仮面ライダー神器   作:puls9

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第三十節 束の間の思惑、夢想の試練

「……き! ……らき!」

 

遠くから声が聞こえる。幾度も幾度も声が聞こえる。その声で目を覚まし、茨木童子は重いまぶたを上げる。

 

「茨木! 聞こえるか、茨木!!」

 

視界が開くとそこにはこちらを心配そうに見つめる熊、虎熊、星熊、金熊童子の四体がいた。

 

「俺様は生きているのか……?」

 

茨木童子がポツリと呟く。

 

「うおーん。無事で良かったぞ!!」

 

熊童子が涙と鼻水を流しながら茨木童子を抱き締める。余程力が強かったのか背中がメキメキと鈍い音を立てた。

 

「痛い痛い痛い!!? ええい離せ!!!」

 

涙目になりながら熊童子を引き剥がし、茨木童子は他の三体に尋ねる。

 

「棟梁はどうなった?」

「あれを見ろ」

 

金熊童子が指差す。そこには手の平サイズの小さな箱があった。

 

「あれが棟梁だよ」

 

話を引き継いだのは星熊童子。手を頭の後ろで組みながら気だるげに言う。

 

「謎のレジェスターが現れて棟梁を箱にした。そんでもって仮面ライダー共と一緒に消えたよ」

「何だと!? そんな棟梁が……」

 

茨木童子が箱に触れようと手を伸ばしたその時。箱が激しく振動した。ベキベキと音を鳴らし箱に亀裂が入る。

 

「でもでも見た所、時間のようですよ。棟梁ならば、すぐに開放されるかも」

 

虎熊童子が明るい声で言う。

 

「で、どうする? 茨木?」

 

金熊童子の問いと共に四体の視線が茨木童子へ集中する。

 

「どう……とは?」

「今のお前は棟梁にとって敵だ。何故、抜け駆けした?」

「……それは。……俺様が神器を倒せば元の棟梁に戻ってくれると思って」

 

俯きながら茨木童子は言う。

 

「残念だがそれは無い。棟梁は今、ムラサメの力に飲まれている。妖刀と名高い村雨だ。恐らくその力が負の感情を増幅させ棟梁を暴走させたのだろう」

「そんな……」

「だからこそお前はここを離れろ。そして機を見てムラサメの因果から棟梁を解放するんだ」

「!?」

 

金熊童子の言葉を聞き茨木童子は唇を噛み締め、そして、決意と共に顔を上げた。

 

「分かった。棟梁の事は任せたぞ」

 

そう言うと茨木童子は遠くへ駆け出した。かくして、鬼大五将による獅子身中の虫の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

キッチン大洗の店内に魔法陣が出現。眩い光と共に現れたのは燈哉達三人と謎のレジェスター。

 

「え? えっ?」

 

それを間近で目撃してしまった紗耶は目を白黒させている。

 

「さて、と。とりあえず、ほいっ!」

 

謎のレジェスターは杖を掲げる。放たれた光が燈哉を包み込む。すると体の傷が見る見る消えていき、燈哉は意識を取り戻した。

 

「っ……。ここは……」

「キッチン大洗の店内だよ」

 

燈哉の問いかけに謎のレジェスターが答える。

 

「うえっ、レジェスター!? あれっ? お前どっかで見たような……」

 

目を覚まして視界に飛び込んてきた謎のレジェスターを見て、燈哉は変な声を出して飛び退くも、落ち着きを取り戻した。そして、そのレジェスターをよく見ると既視感を覚える。

 

「おやおや、薫風山での出来事をお忘れかな?」

「薫風山……。あっ!? もしかしてあんときのデビルレジェスター!!」

 

瞬間。燈哉の脳裏にかつての出来事が思い浮かぶ。

 

「クックック。残念だか、デビルレジェスターとは偽りの名よ」

 

役者じみた声で謎のレジェスターが近くの丸椅子に腰掛ける。そして、くるくると回り始めた。

 

「ある時は謎のレジェスター」

 

途端にレジェスターの姿が変化。人間態に変わった。その姿を見て、燈哉と紗耶が目を見開く。

 

「またある時は立脇君の友人。ムーマ・ウィザードリィ」

 

そしてムーマの姿になったレジェスターはさらに変化。白いフード付きのローブを羽織った。それはまるで魔術師のよう。その姿を見て、今度は卓人と桃が目を見開いた。

 

「そしてまたある時は、アーサー王伝説における稀代の天才イケメン魔術師」

 

回転を止め、レジェスターは杖を持ったまま仰々しく両手を広げる。

 

「そう! その正体は……! マーリン。インキュバスレジェスター・マーリン。以後よろしくね☆」

 

そう言ってマーリンはウインクを決めた。

 

「えええ〜!?!!」

 

予想外の人物の登場に燈哉は驚きを隠せない。紗耶に至っては口を開けて呆然としている。傍らでは卓人と桃も呆気にとられている様子だ。

 

「うんうん。良い感じに驚いているね」

 

満足そうにマーリンが頷く。

 

「それじゃ、自己紹介も済んだところで色々と説明させてもらおう」

 

