草木も眠る丑三つ時。門出市の一角にある建設中の高層ビル。その屋上に1人の男が座していた。翡翠の和服をきた美丈夫だ。
「カッカッカ! 今宵も良い月であるな」
男は、いや、男の姿をしたモノは手に持った瓢箪を傾けて酒を煽る。
「お前達。暫し自由時間だ。好きにせよ」
美丈夫の背後から多数の人影現れる。月明かりに照らされ、その正体が露わになる。それは頭に角を生やした怪物達であった。
怪物達は美丈夫に傅く。
「よろしいのですか?棟梁。ここは龍の巣でございますが……」
「うむ! よいよい」
そう言うと、美丈夫は再び酒を飲み始める。怪物達の1体。鉄杖を携えた怪物が声を上げる。
「良いかお前達! 我らが棟梁の命である! 夜行衆として恥じぬ振る舞いをせよ!!」
怪物達が雄叫びを上げ、次々と夜の闇へ消えていく。
「そこのお主」
美丈夫が1体の怪物を呼び止める。棍棒を持った怪物だ。
「すまぬが、1つ頼まれてくれぬか?」
美丈夫が目を細めながら怪しげに笑う。
翌日。燈哉と紗耶は緊張した面持ちでソファーに腰掛けていた。
ここは聖葉邸の応接室。目の前に広がるのは見るからに豪華な内装にテーブル。
その上には高そうな茶菓子と紅茶が並んでいる。
そんな場所に二人がいる理由は単純明快だ。
「遅くなってすまない」
応接室の扉が開く。そこから卓人が姿を現した。
「それで、話ってなんだよ?」
卓人が席に着くと単刀直入に燈哉が切り出す。
「うん。僕の知っている事を話しておこうと思ってね」
そう言うと、カップに手を伸ばす。
一口飲むとその味を堪能するようにゆっくりと喉へと流し込んいく。その様は優雅と形容するに相応しい。
「君達も色々と聞きたい事があるだろうしね」
「まぁ。そりゃあそうだけど……」
燈哉としても知りたかい事があったので。
しかし、まさかこんな場違いな場所に連れてこられるとは思っていなかったのだ。
そんな訳で燈哉と紗耶は緊張で汗びっしょりになっている。
気を取り直す様に燈哉は一度咳払い。
「じゃあ、質問させてもらうぜ」
そして疑問をぶつける。
「そもそもあの怪物は何なんだ?」
「……それを話すには、まずこのトロフィーについて話さなきゃいけない」
卓人はテーブルにトロフィーを置く。卓人がラウンダーに変身する際に使用していたトロフィーだ。
「これはアームズトロフィー。神話、伝承にその名を刻む武器の力を宿したトロフィー。というかその大元になった武器そのものと言った方がいいのかな?」
「それがこれさ」
卓人の言葉を聞き、二人は興味深げにそのトロフィーを見つめる。
「僕達はこのアームズトロフィーの力を使って仮面ライダーとなる。かつてこの世界で名を馳せた英雄達の様にね」
「そして、そのアームズトロフィーと対になる物がある。それがこのレジェスタートロフィーだ」
「「レジェスタートロフィー?」」
燈哉と紗耶の声が重なる。
卓人がテーブルに別のトロフィーを置く。
それはブロンズの台座の上に蝙蝠の様な顔がついたトロフィーと同じく台座の上に狼の様な顔がついたトロフィーの2つだった。
「これって!?」
燈哉達はその二つのトロフィーを見て驚く。それも当然である。何故なら、その二つのトロフィーに刻まれていた顔に見覚えがあったからだ。
「そうだよ。この二つのトロフィーは僕達が戦った怪物達から落ちたトロフィーさ」
「神話、伝承にその名を刻んだ怪物の力を宿したトロフィー。そのトロフィーを使って世界に害を与える存在。それこそがレジェスター。君の知りたかった怪物の名さ」
「レジェ……スター……」
燈哉は思わず息を呑む。
「あの……」
紗耶が許可を求めるように挙手する。
「そのレジェスターはどうして、トロフィーを狙っているんですか?」
当然とも言える疑問だった。卓人は顎に手を当てながら口を開く。
「それは……」
その時だった。電子音が鳴る。
音の発生源は燈哉の尻ポケットからだ。
