仮面ライダー神器   作:puls9

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第三十五節 そして人は怪物となる

潟永虎杖の悪夢は電話の音から始まる。続いてスプレーが噴射される音。相次いでガラスが割れて、最後にギィギィと人型のシルエットが眼前で揺れる。そして。そのシルエットの顔が徐々に明るみになって――

 

 

 

潟永虎杖はそこで目を覚ました。

 

「はぁ……はぁ……」

 

冷や汗をかきながら荒い呼吸を整える。場所は石畳の部屋、時間は未明。少し離れた右側で布団の中で丸まって眠る壱子がすぅすぅと静かに息をしている。

 

「ずいぶんうなされてたね。怖い夢でも見たのかな?」

 

玉座で足を組みながらアスクが問いかける。何が可笑しいのか口元は弧を描いていた。それが癇に障ったのか、虎杖はつっけんどんな口調で言い返す。

 

「余計なお世話だ。……お前だって時々うなされてるだろ。姉さんとか呟いてたぞ」

 

それを聞いたアスクの表情が変わる。そこで虎杖は言いすぎて怒らせたと内心焦った。だが、アスクの表情は怒りではなく悲しみにも似た自虐的な笑みになった。

 

「……姉さん、か……。我ながら未練がましいにも程があるね」

 

そう自嘲した。部屋の中に微妙な雰囲気が漂う。居心地が悪くなって虎杖は立ち上がる。

 

「悪かったな。言い過ぎた」

「いいさ。どうやら最初に地雷を踏んだのは僕みたいだし」

 

バツが悪そうに謝る虎杖に対しアスクはいつもの表情で肩を竦める。虎杖が扉へ歩き出す。

 

「どこに行くんだい?」

「……散歩」

「ならついでに朝食でも買ってきてよ」

 

アスクが懐から財布を取り出し、投げ渡す。

 

「へいよ」

 

それを受け取り、虎杖は夜明けの街へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

キッチン大洗の店内。その片隅の席にに燈哉と紗耶は座っていた。今までならば向い合せで座っていたが今は仲良く隣り合わせで座っている。

 

「うーん」

 

携帯を手に紗耶が眉根を寄せて唸った。小さくため息を吐くと同時に手に持っていた携帯の角度が変わり画面が顕になる。そこには燈哉とのツーショットが待ち受けとして表示されていた。

 

「どうしたんだ、紗耶? 変な顔して?」

 

燈哉が聞く。

 

「岩倉さん。最近大学にも来てなくて。それどころか連絡もつかないの」

「岩倉が? そうなんだな」

 

燈哉はそれを生返事で返す。しまったと思ったが口から出た言葉は取り消せない。第一それも仕方のない事とも言える。

何故なら、

 

「ついこの間、紗耶に振られたばかりだから気まずいんじゃない」

 

そう言って顔を出したのは桃だ。その手には丸いお盆。そしてお盆の上にはオレンジジュースとグレープジュースの入ったグラスが二つ。それを馴れた手付きで二人の前に置く。

 

「それは……そうかもしれないけど。もう二週間だよ? 流石に心配だよ」

「まぁ。そういう時もあるさ。そのうちひょっこり顔を出すだろ」

 

言って燈哉はグラスのジュースを飲む。グラスを傾けた拍子に氷が小気味よい音を出す。

 

「というか卓人はまだかよ。言い出しっぺなのに」

 

グラスを置き、燈哉は携帯を取り出す。電源をつけるとこちらも紗耶とのツーショットが出てきた。電話をかけようと通話アプリを立ち上げたその時。キッチン大洗の玄関口が開き、卓人が入ってきた。

 

「すまない。待たせたね」

 

そう言うと卓人は燈哉の向かいに座った。そのまま桃へ顔を向ける。

 

「アイスコーヒーを一つお願い出来るかな?」

「了解。少し待ってね」

 

桃がキッチンへと消えていく。少ししてお盆にコーヒーカップを乗せて桃が戻ってきた。カップを卓人の前に置くと身につけていたエプロンを外し隣に座る。

 

「仕事の方はいいのかい?」

「許可は貰ってきた。少しならいいってさ」

「それなら手早く済ませよう」

 