するとマーリンは杖をテーブルの上に置き、全員を見渡す。そして、人差し指を立てる。

 

「まず最初に。知ってのとおり私はついさっき酒呑童子を封印した。だがそれはあくまで一時的なものだ」

「!?」

 

マーリンの言葉にその場にいた全員が息を呑む。

 

「というのも、今の酒呑童子は強力だ。今回封印出来たのは不意打ちだったからだね。そんな訳でそのうち封印は解かれる。半日持てば良い方かな」

「そ、そんな……」

 

マーリンの言葉に全員が顔を曇らせる。だがマーリンは気にせず話を続ける。

 

「そこで君達に朗報だ。君達の中から一人選んで欲しい。その代表者にパワーアップの試練を与えよう」

「パワーアップ……」

「そうだとも」

 

マーリンの言葉に燈哉達はゴクリと息を飲む。

 

「君達の中から一人代表者を決め、半日以内に試練をクリアする。そうすれば酒呑童子に対抗出来る」

「!!」

 

その提案に全員が驚いた。

 

「一人だけな理由は何でですか?」

「敵は一体だけじゃない。酒呑童子が率いる夜行衆がいる。ここで全員がいなくなったら街に甚大な被害が出るだろう」

「それに試練の最中に酒呑童子が復活する可能性もある。どのみち足止め役は必要か」

「そういうこと」

 

と、卓人の言葉にマーリンが首肯する。

 

「どうかな?  私としては誰が試練を受けるか早急に決めて欲しい。時間がないからね」

 

と、マーリンが言った時だった。

 

「なら僕は燈哉を推薦する」

 

そう言ったのは卓人だった。その言葉に全員の視線が卓人を向く。

 

「理由は二つ。一つ目は燈哉の体がボロボロな事だ。マーリンの能力なら大体想像はつく。試練が想像通りの場所で行われるなら体を休める事が出来る」

「そして二つ目。これはもっと単純な理由」

「?」

 

卓人の言葉に疑問符を浮かべる。

 

「君はやられっぱなしで終わるようなタマじゃないだろう?」

 

そう言っていたずらっぽく笑う。その言葉に燈哉がつられて破顔。

 

「だな。ボコボコにされて黙ってられるかってんだ!」

「私も異議なし」

 

と、桃も賛同する。

 

「ここにはキッチン大洗がある。私の居場所を壊される訳にはいかない」

「ということは、異論はないみたいだね」

 

マーリンは椅子から立ち上がり杖を手に取る。そして、燈哉に向かって掲げた。

 

「では行きたまえ。夢の世界へ」

 

瞬間。店の床に巨大な魔法陣が出現した。淡い光を放ちながら燈哉を包み込む。

 

「燈哉。頑張って」

 

紗耶の声を最後に聞きながら、燈哉は夢の世界へ旅立った。崩れ落ちた燈哉の体を卓人が支え、床に寝かす。

 

「そう言えば聞いてませんでしたね」

 

卓人がマーリンを見る。

 

「どうして僕達に協力してくれるんですか?」

「何、簡単な話さ」

 

マーリンは杖を撫でながら語り始める。

 

「私の中でレジェスターというのは人として死んだ者達なのさ。今を生きる者達の邪魔をする亡霊なら祓わないとね」

 

そう言ってマーリンが笑う。

 

「それに頑張ってる君達を影ながら支援する。かっこいいと思わない?」

「まあ、否定はしません」

 

マーリンの言葉に卓人は苦笑交じりに答えた。

 

「それじゃあ、僕は外へ行ってくる。夜行衆の動きを監視しておかなきゃね」

 

卓人が歩き出す。

 

「なら私も行くわ」

 

桃も続く。そして二人はキッチン大洗を後にした。

 

 

 

 

 

燈哉が目を開けるとそこは神社の境内だった。その中心に立っている。

 

「ここはどこだ?」

 

きょろきょろと周囲を見渡す。その瞬間。首筋に一閃が奔る。

 

「え?」

 

一陣の風が吹き抜ける。燈哉は慌てて首に触れる。ちゃんと繋がっている。だが確かに首を斬られた感覚が残っていた。

 

「!?」

 

目を白黒させる燈哉の前に人影が現れた。

 

「……」

 

白い衣を着た人物。艷やかな黒髪が風に靡いている。中性的な見た目のせいか性別の判断がつかない。そして、手には古風な剣が握られている。

 

「遅い。ここが戦場ならばお前はすでに死んでるぞ」

 

衣の人物が言う。

 

「え?」

 

斬撃が燈哉を襲う。再び首を斬られる感覚が燈哉を襲う。

 

「!?」

「また死んだな」

 

白い衣の人物が言う。呆れたようにため息を吐く。

 

「反撃はなしか?」

「いや、あの……。どちら様?」

 

戸惑うながら燈哉が聞く。

 

「そんな話はしなくていい。時間が無いのだろう。さっさとかかってこい」

 

白い衣の人物が剣を構える。

 

「オレに一太刀入れたら勝ちだ。お前に新しい力をくれてやる。変身しろ」

「いいのか、変身して?」

「構わん。そうでなければオレには勝てん」

 

