数日前。とある山奥で爆発音が響き渡る。木々がなぎ倒され、夜空に黒煙が立ち込め、炎が燃え盛る。周囲には爆発に巻き込まれ倒れ伏す複数のオーガレジェスター。そしてその中心には――。
「カカカ……。カッカッカッカッカッカ!!」
炎の中にシルエットが浮かび上がり、独特な笑い声をあげる怪物がいた。
「これがチカラ。我の! 新たな!! チカラだぁ!!!」
怪物が歓喜の咆哮を叫ぶ。その傍ら。壁に手を掛け、身を隠すように人影が現れる。傷口を抑え、覚束無い足取りで現れたのは茨木童子。
「棟……梁……」
茨木童子がか細く呟く。
「俺は、俺様は!」
唇を噛みしめ力強く手を握る。そして、茨木童子は決意の眼差しで空を見上げた。
時は戻って、現在。
「決闘だ神器。俺様と戦え!」
茨木童子は鉄杖を掲げ、高らかに言う。だがしかし不敵なその顔にはどこか焦りの色が見える。
「久しぶりに会ったと思ったら、随分なご挨拶だな。どう言う風の吹き回しだ?」
呆れたように言い放つ燈哉を茨木童子は鼻で笑う。
「こちらにも事情があるのだ。暇を持て余してる貴様らとは違う!」
「そうかよ。でもやるってんなら相手になるぜ」
燈哉がトロフィーを取り出す。
「待て燈哉。数は向こうが上だ。軽率に動いてはいけない」
その様子を見ていた卓人が、慌てて止めに入る。だが燈哉は意に返さずに言う。
「大丈夫だ。わざわざ名指しでご指名だ。卑怯な手は使わないだろ。なぁ?」
「当然だ。貴様なぞ俺様が一捻りしてやる」
茨木童子は余裕を見せるように言い放つ。
「そうか? じゃあいくぜ」
<ムラマサ!>
「変身!」
燈哉がトロフィーをベルトにセット。その時。ちょうど連絡を受けて駆けつけた桃が卓人の元へ合流。状況を把握しようする桃をよそに燈哉の変身シークエンスは続く。ベルト横のボタンを押し込んだ。
<抜刀!決闘!激闘!妖刀の戦士!!>
<ムラマサブレード!>
鎧を纏い、ムラマサを携え、燈哉は神器へと変身を果たす。その姿を見て、茨木童子も怪人態へと変わる。そして両者共に武器を構えた。
「「はあああああ!」」
同時に駆け出した。ムラマサと鉄杖がぶつかり合い激しい音が響く。
「ヤァッ!」
互いの武器がぶつかり弾かれる。茨木童子が鉄杖で横薙ぎの攻撃。地を這う一撃が迫る。
「よっと!」
神器がバク転で回避。着地と同時にムラマサを突き出し、刺突。刃が体に触れる寸前、手元に戻した鉄杖がそれを阻む。神器と茨木童子の激戦が火花散る。
「ほう。前より強くなったようだな」
「当然だ。こっちは沢山の修羅場を潜り抜けてきたんだからな!」
神器が後退し距離を取る。
「ここからは超本気だ! 集え、天下五剣!!」
神器が手を翳す。その呼び声に応え、五つのトロフィーが一つとなって掌に乗る。
<天下五剣!>
「久しぶりの出番だ。思いっきり暴れるぜ」
仮面の奥で不敵に笑い、トロフィーをベルトに装填する。
<刀剣集結!>
<火剣!水剣!風剣!光剣!土剣!天下五剣!!>
<ワールドファイブレード!>
五色の鎧装甲を纏い、神器の姿が変わる。トロフィーのツマミを回し、ボタンを押す。
<ミカヅキムネチカ!>
ミカヅキを手に光速移動。茨木童子の背後に回る。
「甘いぞ! それは読めている!」
素早く反転。茨木童子が迎撃体勢を取った。
「こっちもな」
神器はそこからさらに移動。横っ飛びで死角に飛び込んだ。
<オニマルクニツナ!>
そのまま燃え盛る刃が振り下ろされる。
「何!?」
茨木童子は反応が遅れた。避けられないと悟り、防御態勢を取ろうとするも間に合わず、攻撃をまともに喰らってしまう。怯んだところにすかさず神器の追撃が入る。
「ッ!?」
<ドウジキリヤスツナ!>
風が茨木童子を捉えた。その体を浮かし、神器の元へと連れていく。そして空中で身動きが取れなくなった所を二振りの刃が斬った。
