「戻ったぜ!」
そう言って、燈哉と紗耶がキッチン大洗に入ってくる。その顔はやりきったと言わんばかりに満足げな表情を浮かべていた。
「立脇君!」
燈哉達の姿を見つけるや否や、卓人と桃は勢い良く立ち上がる。
「どうだった?」
桃が訊ねると、燈哉は笑顔で親指を立てる。
「もちろん、手に入れたぜ!」
燈哉が薫風山で手に入れたアームズトロフィーを見せつける。
「このトロフィーの力なら、酒呑童子とも戦える」
燈哉がトロフィーを見つめる。その瞳は自信に満ちていた。
「けど……」
燈哉はそこで一旦、言葉を切る。
「けど、戦えるだけでそれだけじゃ勝てない」
そして、真剣な眼差しを卓人達に向ける。
「だから、作戦会議しようぜ」
「「「!?」」」
燈哉の言葉を聞き、卓人達は驚きの表情を浮かべる。
「……どうしたんだい? 今までならすぐに向かっていくのに」
「教えて貰ったんだよ。どんな力も使い手次第だって」
卓人の問いに、燈哉が笑って答える。そこには確かな成長の跡があった。
「……そうか。うん、そうだね! じゃあ、作戦会議をしよう」
卓人が椅子に座り直す。燈哉、紗耶、桃もそれに続くように腰掛ける。そして、作戦会議が始まった。
薄暗い廊下を一人の男が歩いていた。ファブニールだ。ポケットに手を入れ悠々と歩くその姿には王者の風格がある。彼の足音だけが静かに響く。
やがて、ファブニールはとある扉の前で立ち止まった。そしてドアノブを掴むと勢い良く開け放つ。するとそこには見慣れた石畳の薄暗い部屋があった。部屋に入った瞬間、甘い香りが漂う。それはまるで媚薬のような妖しい匂いであった。眉間に皺を寄せファブニールは歩みを進める。
「ごきげんよう、ファブニール・さ・ま」
部屋に足を踏み入れた途端、甘ったるい声がファブニールを出迎える。見れば部屋の中央にあるテーブルの前に血のように赤いチャイナドレスに身を包んだ美女がいた。美女は屈強な男を椅子代わりにして妖艶な笑みを浮かべていた。
「久しぶりだな、妲己」
美女の名前は白面九尾の狐にして、かつて中国にて傾国を成した、見る者を狂わせる魔性の女、妲己。だがファブニールの瞳にそんな美しさなど映ってはいない。装飾華美なる自らの椅子に座り、目を合わせる事もなく妲己に問いかける。
「それで?何の用だ?」
「あらぁ、冷たいですのね」
口元を扇子で隠し、からかう様にクスリと笑う。その仕草の一つすら目を奪われるほどに美しい。
「ふんっ、くだらねぇ戯言はいらん。早く要件を話せ」
だがファブニールは興味なさげに言い捨てると、面倒くさそうに手を振った。その反応を見てもなお、楽しげに笑いながら語り始める。
「今日は許可をいただきに来ましたの」
「……なんのだ?」
「この街に滞在する許可ですわ」
妲己は足を組みながら言う。スリットから見える脚線美は思わず目が吸い寄せられるほどに魅力的だ。
「なんだ、そんなことか。好きにすればいいだろうが」
「それはそうなのだけれど。どこかの夜行衆見たいに、痛い目に遭いたくは無いですもの」
そう言って、ふふっと笑みをこぼす。この女は常に余裕があり、妖しく美しい。
「一応ですわ、い・ち・お・う」
わざとらしく強調しながら楽しそうにしている。それを見たファブニールは心底うんざりしたようにため息をつく。
「ああ、そうかよ。……用件が済んだならとっとと帰れ」
しっしと追い払うように手を振る。それに対し、妲己は不満そうな表情をすることもなく、ゆっくりと立ち上がった。
「それにしても、最後まで目を合わせてはくれないのね?」
「当たり前だ。お前と目を合わせる馬鹿はそうは居ない」
鼻を鳴らして、吐き捨てるように言い放つ。
「それは残念」