その言葉に燈哉の表情が引き締まる。

 

「すぐに負けても恨むなよ」

 

<ムラマサ!>

「変身!」

 

燈哉がベルトを操作。高らかに宣言する。

 

<抜刀!決闘!激闘!妖刀の戦士!!>

<ムラマサブレード!>

 

神器へと姿を変え、ムラマサを構えた。

 

「行くぜ!」

 

神器がムラマサを構えて突撃。白い衣の人物に斬りかかる。相手も剣で応戦。鋭い金属音と共に火花が散る。激しい鍔迫り合いが繰り広げられる。

そして神器は体を回転させながら後ろに下がる。そのまま鋭い横一閃。

剣を構えた白い衣の人物はその攻撃をいなし、逆にカウンターの斬撃を放つ。その一撃が神器を大きく吹き飛ばす。

 

「ぐあ!」

 

地面を転がる神器。白い衣の人物は小さく息を吐くと剣を正眼に構えた。

 

「悪くは無いが大振りだ。隙が大きい」

「こいつ、強い!?」

「今度はこっちから攻めるぞ」

 

白い衣の人物が動き出す。神器も慌てて立ち上がる。白い衣の人物は神器の周囲を回り込むように走る。その速度は神器はより速い。そして、一瞬の隙を突いて剣が振るわれた。

 

「ぐっ!」

 

神器が再び地面を転がる。

 

「うーん。やってるねぇ。大和の尊君は相変わらずスパルタだ」

 

遠くでマーリンがそれを見つめていた。白い衣の人物を知っているのか、苦笑している。

 

「さて覗き見はこれくらいにしないとね。向こうも動きがあったみたいだし」

 

ふと空を見上げるとマーリンが夢の世界から姿を消した。

 

「はあああっ!!」

 

神器がムラマサで刺突。白い衣の人物は体を屈め、するりと懐へと潜り込んだ。そのまま神器を切り上げる。

 

「うわあああ!」

 

地面に転がる神器。

 

「闇雲な攻撃は禁物だ。相手の動きを良く見ろ」

 

白い衣の人物は容赦なく次の攻撃に移る。しかし、神器がぎりぎりそれを躱す。

 

「甘い」

 

神器の顔面に蹴りが入る。

 

「ぶっ!?」

 

顔を抑え、悶絶。

 

「剣だけが武器じゃない。使える物は全て使え。いいな?」

「……何かまるで稽古みたいだな」

 

よろよろと立ち上がり、神器が呟く。

 

「使える物は全て使え、か……。なら!」

<ドウジキリヤスツナ!>

<風雲!風流!封殺!風剣の戦士!!>

<ドウジキリウインド!>

 

ドウジキリを手に神器が駆ける。白い衣の人物は剣を握り直し迎撃の体勢に入る。二人がぶつかる直前、神器がドウジキリを頭上へ放り投げた。

 

「何!?」

 

白い衣の人物の注意が上へ向かう。その隙に神器が懐へ入った。そして、拳を振るう。

 

「うりゃぁぁぁ!!」

 

拳が胴へ当たる刹那。その行く手を剣が阻む。

 

「発想は良かったぞ。だがそれでは当たらない」

「いや。案外そうでもないぜ」

 

握っていた拳を解き、神器が剣を掴む。そして反対の手を虚空で踊らせる。

 

「まさか!」

 

白い衣の人物が上を見る。頭上ではドウジキリが風に操られ急降下していた。

 

「くっ!?」

 

慌てて回避しようとするも剣を掴まれているがゆえに避けられない。ドウジキリが白い衣の人物へ突き刺さった。

 

「一本取られたか……」

 

天を仰ぎ白い衣の人物は悔しげに歯噛みする。

 

「受け取れ」

 

懐からトロフィーを取り出し燈哉に渡す。それはゴールドの台座の上に波打つようにうねる剣が突き刺さったアームズトロフィーだった。

 

「見事な一撃であった。その剣はお前の物だ。上手く使うといい」

 

白い衣の人物の体が粒子となって徐々に消えていく。

 

「消えてる!?」

「ここはマーリンが作り上げた夢の世界。ここに入る方法は二つだ。一つはマーリンの力で接続された生者。もう一つは未練を残した迷える魂」

 

白い衣の人物が笑う。

 

「オレの未練はその剣を相応しい者に継承する事。未練が無くなれば消える定めだ。頑張れよ神器」

 

その言葉を最後に白い衣の人物が完全に消滅した。

 

「おう、任せろ」

 

変身を解除し力強く頷くと燈哉は目をつむる。そして、その意識は現実世界へと戻っていった。

 

 

 

 

 

燈哉が試練をクリアする一時間前。箱が今まで以上に激しく振動した。その威力は凄まじく振動だけで宙に浮かぶほどだ。やがて、箱の亀裂が深く刻まれ、そして砕け散った。中から酒呑童子が復活を果たす。

 

「者共、準備せよ」

 

ゆっくりと立ち上がる酒呑童子の顔は憤怒に染まっている。狼狽える夜行衆の鬼達に厳かに言った。

 

「これより百鬼夜行を行う」

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