仮面ライダー神器   作:puls9

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第九節 始まりの夢、信念の誓い

夢の中で目が覚める。そこは平原。地面には若々しい緑。空には澄み渡る青。遥か向こうには天高くそびえ立つ塔があった。

そして、目の前には剣が一本、地面に突き刺さっている。

 

「綺麗だ……」

 

思わず感嘆の声が漏れた。その剣は絢爛豪華とまではいかないが、精巧で、その剣は光に反射し、眩い純白の輝きを放っている。

 

「コングラチュレーション! おめでとう。聖葉卓人君! 君は選ばれた」

 

振り返るとそこにはローブを羽織った人がいた。右手には杖が握られている。そして、深くかぶったフードのせいで顔はよく見えないが、その声からかろうじて男だと言うことは分かった。

 

「貴方は誰ですか?」

 

卓人が警戒を強め言う。

 

「おっと、これは失礼。申し遅れたね、私はマーリン」

「マー……リン?」

「そう。かつてアーサー王伝説においてアーサー王を導き、円卓の騎士達から称賛のあめあられを受けた稀代の天っ才魔術師! それこそがこの私なのさ!」

 

マーリンは仰々しく両手を上に広げながら言った。その瞬間、風が舞い上がり、フードが脱げて彼の素顔が明らかになる。それは端正な顔立ちをした紫髪の美青年だった。

 

「よろしくね♪」

 

マーリンがウィンクしながら笑う。

 

「あの……。選ばれたとはどういう事でしょうか?」

 

卓人は戸惑いながらも疑問をぶつける。

 

「簡単な話しさ。君がその剣を引き抜いた時、世界を救う権利が与えられる。その選択肢の事だよ」

 

マーリンは地面に刺さっている剣を指しながら言った。

 

「勿論、決めるのは君は自身。なにせ、世界を救うと言うことは命がけの戦いに身を投じると言う事だからね」

「……」

 

卓人は迷いなく剣に近づく。

 

「聖葉家には家訓があります」

 

卓人は一瞬目をつむり、覚悟の表情で剣に手を伸ばす。

 

「"弱きを助け、強きも救う"。助けられる者なら誰であっても助け、救える者ならばすべて救う」

 

剣に触れ、力いっぱいに引き抜く。純白の刃が太陽の光を受けて眩く輝く。

 

「綺麗事かもしれないけれど僕はそうでありたい。それこそが名門、聖葉家に生まれた僕が成すべき事」

 

卓人は引き抜いた剣を見る。

 

「この剣で……、いや、……僕の剣で世界を救う!」

「エクセレント!」

 

マーリンは大きく手を叩く。そして、杖を卓人へ向けた。

 

「ならば私もそれに応えよう! 私が持つ知識を君に」

 

杖が輝き、その光が卓人を包み込む。脳内に濁流の様に知識が入り、卓人の意識は徐々に薄れていく。

 

「見せてもらおう、君の歩む王道を。かつて仕えた彼の王とは違う結末を……」

 

目の前が暗転し、夢から覚める。

だが、それは決して幻では無い。何故なら、彼の手にはトロフィーが握られていたからだ。ブロンズの台座の上に西洋剣が突き刺さった、カリバーンアームズトロフィーが。

これこそが聖葉卓人の原点。世界を救う戦いの始まりだった。

 

 

 

 

 

けたたましい音で目が覚める。ベッドから起き上がり、近くに置いてあった目覚まし時計を止める。

 

「う、うーん……。今日も良い朝だ」

 

大きく伸びをして、卓人は窓の外を見つめる。快晴だ。カーテンを開けると眩しい日差しが部屋に差し込む。

身支度を整え、部屋を出ると、そこには流川が控えていた。

 

「おはようございます。お坊っちゃま」

「おはよう、流川」

「本日の朝食はトーストです。目玉焼きは半熟か堅焼か、どちらにいたしましょう?」

「堅焼でお願い」

 

卓人がそう言うと、流川はニコリと微笑む。

 

「かしこまりました。では、食堂にてお待ちくださいませ」

 

階段を降り、廊下を行く。扉を開けて中に入ると、そこには広々とした空間が広がっている。その部屋の中央には如何にもな長テーブルがあり、その上座には珍しく先客の姿があった。

 

「おはようございます、父さん」

「ああ、おはよう」

 

椅子に座っていたのは、卓人の父、聖葉 優人だった。彼は息子の姿を見やると少しだけ口元を緩め、手元にあったコーヒーカップを口に運ぶ。

 