卓人が三人に紙束を配る。

 

「これは?」

「そう。これはアスクと共に行動する二人の仮面ライダーについての資料だ。聖葉の人脈を使って調べ上げた。それなりに難航したけどね」

 

三人は資料を見る。それを尻目に卓人が話す。

 

「まず最初に仮面ライダーアルスターこと槍原壱子についてだ。どうやら彼女は両親から虐待を受けていたらしい」

「虐待……!?」

 

一番に反応したのは桃。当然といえば当然だ。桃は槍原壱子とは対照的に両親に愛されて育ったのだ。虐待の二文字とは無縁。それ故に痛ましげな表情で唇を噛んでいる。

 

「十年前に彼女の両親は不審死、その際に彼女も失踪している。両親は手や足がありえない方向に曲がって死んでいたらしい。どうあがいても人間技じゃない」

「それってつまり。アスクが槍原の両親を殺したって事か?」

「可能性は高いだろうね」

 

燈哉の問いを卓人は完全に肯定する。

 

「これは推測だけど。槍原壱子は虐待を受けていた。その時にアスクから取り引きを持ちかけられた。両親を殺してやるから自分の仲間になれみたいな感じで」

「なるほどな……」

 

燈哉と紗耶、桃の三人が神妙な顔をする。一拍おいて卓人は続ける。

 

「槍原壱子に関してはこんな感じかな?」

 

そう言って卓人が一息つく。そして、

 

「さて次に。仮面ライダーサマイクル、潟永虎杖についてだけど」

 

そう言って卓人が次の資料を見るように促してくる。燈哉達は順番に資料を見た。

 

「っ!? これって……」

 

三人が驚きに顔を染める。卓人が真剣な顔で頷く。

 

「その通りだよ。潟永虎杖には明確に世界を滅ぼす動機がある」

 

 

 

 

 

「さて、どうしたもんか……」

 

外に出たものの行く宛は無い。虎杖は頭を悩ませる。頼まれた朝食はそこらのコンビニで適当に見繕えばいい。それ故に手持ち無沙汰だった。その時、ドスの効いた甲高い声が聞こえてきた。

 

「何だと、テメエ!」

 

声の方を見れば、そこは人気の無い路地裏。そこで如何にもなチンピラ達が騒いでいた。サングラスをした強面と舎弟と思しき取り巻き二人。そしてその三人に取り囲まれている警察官の制服を着た青年がいた。取り巻きの一人が青年を突き飛ばす。

 

「ぐあっ!?」

「ちっ。面倒臭せえ。おい、殺っとけ」

「うす!」

 

サングラスの強面が路地裏の奥へ消える。残された取り巻き二人が笑顔を浮かべながらトロフィーを取り出した。

 

<ウェアウルフ!>

「!?」

 

驚く虎杖の目の前で取り巻き達がウェアウルフレジェスターへと変異した。

 

「ひっ!」

 

青年が尻もちをつきながら後退る。善行を積む気は無いがトロフィーの回収を怠るつもりも無い。

 

「はぁ~」

 

虎杖はため息を吐きながら割って入った。

 

「なんだ貴様は?」

「名乗るほどのもんじゃねえよ」

<クトネシリカ!>

 

虎杖がトロフィーを取り出し起動させる。

 

「変……身」

<霊威の宝剣!! ロンヌ! ロンヌ! ロンヌ!>

<クトネシリカカムイ!>

 

虎杖がサマイクルへと変身を遂げる。クトネシリカを手にウェアウルフレジェスター達へと向かっていく。

 

「邪魔すんじゃねぇ!!」

 

二体のウェアウルフレジェスターが挟み込むように左右から襲いかかる。サマイクルはその攻撃をひらりと避わすと振り向きざまに斬り付ける。

 

「ぐあああああっ!?」

 

クトネシリカの刃を受けウェアウルフレジェスターの一体が吹っ飛んだ。

 

「舐めるなぁ!!」

 

背後に回ったもう一体が爪を突き立てながら飛びかかる。

 

「目には目を。狼には狼だ」

<小狼!>

 

