門出市広場の隣。そこは木々が生い茂る雑木林となっている。そんな場所に燈哉達はいた。突風により飛んできた看板から紗耶を救った燈哉達はすぐさまこの場所へと避難したのだ。不幸中の幸いか、人通りが少なかった事もあり、騒ぎにはならず広場は普通に賑わっていた。
「にしてもまさかお前がレジェスターだったとはな」
燈哉が辰巳を見ながら言う。
「そっちこそ仮面ライダーだったとは夢にも思わなかったよ」
辰巳も燈哉達を見る。
「それならこれ以上、ここにはいられないね」
辰巳が踵を返した。その背に声がかかる。
「おい、待てよ」
燈哉が呼び止める。
「やっぱり正体がバレた以上は見逃せないと言ったところかな?」
「何言ってんだ、お前?」
皮肉たっぷりといった体で自嘲する辰巳に対し、燈哉は心底不思議そうな顔をした。
「まだ約束を果たしてないだろ? 何の為に勝負したと思ってんだよ」
「なんだって?」
「だから勝負だよ。お前が勝ったんだからちゃんと紗耶をデートに誘えよ」
呆れ顔で燈哉が言う。
「正気か!? 僕はレジェスターだぞ。たとえ誘っても断られるだけだ」
思わぬ発言に狼狽える辰巳。
「なんだそんな事かよ。紗耶がお前の正体がレジェスターだからって断るわけないだろ」
「!?」
煮え切らない態度の辰巳。そんな様子を見て燈哉はニヤリと笑う。
「だってお前が自分の正体を晒したのは紗耶を助ける為だったんだからよ。それなら紗耶が断るわけない。あいつは恩を仇で返すやつじゃないからな」
「……」
「どうした、返事が無いぞ」
無言で俯く辰巳。しかしその表情はどこか嬉しそうだった。
「……僕と紗耶さんがデートしない方が君としても良いんじゃないのかい?」
しばらくしてから口を開く辰巳。その声は僅かに震えている。
「それはまぁ、そうだけど……。でも、お前なら良いと思った。紗耶の為に動けるお前なら」
素直に答える燈哉。そこには屈託のない笑みが浮かんでいる。
「君は凄いね」
辰巳が思わず口にする。
「凄いだろう? これこそが立脇燈哉さ」
近くで聞いていた卓人が燈哉の肩に手を置く。誇らしげな表情で辰巳に笑顔を向ける。
「まったくだ」
辰巳も負けじと微笑む。その表情には決意の様子が窺える。
「行ってくるよ」
辰巳が紗耶の元へ向かっていく。
遠ざかるその後ろ姿を二人は満足げに眺めるのだった。
「どうだったかな?」
辰巳が紗耶に聞く。あの後、辰巳の申し出を受け、二人は門出祭を一緒に回っていた。
「あ、えっと。楽しかったです」
出し物に参加したり、屋台の料理を食べたりと満喫し気がつけば午後十五時に差し掛かっていた。
「さて、この後なんだけど……少し時間あるかな?」
辰巳が誘う。紗耶は頷くと辰巳と共に公園へと向かった。お祭り会場の広場と反比例するように公園の中は人っ子一人もいない。
「君に言いたい事があるんだ」
辰巳が真剣な顔で紗耶を見る。
「は、はい」
紗耶は緊張した面持ちで唾を飲み込む。
「僕は君が好きだ。気まぐれに大学を彷徨い、君に出会って、その人間性に惹かれたんだ」
辰巳が告白した。
「え?」
紗耶は驚く。
「だから……その……僕と付き合ってはくれないかい?」
辰巳が照れた表情を見せる。
「……その。ごめんなさい!」
紗耶が勢い良く頭を下げる。
「私……好きな人がいるんです。だから、岩倉さんの気持ちには応えられません」
紗耶が真剣に答える。
「相手は立脇くんだろう?」
辰巳が名前を出す。紗耶はコクリと頷いた。
「彼のどこが良いのか、よければ聞かせてもらえないかな?」
辰巳が静かに尋ねる。
「小さい頃から私、本を読むのが好きだったんです。家でも学校でも黙々と本を読んでいました。ある日。凄く感銘を受ける本に出会いました。そして、衝動のままに当時友達だった子に紹介したんです」
そこで言葉を区切ると紗耶は自嘲する。
「でも。その子はまったく無関心で。それでこう言われたんです。紗耶って変だよね。って。」
紗耶が目を伏せ、胸の前で両手を握る。