「珍しいね、こんな時間に父さんがいるなんて」

「何、スケジュールに急な変更があってな。……まぁ、久しぶりにお前と食事が出来るなら悪くは無いな」

「あはは……」

 

卓人も席に着くと、すぐに朝食のトーストが運ばれる。そしてそれを齧りながら父の方を見た。

 

「……最近忙しそうだね」

「ああ、少し立て込んでいてな。またしばらくお前に会えないかもしれん」

「そっか……」

 

父はいつも忙しくしている。それは聖葉コーポレーションの頂点に立つ者にとって仕方のない事だ。卓人もそれは分かっているが、無理はしていないかとつい不安になってしまう。

 

「時に、新しい友人が出来たそうじゃないか? 流川に聞いたぞ」

 

突然そんな事を言われ、卓人は驚く。対する優人の顔はとても穏やかだ。

 

「えっと……友達? ……なのかな?」

「ほう、違うのか?」

「どうだろう……。でも、二人共凄い人達で、僕も負けてはいられないって思ってるよ」

 

卓人は笑みを浮かべる。

 

「僕も負けてはいられない。あの二人より強くなって世界を救わなきゃ。絶対に……」

 

そんな息子を見て、優人は眉間にシワを寄せた。

だが、卓人はそれに気づかずに話を続ける。

 

「確か今夜は取引先主催のパーティがあるんだよね?」

「ああ。そうだ」

 

優人は頷く。それを見て、卓人が手に持っていたフォークを置く。

 

「……良ければ僕が代わりに行こうか?先方への挨拶くらいなら僕でも出来るからさ」

「…………駄目だ。お前にはまだ早い」

 

息子の提案を却下する優人。すると卓人は勢い良く立ち上がった。テーブルに手を叩きつけたはずみで皿が音を立てて揺れる。

 

「どうしてさ!? 僕だってもう成人しているし、大学に通いながら会社の手伝いだってしてる。何も問題ないじゃないか!」

 

しかしそんな卓人を咎めるように、優人は厳しい口調で言う。

 

「お前にはまだ大事なものが見えていない」

「大事な……もの?」

 

首を傾げる卓人に、優人は続ける。

 

「それが分からなければ、お前に後を託す事は出来ない」

 

優人は食事を終え、席を立つ。そのまま食器を下げ、部屋を出て行った。

 

「少し厳しすぎではございませんか?旦那様」

 

部屋を出た優人に流川が声をかける。

その言葉に対し、優人は表情を変えずこう言った。

 

「一人で出来る事などたかが知れている。だが、あいつは何でも一人でこなそうとする。周りを頼ろうとしない者に人は着いてこない。そんな者に会社は任せられん」

「ならば、それをお教えしては?」

 

流川の問いに、優人は答える。

 

「そういう事は自分で答えを見つけるからこそ意味があるのだ。くれぐれも教えるなよ?」

「かしこまりました」

 

深く頭を下げる流川を残し、優人はその場を去った。

 

 

 

 

 

 

 

「うぃっす。お疲れ様でーす」

 

時刻は夕方。閉店の準備を終え、燈哉が挨拶をして店を出る。何をするにしても先立つ物がいる。そんな訳で燈哉は今、バイトをしていた。

早朝は新聞配達、日中から夕方にかけてスーパーの品出しとレジ打ち等々。時給は高くないが、働き口があるだけマシである。

 

「お待たせ!」

 

よく待ち合わせ場所に使っている噴水広場に燈哉がバイクに乗ってやって来る。

 

「燈哉。こっち、こっち!」

 

燈哉に気づき、紗耶が手を振って呼ぶ。

 

「悪いな。こんな時間になっちゃって」

「別にいいよ! はい、これ」

 

そう言って、紗耶が紙袋を渡す。

 

「サンキュー」

 

燈哉はそれを受け取り、中身を確認する。

中には分厚い本が数冊入っていた。

 

「それにしても、どうしたの? 急に日本の歴史書が見たいって言い出して?」

「自分の持ってるトロフィーについて知りたくてさ。ほら、よく言うだろ? 敵を知り己を知れば百戦殆うからずって」

 

燈哉は受け取った本をカバンに入れる。

 

「それにしても……腹減ったな。どっか食いに行こうぜ?」

 

燈哉が腹をさすりながら提案する。

 