やれやれといった様子で肩をすくめる。すると、そこへ扉が開き、白髪の青年が入ってくる。
「失礼しま……」
部屋に入った白髪の青年は妲己の姿を確認した瞬間、焦りの表情を露にする。
「あら?あらあら?」
妲己が口元に弧を描き、青年に近づく。そして、右手を青年の顔に添え、覗き込む。
「まぁ、綺麗!」
青年の顔を見て感嘆の声を上げる。
しかし、その瞳には狂気にも似た輝きがあり、それに気づいた白髪の青年が離れようと動いたが、もう遅い。いつの間にか背後にまわっていた屈強な男が青年を抑える。
「これは壊しがいがありそう」
妲己の瞳が妖しく輝く。まるで玩具を見つけた子供のように無邪気な笑顔で青年を見つめる。青年は微動だにしない。いや、指の一つも動かせない。妲己の瞳に魅入られ、目を逸らす事も出来ず、青年は徐々に虚ろな瞳になり、全身を脱力させていく。
「ねぇ、ファブニールさま。この子を私にくださいな」
「いいぞ」
即答だった。まるで不用品を譲るかのように簡単に許可を出す。
「本当ですの!? うふふふ。ありがとうございますわ」
大袈裟なまでに喜び、恍惚の笑みを浮かべる。そして男に合図を送る。男は何も言わず、青年を肩に担ぐ。
「それでは、ファブニールさま。失礼いたしますわ」
青年を連れて出て行く直前、振り向き、艶やかな微笑みで一礼。ファブニールはそれを目を閉じながら見送った。やがて、妲己達の姿は闇に溶けて消えた。
「さてと、作戦会議は終わったけど……。どうやって酒呑童子を見つけるんだい?」
キッチン大洗を出て、卓人が訪ねてくる。今、燈哉達三人は門出市の廃墟にいた。今回も紗耶と成都は留守番だ。そして、廃墟は当然の如く人っ子一人見当たらない。
「それなら考えてある。任せろ!」
燈哉が自信あり気に不敵な笑みを浮かべる。そして、大きく息を吸い込むと、廃墟全体に響くように大きな声を出した。
「酒呑童子! リベンジマッチだ!! 俺と戦え!!!」
燈哉の声は反響し、廃墟中へと響き渡る。しかし、暫く待っても反応は無く木枯らしだけが虚しく吹いていた。
「……一応聞くけど、どういうつもりだい?」
耳を手で押さえながら卓人が抗議の目を向ける。だが、当の本人はきょとんとした表情で小首を傾げていた。
「どうって? あいつらって俺達の事狙ってたみたいだったし、呼べば来るんじゃないかと思って」
「あんた、馬鹿なの?」
同じく耳を手で押さえ、桃が睨みつける。そんな二人の様子に燈哉は若干たじろぐが、負けじと言い返す。
「でもほら、手分けして探すのも効率悪いし……。あっちから来てもらった方がいいだろ?」
「だからって……もうちょっとやり方があるでしょ……」
呆れ顔を見せる桃だったが、燈哉の意見にも一理あった。確かに、門出市のどこにいるかも分からない存在を探すのは骨が折れるだろう。それに、仮に見つけても戦闘になるのだ。戦力は多い方が良い。
「頼むよ! 後少しでいいから」
手を合わせ、祈る様に燈哉は懇願する。
そんな燈哉の様子を見て、二人は諦めたように溜息をつく。
「しょうがないな……。本当に、後一回だけだよ」
卓人の言葉を聞き終えると、燈哉は目を輝かせてながら頷く。
「それじゃあ、気を取り直して叫ぶぞ!」
満面の笑みで燈哉は拳を掲げる。
「はいはい、さっさとやるわよ」
呆れた様子で桃は呟き、三人は大声で叫んだ。
「出てこい! 夜行衆!! 俺/僕/私達と戦え!!!」
その言葉は風に乗り、遠くのビルにいた酒呑童子の耳に届いた。酒呑童子がゆっくりと立ち上がる。ファブニールに付けられた傷は癒えておらず、顔色は悪いままだ。
「棟梁! その身体では危険です!」
茨木童子が慌てて止める。しかし、酒呑童子はそれを聞かず、ふらつきながらも歩き出す。
