仮面ライダー神器   作:puls9

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第四十一節 全ては、世界を滅ぼす為に

「なにやってんだよ、アスク!!!」

 

工業地帯に燈哉の激高が木霊する。燈哉の傍らには血溜まりの上で倒れ伏す英雄の姿。そして、目の前には未完の杯を手にしたアスクの姿があった。その両隣に壱子と虎杖が控えている。

 

「随分な怒りようだね、トーヤ」

「当たり前だろ!」

 

燈哉は上着を脱ぐと英雄の傷口へ巻きつけ縛る。手早く応急処置を済ませるとトロフィーを構えながら立ち上がる。

 

「おっと。そうはいかない。動きを止めてもらおう」

 

杯が光り、空間を歪ませるとそこに手を突っ込む。

 

「彼女の命が惜しければ、全てのトロフィーを渡してもらおうか」

「と、燈哉……」

 

燈哉が振り返る。そこには歪んだ空間から伸びた手に、首を掴まれた紗耶が恐怖に引き攣った顔を浮かべていた。

 

「天鎧英雄のトロフィーと一緒に地面に並べてよ」

「くっ!」

 

苦々しい顔で燈哉はトロフィーを地面に並べていく。

 

「おいおい。これはどういう状況だよ」

 

声が聞こえた方を見るとそこには卓人と豪人、そして二人に肩を借りた桃と白正がいた。豪人と白正は倒れ伏す英雄の姿に驚愕と憤怒が入り混じった表情をしている。

 

「ごめん。トロフィーを奪われた」

 

悔しげに顔を歪ませ、桃が言う。

 

「お前。絶対許さねえ!」

 

豪人がトロフィーを構える。それを燈哉が制止した。

 

「頼む! やめてくれ……」

「ちっ……」

 

燈哉がチラリと目を紗耶の方へ向ける。豪人は英雄と紗耶の姿を交互に見るとトロフィーを下げた。

 

「君達もさっさとトロフィーを置きなよ。集められないでしょ」

 

卓人がトロフィーを地面に置いた。豪人もそれに続く。やがて彼らのトロフィーが並べ終わるとアスクが未完の杯を掲げる。

 

「集え、トロフィー。杯の元へ」

 

アスクの声に反応し、トロフィーが杯の中へと吸い込まれていく。壱子と虎杖も自らの持つトロフィーを杯へと捧げた。

 

「これで後、二つ」

 

紗耶から手を離し、空間を広げる。すると繋がる場所が変わり、空間の向こうには広い草原が。そこに立つマーリンの姿が現れる。

 

「なっ!?」

「杯よ。夢魔を捕まえろ」

 

驚きを露わにするマーリン。杯から無数の鎖が飛び出し、彼を絡め取る。そのままマーリンが杯の中へと吸い込まれた。

 

「マーリン!」

「これで後、一つ!」

 

アスクが自分の中からトロフィーを出現させるとそれを杯へと押し込んだ。刹那。杯が七色の輝きを放ちながら変わっていく。

 

「遂に! 遂に元に戻った!! 聖杯を取り戻した!!!」

 

歓喜の声を上げ、アスクが両手を広げ、聖杯を見上げる。そして、口を開く。

 

「杯よ。世界を塗り替える力を秘めし聖なる杯よ。僕に全てを滅ぼす力をよこせ!!」

 

聖杯の放つ光が一層、増していく。そして、光は徐々に収束し、輝きがやんだ。

 

「何も……起こらない?」

 

瞬間。アスクの体を電流が駆け巡る。

 

「ぐぁぁぁっ!?!!」

 

胸元を押さえアスクが悶え苦しむ。その様子に壱子と虎杖が慌てる。そんな中、聖杯から何かが飛び出した。

 

「!?」

 

それはフルフェイスの甲冑を纏った西洋風の闘士。右手に槍を、左手に円状のシールドを持っている。

 

「我が名は守護者(セーフティ)。邪な願いを抹殺する者なり」

 

抑揚のない無機質な声で闘士が言う。

 

「どう言うことだよ? 聖杯はどんな願いでも叶えるんじゃ無かったのか?」

 

闘士を睨見つけながら虎杖が呟く。その問いに答えたのは件の闘士、守護者(セーフティ)だった。

 