「悪い、俺のだ」
そう言うと携帯を取り出す。それはメールだった。その内容を見て、燈哉の顔が喜色に染まる。
「おっ! マジか!!」
「何かあったのかい?」
卓人が尋ねる。燈哉は画面を卓人へ向け、言う。
「ああ。俺もそのトロフィーについて自分なりに調べようと思って、友達に聞いて回ってたんだ」
「そしたら、似たようなやつを見た事があるって奴がいたんだよ」
燈哉は興奮気味に語る。
「しかも、結構近くらしい」
「近く? どこだい?」
卓人が身を乗り出す。その反応に燈哉は満足気な様子で答える。
「聞いて驚け! 場所は鬼灯村だ!!」
鬼灯村。それは門出市の北東にある山、灯籠山の麓に広がる小さな村である。人口はおよそ50人程度。
村のあちこちに古い日本家屋が建ち並び、まるでタイムスリップしたかのような錯覚に陥る。
そんな村には1つの伝説がある。
曰く、かつてその村を人食い鬼が襲ったのだ。
村人の多くが犠牲となり、全滅も時間の問題と思われたその時、何処からともなく現れた仮面の戦士が鬼を倒したという。
その戦士の刀は燃えていた。さながら、夜を照らす灯りの如く。
「以来、その村は鬼灯村と呼ばれる様になったって言われてるの」
灯籠山の麓。鬼灯村への道すがら、紗耶がその村の伝説を教えてくれた。
「へぇ〜。そんな伝説があったのか」
「詳しいね、椿坂さん」
燈哉が感嘆の声を上げ、卓人は感心した様に相槌を打つ。
「昔から神話とか伝説とかが好きで。よく調べてたの」
照れ臭いのか頬を紅潮させる紗耶。そうこうしている内に鬼灯村に辿り着いた。
「さてと、こっからどうするんだ?」
燈哉が卓人に尋ねる。燈哉達にとってはトロフィーの探索は初めての事。経験者である卓人に意見を求めるのは当然と言える。
「そうだね。まずはこの村で一番偉い人を探そう」
卓人の提案を受け、3人は鬼灯村の村長の家へと向かった。
「おや? 貴方達は一体何方ですかな?」
3人が家を訪ねると、白髪交じりの老爺が現れる。彼は3人の来訪に驚きつつも快く迎え入れてくれた。
「突然すみません。僕達、このトロフィーを探してここに来ました。この村の村長さんでしょうか?」
「ええ、そうですが」
「少しお話しいいでしょうか?」
卓人がにこやかな笑顔でアームズトロフィーを見せる。片や村長はというと、トロフィーを見て少し驚いた様子だったがすぐに落ち着きを取り戻す。
「そうですか、そうですか。わかりました。狭い所ですが、どうぞ」
村長に案内され、家の中に招かれる。
室内は和室で、ちゃぶ台を挟んで座布団が敷かれている。
3人は促されるまま、腰掛けた。そして、老爺にここまで来た経緯を話す。
「確かにそのトロフィーに似た物ならば村の社に祀っております」
話を聞き終え村長が卓人のトロフィーを見ながら言う。その顔は険しく、眉間に皺が寄っている。
「じゃあ!」
「ですが、お渡しすることは出来ません。あのトロフィーはこの村にとって大事な物。代々守ってきた、歴史ある物。易々と渡す訳にはいきませぬ」
村長は毅然とした態度で断る。
「どうしても駄目ですか?お金ならいくらでもお支払いいたします」
卓人も負けじと交渉するが、村長の意志は固い様だ。それでも食い下がろうとする卓人を燈哉が制する。
「わかりました。突然押しかけてすんません」
燈哉が頭を下げる。
「立脇君!?」
呆気に取られる卓人をよそに燈哉は家を後にする。慌てて、卓人と紗耶も続く。
「どうして引き下がったんだい?」
村を出て少しした所で卓人が燈哉に尋ねた。
「何でって、あの村にとって大事な物なんだろ。だったら無理矢理奪う必要なんてないと思って」
燈哉が当たり前の様に答える。それとは対照的に卓人の顔が曇っていく。
「だけど、もしレジェスターがその存在に気付いたら、結局あの村は被害を受ける。たとえ嫌われる事になってでも手に入れるべきだ」
燈哉の意見に対して卓人は真っ向から反対する。二人は暫し睨み合う。