「グワァァァァッ!!!」
悲鳴を上げ、茨木童子が床を転がる。
「まだだ。俺様は……俺様は!」
悲痛な声を出しながら茨木童子が立ち上がる。痛む体を引きずりながらよろよろと神器へ向かっていく。
「負ける訳には、いかないのだ!!」
最後の力を振り絞り、鉄杖を振り下ろす。そして、鮮血が飛び散った。
「アスク様。その……。これをどうぞ!」
石畳の部屋で壱子が透明な袋渡す。可愛くラッピングされたその袋の中には桃たちと作り上げたクッキーが入っている。
「最近お疲れのようでしたので。元気になればと思いまして……」
それを聞いて優しく笑い、アスクはその袋を受け取った。そして袋を開け、クッキーを一枚手にする。
「へぇ、ありがとうね。……うん。美味しいね」
「! ありがとうございます!」
その言葉を聞き、壱子は嬉しそうにはにかむ。
「……」
そんな彼らの様子を虎杖は頬杖をつきながら微笑ましげに見つめる。
「あっ。虎杖さんの分もちゃんとありますよ」
虎杖の視線に気付いた壱子がポケットからクッキーの入った袋を取り出す。
「あー。いや別にそう言う訳じゃ……」
視線の意味を誤解され、虎杖はたじろぐ。だが壱子も譲らない。ただクッキーの袋を差し出す。
「……貰うよ。ありがとう」
そう返事をすると袋を受け取った。虎杖も袋を開けクッキーを齧る。暫し二人の咀嚼音だけが部屋に満ちる。その時。アスクがビクリと体を震わせたかと思うと剣呑な表情で手を翳す。
「杯よ。エネルギーの満ちる場所を映し出せ」
未完の杯が出現し、アスクの前に映像を映し出す。
「どうした、アスク?」
椅子から立ち上がり、虎杖が駆け寄る。アスクの様子を察してか真剣な顔だ。
「これは……」
映像を見てアスクは目を細めた。
神器の眼前で鮮血が舞う。驚きの表情のまま茨木童子が地面に崩れ落ちた。血溜まりが地面を赤く染める。茨木童子の背中には大剣が突き刺さっている。そしてその大剣には見覚えがある。その剣は、
「茨木。抜け駆けとはよい度胸であるな」
聞き覚えのある声が冷酷に響く。かつてあった言外の優しさは消え失せ、ただひたすらに冷たい声が憤怒を漏らしていた。声の主はゆっくりとこちらへ歩み寄り、茨木童子に突き刺さった大剣を引き抜く。
「酒吞……童子……」
その変わりように神器は戸惑いながら呟く。
「久しいな、立脇燈哉。貴様に会いに来たぞ」
酒吞童子が口元を緩ませ言う。彼の興味はすでに神器へと移っており、茨木童子に目もくれない。
「茨木童子はお前の仲間じゃなかったのか?」
そんな酒吞童子の様子に神器は仮面の奥で眉を顰める。
「
顔に貼り付けた笑みがより一層深くなる。もはや狂気的な笑顔だ。
「さぁ始めようぞ。我らの死合を」
<オーガ・ザ・酒吞童子!>
酒吞童子の体がたちまち怪人態へと変わる。そして、懐から新たなトロフィーを取り出した。それは血のように赤黒い日本刀のアームズトロフィーだった。
「!?」
「見せてやろう。これが我の新たな力!」
<ムラサメ!>
起動させたそのトロフィーを自らの胸元へ押し付けた。
「ウオオオォ!!!」
トロフィーが酒吞童子の中へ入り込みその姿をさらに変化させた。翡翠の身体は深い紫色へと変わり、額の角は一本増え三本に。体躯も一回り大きくなり、より禍々しくなった。そして、その手には赤黒い刃の日本刀――血刀<ムラサメ>が握られている。身に纏うそのオーラはファブニールと同等。否、それ以上。
「我が新たなる字は禍津。酒吞童子・禍津なり」
大剣を捨て、ムラサメを手に酒吞童子・禍津が悠然と歩き出す。酒呑童子が近づく度に凄まじいプレッシャーが神器を襲う。思わず後退る。
「どうした? 臆したか?」
挑発的な笑みで酒呑童子が歩みを進める。
「んな訳ねぇだろ!」
ミカヅキで光速移動。酒呑童子の背後へ回る。
<オオデンタミツヨ!>
