仮面ライダー神器   作:puls9

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第三十三節 門出祭開幕。そして真剣勝負へ

「ふふふ〜ん」

 

ご機嫌な鼻歌を歌いながら燈哉は広場の入口に向かっていた。

 

「やぁ燈哉。おはよう」

「朝から元気ね」

 

そんな燈哉に声をかけたのは卓人と桃。挨拶もそこそこに三人は伴って歩く。

 

「いやぁ~、楽しみだなぁ」

 

そう言って燈哉は入口を見上げる。そこにはデカデカと門出祭の看板が取り付けられていた。

門出祭とは、一年の半分となる六月に前半を安全に過ごせた感謝と後半を安全に過ごす為の儀式として行われる年間行事である。平たく言えば年に一度のお祭りだ。その日は門出市でも一番大きい広場に屋台やら出し物等が並び、地元の人達や観光客等で賑わう。

 

「にしても美鶴城が参加しないのは意外だったな」

「しないんじゃなくて出来なかっだけよ。妲己の言いなりになってた時期に参加受付が終了しちゃったから」

 

入口のアーチを抜けながら桃は悔しげに顔を歪ませる。そんな桃を気遣うように卓人が言った。

 

「それは災難だったね」

「まぁ、過ぎたことはしょうがないし、今回は徹底的にリサーチしてやるわ。そして来年、目にものを見せてあげるわ」

 

そう意気込む桃。そしてガッツポーズのままにっこりと二人を見る。

 

「もちろん、二人にも手伝ってもらうからよろしくね」

「「え゛……」」

「よろしくね」

 

無言の圧が怖い。二人はこくこくと頷いた。

 

「そう言えば椿坂さんは?」

 

話題を変えようと卓人が聞く。

 

「もう中にいるってよ」

 

燈哉が周囲を見渡す。すると目当ての人物を見つける。広場の端。屋台と屋台の間に紗耶の姿があった。

 

「おーい、紗……耶……?」

 

彼女の元へ駆けた燈哉の足が徐々に失速。やがて完全に止まった。紗耶のそばには先客がいた。それは整った容姿の青年だった。同性である燈哉の目から見てもイケメンと断言できる青年だ。そして紗耶はその青年と楽しげに談笑している。

 

「燈哉。落ち着いて聞いてくれ」

 

談笑する紗耶と青年。呆然とする燈哉。両者を見て状況を察したのだろう。追いついてきた卓人がいつになく真剣な顔で燈哉の右肩に手を置く。

 

「人間、顔が全てじゃない」

 

同じく察した桃が燈哉の左肩に手を置き、言葉を引き継いだ。

 

「大事なのは心よ」

 

こちらも真剣な表情をしている。燈哉はと言うと二人の言葉を脳内で反芻する。そして脳内でそれを整理し、言った。

 

「おう、喧嘩なら買うぞ」

 

大事なのは心、顔が全てじゃない。逆説的に言えば顔では負けていると言うことだ。燈哉は二人に抗議の視線を送る。

その時。紗耶がふと顔を動かし、燈哉達の方向を向く。そして燈哉の姿を視界に入れると表情がぱあっと一層明るくなった。

 

「燈哉。こっちだよ!」

 

胸の前で控えめに手を振る。

 

「なぁ、見た! 見たか! 今の!!」

 

口元を押さえながら若干赤らんだ顔で卓人達を振り返る。

 

「はいはい。良かったわねー」

「うんうん。良かった、良かったー」

 

二人は生返事で燈哉の脇を抜ける。

 

「さっきと態度違うくない!?」

「いや。だって、ねえ?」

 

燈哉の抗議に卓人は肩を竦ませ、桃に同意を求める。

 

「困ってるなら助けるけど、別にあんたの惚気話に興味は無いわよ」

 

ため息をつき、桃がばっさりと切り捨てた。

 

「えぇー……」

 

納得いかない様子で卓人達と紗耶達の元に合流。

 

「燈哉、おはよう」

「おう、おはよう」

 

笑顔で迎える紗耶に笑みを返すと、紗耶が青年を紹介する。

 

「こちらは岩倉辰巳(いわくらたつみ)さん。大学の友達で、さっき偶然出会ったの」

「はじめまして。岩倉辰巳です。よろしく。収穫祭は初めてで、とても楽しみだよ」

 

