仮面ライダー神器   作:puls9

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第ニ十八節 魔槍の勇士、ただ一人に忠誠を

「ごめんね、また手伝ってもらっちゃって」

 

歩きながら桃が言う。その肩には買い物バッグがある。

 

「ううん。大丈夫です……だよ」

 

申し訳無さそうに笑う桃に紗耶も笑顔を返す。商店街の中を二人は買い出しの為に歩いていた。

 

「やっぱり慣れない?」

「えーっと……はい」

 

眉根を寄せ困った顔で紗耶が頷く。

 

「まぁ、無理しなくてもいいわ。これは私のわがままだし」

 

妲己との因縁を終えた桃は紗耶に砕けた口調で話して欲しいとお願いをした。紗耶は最初こそ戸惑っていたが、分かったと了承。とはいえ、基本丁寧語な紗耶には中々難しいようでどこかぎこちない口調になってしまう。

 

「ううん。私も桃さんと仲良くなれて嬉しいです……から。頑張ってみます……みるね」

 

紗耶がはにかむように笑って答える。そんな話をしながら二人は角を曲がる。すると、そこに立っていた少女とぶつかりそうになった。

 

「わっ! すいません!?」

 

既のところで躱し、紗耶が頭を下げる。

 

「……大丈夫。!? ……天華!」

 

少女は桃を見て目を見開いた。その顔を見て桃もはっとする。

 

「その声。まさかアルスター!?」

 

桃の言葉と同時に少女、壱子は身構える。

 

「あなた、ここで何してるの?」

「それは……」

 

壱子がチラリと横を見る。そこにはお店があった。ショーケースの中に数多のスイーツが並ぶ洋菓子店だ。

 

「お腹でも空いてるの?」

「そう言う訳では。ただ、ここ最近アスク様がお疲れ気味だったので……何か出来ないかと……」

 

しゅんと項垂れる壱子。それを見て桃が顎に手を当て笑う。

 

「つまりアスクを喜ばせたいと。……良いわ。手伝ってあげる」

「え?」

 

壱子がぽかんと口を開ける。桃はそんな壱子にウインク。

 

「この前成都さんを助けてくれたお礼。借りは返さなきゃね」

「はぁ」

 

壱子が気の無い返事をする。

 

「なら私も協力します……するね」

「助かるわ。アスクが喜ぶもの……」

 

桃がうんうん唸りながら考える。

 

「王道なのはやっぱり手作りかしら?」

「わぁっ、いいですね」

 

桃の提案に紗耶が賛同するが、

 

「良い提案ですが。私、料理はした事がありません」

 

壱子が難色を示した。それを聞いた桃は横目でニヤリと笑う。

 

「安心しなさい。私が教えるわ。場所もうちのキッチンを使えばいいし。さっ、準備に取り掛かるわよ!」

 

そう言うと桃は二人を連れて、歩き出した。

 

 

 

 

 

「暇だー」

 

喫茶店の中。ストローに息を吹き込みながら燈哉は呟く。ストローを伝った息がオレンジジュースをブクブクと泡立たせる。

 

「行儀悪いよ」

 

向かい側で卓人が半笑いで苦言をこぼす。

 

「椿坂さんが美鶴城さんに取られたからって拗ねなくても良いんじゃないかい?」

「別にそう言う訳じゃねえし」

 

燈哉がそっぽを向く。その姿はどう見ても拗ねているようにしか見えず卓人は苦笑する。

 

「まぁ、何にせよ。誘ってくれた事に関してはありがたいよ」

「というと?」

「ここ最近、跡取り関連で忙しくてね。ちょうど気分転換がしたかったんだ」

 

そう言うとカップを手に取る。

 

「こうもやるべき事が多いと平穏な日常が癒やしに思えるよ」

 

カップの中の紅茶を啜りながら、卓人は窓に目を向ける。そこには行き交う人々の姿がある。携帯を耳に当て歩くサラリーマンや子供連れの母親。まさしく何気ない日常が目の前に広がっていた。

そして、その日常は簡単に崩れさる。

 

「キャーッ!!」

 

どこかで甲高い悲鳴が上がる。相次いで爆発音が響いた。行き交う人々の群れはたちまち逃げ惑う人々の群れに変わる。

 

「平和って儚いな……」

「言ってる場合かい? 行くよ!」

 

燈哉と卓人は勢いよく立ち上がり、悲鳴のする方へ駆け出した。

 

 

 

 

 

一方その頃。キッチン大洗の店内で三人がお菓子作りを開始していた。三人で話し合った結果今回作るのはクッキーと相成り立った。作業をしながら桃はそっと横を見る。彼女の隣では壱子が真剣な表情でボウルに入ったバターと砂糖をかき混ぜている。そんな様子を見て桃はふと聞きたくなった。

 

「ねえ」

「何でしょう?」

 

ボウルから目を離す事無く壱子が言葉を返す。そんな壱子を見ながら桃は続きを口にした。

 