オニマルからオオデンタへ武器を持ち替え、振り下ろす。渾身の力を込めた一撃が酒呑童子に迫る。だが、酒呑童子は落ち着いている。
「フッ!」
体を反転させ、ムラサメで迎え撃つ。刃と刃がぶつかる瞬間、ムラサメが妖しく光る。そして神器の体が吹っ飛んだ。まるで風船のようにいとも簡単に。
「ぐっ!?」
地面を転がるも素早く体勢を立て直し、立ち上がる。
「これならどうだ!」
<オニマルクニツナ!>
<ドウジキリヤスツナ!>
炎と風の斬撃を放つ。どちらも鬼に関する逸話を持つ武器。その攻撃ならば効くはず。そう考えての行動だ。だが。
「甘い」
酒呑童子がムラサメで横薙ぎ一閃。禍々しい斬撃が炎と風の刃を粉砕。そのまま神器へ突き刺さる。
「ぐぁぁぁぁ!!!」
神器が地面に片膝を着く。
「素晴らしい! これが今の我の力!! 遂に我は最強となった!!!」
酒呑童子がムラサメを見つめながら歓喜する。
「最強? お前の目的は死合を愉しむじゃなかったか?」
よろよろと立ち上がりながら神器が聞く。
「かつては……な。だが今は違う……ファブニールとの戦いを覚えているか?」
酒呑童子の瞳が揺れる。
「あの時。我は貴様に恐怖した」
「恐怖?」
「そうだ。あの場においてファブニールの次に強いのは我であった。だが。あの戦況を覆し、逆転させたのは紛れもなく立脇燈哉。貴様だった」
酒呑童子の顔が歪む。手に力が籠もりムラサメの柄がメキメキと音を立てる。
「貴様の進化は著しい。奇跡を起こす程にだ。だからこそ我は焦った。貴様ならば近い将来、我を討つという確信を得たからな」
そこで言葉を区切る。そして、ムラサメを掲げ、先程とは打って変わって笑顔をつくる。
「故に我も強くならねばならぬ。そして、手に入れたのだこのムラサメの力を! この力があればもはや貴様なぞ恐るるに足らず」
「茨木童子を刺したのは何でだ? あいつはお前の仲間だろうが!!」
神器が激昂する。
「我が意に背く者なぞ要らぬ。よって処罰した。それだけの事よ」
つまらなそうに酒呑童子が言う。その言葉を聞き、神器は歯を食いしばり、顔をしかめる。
「そうかよ。なら、今のお前にだけは絶対に負けられない!!」
神器がトロフィーの上部に連続で押し、さらにベルトのボタンを操作した。
<天下五剣!>
<必殺奥義!!>
エネルギーが右足へと集束していく。
「この一撃で決めてやる!」
「無駄だ」
「えっ」
神器が動くよりも早く、酒呑童子が素早く懐へ潜り込む。そして、ムラサメが神器を斬る。
「鬼刀・絶酩刃」
必殺の一撃が神器の装甲を破壊し、変身が解ける。燈哉が膝から崩れ落ちた。
「燈哉!!」
「立脇!!」
卓人と桃が慌てて駆け寄る。
「大丈夫か!?」
燈哉はうつ伏せで倒れ伏し、意識を失っていた。
「もはや弱者にようは無し。とくと死ゆがよい」
冷酷に酒呑童子がムラサメを振るう。禍々しい斬撃が三人を襲う。
(駄目だ。間に合わない!)
卓人がトロフィーを取り出すも、斬撃はすでに眼前に迫っている。変身をする暇が見当たらない。
「おっと。それはいけないね」
その時、三人の前に魔法陣が出現。魔法陣が斬撃を阻む。そして、頭部に捻れた角。背中には蝙蝠の如き羽が生えた杖持ちのレジェスターが舞い降りた。
「何者だ?」
「残念だけど、君に名乗る名前は持ち合わせてないんだ。というわけでハーフタイムの時間だ」
謎のレジェスターが杖を振るう。すると、無数の魔法陣が酒呑童子を囲う。杖の輝きに合わせ魔法陣の輝きも増していき、酒呑童子の体が四角い箱へと変わった。
「!?」
その様子を見て卓人達が驚愕。夜行衆達も棟梁の変わりように狼狽える。
「さぁて、取り敢えず逃げるよ〜」
足元に魔法陣が現れ、三人とレジェスターを囲う。そして、一瞬のうちに消える。その場には箱にされた酒呑童子と夜行衆だけが取り残されたのだった。