「せっかくのご指名であるからな。夜行衆の棟梁が逃げる訳にもいくまい」
そう言うと、酒呑童子はビルから飛び出す。
「ええい! お前達、棟梁に続くぞ!」
茨木童子達、鬼大五将もその後を追う。
「待たせたのぉ」
廃墟に着くなり、酒呑童子は口を開く。その背後には既に怪人態となった鬼大五将が控えている。
「おう! 待ちくたびれたぜ」
ニヤリと笑いながら、燈哉は呟く。卓人と桃もトロフィーを構え、臨戦体勢を取っていた。
「カッカッカ」
その様子を見て、酒呑童子が笑みを溢す。
「今まで多くの者達と仕合ったが、そのように目を輝かせながら挑む者はおらんかった」
酒呑童子の中からトロフィーが現れる。
<オーガ・ザ・酒呑童子>
「故に……此度の戦、楽めそうであるな!」
そう言い終わると同時に、酒呑童子は怪人態へと姿を変えた。
「あぁ、楽しませてやるよ。俺達の勝利でな!」
燈哉が薫風山で手に入れたトロフィーを取り出し、起動する。
<ドウジキリヤスツナ!>
トロフィーの名が高らかに鳴り響く。そして、その名を聞いた夜行衆が微かに動揺した。
「変身!」
その隙に、ドウジキリアームズトロフィーをドライバーにセット。ベルト横のボタンを押す。台座横のプレートが展開し、逆巻く風の顔をした戦士の絵が現れる。
<風雲!風流!封殺!風剣の戦士!!>
目の前に緑色の日本刀が出現。そこから吹き荒れる風が装甲となり、燈哉を包む。
<ドウジキリウインド!>
最後に風を模した仮面と刀の刀身が一本、角の様に装着され、燈哉は神器となった。そして、目の前の日本刀、風剣<ドウジキリ>を手に構える。
その傍らには同じくラウンダーに変身した卓人と天華に変身した桃がいる。
「まずは小手調べとゆこうか」
酒呑童子が大きく息を吐き出す。周囲に高濃度のアルコールが充満していく。酩酊の息吹だ。
「悪いけど、それはもう効かねぇよ!」
神器がドウジキリを振るう。風を纏った斬撃が酩酊の息吹を吹き飛ばす。
「ほう……」
酩酊の息吹を無効化されたにも関わらず、酒呑童子は余裕の表情だった。しかし、鬼大五将は違った。神器が未知の力を手に入れた事に驚愕していた。
「チィッ! 行くぞお前達。あいつを棟梁の元へ近づけるな!」
茨木童子が叫ぶ。同時に、鬼大五将が神器へ向けて駆け出す。彼らが神器へ肉薄するその直前、ラウンダーと天華が間へ割って入る。
「そうはさせない」
天華がレイエンキョを地面に突き刺し、氷の壁で自らとラウンダー、そして鬼大五将を取り囲んだ。
「何ぃ!?」
茨木童子が声を上げる。その刹那、鬼大五将目掛けてラウンダーがカリバーンを振り下ろす。
それを既の所で、星熊童子の薙刀が受け止め、すぐさま金熊童子が反撃。ラウンダーが後方に飛び退いて回避。天華の隣へ着地する。
「そう上手くはいかないか……」
ラウンダーが呟く。
「このまま攻める。向こうには行かせない」
天華がそう告げると、二人は攻撃を再開すべく向かって行った。
氷の壁の外。神器は酒呑童子と対峙している。重苦しい空気の中、神器はゴクリと生唾を飲み込む。対する、酒呑童子は余裕の笑みを崩さない。
「我と一騎打ちとは。余程、自信があるようだのう」
酒呑童子の言葉に対し、神器は仮面の奥で苦笑する。
「逆だよ、逆。コンビネーションならそっちが上だからな。数もこっちより多いし。」
「聖葉と美鶴城がお前の仲間を足止めして、その間に俺がお前を倒す。これが今、俺達に出来る最善策だ!」
ドウジキリを構え、巻き起こす風に乗り、神器が酒呑童子に迫る。そして、神器は跳躍すると勢いそのまま斬りかかった。
「確かに」
酒呑童子が静かに呟く。
「確かに、その剣はかつての我を斬った剣である」
童子切安綱。それはかつて酒呑童子を斬った名刀。まさしく酒呑童子を討つのにぴったりとも言える力を持っている。