サマイクルは振り返る事なくクトネシリカの鍔を回転させる。

 

<召喚!!> 

黄金の狼が飛びかかるウェアウルフレジェに噛みついた。

 

「うおっ!?」

 

その隙にクトネシリカの刃がウェアウルフレジェスターを斬り裂く。

 

「がぁぁっ!」

「まず一体」

 

ウェアウルフレジェスターが断末魔を上げ、消滅する。そしてゆっくりと振り返る。

 

「くらいやがれ!」

 

体勢を立て直した最後の一体が突進を敢行。だがサマイクルは慌てることなくトロフィーをクトネシリカにはめ込む。

 

<クトネシリカ!>

<必殺神技!!>

 

エネルギーがクトネシリカに集約される。サマイクルがそれを渾身の力を込めて振り抜いた。横一文字に放たれた一閃がウェアウルフレジェスターを斬り裂いたかのようだった。

 

「ぐあああっ!?」

 

断末魔を上げ、ウェアウルフレジェスターは爆発四散し消滅。虎杖が変身を解除した。

 

「あの! ありがとうございます!!」 

 

青年が虎杖に話しかける。

 

「俺、番藤 健二(ばんどう けんじ)って言います。見ての通り警察官です。お願いします! 俺を弟子にしてください!!」

 

健二が頭を下げる。

 

「なんだって?」

 

虎杖が目を白黒させ狼狽えながら聞く。

 

「俺、強くなりたいんです。俺を鍛えてください!」 

 

顔を上げた健二が叫ぶ。

 

「何で強くなりたいんだよ?」

「俺には昔、兄貴がいました。」

 

健二が話し始める。

 

「でもある日兄貴は殺されました。その時たまたま通話していた俺は電話越しに兄貴が殺される声を聞いている事しか出来ませんでした。だから強くなろうと思って警察官になったんです。でも、」

 

健二が拳を握る。

 

「でも俺はまだまだ。あのチンピラ共すら取り締まれない」

「そりゃあ仕方ねえだろ。怪物相手なんだからよ」

「いいえ。それでも俺は強くなりたいんです!」

 

改めて健二が虎杖に懇願する。

 

「お願いします! 俺を鍛えてください!」

「断る」

 

虎杖が即答した。ついさっき出会った奴を助けてやる義理は無い。

 

「あのチンピラ共なら俺がなんとかしてやる。お前はさっさと帰れ」

 

とは言え、トロフィーが絡んでいるなら動かない訳にはいかない。心の中でため息を吐く。

 

「え?」

「俺がやっつけてやる。だからとっとと帰れ」

そう言い残し、路地裏へ歩き出す。しかし健二がその手を掴んだ。

「なら俺も行きます。本官はこの件の担当ですので」

健二が敬礼をしながら笑う。

「勝手にしろ」

二人は路地裏の奥へと向かっていった。

 

 

 

 

 

路地裏の奥にあったのは今はもう使われなくなった廃工場。その錆びた扉が轟音と共に破壊された。

 

「何だ!?」

 

中でお茶をしばいていたサングラスの強面が慌てて立ち上がる。虎杖と健二が中へ入ってくる。

 

「よう、はじめましてだな」

「誰だテメェ!?……お前は!? あいつ等はどうした?」

 

虎杖を見て怒りに震え、健二を見て驚愕を露わにする。サングラスの強面の顔が忙しなく変化し、面白いくらいに狼狽えている。

 

「これの事か?」

 

虎杖が二つのレジェスタートロフィーを見せる。

 

「お前も持ってんだろ? 全部いただくぞ?」

「くっ」

 

サングラスの強面が歯ぎしりしながら懐に手を入れる。そこから取り出したのはシルバーの台座の上に無数の角が生えた狼の首が乗ったレジェスタートロフィーだった。強面がそれを起動させる。

 

<ウェアウルフ・ザ・ガルム!>

 

強面の体が変化。灰色の体毛に体の至る所から角が生えた人狼。ウェアウルフレジェスター・ガルムに変わった。

 

「ぶち殺してやる! 俺様を舐めたことを後悔しろ!!」

 

ガルムが雄叫びを上げる。

 

