世界を覆った閃光が晴れる。上空からなにかが塔の最上階へと落下した。神器だ。装甲はズタズタに割れ、焼け焦げた匂いが黒い煙とともに立ち込めている。床に勢い良く衝突し、その衝撃でベルトのトロフィーが外れ、変身が解けた。スクリーンに倒れ伏す燈哉の無残な姿が晒される。それを見た人々は諦めと絶望の表情を浮かべている。そんな中、そう思わない人物がいた。
「早く起きなよ。まだ生きてるんだろう?」
倒れ伏す燈哉を見下ろしながらアスクが声をかける。それは冗談でもなく本心から。彼ならばこんな所で終わる玉ではない。そう確信しているからこそだった。
「当たり……前だ!」
アスクの思いに応えるように燈哉が立ち上がる。額から血を流し、服もボロボロ。ふらふらと足元の覚束ないの状態で苦悶の表情を浮かべている。
「集え、五つの剣!」
<天下五剣!>
<刀剣集結!>
トロフィーをベルトにセットし、燈哉が叫ぶ。
「変身!」
<火剣! 水剣! 風剣! 光剣! 土剣! 天下五剣!!>
<ワールドファイブレード!>
五色の装甲を纏い、再び神器へと変身を遂げる燈哉。すぐさま駆け出す。
<オニマルクニツナ!>
<ジュズマルツネツグ!>
<ドウジキリヤスツナ!>
<ミカヅキムネチカ!>
<オオデンタミツヨ!>
連続でトロフィーを操作し、五振りの剣を召喚。口にミカヅキを咥え、右手にオオデンタ、左手にドウジキリを装備した。残る二振りはドウジキリの風で絡め取り、追従させる。
「行くぞ!」
目にも留まらぬ速さでアスクへ迫る神器。背後に回り込み、渾身の力を込めてオオデンタを振り下ろした。同時にオニマルとジュズマルを左右から追撃させる。アスクの剣は一本のみ。手数なら神器の方が多い。だが、
「甘いよ」
アスクがレーヴァテインで虚空を斬った。途端に迫っていたオニマルとジュズマルが空中で弾かれ地面に落ちた。
「!?」
「レーヴァテインは空間すらも無に帰す。よって君の攻撃は届かない」
虚を突かれ神器の動きが止まった。すかさずアスクが懐へ入る。そしてレーヴァテインをその胴へ叩き込んだ。
<レーヴァテイン!>
<必殺神技!!>
「うああああ!!!」
装甲が斬り裂かれ、神器が吹っ飛ぶ。地面にぶつかった拍子にトロフィーが外れ、変身が解ける。
「まだだ!」
肩で息をしながら燈哉は立ち上がる。その手にはムラマサアームズトロフィーが握られている。
<ムラマサ!>
「変身!」
<抜刀! 決闘! 激闘! 妖刀の戦士!!>
<ムラマサブレード!>
三度神器へ変身した燈哉がムラマサを勢い良く振り下ろす。
「はぁ……」
軽くため息をつくとアスクはムラマサの軌道上にレーヴァテインを置いた。スパンッという音と共にムラマサの刀身が折れた。
「!?」
刀身がクルクルと回転しながら神器のはるか後方で床に突き刺さった。
「くそっ!!」
それでも神器は諦めない。折れたムラマサで刺突を繰り出す。しかし、アスクの方が一手早かった。レーヴァテインが神器を捉えた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛!?!!」
一瞬にして装甲が斬り裂かれ、神器が絶叫する。またしても変身が解け、燈哉が崩れ落ちる。はずだった。倒れる直前に足を踏み込み、何とか阻止する。
「はぁ……はぁ……」
立っているのがやっとの状態で燈哉はアスクを見つめている。
「もうやめなよ。勝負は決まった。これ以上戦っても無駄さ」
「やってみなきゃ分からない」
その瞳にはまだ火が灯っている。そんな彼にアスクは尋ねた。
「君がそこまでする価値がこの世界にあるのかい?」
「さぁな。この世界の価値なんか俺に分かるわけないだろ」
そう言い切り、燈哉が一歩前に出る。
「それでも俺はこの世界が好きだ。この世界には仲間や友達、そして大切な人がいるんだ。だから俺は絶対諦めない。最後の最後の最後まで!」