「いかにも。その願いを叶える事は可能だ。だが、許されない。何故なら聖杯とは願いを叶えるシステムだからだ。それこそが聖杯のアイデンティティ」

「なる……ほど……。人無くして願いは叶わない。なら世界を終わらせる願いは承認されないって訳だ……」

 

苦しみに耐えながらアスクが皮肉る。

 

「よって貴様を殺す」

 

守護者(セーフティ)が槍を構えながら歩きだす。咄嗟にアスクが聖杯を起動させようとする。だが反応しない。

 

「既に貴様に反応しないように防衛している。その上で万が一を排除する」

「ならこうだ!」

 

淡々と言う守護者(セーフティ)に対し、虎杖が対策を打ち出した。

 

「聖なる杯よ。俺と壱子に仮面ライダーの力を与えろ!」

 

聖杯が起動し、虎杖と壱子が変身。トロフィーを身に着けないまま、二人はサマイクルとアルスターとなって迎え撃つ。

 

「「はあああ!!!」」

 

二人は同時に飛び出し、左右からゲイボルグとクトネシリカで挟撃。守護者(セーフティ)はゲイボルグを槍で、クトネシリカをシールドで防ぐ。

 

「やあ!」

 

アルスターが素早い身のこなしで回し蹴り。守護者(セーフティ)の体勢を崩した。

 

<クトネシリカ!>

<必殺神技!!>

 

そこへサマイクルの必殺神技が炸裂。守護者(セーフティ)の左腕を切り落とした。だが、

 

「!?」

 

切り落とされた腕が瞬く間に再生する。左腕には断面の跡が無いほど綺麗だ。守護者(セーフティ)が槍を横薙ぎに振るう。二人は慌てて飛び退き回避。

 

「それなら! 虎杖さん、合わせてください!」

「わかった!」

 

アルスターが飛び出す。その意図を理解したサマイクルも続く。クトネシリカを操作する。

 

<雷神の龍!>

<召喚!!>

 

クトネシリカから放たれた二対の龍が守護者(セーフティ)の槍とシールドに噛み付く。

 

「む……」

<ゲイボルグ!>

<必殺神技!!>

 

そこへアルスターが必殺神技を放った。槍を投擲すると、ゲイボルグが守護者(セーフティ)の胸に突き刺さり、その体内で枝分かれ、体の至る所から穂先が飛び出した。

 

「体が再生するなら内部から破壊すればいい。これなら!」

 

アルスターが得意げに言う。だが、守護者(セーフティ)が動いた。ゲイボルグを掴むと、力任せに引き抜く。肉が切れる音が響き、やがて守護者(セーフティ)の手でゲイボルグが取り出された。瞬時に傷口が塞がる。それどころか砕けた鎧すらも再生された。

 

「こいつ。不死身かよ……!?」

 

衝撃的な出来事にサマイクルは呆然としていた。守護者(セーフティ)はゲイボルグを構えると投げた。凄まじい勢いでサマイクルを掠め、一直線にアスクの元へ飛んでいく。

 

「アスク!?」

 

アスクが顔を上げる。ゲイボルグはすぐそこまで迫っていた。避けるのは間に合わない。すぐに死を悟る。そこに人影が割って入った。アルスターだ。

 

「ワン……ちゃん……」

「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

背中の装甲が音を立て砕け散り、ゲイボルグが彼女を貫いた。変身が解け、ゲイボルグも消える。そのまま、壱子はぐらりと倒れる。アスクが必死に体を動かし、抱きとめた。その衝撃で彼女の口から血が噴き出し、アスクの服を赤く染めた。

 

「ア……スク……さま。も……わけ……ませ。ふ……く、よご……ちゃった……」

 

息も絶え絶えで呂律すらも回らない中、壱子は謝罪する。意識は朦朧として、瞳は徐々に光を失っていた。

 

「あり……がとう……ござい……ます。私を……助けて……くれて……。私を……救ってくれ……て」

「ワンちゃん……」

 

壱子はうわ言のように繰り返す。考えなんてまとまらない。ただひたすら思っていた事を口にする。

助けてくれた事への感謝を。美味しいご飯を食べさせてくれた事への感謝を。綺麗な服をくれた事への感謝を。虐待の傷を癒す薬をくれた事への感謝を。

時折口から血をこぼしながら言い続ける。

 