にっこりと歯を見せ笑う。そして右手を差し出す。

 

「こっちこそ初めまして。立脇 燈哉だ。よろしくな」

 

挨拶を返して手を握る。そんな友好的な態度と裏腹にその表情はやや引きつっていた。

 

「それでこっちが……」

 

燈哉が二人に手を向ける。そして全員の自己紹介が終わり、口を開いたのは桃だった。

 

「はい、これ」

 

桃がバッグから紙を取り出し、燈哉と紗耶と卓人にそれぞれ手渡す。

 

「何だこれ?」

「言ったでしょ? 徹底的にリサーチするって」

 

紙はA3のメモ用紙だった。要するに食品関連の傾向を書けとのお達しなのだろう。

 

「ここまでするのか……」

 

あまりにも本気な桃に燈哉はドン引きしていた。

 

「あはは。……でも僕としてはありがたいかな。盛り上がるのは良いことだしね」

「さすがは収穫祭のスポンサー。言うことが違いますなぁ」

 

感心する卓人に向け、燈哉はわざとらしく声量を上げた。

 

「まぁ、そういうわけだから手分けしていくわよ。私は紗耶と一緒にまわるから、また後でね」

 

そう言うと紗耶の背中を押して人混みの中に消えていった。

 

「「「……え?」」」

 

紗耶と桃がいなくなると、流れる沈黙。三人は互いに気遣わし気に目を合わせる。

そんな気まずい雰囲気の中、初めに切り出したのは燈哉だった。

 

「じゃあ、行くか」

 

無言のまま隣に並んで歩く三人の間に会話は無い。燈哉と卓人の間ならばそれなりに話す事はある。だが、初対面の人物がいる中で二人だけで話すのは気が引ける。

 

(うーん。すごく気まずいね)

 

卓人は一人心の中で苦笑する。普段であれば物怖じしない燈哉がぐいぐい行くのだが、紗耶と仲良く談笑していた辰巳を相手にどう接して良いか迷っているのだろう。

そんな時、ふと目の端にキャンピングカーを見つける。付近には備え付けのテーブルと椅子が配置されていた。

 

「ねぇ。とりあえず何か食べないかい? あそこなら腰を落ち着けられるし良いと思わない?」

「おー、いいね」

 

こうして三人はキャンピングカーへと向かった。キャンピングカーではクレープが売られていた。

 

「どれを食べようかな。迷うね」

「俺はチョコレートで」

「僕はイチゴを貰おうかな」

 

販売員に注文する三人。やがてテーブル席につくと、それぞれクレープを食べ始める。

 

「……そう言えば」

 

卓人が声を漏らすと、二人の視線が集中する。

 

「ずっと気になっていたんだけど。燈哉と椿坂さんてどうやって知り合ったんだい? 悪く言うつもりは無いんだけど……、だいぶタイプが違うだろう?」

 

卓人は燈哉を見る。燈哉は明るい方で、紗耶はどちらかと言えば控えめな方。両者の性格は対極的だ。

 

「あー……、それか……」

 

燈哉が一旦、視線を上に彷徨わせ、顔を戻した。

 

「俺ってさ、自慢じゃないけど学校ではクラスの中心にいたんだ。だからかな? 教室の隅は目立って見えた」

 

そう語る燈哉はどこか遠くに目線をやっている。その表情には過去を懐かしむ様子が見て取れた。

 

「紗耶は休み時間になるとさ、自分の席でずっと本読んでた。最初はそれだけだったんだけど、なんか、だんだん気になってきて、ある時声をかけたんだ。何読んでるんだ?ってさ」

 

 

 

 

 

 

「お前何読んでるんだ?」

 

在りし日の教室。当時小学生だった燈哉は同じクラスの少女――紗耶に声をかける。紗耶は声をかけられるとは思ってもいなかったのだろう。燈哉の言葉にびくりと肩を動かし、驚いた顔で目を白黒させていた。

 

「あ……えっと……」

 

しどろもどろになりながら紗耶は声を詰まらせる。そして手に持っていた本で顔を隠した。その結果、本の表紙が燈哉の視界に入った。そのタイトルは、

 

「聖杯伝承節?」

 