「その時の言葉は今も脳裏にこびりついています。それから私は今まで以上に本に没頭、いえ逃避しました。本は私を傷つけない。心無い言葉を吐いたりはしない。だから本を読んでいる間だけは現実を忘れる事が出来たんです」
紗耶が過去に受けた心の傷を告白する。
「そう。そんな過去があったんだね」
辰巳が頷く。
「そして、小学校の高学年に上がった時。燈哉と出会ったんです。何の本を読んでるんだ。って」
紗耶の顔に笑顔が戻る。
「燈哉はクラスの中心にいる人気者。関わる事は無いと思っていました。だから、話しかけられて凄くびっくりしました」
紗耶が懐かしそうに続ける。
「多分久しぶりに人と話したのもあるんでしょうけど。凄く舞い上がっちゃって。思わず早口で捲し立てちゃったんです。また変なやつと思われるって怖くなりました」
「でも燈哉はそんなふうに思わなかった。それどころか凄いって言ってくれたんです。そこから徐々に惹かれていきました」
紗耶が照れたようにはにかむ。
「我ながら単純かもしれませんけどね。だから、岩倉さんの気持ちには応えられません。本当にごめんなさい」
そう言って紗耶がもう一度頭を下げた。辰巳は一度目を閉じると、ゆっくりと瞼を開ける。そして目を鋭く細めた。
「そうか……。なら、仕方ない」
「え?」
辰巳の口元が弧を描き、吊り上がった。
「うあぁぁぁぁ〜〜〜!!!! 何で俺はあんな事を言ったんだぁ〜〜」
広場の屋台の前。その一席で燈哉が頭を抱えながらテーブルに突っ伏していた。
「さっきまでのカッコ良さが台無しだよ」
右に座っていた卓人がやれやれと肩をすくめた。
「自業自得よ。さっさと告白すればよかったのに」
左の桃も頬杖をつきながらため息を吐く。
「だってよ……」
燈哉が頭を上げながら二人を見る。
「告白して、もし振られでもしたら、紗耶との関係が崩れちまうし……」
「とんだチキン野郎ね」
「ぐふっ!?」
鳥だけに正鵠を射た言葉が燈哉の胸を抉った。
「それでどうするの?」
「どうする……って?」
燈哉が首を傾げる。
「いつ告白するのかってことよ」
「早ければ早いほうが良いと思うけど」
卓人と桃の視線が燈哉へ集中する。二人の視線を受け、燈哉はたじろぎながら答えた。
「脈あると思うか?」
「いつものポジティブシンキングはどうしたんだい?」
「自分の運命は自分で斬り拓くんでしょ」
二人が呆れ顔をつくった。燈哉はというと煮えきらない表情で眉根を寄せる。その時、燈哉の携帯が鳴った。紗耶からだ。
「もしもし」
『やぁ立脇くん』
「!?」
だが実際に出てきたのは辰巳だ。驚く燈哉をよそに辰巳は言う。
『紗耶さんは預かった。返して欲しければ街外れの廃墟に来い』
「はぁ? どう言う意味だよ?」
燈哉の言葉を無視して電話が切られた。
「くそっ!!」
燈哉は慌てて駆け出した。
街外れの廃墟。そこはかつてリゾート施設として建設が進んでいたものの、なんやかんやあり建設途中で打ち捨てられた場所だ。その施設に勢い良く駆け込む人影があった。燈哉達だ。
「よく来たね」
施設の中。広いホールのような空間の上座に辰巳が立っていた。その足元には紗耶が仰向けに力無く横たわっている。
「お前。どう言うつもりだ?」
燈哉は辰巳を睨み付ける。
「彼女は僕の告白を受け入れなかった。だから、痛い目に遭って貰おうと思ってね」
辰巳が冷たい笑みを浮かべる。その瞬間、燈哉の堪忍袋の緒が切れた。
「……そうか。なら、お前は俺が倒す」
静かに怒りながら燈哉がトロフィーを取り出した。
<ムラマサ!>
「変身」
ドライバーを操作。変身シークエンスに入る。
<抜刀!決闘!激闘!妖刀の戦士!!>
<ムラマサブレード!>
神器へと変身を遂げ、燈哉はムラマサを構える。
「さぁ、始めようか」
辰巳の胸元からサーペントレジェスタートロフィーが出現。辰巳がそれを手に取り押し込む。
<サーペント!>
辰巳もサーペントレジェスターへと変異し、迎え撃つ。
「うぉぉぉ!」
神器はムラマサを振るいサーペントレジェスターへと切りかかる。
「甘いよ!」
しかしサーペントレジェスターはそれを軽々弾くと、神器に掌底を打ち込む。暴風と共に衝撃が放たれ、神器が吹っ飛んだ。