「必ず……世界を……滅して……ください……ね……」

 

その言葉を最後に少女の生命活動は終わりを告げた。腕はだらりと垂れ下がり、頭ももたげた。体温の低下していき、少しずつ冷たくなっていく。

 

「馬鹿だなぁ、君は」

 

おもむろにアスクはそう言った。

 

「本当に馬鹿だよ。……僕なんて見捨てれば良かったのに。そうすればもっと長く生きられたんだ」

 

自嘲気味に笑うと、アスクは壱子だったものを優しく抱きしめる。それは世界で一番価値のある宝物を触るように。

 

「君は失敗作だよ。主をおいて先に逝く駒があるものか。絶対に許さない」

 

それは誰に対してだったのか。アスクは目を閉じると再び聖杯の接続を試みた。

 

「そうはさせない」

「それはこっちの台詞だ!!」

 

アスクを殺さんと迫る守護者(セーフティ)。その行く手をサマイクルが鬼気迫る勢いで阻む。

そして、アスクの意識は聖杯の元へと入っていった。

 

 

 

 

 

「がぁっ!?」

 

聖杯に接続したその刹那。舌筆しがたい痛みがアスクを襲う。侵入者を阻む聖杯の防衛機能が働いるのだ。

 

「ううっ……」

 

痛みに悶えながらもアスクは必死に歩きだす。その度に激痛が襲い来る。それでも足は止めない。歯を食いしばりながら進む。進む度に痛みが増し、徐々に手や足の感覚すらも分からなくなっていく。それでも一歩、一歩と、芋虫のように体を地面に這わせようとも進み続ける。

どれほど進み続けたのだろう。不意に目の前の空間にぶつかった。それは行き止まりの如し、見えない壁がアスクを阻む。聖杯の核はその壁の向こう側だ。壁を壊す以外の選択肢など存在しない。アスクは歯を食いしばって体当たりを敢行する。だが、積み重なった激痛で体はろくに動かない。対したダメージすら与えられない。それでも何度も体当たりを繰り返す。アスクの目は死んでいない。揺らめく炎の如く燃え盛っている。

 

「僕は……!」

 

体当たりを繰り返しながら走馬灯が脳裏を駆け巡る。レジェスターになる前の記憶を。世界を憎んだあの絶望を。壱子や虎杖と出会った日を。ここまで共に過ごした日々を。そして、最後の言葉を。

 

「世界を……!! 滅ぼすんだ!!!」

 

パキリと音が鳴る。空間に亀裂が入った。アスクは最後の力を振り絞り、遂に壁を壊した。聖杯の核はもう目と鼻の先。荘厳な輝きに向けアスクは口を開いた。

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

守護者(セーフティ)に吹き飛ばされ、サマイクルの変身が解けた。

 

「くそっ……」

 

地面に伏せながら虎杖は守護者(セーフティ)を睨む。その隣に影が差した。顔を上げるとそこにはアスクが立っている。

 

「お疲れ、コジョー。後は任せて」

 

纏う雰囲気が変わっている。守護者(セーフティ)は警戒を強めた。アスクは胸元で浮く聖杯に両手を翳す。すると、そこからズトロフィーが出現した。それは透明なクリスタルで出来た台座の上に純白のソードブレイカーが突き刺さったアームズトロフィー。そのトロフィーを手に取ると、アスクは上部を押し込んだ。

 

<レーヴァテイン!>

 

レーヴァテインアームズトロフィーをベルトにセット。ボタンを押すとトロフィー横のプレートが展開し、顔が浮かび上がった。

 

「変身……」

<破滅のエッダ! WORLD END!!>

 

アスクの前にソードブレイカーが地面に突き刺さる。剣より放たれた白銀の炎がアスクを包み込み、プラチナの装甲へと変わる。

腰に短めのマントが付き、風に靡き、顔には揺らめく炎を思わせる仮面が張り付き、複眼が赤く輝いた。

 

<レーヴァテインカタストロフィ!>

 

ソードブレイカーを手にし、アスクが守護者(セーフティ)を見据える。

 

「それじゃあ、切り捨てるよ? この世界ごと」

 