「俺の運命は、俺のこの手で斬り拓く!!」
「そうだよね、燈哉。私も諦めない。燈哉と一緒に明日を生きるために」
空に浮かぶスクリーンを見ながら紗耶が両手を合わせる。瞬間、手の中でなにかが輝く。それはカイノクロコマトロフィー。カイノクロコマトロフィーは宙に浮かぶと紗耶の周りを旋回する。
「もしかしてあなたも同じ?」
紗耶の言葉に頷くようにカイノクロコマトロフィーが上下に揺れる。それを見て紗耶が微笑む。
「そっか。それならお願い。私の思い、燈哉に届けて」
カイノクロコマトロフィーが塔へと飛んでいく。
「ならば私の思いも持っていってもらおう。頼んだぞ」
傍らで地面に座っている天鎧 英雄が言う。彼の手からアイギスアームズトロフィーとハルパーアームズトロフィーが輝きながら後を追う。
「この世界を頼むぜ!」
「我々の思い、君に託す」
同時刻。羽渡 豪人と湯道 白正がトロフィーを手放す。思いを託されたナーゲルリングアームズトロフィーとエッケザックスアームズトロフィー。そしてガーンデーヴァアームズトロフィーが塔へと飛んでいく。
そして塔の下。こちらに弧を描きながら飛んでくるトロフィー達を見て、卓人と桃は顔を見合わせる。互いに頷くと手の中のトロフィーを空へと解放する。
「頼むわよ立脇。私の分までぶちかましなさい!」
「行け、燈哉。僕達の剣で世界を救うんだ」
カリバーンアームズトロフィーとレイエンキョアームズトロフィーを筆頭に無数のトロフィーが最上階を目指して登っていく。多くの人々の願いを乗せて。今や燈哉達の戦いを見る人々は皆、手を合わせ祈っていた。聖杯の欠片達がその思いを拾い上げ、塔へと集結していく。
そして塔の最上階へ。啖呵を切る燈哉を見てアスクはレーヴァテインを振り上げた。
「そうか。ならもう楽にしてあげるよ」
剣閃がきらめき、斬撃が燈哉へ放たれる。斬撃が燈哉に触れるその直前。無数のトロフィー達が割って入った。斬撃が弾かれ燈哉は難を逃れた。
「これは……!?」
驚くアスク。それは燈哉も同じ。驚きの表情でトロフィー達を見る。トロフィー達は燈哉の周りを衛星軌道で浮遊。そして一斉にか細い光を放つ。光は一直線に燈哉の腰。ヒロイックドライバーに装填されているムラマサアームズトロフィーに集中した。色とりどりの輝きがムラマサアームズトロフィーを包み込むとベルトを外れ、燈哉の目の前に飛び上がる。
それを手に取る燈哉。掌の中でトロフィーは変化した。ゴールドの台座の上に金に縁取られた赤紫色の刃を持つ日本刀が突き刺さったトロフィーに。
「皆。行くぞ!」
燈哉がトロフィーを起動させる。
<ムラマサ・真打!>
「変身」
すかさずベルトを操作し、燈哉がいつもの言葉を放った。
<抜刀! 決闘! 激闘! 妖刀・真打! 軌跡の戦士!!>
彼の目の前に金に縁取られた赤紫色の日本刀が突き刺さる。その先端は無くなっている。刀より赤紫色の人魂と青白い人魂が燈哉に纏わりつき、通常のムラマサブレードへと変わる。そこからさらに七色の人魂が複数出現し、その上から纏う。
<真ムラマサブレード!>
現れたのは、金の装甲が追加された神器の新たな姿。否、軌跡の姿。神器がムラマサを手に取った。刹那、七色の光がムラマサを包み、刀身が蘇る。
「何だよ、それ!?」
あまりの出来事にアスクが狼狽える。それは今の今まで見たこともない現象だった。
「ふざけるな!!」
アスクが怒号を上げる。素早く間合いを詰めるとレーヴァテインを振り下ろした。神器がムラマサで迎え撃つ。
「ハアッ!」
剣と剣がぶつかり、レーヴァテインが弾かれた。アスクが後退する。
「何だと!? どうして!?」
全てを無に帰すレーヴァテインの攻撃が弾き返された。呆気にとられるアスクに神器が切っ先を向ける。
「簡単な話だ。この刀には皆の思いが籠もってる。この世界で生きたいっていう思いがな!」