燈哉が首を傾げる。その本のタイトルを疑問に思ったのか、あるいは内容が気になったのか、彼は本の正体が書かれたタイトルを口にする。

 

「面白いのか?」

 

その質問に紗耶は顔を上げる。その表情は先程とは打って変わって明るい。紗耶が早口でまくし立てる。

 

「面白いよっ! 主人公の姉弟があらゆる願いを叶えてくれる聖杯を使って色んな人達を助けていくお話なんだ」

 

紗耶は再び本に顔を戻すと、そのページを燈哉に見せた。そこには挿絵があり、みすぼらしい服装を纏った白髪の姉弟の頭上で輝く聖杯とその周りで祈りを捧げる人々の姿が描かれていた。

 

「特に優しすぎる姉と怒りっぽい弟が時に衝突しながら困っている人達を助けて行く姿は本当に素敵で。願いを叶えてもらう人達も内に秘めた悩みがあったり、最初はあくどい考えを持ってたけど姉弟に感化されて改心していく所は本当にあったかい気持ちに――」

 

そこで紗耶はふと我に返り、フリーズした。そして見る見る顔を赤らませたかと思うと今度は青ざめていく。

 

「どうしたんだ?」

「あ……その……えっと……ごめんなさい!!」

「?」

 

紗耶が勢いよく頭を下げる。

 

「きゅ、急にそんな話聞かされても困るよね? だからごめんなさい!」

「いや、別に困ってないけど……」

「そ、そうなの?」

 

燈哉の態度に恐る恐ると言った体で紗耶は顔を上げる。そんな彼女に燈哉は口元を緩ませる。

 

「なんか凄く興味が湧いてきた。その本についてもっと教えてくれよ」

「え?」

「その本だけじゃなくて他にもおすすめがあればそれでもいいからさ」

 

燈哉の言葉に紗耶は目をぱちくりとさせる。そして、

 

「うん!」

 

満面の笑みを燈哉に返した。

それから二人はよく一緒に過ごすようになった。燈哉は紗耶に面白い本を紹介してもらい、紗耶は燈哉に連れられて色々な所に出かけた。そしてその関係は今現在へと続いている。

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね。二人はそうやって出会ったのか」

 

卓人が納得の表情で頷く。食べ終えたクレープの包みを綺麗に折りたたみながら。

 

「別に特異な出会い方じゃなかったけどな。でもまさかそれがここまで続くとは思わなかったよ」

「そして彼女と関わる中で好意を抱いたと」

「なっ!? 馬っ鹿! 全然ちげぇよ! 俺と紗耶はただの友達だよ!!」

 

顔を真っ赤にしながら燈哉が立ち上がる。その拍子に体が机にぶつかり大きな音を立てる。

 

「はいはい。そういう事にしておくよ」

 

からかうような笑みで卓人が言う。その時、黙って話を聞いていた辰巳が口を開いた。

 

「という事は、僕が紗耶さんに告白しても問題無いと言う事だよね?」

「はぁ……! 何でだよ!?」

 

燈哉が吠える。あまりの露骨な態度に卓人は内心苦笑する。

 

(分かりやすいなぁ)

「君達は友達同士なんだろう? それなら僕と紗耶さんの関係にとやかく言う筋合いはないんじゃない?」

「そ、それは……そうだけど……」

 

辰巳の正論に燈哉が口を噤む。それを聞いて卓人は軽く吹き出した。

 

(燈哉も素直になればいいのに。仕方ない、助けてあげよう)

 

忍び笑いをしながら助け舟を出すべく口を開ける。

 

「なら勝負で決めたらどうかな? 勝ったほうが椿坂さんをデートに誘って告白する。それならお互い文句は出ないと思うけど?」

「なるほど。僕は問題無いよ。勝てば良いだけの話だからね。君はどうするんだい? 自信が無いのなら潔く身を引いてくれれば助かるけど?」

 

卓人の提案に辰巳も同意する。彼は余裕の態度で燈哉を見つめた。

 

「っ……上等だ! その勝負、受けて立つ!!」

 

燈哉は右手の拳を左手の掌で受け止める。そして、鋭い目つきで辰巳に睨みつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で。世紀の一戦。ボルダリング対決を始めよう」

 

声高らかに卓人が宣言する。三人は今広場の片隅に配置されたボルダリング用の壁の前に来ていた。

 

