕と手を組んでくれないか? 僕一人じゃこの街を守れない。君の力が必要なんだ。他の誰よりも信じたいと思える君の力が。だから、僕と一緒に戦ってくれ、
燈哉はその言葉に一度目を見開き、すぐに笑みに変える。
「おう! 俺達でこの街を救おうぜ、
卓人の手を取り、燈哉が起き上がる。その瞬間、タワーマンションの屋上から激しい閃光と衝撃が発せられる。
「「!?」」
二人は顔を見合わせ、無言で頷く。そして、肩を並べ歩き出す。目指すはタワーマンションの屋上。対龍連合の長。ビーストレジェスター・アンズーのいる決戦の地へ。