「出来るもんならやってみろ」

<クトネシリカ!>

「変……身!」

 

再びサマイクルへと変身した虎杖がクトネシリカを構える。ガルムもまた爪を伸ばし構えを取った。途端にガルムの爪が燃えあがる。

 

「オラッ!!」

 

炎が揺らめきながらガルムの爪が振るわれた。凄まじい衝撃と共にサマイクルが吹っ飛んだ。壁を破壊しながら外へと転がっていく。

 

「ちっ。無事かよ」

 

忌々し気に舌打ちをしながらガルムが工場の外へと躍り出た。

 

「そう簡単にくたばってたまるかよ」

 

サマイクルが体勢を立て直し、ガルムを睨みつける。手に持っていたクトネシリカからは煙が上がっていた。

 

(防御が間に合って助かった)

 

内心で安堵をつき、サマイクルは立ち上がる。

 

「あそこだ!」

 

声の方を見ると騒ぎを聞きつけた燈哉達がいた。 

 

「……面倒なのが来やがった」

「お前は!? 潟永 虎杖!!」

 

サマイクルの姿を見つけ、警戒心を強める燈哉達。

 

「潟永……虎杖?」

 

虎杖の名前を聞き、傍らで健二が小さく呟く。

それを尻目に邪魔をされる訳にはいかないとサマイクルがガルムへ向き直った。

 

「さっさと終わらせるか」

 

クトネシリカを操作。鍔を回転させ、今度は熊のレリーフに合わせる。

 

<夏熊!>

<召喚!!>

 

エネルギーで出来た大きな熊が出現。山熊は丸太のような逞しい腕を振り上げる、ガルムへ向かう。

 

「しゃらくせえ!!」

 

両爪を発火させ真正面から山熊と激突。

 

<雷神の龍!>

<召喚!!>

 

その隙に再びクトネシリカを操作。竜のレリーフへ合わせると二対の龍が両側からガルムを挟み打ち。吹き飛ばされ宙を舞う。

 

<クトネシリカ!>

<必殺奥義!!>

 

サマイクルが高く跳躍。そのまま足を突き出した。エネルギーを纏った一撃がガルムを捉える。

 

「ぎゃあああああ!!!」

 

断末魔を上げ、ガルムが消滅。レジェスタートロフィーが地面にコロリと転がる。綺麗に着地を決めたサマイクルがトロフィーを回収しようと歩き出す。その前に先にたどり着いた人影があった。健二だ。

 

「お前……」

 

健二はトロフィーを拾い上げると鋭い目つきでサマイクルを睨む。

 

「先に聞いておく。お前の名前は潟永で間違いないか?」

「……ああ」

 

サマイクルが静かに肯定する。

 

「番藤健一に聞き覚えはないか?」

「番藤……健一……?」

 

健二の口から出た名前にサマイクルが小首を傾げる。どこかで聞いたような気がする。しかし、それ以上は何も思い出せない。

 

「とぼけるな! お前が殺したんだぞ!?」

 

健二が激昂する。その様子にサマイクルの脳裏で記憶の断片が蘇り始めた。部屋の中。涙を流す虎杖。着信音を奏でる携帯。その画面に写る名前。

 

「……ああ、思い出した」

 

頭を軽く振って意識を切り替えるサマイクル。目の前に立つ健二を見下ろしながら口を開く。

 

「お前、あのクソ野郎の弟か?」

「兄貴はクソ野郎なんかじゃない!!」

 

敵意に溢れた視線がサマイクルを捉える。今にも飛び掛からんばかりだ。

 

「お前だけは絶対に許さない!!!」

 

健二の思いに呼応するようにレジェスタートロフィーが変化する。台座は金にかわり、上に乗る狼の首は二つに増えている。健二はそれを起動させると自らの胸に突き立てる。

 

<ウェアウルフ・ザ・オルトロス!>

「ウガアァァァァッ!!!」

 

たちまち健二の体は変化した。禍々しい紫の体毛に覆われた双頭の狼の姿へと。

 

「兄貴の仇は俺が取る!」

 

殺意を全身に漲らせ、健二が――ウェアウルフレジェスター・オルトロスがそう言った。

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