「いいけど。どこに行くの?」

「うーん、そうだなぁ……。まぁ、時間はたっぷりあるし、そこらをブラブラしながら決めようぜ」

 

燈哉はバイクを押しながら広場の外へと歩き出す。紗耶も後ろをついていく。

しばらく歩くと、繁華街が見えてきた。飲食店やゲームセンター等の様々な店が軒を連ねている。二人はそんな店先を見ながら歩いていた。そして、曲がり角に差し掛かった時、前から歩いて来た人とぶつかりそうになる。

 

「うおっと!?」

 

燈哉が既のところで回避。衝突は免れた。

 

「燈哉、大丈夫!?」

 

後ろにいた紗耶が慌てて声をかける。

 

「あぁ、何とか……。あの、すみませ……」

 

燈哉が謝ろうと前を見て、固まった。目の前に居る男には見覚えがあった。翡翠の和服を着た美丈夫。すなわち、

 

「酒呑童子!?」

 

紗耶を守る様に前に出る。それに対し、酒呑童子は口元に笑みを浮かべ、こちらを見ている。

 

「誰かと思えば、立脇燈哉ではないか。奇遇よなぁ」

「何でお前がここにいるんだよ?」

 

燈哉は警戒心剥き出しで睨む。

 

「カッカッカ! そう警戒するな。安心するがいい。今は戦うつもりはない」

 

そう言って酒呑童子は快活に笑う。

 

「我には行く所がある故。失礼させてもらう」

 

酒呑童子は燈哉達の脇を抜けて行く。だが、少しした所で止まり、燈哉達の方を振り返る。

 

「……気になるか? 我がどこに行くのかが?」

 

酒呑童子はニヤリと笑う。

 

「それは……まぁ」

 

その含みのある言い方に燈哉達は警戒する。

 

「ならばついてくるがいい。立脇燈哉よ」

 

そう言って、酒呑童子は再び歩き出した。燈哉達は顔を見合わせ、頷く。そして、覚悟を決めて酒呑童子を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、居酒屋じゃねえか!」

 

酒呑童子に連れられ、燈哉達はお座敷の部屋へと通される。

テーブルに掌を叩きつけながら、酒呑童子へ吠える。

 

「代金なら気にするな。我の奢りだ」

「そういう事じゃねぇよ! なんで居酒屋なんだよ!」

 

燈哉がジト目で酒呑童子を睨む。だが、それも仕方のない話だ。つい先日、自分達と戦ったレジェスターが何を企んでいるのかと思えば、まさか居酒屋とは思わないだろう。

 

「大人しくするとは言ったが、居酒屋に通わないとは言ってないぞ」

「いや……そうだけどさぁ……」

「どうせじゃから、この街の酒場を制覇するのも悪くないやもしれんのう」

 

ニヤリと笑みを浮かべる酒呑童子。完全に乗り気の様子である。その時、座敷の戸が開き、童髪の少年が入ってくる。

 

「遅くなり申し訳ございません、棟梁」

 

そう言って勢い良く頭を下げる童髪の少年。

 

「あれ? その声、もしかして茨木童子か?」

 

童髪の少年の声を聞き、燈哉が驚きを見せる。

 

「神器! 何故、貴様がここに居る!?」

 

燈哉の声を聞いた途端、顔を上げると同時に茨木童子が叫ぶ。今にも掴みかからんとばかりに忌々しげな顔で燈哉を睨む。

 

「茨木」

 

それを遮るように酒呑童子が静かに言う。

 

「ここは店先である。静かにせよ」

 

それだけで茨木童子の顔色が変わる。

 

「……失礼致しました、棟梁」

 

深々と頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。

 

「何、構わん。こ奴らは、我が誘った。たまたま行合ったのでな」

 

燈哉達へ目を向けながら、酒呑童子が言う。

 

「そう言えば、他の奴らは?」

 

ふと思い出したように燈哉が問う。

確かに、この場には酒呑童子と茨木童子しかおらず、他の鬼大五将の姿は無い。

 

「……星熊と金熊は床に伏し、熊は二日酔いで苦しんでおる。そして、虎熊は明日は我が身と布団に包まり怯えている」

 

苦々しい表情で茨木童子が答える。

 

「一体、何が?」

「棟梁と取り決めてな。毎夜、鬼大五将が1人ずつ棟梁に同伴して酌をするのだが……」

 

言い淀む茨木童子。その後ろでは酒を注ぎつつ、笑顔を向ける酒呑童子。

 

