最強だと思っていた。自分に勝てる者など存在しないと。
「グハァッ!!!」
鈍い音とともに地面に叩きつけられ、アンズーが倒れ伏す。痛む身体に力を入れ、何とか立ち上がり、見上げる。視線の先には空に浮く龍――ドラゴンレジェスター・ファブニールの姿があった。
「くっ……!」
ファブニールはつまらなそうにアンズーを見下ろしている。
「吾輩の負けだ。殺るがいい……」
アンズーが目を伏せ、大の字に寝転がる。対するファブニールはあくびを噛み殺しながら背を向けた。
「何のつもりだ!? 何故殺さない!」
「酒が呑みたくなった。雑魚の相手をする暇はない」
そう言うとファブニールは飛び去っていった。一人残されたアンズーは悔しそうに地面を殴りつける。地面に亀裂が入る。手は血が滲むほど握り込まれていた。
「吾輩など殺す価値も無いと言うのか!!」
アンズーが叫ぶ。
「許さない! 許さぬぞ、ファブニール!!」
その日から復讐を誓った。必ずファブニールを討ち果たし、自分を殺さなかった事を後悔させると決めた。それからはひたすら戦いに明け暮れた。数多の地を飛び回り、強き者に挑む日々。ただ、必死に力を求めた。
その最中、いつの間にか自分の周りに多くのレジェスターが集まりだした。そして気が付けば大きな勢力の大将として君臨するようになった。
後少しでファブニールの喉元に手が届く。そんなアンズーの元へ、衝撃のニュースが飛び込んでくる。
曰く、ファブニールが討たれた、と。
「グギャォォォォ!!!!!」
そして現在。門出市のタワーマンションの屋上で巨大化したアンズーが咆哮する。
「でっかくなった!? そんなのありかよ!」
神器が目を剝いてアンズーを見上げる。その時、アンズーが動く。肥大化した剛腕を振り下ろしたのだ。コンクリートで出来た建造物がいとも容易く砕かれる。地響きとともにタワーマンションが崩れていく。
「ちっ!」
<ヴァンパイア!>
<コンバイン!!>
アスクがレジェストライザーを操作。コウモリを模した羽が追加される。アルスターを抱き上げると空へ飛翔した。
「不味い!」
<ドウジキリヤスツナ!>
<風雲!風流!封殺!風剣の戦士!!>
<ドウジキリウインド!>
姿を変えた神器がドウジキリを振るう。自身とラウンダーに風を纏わせ、浮かび上がる。
「とりあえず着地するぞ」
神器がラウンダーに声をかける。だが、ラウンダーは前を見たまま警告の声を叫ぶ。
「燈哉、前!!」
瞬間、神器の視界が歪む。凄まじい衝撃と激痛が襲いかかった。
「がっ……!?」
周辺のビルを破壊しながら神器が吹っ飛んだ。自分が攻撃を受けたと気付いたのは三つ目のビルの壁にめり込んで止まった後だった。
「燈哉!? くっ……!」
瓦礫を足場にしてラウンダーが斬撃を飛ばす。水の刃が着弾するも分厚い皮膚に阻まれ効果が無い。アンズーが鬱陶しそうに左手で払う。咄嗟に防御するもその上から衝撃が襲う。そのまま勢いよく地面に叩きつけられた。
(これは、撤退だね……)
アンズーの暴れようを見て、アスクが後退を始める。その時、アンズーが顔を動かした。アスク達を視界に捉える。そして、丸太のように太い尻尾がアスク達へと振るわれた。風を切りながら勢いよく一閃。回避行動を行うも間に合わない。
(あ、やば)
攻撃がぶつかるその刹那。雷の龍が間に割り込んだ。
「大丈夫か、アスク!」
雷の龍と共にサマイクルが尻尾を抑え込んでいた。だが徐々に押され始める。すかさずアスクがサマイクルの首根っこを引っ掴み旋回。押さえを失った尻尾が空を切り、近くの建物を粉砕した。コンクリートの塊が飛び散る。
「あれは……」
そこでアスクは見た。コンクリートの塊を足場に次々と飛び移りながらアンズーへ迫る人影を。
「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!」
シズレクだ。軽快に飛び移り、遂にアンズーの上へたどり着く。
「せーのっ!!」
シズレクがナーゲルリングを突き立てる。分厚い皮膚に食い込むがまだ浅い。さらに力を込めて押し込もうとするもアンズーが身体を一回転。シズレクが振り落とされ落下。
「ぐおおおおっ!?」
近くの瓦礫に剣を突き立て勢いを殺し、地面ギリギリで止まった。見上げるとアンズーがシズレクをロックオンしていた。アンズーが腕を振り上げる。
<オオデンタミツヨ!>
<必殺神技!!>
見ると神器が姿をオオデンタグランドに変え、周囲の瓦礫を剣に纏わせながら巨大な大剣を作り上げていた。
「これならどうだ!!」
渾身の力で振り下ろす。コンクリートの剣がアンズーを押しつぶす。アンズーが瓦礫に埋まった。アスク達が地面に降りる。
「皆、一点集中だ! 全員で同じ箇所を攻撃すれば確実にダメージを与えられる」
ラウンダーが叫びながら、アスク達の元へ近づく。
「アスク。お前達にも協力してもらう。燈哉と同盟を組んでるんだろう?」
アスク達を見ることなくラウンダーが言う。アスクはそんな様子にやれやれと肩を竦めた。
「まぁ、しょうがないか。さっさと終わらせて同盟解消といこうか」
その言葉にアルスターとサマイクルが頷く。
「えーっと。俺も協力した方がいいよな?」
シズレクも集まってきた。
「皆、いこうぜ!」
狙うはアンズーの眉間。全員が次々と斬撃を飛ばしていく。攻撃が当たる度にアンズーがうめき声を上げる。
「これならいける!」
その時、アンズーの身体が一瞬帯電。すぐに紫の雷となって放電された。瓦礫を吹き飛ばしながら周囲で爆発が起きる。
「なっ!?」
爆発に巻き込まれ全員が倒れ伏す。アンズーが口を大きく開ける。膨大な雷のエネルギーが口元に収束し、巨大な球となっていく。そんなものを食らってしまえばひとたまりもない。
「くっ……」
だがダメージが大きくすぐには動けない。全員の脳裏に死が浮かぶ。そして、雷の球が放たれる。その直前。真横から氷の龍がアンズーの首筋に噛みついた。不意打ちを食らい雷の球が霧散していく。
(この氷は……!?)