「ぐ……っ!」
地面に叩き付けられ、神器が呻く。サーペントレジェスターはその隙に攻撃を続けた。容赦の無いラッシュ。神器はそれを受け止めるので手一杯だ。
「ほらほら! そんなものかい?」
サーペントレジェスターが神器を挑発する。
「この……っ!」
神器はサーペントレジェスターに蹴りを繰り出した。しかし、それは簡単に受け止められてしまう。
「甘いよ」
サーペントレジェスターはそう言うと、神器が勢い良く回転しながら飛ぶ。
「!?」
回転した事により神器の足が解放された。その勢いのまま、ムラマサを叩き込む。諸に攻撃を受け、サーペントレジェスターが後退る。
「どうだ!」
神器が叫ぶ。
「ふふふ……。確かにちょっと痛いかな?でも、足りないな」
サーペントレジェスターが不敵に笑う。そんな彼に神器が問いかける。
「何でこんな事をしたんだよ! 告白を受け入れなかったからって。紗耶を助けたあの時の善性は嘘だったのかよ!!」
サーペントレジェスターは神器の言葉に僅かに表情を変える。だが、それは僅かな変化だった。
「……それを君が言うのかい? 彼女に告白すらしていない君が?」
神器は押し黙る。サーペントレジェスターが話を続けた。
「僕は紗耶さんが好きだった! だがこの愛は届かなかった。ならば、もはや彼女に価値は無い。僕の手で終わらせよう」
「……確かに」
神器がベルトからムラマサアームズトロフィーを外す。
「確かに俺は紗耶に告白していない。それは振られるのが怖くてビビってたからだ」
「でも俺は! 振られたからって紗耶を傷つけたりなんかしない!!」
クサナギアームズトロフィーを取り出し、神器が言う。
「だから。お前は絶対許さない!」
クサナギノツルギ!>
決意を固め。神器がクサナギアームズトロフィーをベルトに装填する。そしてそのままボタンを押し込む。
<霧雲!雨雲!入道雲!天叢雲の戦士!!>
<ツムカリブレード!>
神器が形態を変えた。クサナギを手にゆっくりと歩き出す。それを見て、サーペントレジェスターが薄く笑った。
「フッ!」
神器がクサナギを振るった。瞬間。凄まじい衝撃がサーペントレジェスターを襲う。
「っ!」
流石のサーペントレジェスターもこの攻撃を受け、後ずさる。その隙に、神器は駆け出し次々とクサナギを振るっていく。刃と斬撃でリズム良く、重く打ち込む様にサーペントレジェスターを切り裂いていく。
「舐めるな!」
サーペントレジェスターが神器に掌底を打ち込む。しかし、掌の前にクサナギが重なる。
「何!?」
「はぁっ!」
神器はそのままクサナギで掌を斬り上げる。掌が斬られ、弾かれた。激しく火花が散り、サーペントレジェスターがぐらつき、片膝をついて倒れ込む。
「ぐぅ……っ!」
立ち上がろうとするサーペントレジェスター。その首筋に剣が突きつけられる。
「さぁトドメを刺しなよ」
サーペントレジェスターが目を閉じ、静かに言う。だが、その首筋からクサナギが離れた。
「? 何故だ?」
サーペントレジェスターが神器に問う。
「あのなぁ。俺が気付いてないと思ったのか? この茶番劇をよ」
神器はそう言うと、変身を解除する。そして、周りを見渡す。
「よく思い返せば違和感だらけなんだよ」
燈哉がため息を吐く。
「第一に本当に紗耶を殺したかったなら俺に連絡する必要なんてない。俺の預かり知らない所で犯行に及ぶのが自然だ」
「次にお前達だ」
燈哉が振り返り、卓人と桃を見る。
「お前らグルだったんだろ?」
ジト目で二人を睨む。
「普通。紗耶がピンチって分かったなら美鶴城が黙ってない。友達の危機なんだ、俺と一緒に戦ってる筈だろ。でもそうしないって事は、別の意図がある」
燈哉が視線を戻し、今度は紗耶へと視線を送る。紗耶は横向きに寝転んでいた。
「そんで最後に紗耶。お前、起きてるだろ?」
紗耶の肩がびくりと跳ねる。それで全てバレた事を悟り、紗耶が気まずそうに笑顔をつくりながら起き上がる。
「戦闘前と姿勢が違ってるからすぐに分かったぞ」