足を踏み出し、攻勢に出た。妖刀<ムラマサ・真打>を連続で振るい、次々とアスクの装甲に傷をつけていく。
「思いは消えない! 絶えない! 潰えない! この世界ある限り終わらない! だから絶対に負けはしない!!」
ダメ押しの一撃がアスクを吹っ飛ばす。
「何が……皆の思いだ……!」
立ち上がったアスクが神器を睨む。
「僕にだって負けられない思いがあるんだ!!」
<レーヴァテイン!>
<最終奥義!!>
アスクが飛び上がり、足を突き出した。
「俺も同じだ。だから勝つ!」
<ムラマサ・真打!>
<真・必殺奥義!!>
後を追うように神器も飛び上がり、足を突き出す。二人のライダーキックが激突。周囲に衝撃波が吹き荒れる。威力は互角。互いに弾かれ、地面を転がった。
「「まだだ!!」」
すぐさま起き上がり、駆け出す両者。ベルトからトロフィーを外し、武器へ装填する。
<ムラマサ・真打!>
<真・必殺神技!!>
<レーヴァテイン!>
<最終神技!!>
「「はあああああ!!!」」
刀と剣が、神器とアスクが交差する。そして、塔は静寂に包まれた。
「ぐっ……」
先に沈黙を破ったのは神器。崩れ落ち片膝をついた。続けてカランッと音を立て、アスクの手からレーヴァテインが滑り落ちた。
「僕の……負け……か……」
アスクが背中から倒れる。変身が解け、その体は徐々に粒子に還っていく。
「アスク!?」
変身を解いた燈哉が駆け寄る。アスクが見上げると涙を零しながらこちらを覗き込む燈哉の顔があった。
「なんで泣いてるのさ」
呆れ顔でアスクが言う。
「友達が死ぬんだ。当たり前だろ」
「友達……か。僕は世界を滅ぼそうとした悪党だぜ?」
「それでも。俺は友達だと思ってる」
燈哉が破顔する。釣られてアスクも笑った。その顔は憑き物が落ちたように晴れやかだ。
「世界を良くする……だっけ? まぁ、頑張りなよ。地獄の底から見ててあげるからさ」
アスクはゆっくりと目を閉じる。そして、彼の体が完全に消滅した。
「あぁ。見ててくれ、アスク」
腕で涙を拭き取り、燈哉は空を見上げる。そこにはいつもと変わらぬ青空が広がっていた。
それから半月後。門出市は所々に戦いの爪痕が残っているものの徐々に復興の兆しを見せていた。その一角の工事現場。多くの重機が稼働し、トラックがひっきりなしに行ったり来たりを繰り返している。作業着を着た羽渡 豪人はそんな場所で計画書とにらめっこをしていた。
「進捗はどうだ?」
振り返るとそこにはスーツ姿の天鎧 英雄が立っている。
「ぼちぼち……ですかね」
彼に気付き、豪人は頬を掻きながら駆け寄る。
「けど、まぁ、頑張りますよ!」
「そうか」
豪人がサムズアップをしながら笑う。そんな彼を見て、英雄も微笑んだ。
「何ですか?」
「いやなに、以前より前向きになったと思ってね」
「そうですかね?」
英雄の言葉に豪人はきょとんとするも一瞬のうち。すぐに気を取り直してまた笑顔を作る。
「あの戦いの後、助けた人達にお礼を言われたんです。それを聞いた時、凄く嬉しくなった」
そしてまっすぐに英雄を見つめる。
「その時気づいたんです。この気持ちがあるならきっと殺人衝動だって乗り越えられるって」
「羽渡くん……」
「万が一駄目そうになったら友達に助けてもらいます。きっと俺を止めてくれるから」
そう言う彼の笑顔は明るく輝いているように見えた。
「私も負けてはいられないな。まずはここから。この街を立て直し、必ず世界平和を実現してみせる」
英雄が豪人に手を差し出す。
「力を貸してくれるか?」
「もちろんっすよ!」
差し出された手を取る豪人。
「一緒に頑張りましょう!」
そう力強く宣言し、二人が固く握手を交わした。
門出市の刑務所。その奥の独房に、一人の青年がいた。彼の名は潟永 虎杖。アスクと共に世界を滅ぼさんとした大罪人。彼は独房の壁にもたれかかりながら床に座っていた。