戦場から数キロメートル離れた場所で天華がレイエンキョを振り下ろしていた。攻撃が当たったのを確認すると無言で踵を返す。
「あーっ、いけないんだぁ」
その雰囲気に似つかわしくない甘い声がかけられる。びくりと肩を震わせ、見るとそこには妲己が怪しげに笑っている。その背後には虚ろな目をした無数のレジェスター達がいる。
「協力関係にある相手を勝手に攻撃するなんて。どういうつもりかしら」
「……」
天華が目を逸らす。妲己がニヤつきながら近づく。
「ま、どうせもう壊滅寸前だし、不問にしてあげる。……さぁて、次は誰に取り入ろうかしら」
戦場を見回しながら舌舐めずり。周囲を狐火が囲う。炎に包まれ、妲己と天華、周囲のレジェスター達が姿を消した。
「グガァァァァッ!!!」
怒気の孕んだ声でアンズーは氷の龍を砕いていく。その間、わずか数秒。だが、神器達が体勢を整えるのには十分な時間だった。
<オオデンタミツヨ!>
<アロンダイト!>
<グラム!>
<ゲイボルグ!>
<クトネシリカ!>
<ナーゲルリング!>
<<<<<<必殺奥義!!>>>>>>
全員が同時に飛び上がり、蹴りを放つ。放物線を描きながら一直線にアンズーの元へ。アンズーが剛腕で迎え撃つ。
「はあぁぁぁぁっ!!!」
六つのライダーキックが剛腕を弾き、そのままアンズーの眉間に炸裂。
「グギャァァァ!!!!」
絶叫と共に爆発。全員が着地を決めた。
「まだ……だ……」
爆発が晴れるとそこには元のサイズに戻ったアンズーの姿があった。
「吾輩は……ファブニール……に……勝たねばいかんのだ……」
アンズーが虚空に手を伸ばす。この場にいない誰かに思いを馳せながら。
「アンズー」
神器がゆっくりと前に出る。
「お前は強かった。ファブニールにも劣らないくらい!」
「!? そうか……、吾輩は強いか……」
微かに笑い、アンズーの身体が粒子となって消滅した。レジェスタートロフィーが音を立てて落ちた。その瞬間。複数の影が動く。サマイクルがトロフィーへ手を伸ばした。
「させるか!」
触れるその刹那。シズレクがタックル。トロフィーが弾かれあらぬ方向へ。
「お、オーライ」
アルスターが両手を上げながら落下地点で待ち受ける。
「うぉぉぉぉ!!」
そこへ神器がジャンプ。トロフィーとの距離は後数センチ。
「させないよ」
アスクが手で制して妨害。トロフィーを取りそこねる。だが、トロフィーは落下地点を大きく外れた。そして、ラウンダーの手の中に収まった。
「これは貰うよ」
ラウンダーが自慢気に見せつける。
「取り戻すぞ」
サマイクルが戦闘体勢に入る。アルスターも続く。
「ストップ」
そこには待ったが入る。アスクが二人を見る。両者共に装甲にヒビが入り、肩で息をしている。つまるところもうボロボロの状態だ。
「帰るよ」
それを確認するとアスクは踵を返す。
「けど!」
「僕の駒なら僕の言う事を聞け」
冷たい声でアスクが振り返る。そのプレッシャーに二人は口を噤み、渋々後に続いた。
「そのトロフィーは預けておくよ。そのうちいただくから」
そう言って姿を消した。
「つっかれた〜」
伸びをしながらシズレクが言う。
「今日はもう無理。てなわけで、また今度な!」
手で小さく挨拶して軽快に走り去っていく。瞬く間に姿が見えなくなった。そして、戦場に神器とラウンダーが残される。
「やったな!」
変身を解き、燈哉が笑いかける。
「ああ、やったね」
卓人も変身を解いた。そして、二人は互いの腕をぶつけ合わせ、喜びを表現する。
「二人共!」
そこに紗耶がクロコマイルズに乗りながら現れた。
「聞いて! 美鶴城さんの事!」
クロコマイルズから降り、紗耶が桃の現状について話した。話を聞き、二人で顔が険しくなっていく。
「大洗さんが人質に!?」
「うん。そのせいで美鶴城さんは逆らえないんだと思う」
深刻な顔で紗耶が言う。
「なら助けよう、僕達で。僕らが力を合わせればきっと救える」
燈哉と紗耶が卓人を見る。その顔はいつも以上に自信に溢れていた。
「だな」
「アテにさせてもらうよ、燈哉」
「任せろ、卓人」
そう言って燈哉と卓人が笑い合う。紗耶はその様子に目をパチクリさせ、やがて口元に小さく笑みを作る。
「うん。皆できっと美鶴城さんを!」
対龍連合との激闘を制し、次なる目標へ。三人は固く誓いあった。