((うわぁ……))

 

その光景を見た瞬間、燈哉と紗耶は大体の流れを察した。

 

「レジェスターと言えど、棟梁に付添えば、すぐに限界は来ると云うものよ。毎夜毎夜一人ずつ犠牲になっていき、とうとう俺様の番になったのだ」

「そ、そうなのか……」

 

茨木童子の言葉を受け、引きつった笑いを浮かべる燈哉。

 

「そう緊張せずとも構わん。好きに呑むが良い」

 

そう言いながら、メニュー表を渡してくる酒呑童子。だが、そんな言葉に対し、燈哉が手で制する。

 

「あー。それなんだけどよ。俺達未成年だから、まだお酒は飲めないんだ」

「……ふむ。そうか、ならば仕方あるまい」

 

酒呑童子が心底残念そうに肩を落とす。

その様子から本気で落胆しているのがよく分かる。

 

「あのー。棟梁。俺は飲まなきゃだめですよね」

 

茨木童子が恐る恐る尋ねる。

 

「当たり前であろう。お前は未成年では無いのだから」

「ですよねー……」

 

深いため息を吐く茨木童子を見て、燈哉と紗耶は同情を禁じ得なかった。

 

「あの」

 

ふと気になっていた事があって、紗耶が口を開く。

 

「何だ、娘よ」

「その……あなたは酒呑童子なんですよね?」

「いかにも。それがどうかしたのか?」

 

不思議そうな顔で酒呑童子が首を傾げる。

 

「大江山の鬼退治の話です。あのお話では、酒呑童子は源頼光の手で退治されているんです。でも……」

「ああ、そういう事か」

 

紗耶の質問の意図を理解した酒呑童子が小さく笑う。

 

「あなたはここにいます。それはつまりあの伝承は偽りと言うことですか?」

「いいや、違うぞ」

 

酒呑童子がキッパリと否定する。

 

「我は、源頼光の手によって討伐された。これは間違いない事実である」

 

酒呑童子はお猪口を口に運び、一旦区切る。

 

「だが、レジェスターというのは消滅の後に、元となったレジェスタートロフィーが落ちる」

「じゃあ、もしかして……」

 

燈哉がその答えにたどり着く。

 

「そのトロフィーは永い年月を経て人から人へと渡り、やがて我の元へとたどり着いた」

 

お猪口を机に置き、酒呑童子が続ける。

 

「詰まる所、我は二代目酒呑童子とでも言うべきであろうな」

 

酒呑童子が愉快そうに笑みを浮かべる。

 

「成る程……。あの、教えてくれてありがとうございました。」

 

紗耶がペコリと頭を下げる。

 

「構わぬ」

 

そう言って、酒呑童子はお猪口に酒を注ぐ。

 

「てことはさ……。レジェスターは元は人間だった…って事でいいんだ……よな?」

 

神妙な顔つきで燈哉が言う。紗耶が燈哉を見る。その言葉の言わんとする意味を紗耶も理解する。自分達が戦ったレジェスター達、それはかつて人間であった者。

それは、つまり。

 

「俺は今まで人を殺してたって事なのか……」

 

燈哉の顔に影がかかる。自分の手に目線を落とす。

 

「何を勘違いしている」

「え?」

 

酒呑童子の言葉に燈哉が驚く。

 

「確かに我らはかつて人間であった。だが、我らは自らの意思で人を辞めたのだ」

 

そう語る酒呑童子の目は見たことも無いほど真剣だ。その視線を受け、燈哉が言葉を失う。

 

「結果、レジェスターとなり、悠久の時を生きる事となった。その果てに、お前達とぶつかったのだ」

 

そこで、言葉を区切り、酒をあおる酒呑童子。

 

「お前達はお前達の信念の元に戦い、我らは我らの欲望の元に戦う。ただ、それだけの事よ」

「そして、我らを人と言う事は我らの侮辱に等しい

。それだけは肝に銘じておくがいい」

 

静かに言い放つ酒呑童子。

 

「酒呑…童子……」

燈哉がゆっくりと顔を上げ、目の前の美丈夫の名を呟くのだった。

 

 

 

 

燈哉達が酒呑童子と共に居酒屋に居た同時刻。卓人は流川の運転するリムジンに乗っていた。

 

「間もなく、自宅に到着いたします」

「……」

 

車内では卓人が窓の外を眺め、黄昏れていた。

 

「坊ちゃま?」

「! ……あぁ、ごめん。ぼんやりしていたよ。」

 

卓人は流川の呼びかけにハッとして、慌てて答える。

 

「お気になさっているのですか? 旦那様の言葉を」

「まあね……」

 

卓人は気まずそうに顔を逸らす。

そんな卓人の様子を見て、流川はくすりと笑う。

 

「焦る必要はございません。ゆっくりと向き合ってゆけば良いのです。そうすれば、おのずと答えにたどり着けるでしょう」

「……流川」

 

流川の一言に、卓人は少しだけ救われた気がした。

その時、微かに歌声が聞こえた。

 

(なんだ、これは?)