途端にアスクが駆け出した。そのままの勢いでソードブレイカー、無望剣<レーヴァテイン>を振るう。守護者(セーフティ)はシールドを構え、対応する。しかし、守護者(セーフティ)のシールドはレーヴァテインの前に無力。まるで豆腐のようにいとも簡単に真っ二つとなり、持ち手の左腕ごと切り捨てられた。

 

「気を付けろ! そいつ再生するぞ!」

 

虎杖が忠告する。守護者(セーフティ)もそのつもりだった。だが、守護者(セーフティ)の左腕は一向に再生しない。

 

「何?」

「何を驚いているのかな? 君に左腕なんて存在しない(・・・・・・・・・・)だろう?」

 

驚く守護者(セーフティ)に対し、アスクは仮面の奥で冷めた目で睨む。そして、レーヴァテインを掲げてみせた。

 

「この剣は全てを無に帰す剣。あらゆるものを切り捨て、切ったものの存在を抹消する力がある」

「くっ……」

 

槍を右手で構え、守護者(セーフティ)は動けずにいる。うかつな行動は命取り。対するアスクにもはや怖いものは無い。一歩一歩と歩みを進める。

 

「フッ!!」

 

レーヴァテインが連続で振るわれる。守護者(セーフティ)は体を俊敏に動かしながら躱し続ける。レーヴァテインの性質状受け止めるのは不可能。だが何事にも限界はある。逃げ続けた守護者(セーフティ)だったが遂に捕まってしまった。レーヴァテインに切られ右腕が飛ぶ。続けざまに横薙ぎ一閃。レーヴァテインが守護者(セーフティ)の両足をも叩き切った。

 

「これで終わりだ」

<レーヴァテイン!>

<最終奥義!!>

 

アスクの足に禍々しい純白のエネルギーが集中する。高く跳躍すると一回転。そのまま足を突き出し、空中から一直線に守護者(セーフティ)の元へ。

 

「ハアァァァァ!!!!」

 

守護者(セーフティ)の胴を貫いた。体が砕け徐々に存在が消えつつある守護者(セーフティ)

 

「かくなる……上は」

 

守護者(セーフティ)の目が赤く輝いた。瞬間、聖杯にひびが入り、一部のトロフィーが飛び出して燈哉達の手元に戻ってきた。それに伴い、聖杯が未完の杯へと変わる。

 

「!?」

 

驚く燈哉達。同じく聖杯からマーリンが飛び出して目の前に降り立つ。程なくして守護者(セーフティ)は完全に砕け散り、消滅した。

 

「余計な事を」

 

忌々しげにアスクが燈哉達に向き直る。倒れ伏す英雄を庇うように燈哉達が位置取った。

 

「おっと。その必要は無いよ」

 

マーリンが杖を振るう。魔法陣が出現し、燈哉達を包み込みと姿が消える。工業地帯にはアスクと虎杖、そして壱子の亡き骸だけが取り残された。

 

「アスク……」

 

虎杖が気遣わしげに見つめる。アスクは壱子の亡き骸を抱きしめると、未完の杯が輝いた。壱子の体がアスクの中へと消えていく。

 

「この世界に彼女は渡さない」

 

アスクが壱子を取り込んだのだ。大嫌いなこの世界に還さない為に。すると、未完の杯がさらに輝く。そこから飛び出したのは、三体の影。その内の一体、青い逆立った毛に鋭い牙と爪を持った獣のレジェスター。

 

「オレ様はフェンリル・レジェスター! アスク様、獲物ばどこですか?」

 

フェンリル・レジェスターが獰猛な笑みを浮かべる。その横で不敵に喉を鳴らすのは滑るようなコブラのような顔にアナコンダのような両手を持つ蛇のレジェスター。

 

「ヨルムンガンド・レジェスター。アスク様、どうぞご命令を」

 

そして最後の一体。体の半身が青白く靄がかかった人のレジェスター。

 

「ワタシはヘル・レジェスター。アスク様の仰せのままに」

 

そう言って静かに傅く。

 

「これで戦力は整った。決戦の前にやるべき事を終わらせよう」

 

アスクは空を見上げる。空には立ち籠める暗雲は雷を伴い、これから来るであろう嵐を予感させていた。

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