「何であなたはアスクに付き従ってるの?」

「……どう言う意味です?」

 

壱子の動きが止まる。首を動かし顔だけを桃の方へ向け睨む。その表情は見るからに不快感を顕にしている。

 

「アスクの目的はこの世界を終わらせる事。その目的が果たされればあなたも死ぬ。それなのにどうしてあいつに協力してるのか気になって」

 

そんな壱子の視線に負けず、桃は真っ直ぐ彼女の瞳を見つめる。その質問を受け、壱子の唇が再び動き出す。

 

「それは……。それは私がアスク様の駒だからです」

 

そう口にした後、壱子は一瞬だけ口元を緩ませた。

 

 

 

 

 

殴られる事は当たり前。蹴られる事は良くある事。根性焼きはお仕置きで、熱湯シャワーは躾。それが幼き日の槍原壱子の現実だった。

父は思慮が浅く短気で、何かと癇癪を起こしては暴力を振るう乱暴な人だった。

母はそんな父に逆らう事無く、我が身可愛さに進んで我が子差し出す弱い人だった。虐待。そう呼ばれる社会問題に晒され、壱子は生きてきた。父親譲りの丈夫さと母親譲りの諦めの良さを持って。

その日は最悪の日だった。父の機嫌がいつもより悪かったからだ。普段であれば殴られても五発くらいだったのたがその日は追加で三発ほど蹴りを入れられた。

 

(ついてないな)

 

そんな事を呑気に考えながら壱子はアパートから外へ出る。あのまま家にいたら余計に被害を食らうだけだ。そんな訳で、外に出ても宛ての無いままぶらつく。

そして辿り着いたのは公園だった。河原の近くに作られたブランコと滑り台と砂場しかない小さな公園だ。平日の朝という事もあり人の姿は無い。壱子はブランコに座り、一人黄昏れる。その時、盛大にお腹がなった。

 

(そう言えば昨日から何も食べてなかったっけ)

 

お腹をさすりながらどうしようかと思案にくれる。父の機嫌はそうそう直らない。もう少し時間を置いて、夕方辺りに帰って土下座で懇願すれば残飯くらいにはありつけるだろうか? ありつけると嬉しい。

 

「ねぇ、君」

 

唐突に声がかかる。顔を上げるとそこには青年がいた。白髪の中性的な青年だ。手には紙袋をぶら下げている。

 

「お腹でも空いてるのかい?」

 

青年は紙袋から菓子パンを一つ取り出し壱子に差し出す。

 

「あ……えっと……」

 

困惑しながら差し出されたパンと青年の顔を交互に見返す。その時、再びお腹の音が鳴り響く。

 

「お腹減ってるみたいだね」

「……はい。ごめんなさい」

 

壱子は恐る恐る菓子パンを手に取る。青年は柔らかい笑みを壱子に向けた。その笑顔に敵意や悪意と言った感情は無い。

 

「謝らなくていいよ。遠慮せずに召し上がれ」

 

そう言うと青年は隣のブランコに座った。恐る恐る菓子パンの封を破り中身を口にする。空腹だったせいもあるのかとても美味しく感じられた。

 

「美味しいです」

「そうかい? 良かったよ」

 

しばらく無言で菓子パンを齧る。その間、青年は微笑んでいるだけだ。

 

「あの。ごちそうさまでした」

 

ブランコから立ち上がり、頭を下げる。

 

「別にいいよ。僕が勝手にやった事だしね。それじゃあ」

 

青年は立ち上がると公園から立ち去った。

 

(……)

 

小さくなっていく青年の背中を、壱子は一人見つめていた。それからしばらく辺りを散策し家に帰る頃にはもう夕日が沈み始めていた。

 

「ただいま」

 

そう言って玄関を開け中に入る。途端に部屋の奥から怒号が響く。居間に向かうとそこには酒に酔い顔を赤くした父がいた。

 

「遅い! 何でもっと早く帰ってこないのよ!!」

 

部屋から母が飛び出て来て怒鳴る。その頬は赤く腫れ上がっていた。母は壱子の背後に素早く回ると部屋の中へと押し込んだ。

 

「!?」

 

驚く壱子を他所に母はすぐに扉を閉じた。部屋の中に壱子と父が取り残される。父は缶ビールを飲みながら壱子を睨む。

 

「おい。何でこんなに遅くなった?」

「……ごめんなさい」

 

小さく謝ると、缶ビールが勢いよく飛んでくる。缶は壱子の額に当たり鈍い音を立てた。痛みで後ろによろめきながら父を見る。それがまずかった。

 

「なんだその目は?」

 

不用意な行動が父の逆鱗に触れてしまった。父は椅子から立ち上がると壱子に詰め寄る。

 

「何だその目は? あ?」

 

父が思い切り蹴飛ばす。身体が壁に激突し、腹部と背中に鈍い痛みが走る。涙が滲む瞳で顔を上げればそこには拳を振り上げる父の姿。

 