「だが、舐め過ぎてはいまいか?」
酒呑童子の目が鋭くなり、身に纏うオーラがいっそう増す。
「その剣に出来るのは酩酊の息吹を破る事のみ。毒酒を煽ってはおらぬが故、我が首を取る事は不可能と知れ!」
神器が振り下ろしたドウジキリを酒呑童子は大剣で受け止める。そして、左手の拳を器へ叩き込む。
強烈な一撃を受け、神器は大きく吹き飛ばされてしまう。だが、神器もただでは転ばない。
空中でドウジキリを振るい、風の力で体勢を整え、廃墟の壁を足場に、酒呑童子へ向かって再び跳躍。
「別に、舐めてなんかねぇよ!」
<ドウジキリヤスツナ!>
<必殺神技!!>
トロフィーをドウジキリに差し込む。ドウジキリが風を纏う。
「お前がどれだけ強くても。戦えるなら、負ける訳にはいかないんだよ!!」
神器はキリモミ回転しながら酒呑童子に突っ込む。
酒呑童子はそれを大剣で受け止める。凄まじい衝撃波が辺りに広がる。
「ぬぅ……っ!」
「うおおぉーッ!!」
互いに一歩も譲らない鍔迫り合いが続く。
そして、酒呑童子の足が徐々に後退し始める。
「ッ!」
「ここだぁッ!!」
更に激しくなる押し合いの中、神器の渾身の一撃が酒呑童子をふっ飛ばした。しかし、酒呑童子は壁や床を蹴って着地する。そして、ゆっくりと神器を見つめる。ダメージはあまり無いようだった。
「ふむ……。どうやら侮っていたのは我の方であったか」
酒呑童子のオーラが一段と強くなる。それを見て神器は姿勢を低くし、ドウジキリを構える。
「面白い。ここからは正真正銘、こちらも油断無しで行こう」
口元に弧を描き、酒呑童子は好戦的な笑みを浮かべる。
「来い」
「いくぜ!」
神器が走り出し、再びキリモミ回転で酒呑童子に向かって行く。対する酒呑童子は大きく息を吸い込み、酩酊の息吹を吐き出した。
「それは効かないぜ!」
回転を止め、神器はドウジキリを振るって酩酊の息吹を吹き飛ばす。
「だが、それが隙となる」
酒呑童子が大剣に酩酊の息吹を纏わせる。
「喰らうがいい。我が必技」
そして、大きく振り上げた大剣を神器目掛けて思い切り振り下ろす。
「鬼刀・酒銘刃!!」
巨大な斬撃が神器を襲う。
「ぐわあああッ!!」
激しい衝撃音と共に、辺りに土煙が巻き起こる。そして、その中からボロボロになった神器が現れた。
「うっ……」
「ほう。まだ立ち上がるか」
酒呑童子がニヤリと笑う。神器は再び構え直すと、静かに呟いた。
「当たり前だ」
そして、再び酒呑童子へと駆け出す。
「何度やっても同じことよ」
酒呑童子は大剣を構え直し、迎え撃つ準備をする。
そして、再び酩酊の息吹を吐き出す。
「くっ!」
苦しげな声を上げ、神器がドウジキリで酩酊の息吹を吹き飛ばす。それと同時に、酒呑童子の鬼刀・酒銘刃がまたしても神器に炸裂。神器は地面を転がる。
「くっそぉ!」
ドウジキリを振るえば酩酊の息吹を晴らす事が出来る。だがしかし、その度に隙が生まれ、酒呑童子の一撃を許してしまう。まさに、完全な悪循環だった。
「どうした?先程までの威勢はどこへ行った?」
「……っ!」
「このままでは我に勝てぬぞ。それとも、諦めるか?」
酒呑童子が挑発する。
「……」
神器はヨロヨロと立ち上がり、仮面の奥で目をつむる。そこで、一つの覚悟を決める。
「ふぅ~」
深呼吸をして息を整えると目を開け、酒呑童子を見据えた。
「どうした? ヤケにでもなったか?」
雰囲気が変わった神器を見て酒呑童子が問いかける。
「いいや。ただ、無茶をするだけだ。お前に勝つ為の無茶を」
そう言うと、神器は大きく息を吸って、駆け出した。
(何じゃ、ただ突っ込んで来ただけか……)