「ルールは簡単。先に頂上にたどり着いた方が勝ち。双方準備は出来てるかい?」

「おう」

「問題無いよ」

 

体操着に着替えた二人が人工岩の壁の前で頷く。両者の見つめる先は壁の上の頂き。負けられない戦いを前に二人の放つプレッシャーは強さを増している。

 

「それでは!」

 

卓人がゆっくりと片手を上げる。

 

「開始!!」

 

その手を勢いよく振り下ろし、戦いが幕を開けた。瞬間。二人が我先にと壁をよじ登っていく。

 

「あんた達何やってんのよ?」

 

卓人は背後からの声を聞き、振り返るとそこには桃と紗耶の姿があった。

 

「一輪の花を巡る漢と漢の真剣勝負さ」

 

卓人は不敵に笑いながら勝負を行方を見守る。その言葉で全てを察した桃は呆れた顔をした。

 

「あぁ。そういう事」

「ええっと。どうして燈哉達はボルダリングをしているんですか?」

 

一方で紗耶は不思議そうに首を傾げている。そんな紗耶達を尻目に勝負は滞りなく進行していく。

 

(この勝負。貰った!)

 

燈哉は淀みなく人工岩を登っていく。もともと冒険家を目指して世界を巡り始めた身。最近は仮面ライダーとしての活動もあったお陰か、身体能力は著しく向上していた。勝負は燈哉のリードのまま、終盤へと突入していく。

 

(この勝負に勝って、デートして、告白する! 負けるものか! ……うん? デート?)

 

途端に燈哉の動きが鈍くなる。

 

「いやいやいや。待て待て待て!」

(そうだよ! 勝ったらデートになるじゃん!?)

 

動揺が体に広がる。足が滑り、バランスを崩した。

 

「うわぁっ!?」

 

そしてそのまま、下に敷かれたマットに落ちる。

 

「しまった!?」

 

慌てて顔を上げる。そこで燈哉は見た。頂上に到達した辰巳の姿を。

 

「この勝負。僕の勝ちだね」

 

辰巳が笑う。この瞬間。燈哉の負けが決定した。

 

「君には失望したよ」

 

卓人が大きなため息を吐く。

 

「うるせぇ。計りやがって」

「せめて勝ってから気付いて欲しかったわね。途中で気付くとか最悪にも程があるでしょ」

 

悪態をつく燈哉を桃が肩を竦める。しかもオマケとばかりにわざとらしいため息付きだ。

その時だ。一陣の風が吹く。それは思わす顔を手で隠してしまうほど勢いの強い風だった。

 

「危ない!!」

 

鋭い声に全員の顔が声の方を向く。

 

「え?」

 

どこかの屋台の看板が風に乗り、紗耶へ向かって飛んでいく。突然の出来事に紗耶は反応出来ず固まってしまった。

 

「紗耶!!」

「紗耶さん!」

 

反射的に燈哉と辰巳が飛び出した。

 

<ドウジキリヤスツナ!>

「変身!」

 

変身を果たし、神器が風に乗りながら紗耶の元へ文字通り飛んでいく。

 

<サーペント!>

 

辰巳の胸の中からレジェスタートロフィーが現れる。それはとぐろを巻いた龍蛇のトロフィーだ。トロフィーが起動し辰巳を異形の姿――サーペントレジェスターへと変えた。サーペントレジェスターもまた風を操り紗耶の元へと向かっていく。やがて二人は紗耶を守るように前に立つと、看板めがけて攻撃を繰り出す。神器はドウジキリを、サーペントレジェスターは体を反転させ尻尾を振り下ろした。両者の攻撃で看板は木っ端微塵に砕け散る。

 

「紗耶、大丈夫か!」

「紗耶さん。大丈夫かい?」

 

二人は紗耶を振り返る。

 

「え……え……え?」

 

紗耶が困惑した顔で声を詰まらせる。彼らの元へ合流した卓人達も驚きの表情をしている。

 

「「ん?」」

 

その様子に燈哉と辰巳は顔を見合わせた。

 

「「は?」」

 

互いの姿を認識し、間の抜けな声が出た。

 

「「「「「えええええええ!?!!?!!」」」」」

 

そして五人の驚愕の叫びが広場に木霊した。

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