燈哉の言葉に紗耶が苦笑いする。
「あちゃー、バレちゃったかぁ」
辰巳も変異を解き人間態へと戻った。
「本当に余計な所はすぐ気付くんだから」
桃が悪態をつきながら卓人を伴って向かってくる。
「騙してごめんね、燈哉」
申し訳無さそうに紗耶が頭を下げる。
「そんで、一体全体何が目的だったんだ?」
「うーん。強いて言うならば嫌がらせ。かな」
辰巳が答えた。
「嫌がらせ?」
「うん。紗耶さんに思いっきり振られたからね。君を困らせてやろうと思って。おかげ収穫もあったし」
辰巳が楽しげに笑う。
「収穫?」
「戦闘中の言葉を思い返してごらん」
燈哉は腕を組み、その言葉を思い返そうと思案する。だが、中々ピンとくる言葉が見つからない。
「確かに俺は紗耶に告白していない」
その時、卓人が燈哉の口調を真似て言う。
「それは振られるのが怖くてビビってたからだ」
すかさず桃も口調を真似て続ける。二人共、人の悪い笑みでニヤニヤしていた。
「ま、まさか!?」
ようやく合点が行った様子の燈哉を見て、辰巳がニンマリと笑う。
「そう。これはもう答えみたいなものだろう?」
振られるのが怖くて告白出来ないは、もはや逆説的にも分かりやすい。そして、その言葉は当然気絶したフリをしていた紗耶も耳にしている。燈哉は顔を真っ赤にしながら紗耶を見る。紗耶もまた頬を紅潮させながら小さく俯きながら目だけを燈哉へ向けていた。
「さぁ、そろそろ勇気を出す時間帯じゃないかい?」
「ほらほら、さっさとしなさいよ」
「フフフ」
辰巳達三人が二人を煽る。燈哉にはもう三人が悪魔にしか見えない。
(くそっ! かくなる上は……)
「あーっ!?」
燈哉が大声を出しながら遠くを指差す。
「ん?」
「何?」
卓人と桃、そして辰巳が驚き振り返る。
「行くぞ、紗耶!!」
燈哉が紗耶の手を取り、駆け出す。
そして三人が燈哉の方を向いた時。もう燈哉と紗耶は廃墟から飛び出ていた。
「やられたね」
卓人は嬉しそうに肩を竦める。
「ちぇ。せっかく生告白が見れると思ったのに」
桃も残念そうに呟く。だがその表情は嬉しそうだ。
「ま、後は二人次第だろうさ」
そう言いながら辰巳は満足そうに笑う。
「それにしても本当に良かったのかい? 身を引いて?」
卓人が辰巳に問う。
「ああ、いいんだよ。今日だけで充分思い知らされた。あの二人の間に立ち入る隙なんか無かったってね」
「ふーん。潔いのね」
桃がからかい半分で言う。それに対し、辰巳は二人に背を向ける。
「僕はここまでだ。多分もう会うことは無いだろう」
「……悪いけど一人にさせて貰えるかな?」
辰巳の言葉に卓人と桃が静かに頷き、廃墟を後にした。すると、遠くで夕日に照らされる二つのシルエットを見つけた。片方は叫ぶように顔を上げ、大きく口を開いており。もう片方は逆に俯きながら小さく頷いていた。距離が離れて何を話しているのか分からないが多分そう言う事なのだろう。それを見て二人は満足そうに微笑んだ。
「さて、これからどうしようかなぁ〜」
一人廃墟に残った辰巳が清々しい顔で言う。そして、大きく伸びをした。その刹那。背中に衝撃が奔る。相次いで痛みが襲った。視線を下に向けると胸から矢の先端が突き出ている。
「が……はっ……」
口から血反吐を吐いて辰巳が崩れ落ちた。やがてその体は粒子となり消えていく。カラリと音を立て、サーペントレジェスタートロフィーが転がった。
「レジェスターの討伐、完了」
辰巳がいた場所に人影が降りてくる。それは黒いアンダースーツに炎の模様がついた赤いプレート装甲がついた仮面の戦士。すなわち仮面ライダーだった。謎のライダーがトロフィーを拾い上げる。
「お疲れー。楽勝だったな」
その背後から声がかかった。
「ああ」
謎のライダーが振り返る。そこに立っていたのは豪人だった。
「間もなく天鎧さんも到着する。聖杯を手に入れる日も近い。羽渡も準備をしておけ」
謎のライダーはそう言うと歩き出す。
「りょうかーい」
豪人はにっこり笑うとスキップ混じりで後に続く。無人の廃墟に閑散とした静謐だけが残された。