酒呑童子が心の中で落胆する。神器はそのまま一直線に酒呑童子の元へ走っていく。
「無駄だと分からんのか」
酒呑童子は呆れた顔で酩酊の息吹を吐き出す。酩酊の息吹が神器に迫る。
(剣を振るった後、我が秘技で終いだ)
酒呑童子は鬼刀・酒銘刃の準備をしながらその瞬間を待つ。だが、
<オニマルクニツナ!>
<必殺神技!!>
ドウジキリに炎を纏わせ、神器が酩酊の息吹の中を突っ切っていく。
「何じゃと!?」
予想外の行動に酒呑童子が驚く。
「うおおぉーッ!!」
神器は酒呑童子の目の前までやって来ると、炎を纏わせたドウジキリを振り下ろす。
「くっ!」
咄嗟に大剣で受け止めるも、動き出しが遅れ追い込まれていく。
「ぬうっ……! だが、まだまだぁ!」
酒呑童子は全身に力を込め、大剣で押し返す。
「我の勝ちだ!!」
酒呑童子が大剣を思い切り振り切った。
「!?」
大剣は空を斬っていた。
<ドウジキリ!>
<必殺奥義!!>
頭上から必殺技が高らかに宣言される。身体をひねり、神器は酒呑童子の真上からオーバヘッドでキックを叩き込む。風を纏った一撃が酒呑童子の胸へと着地する。
「がはっ……!」
強烈な一撃が衝撃波を生み、土煙を巻き上げる。神器は地面に降り立つと、片膝をついて、酒呑童子を見る。
しばらくすると、土煙が晴れ、酒呑童子の姿が現れる。それなりのダメージを負っているが倒れるには至っていない。
「嘘だろ……。これでも駄目かよ」
神器が苦しげな表情で自虐的に笑う。酩酊の息吹の中を突っ切り、神器はもはや戦闘もままならない程、消耗していた。
「見事な一撃であった……」
酒呑童子はゆっくりと自らの胸に手で触れる。その手には血がべっとりと付いていた。それを見て、酒呑童子は笑う。
「お主。名は何と言う?」
「……俺の名前?」
神器が酒呑童子を見つめる。一瞬、迷ったが、神器は自らの名乗りを上げる。
「仮面ライダー神器」
「そちらでは無い。本名を名乗れ」
酒呑童子が即座に言う。
神器は少し考えると口を開いた。
「……立脇燈哉」
酒呑童子がニヤリと笑う。
「そうか、立脇燈哉と言うのか」
そう言うと、酒呑童子は大剣で氷の壁を砕く。
「立脇君!」
「立脇!」
中からラウンダーと天華が飛び出し、神器の隣に並ぶ。
「棟梁!」
鬼大五将も酒呑童子の近くに寄ってくる。
「立脇燈哉よ。此度の戦、ここまでとしよう」
「えっ?」
酒呑童子が大剣を収める。
「お主には見込みがある。我はお前を気に入った」
「えーっと……」
神器が困惑の声を上げる。
「分かっていたと思うが、我も本調子では無くてな」
「マジかよ!」
思わず声を上げた神器に酒呑童子は苦笑する。
「故に、立脇燈哉よ。もっと強くなれ。それまでにこちらも体調を整えておく。そして、お前が我に届いた時、再び仕合うとしよう」
酒呑童子が踵を返し、歩き出す。
「あぁ、勿論。それまで我ら夜行衆は大人しくする事を約束しよう」
「ゆくぞ、お前達」
酒呑童子は後ろを振り返らず、鬼大五将を伴いながら去って行った。
辺りが静寂に包まれる。
酒呑童子が立ち去った後も、皆、何も言わずに呆然としていた。しばらくして、燈哉が変身を解除する。
「……ふぅ~」
大きく息を吐き、肩の力を抜く。
「ひとまず、一件落着……なのか?」
地面に寝転びながら二人に問いかける。
「彼らが約束を守るならだけどね」
同じく変身を解除し、卓人が言う。
「警戒、怠らないでいくわよ」
桃も変身を解いて空を見上げる。
「何はともあれ。もっと強くならないとな」
燈哉が立ち上がる。その顔は晴れやかに、未来への展望に満ちている。
「そうね」
桃が同意する。
「ああ、そうだね」
卓人が燈哉を見る。
(僕ももっと強くならないと……)
そして、誰にも悟られず拳を握りしめた。