その時、山の方から悲鳴が上がる。それを聞き、燈哉と卓人は走り出す。
燈哉達が駆けつけると、そこには額に角を生やした怪人の姿があった。それはまさしく鬼であった。鬼の怪人、オーガレジェスターが暴れまわったのだろう、村のあちこちで火の手が上がっている。
オーガレジェスターの左手には老人が握られていた。この村の村長だ。
「やべぇ! 村長さんが!!」
「立脇君。行くよ!」
それを確認し、2人はアームズトロフィーを取り出す。
<ムラマサ!>
<カリバーン!>
「「変身!!」」
2人の前に日本刀と西洋剣が出現。赤紫の人魂と白と青の光が包み込み、仮面ライダーとなる。
その姿を見て、オーガレジェスターは驚いた様に目を剥く。
「貴様ら、仮面ライダーか!?」
「おう、そうだ!」
燈哉が一歩前に躍り出る。
「俺は神器! 仮面ライダー神器!! これ以上はやらせないぜ。」
燈哉がムラマサを構えながら名乗る。ラウンダーとなった卓人が隣に並ぶ。
「神器?」
「そ、俺の名前。神話の武器で神器。かっこいいだろ?」
「村正は神話の武器じゃないと思うけど……」
燈哉の言葉に突っ込む卓人。
「細かい事はいいんだよ!さぁ、行こうぜ!」
「あはは……」
あまりにも雑な物言いに卓人は苦笑いを浮かべるもすぐに気を取り直す。
「わかった! まずは村長さんを助けよう。」
「おう!」
2人は互いに頷き合う。そして、同時に駆け出した。
「はぁっ!!」
「ふんっ!!」
オーガレジェスターが右手に持っていた金棒を振り下ろす。神器はムラマサで受け止める。しかし、あまりのパワーに徐々に押されていく。
「聖葉!」
呼びかけに応えるように神器の脇を通り抜け、ラウンダーがオーガレジェスターに斬りかかる。
「甘いわ!!」
オーガレジェスターは村長を手放すともう一つ棍棒を取り出し受け止める。そのまま力任せに押し返す。
「くっ!?」
2人はそのまま後方ヘ退く。
「なんてパワーだよ」
オーガレジェスターの力に驚く燈哉。対して卓人は冷静な様子だ。
「大丈夫ですか?」
2人とオーガレジェスターが激闘を繰り広げている中。その隙きをついて紗耶が村長の元へと駆け寄る。
「あ……ああ。あの怪物の目的はこの村の宝。お前さん達が必要としていたあのトロフィーじゃ」
「!?」
「奴は、あのトロフィーを狙っておる」
そう言って村長は社のある方向を見る。そこには、今にも崩れそうな社があった。
「お前さんに頼みがある」
「え!?」
刀と棍棒。互いの武器がぶつかり合い、火花を散らす。しかし、吹っ飛ばされるのは神器の方であった。
「クソッ!」
空中で体勢を立て直し、着地を決めながら神器は悪態をつく。
「やっぱり、パワーはあっちが上みたいだね」
神器をカバーする様にラウンダーが立つ。
神器は改めてオーガレジェスターを見据える。数ではこちらが有利だが、大きな体躯から繰り出される重い一撃に、神器達は防戦一方を強いられていた。
「聖葉、何か良い方法とか無い?」
神器の問い掛けに対し、ラウンダーは思考を巡らせる。
(このままではジリ貧だ。僕が何とかしなければ!!)
ラウンダーは意を決し、行動を起こす。その動きに気付いたオーガレジェスターは棍棒を振り上げる。
しかしその攻撃が届くよりも早く、カリバーンが光を放つ。その眩い光を受け、オーガレジェスターの目が眩み動きが止まる。
「ここだ!!」
その隙を突き、ラウンダ―は渾身の力を込めて斬りかかる。カリバーンがオーガレジェスターの胴に肉薄する。そして、そのまま刃は振り抜かれる。はずだった。
それは偶然か必然か。やられてなるかとオーガレジェスターが棍棒を滅茶苦茶に振り回したのだ。その無軌道な一撃がラウンダーを捉えてしまった。
「ぐぁっ!?」
ラウンダーは苦悶の声を上げ、そのまま近くの民家に吹っ飛んでいく。
「聖葉!!」
神器が叫ぶ。
(ヤベェ! ヤベェぞ!!)