(あ。死ぬかも)

 

いつもの壱子であったならばそこで諦めがついた。何事も諦めさえすれば、展望を望まず受け入れてしまえば楽になれる。だが、今回は違った。朝の公園で見ず知らずの他人に食べ物を恵んでもらえた。長らく得られなかった幸運を享受出来たせいだろうか。彼女はポツリと呟いた。

 

「誰か……助けて」

「いいよ。助けてあげる」

 

聞き覚えのある誰かの声がした。壱子と父の間に人影が割り込み、拳を受け止めた。そこにいたのは公園で出会った白髪の青年。

 

「誰だお前!」

「君を助けるにあたって条件がある。僕に忠誠を誓え。それが飲めないならここで見捨てる」

 

父の声を無視して青年が壱子へ言う。

 

「……分かりました。貴方に忠誠を誓います」

 

壱子の言葉を聞いた青年は口元に弧を描き、父の手を捻り上げる。鈍い音を立て父の手がありえない方向に折れ曲がった。

 

「は?」

 

呆然とした顔で暫し自分の手を見つめ、やがてその状態を認識したのか顔が歪み、激痛が体を襲った。

 

「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

絶叫を轟かせながらのたうち回る。そんな父を尻目に青年が壱子を振り返る。

 

「これより君は僕の駒だ。僕の命令に従い。僕の目的の為だけに生きてもらう。いいね?」

「はい」

 

壱子が頷く。

 

「自己紹介をしておこう。僕はアスク。よろしくね。」

「て……てめぇ!!」

 

痛みがだいぶ収まったのだろう。動けるようになった父が左手で包丁を構えていた。その切っ先は一直線に青年──アスクの喉元へと迫る。迫り来る包丁の刃を手で受け止めた握りつぶした。まるで豆腐を握りつぶしたかの如く。

 

「!?」

「そう言えばまだ生きてたね。忘れかけてたよ」

 

そう言って、アスクは歩み寄ると、その顔面に拳を叩き込んだ。一瞬にして部屋の端から端へと吹っ飛ぶ。鼻が潰れ骨が砕け、父は絶命した。その時、扉が開け放たれ、母が入って来た。

 

「何!? 何があっ……たの……。ひいっ!?」

 

部屋の凄惨な状態に思わず悲鳴を上げ、後ずさる。

 

「あ~あ。見られちゃった」

 

数秒後。絶命した母の死体が部屋を転がる。

 

「さて、もう邪魔者はいないね」

 

アスクは血まみれの手をハンカチで拭ってからその手を壱子へ差し出す。呆然とした顔で壱子は思う。

 

(きっとこの人は危ない人だ。でも……)

 

おそらくは、きっと。父や母よりも良い人だと思えた。だから迷わずその手を取る。

 

「そう言えば名前を聞いてなかったね?」

「槍原壱子です」

「壱子……壱……。ワンちゃんか」

 

アスクがそう呟く。

 

「君は良い駒になりそうだ」

 

アスクが壱子を引き寄せ、抱き抱える。所謂、お姫様抱っこの体勢だ。そして彼はそのまま窓を開ける。

 

「あの。ここは二階ですけど?」

「うん。知ってる」

 

アスクが窓枠に足をかけ、跳ぶ。壱子を抱えたまま。その身体は重力に引かれる事なく、空へ舞い上がり、屋根へと着地する。

 

「それじゃあ行こうか」

 

そのまま屋根から屋根へと飛び移る。こうして壱子の新しい人生が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

「これで完成ね」

 

桃がオーブンからトレーを取り出す。トレーの中には様々な形のクッキーが陳列していた。

 

「上手く出来て良かったです」

 

その出来栄えを見て紗耶が胸をなでおろし安堵する。

「はい」

 

桃が手早くクッキーを透明な袋に詰め、壱子に渡す。彼女はそれを無言で受け取った

 

「これで借りは返したわ。次会う時は遠慮なく戦える」

「もとより容赦する気はありません。……ですが、今回の事は感謝します」

 

そう言って小さくお辞儀をすると壱子は店内を後にした。そんな様子を見て二人は顔を合わせ苦笑する。その時。唐突に携帯が鳴る。

 

「もしもし」

『美鶴城か。緊急事態だ!』

 

桃が出ると燈哉の声がする。緊急事態の通りどこか焦ったような声だ。

 

『鬼だ! 夜行衆が出た!』

「!? すぐ行く。場所を教えなさい!」

 

桃が店内から飛び出した。

 

 

 

 

 

燈哉は電話を切り、携帯をポケットにしまう。その動作の最中も顔は前を見ている。燈哉の眼前には大量のオーガレジェスターの姿。そしてその先頭に立つのは茨木童子。茨木童子は不敵に笑うと鉄杖を掲げ、その先端を向ける。

 

「決闘だ神器。俺様と戦え!」

 

そう高らかに宣言したのだった。

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