「アスク。壱子。お前らの意志は俺が受け継ぐ。必ず世界を滅ぼしてみせる」
青年は独房を照らす窓に目を向けながら呟く。
「悪いがそうはいかない」
不意に声がした。虎杖はその声の主を見る。そこにいたのは警察官の装いをした湯道 白正の姿。
「俺の目が黒いうちは、お前の好きにはさせない」
白正は鋭い眼光で言った。
「はっ。止められるもんなら止めてみやがれ」
虎杖が睨み返す。独房で二人の視線が火花散った。
扉を開けると連動するように鈴が鳴る。キッチン大洗の店内にはそこそこ人が入っている。
「いらっしゃいませ!」
美鶴城 桃が振り返るとそこにはビジネススーツを着込んだ聖葉 卓人がいた。
「やぁ、久しぶりだね」
「そうね。二ヶ月ぶりくらい?」
席に案内しながら桃が言う。
「やっぱり忙しいのね。次期社長さん」
桃がからかうようにそう言うと卓人は照れくさそうに、はにかんだ。
「まあね。そうだ、昨日これが届いたんだ」
卓人がカバンから包みを取り出す。そこには沢山の写真が入っていた。写っているのは二人の男女。立脇 燈哉と椿坂 紗耶の二人。
「今どこだっけ? 」
「イギリスの周辺だったかな。新しいトロフィーを見つけたらしいよ」
「そう。お土産に期待できそうね」
あの戦いの余波でトロフィー達は世界各地に再び散らばってしまった。残されたのは燈哉が使っていたムラマサアームズトロフィーだけ。放っておけばまた新たなレジェスターが生まれ事件が起こる。そこで卓人が資金面で援助し、燈哉と紗耶にはトロフィーを回収するべく世界各地を旅してもらう事となった。
二人は改めて写真を見る。そこに写る燈哉達はとても楽しそうだ。
「いいなぁ。いつか僕も燈哉達と旅してみたいな」
「そうね。その時は私も誘いなさいよ」
二人は微笑むとそんな未来に思いを馳せるのだった。
「おらおら。怪我したくなきゃ、金と荷物を置いて行け!」
タクシーを囲むように立つのは三体の怪人。緑色の皮膚に小さな角を持つ小鬼達がこん棒を手に威嚇する。
「なぁ、紗耶。あれは何のレジェスターだ?」
運転手が怯える最中、後部座席から呑気な声がする。一人は青年、もう一人は同年代の少女。二人はこの異常事態にも関わらず平然としていた。
「えーっと。あれはおそらくゴブリン・レジェスターじゃないかな?」
「そっか。じゃあ行ってくる!」
車の扉を開け、青年が出てきた。
「よう! 悪いんだけどさ、ここまでにしないか? 大人しく引き下がってくれればこっちも何もしないからよ」
「なんだてめぇ? なめてんのか?」
不快感を露わにした表情でゴブリン・レジェスター達が青年を睨む。
「言いくるめようたってそうはいかねぇ。お前らの運命は決まってるんだよ!」
「運命か……。なら、変えてやるよ」
青年の目つきが変わる。彼の雰囲気が変わった事を感知しゴブリン・レジェスター達が後退る。
「な、なんだお前は?」
「俺? 俺は立脇 燈哉。またの名を、」
<ヒロイックドライバー!>
燈哉がトロフィーを取り出し起動させる。
<ムラマサ!>
「変身!」
燈哉の前に赤紫色の日本刀が突き刺さる。そこから現れた人魂が燈哉を包み込み、姿を変えた。
<抜刀! 決闘! 激闘! 妖刀の戦士!!>
<ムラマサブレード!>
装甲纏いし鎧武者が日本刀を手に悠然と構える。
「仮面ライダー神器。俺の運命は、俺のこの手だ斬り拓く!」
「さぁ、行くぜ!!」
神器は意気揚々と駆け出した。
彼らの戦いは終わらない。
これから何度だって世界の危機は訪れる。願いある限り必ず。
そして、その度に世界は救われる。願いある限りきっと。そうやって人間達は間違いを繰り返しながら何度でも立ち上がる。
そしてより良い未来を目指して歩き出していくのだ。
神器の物語、ここに完結。
長きに渡るご愛読ありがとうございました。
この物語が見た人の糧になってくれれば嬉しいです。
また次回作でお会いしましょう。