冷や汗が頬を伝う。仮面の奥で表情が引きつる。
(俺一人で倒せるか…………)
神器がそう思った瞬間だった。不意に声がかけられる。
「燈哉、受け取って!」
そう言って紗耶が何かを投げつけてくる。慌ててそれを受け取ると、それはトロフィーだった。シルバーの台座の上に橙色に煌めく日本刀が刺さったアームズトロフィーだ。
「これって!?」
神器は思わず驚きの声を上げる。そして、それを投げ渡した紗耶を見る。
「村長さんがそれを燈哉に、って」
そう言って紗耶は頷く。
「!? そっか……わかった!」
神器はトロフィーを握りしめると、上部を押し込み起動させる。
<オニマルクニツナ!>
ムラマサアームズトロフィーを外し、オニマルアームズトロフィーをベルトに取り付ける。
「さぁ、仕切り直しだ」
燈哉がベルトのボタンを押す。
<筆頭!必勝!必殺!火剣の戦士!!>
目の前に橙色の日本刀が現れる。炎の紋様が浮かんでいる日本刀だ。刀から吹き出た炎が橙色の装甲となって全身を覆う。そして最後に炎の仮面が燈哉の顔に張り付く。刀の刃が二本、額から突き出ており、まるで鬼を思わせる。
<オニマルフレア!>
炎が揺らめく日本刀、火剣<オニマル>を携え、新しい姿となった神器が地面を蹴り、距離を詰める。対するオーガレジェスターも棍棒を構え、迎え撃つ。
ぶつかり合う二つの武器。だがやはり、押されるのは神器だった。それを見て、オーガレジェスターはニヤリと笑う。
「うぉぉぉ!!」
神器の雄叫びに呼応する様にオニマルの炎が燃え上がる。その火力はオーガレジェスターの棍棒を溶かし、やがて本体にまで達した。
オーガレジェスターはたまらず、棍棒を手放し、後ずさる。
「今だ!!」
オニマルアームズトロフィーをオニマルにセット。
<オニマルクニツナ!>
<必殺神技!!>
凄まじい炎を纏った刃がオーガレジェスターに迫る。オーガレジェスターはもう1つの棍棒でガードするも、もはや意味は無し。棍棒を瞬く間に溶かし、その身を焼き尽くす。そして、そのまま横薙ぎ一閃。
「グォォォ!!」
オーガレジェスターは断末魔の悲鳴を上げながら爆散。カランと音を立て、トロフィーが地面に落ちる。
「ふぅ~。終わった」
燈哉は変身を解除する。燈哉が辺りを見渡す。そこにはこちらに駆け寄ってくる紗耶と崩れ落ちた民家から這い出てくる卓人の姿があった。
「皆様方。本当にありがとうございました」
鬼灯村の村長が頭を下げる。
「いえいえ。こちらこそ、このトロフィーに助けられました。ありがとうございます」
燈哉はそう言ってオニマルアームズトロフィーを村長に返そうとする。しかし、村長がそれを手で制する。
「そのトロフィーはあなた方が持っていてください。きっとあなた方の役に立つはずです」
「えっ!? でも………」
燈哉達三人は顔を見合わせる。
「あの時のあなた方は正しく村を救った伝説の戦士と同じでした。その力を正しく扱えるはずです」
「分かりました。ありがたくいただきます」
燈哉はそう言ってトロフィーを受け取る。
「立脇君。それは君が持っていてくれ」
卓人が燈哉の手にあるトロフィーを見て言う。
「いいのか?」
「ああ。君が託された物だからね」
卓人は微笑む。
「そっか。じゃあ遠慮なく」
燈哉はトロフィーを懐にしまう。
「それではまた、縁があったら」
手を振りながら燈哉達は鬼灯村を後にするのだった。
「鬼だと……!?」
ファブニールが忌々しげに声を荒げる。石畳の部屋にて、白髪の青年が報告していた。
「はい。恐らく夜行衆の者かと。既にこちらの何人かが被害を受けております」
いかがいたしますか? そう言葉を紡ごうとした時だった。
部屋の扉が開らかれる。瞬間、部屋の中にむせ返る様なアルコール臭が充満。白髪の青年は思わず手で鼻を覆う。
現れたのは和服を着た美丈夫だった。ファブニールが椅子から立ち上がり、美丈夫を睨みつける。
「何しに来やがった? 酒呑童子」