 

それは美しい女性の歌声だった。

 

「歌?」

 

突然聞こえてきた歌声に、卓人が困惑する。すると、車が急カーブ。流川がハンドルを切り、ドリフトするように曲がったのだ。

卓人は咄嵯に手すりを掴む。

 

「流川!?」

 

卓人が叫ぶ。だが、流川は全く反応しない。バックミラーから見えた表情は能面の如く無表情だった。まるで、何かに操られているようだ。

車は住宅街から、森の方へ進んでゆく。木々が生い茂り、辺り一面に鬱蒼とした雰囲気が広がっている。そんな中、歌声だけがはっきりと聞こえる。

 

「一体なんなんだ……」

 

しばらくして、車が止まり、その前に物体が二つ降り立つ。車のライトに照らされ、二体はその姿を現す。猛禽類の如く鉤爪がついた足。青い皮膚で覆われた女性的な胴体と翼の生えた両腕。尻尾は魚の様な尾びれが生えている。

その姿はギリシャ神話に伝わる怪物、セイレーン。上半身が人間で下半身が鳥の姿をしており、歌声によって船乗り達を惑わせ遭難させたとされる海の魔物だ。

 

「レジェスターか!?」

 

卓人がドアを開け、外に出る。

 

「あれ〜。これって、アタリじゃない?」

 

セイレーンレジェスターの一体が卓人を見て、無邪気に笑う。

 

「そうね。かなりのイケメン。これは緋眼妖華にいい借りが出来そう」

 

もう一体のセイレーンレジェスターもクスリと笑みを浮かべる。

 

(緋眼妖華?)

「何にせよ、僕が目的って事か」

 

卓人がカリバーンアームズトロフィーを取り出す。

 

<カリバーン!>

「変身」

 

トロフィーをベルトにセット。卓人の目の前に西洋剣が突き刺さる。

 

<夜明けの王!引き抜け、選定の剣!!>

 

剣から放たれた光に包まれ、卓人の姿が変わる。

 

<カリバーンソード!>

 

ラウンダーへと変身し、その複眼が闇夜に輝く。

 

「悪いけど、大人しく捕まる気は無いよ」

 

カリバーンを構え、ラウンダーが言う。

 

「貴方、仮面ライダーだったのね」

「ラッキー! トロフィーも献上すればもっと取り入りやすくなるね」

 

二体が笑いながら話す。

 

「僕の剣で世界を救う!」

 

ラウンダーが駆け出す。勢いよく剣を振り下ろす。セイレーンレジェスターは素早く旋回。空へと飛び上がり、攻撃を回避する。そして、両サイドから同時に歌声を響かせた。二つの音が共鳴し合い、一つの巨大な音となって襲いかかる。

 

「ぐっ……!?」

 

音の衝撃波を受け、身体の自由を奪われる。動きを止められた所へ、急降下してきたセイレーンレジェスター達が鋭い蹴りを入れる。

 

「ぐあっ!!」

 

ラウンダーが地面を転がる。

セイレーンレジェスター達はもう一度飛び上がり、ラウンダーをせせら笑う。

 

「うふふ。ねぇ、諦める気になった?」

「アタシ達がいい所に連れて行ってあげる」

 

セイレーンレジェスター達が優しく語りかける。

 

「断る! 僕はお前達に屈しない」

 

セイレーンレジェスターの言葉に対し、ラウンダーは力強く否定する。

 

「……そっか。じゃあ、仕方ないわ」

「ボロ雑巾にして連れて行こ〜」

 

セイレーンレジェスターが翼を大きく広げる。羽ばたきと共に強風が巻き起こり、木々が激しく揺れ動く。

 

「くっ! なんて風圧だ……」

 

暴風の中、何とか耐えるが、一歩踏み出すことさえ出来ない。

 

「沈みなさい!」

 

セイレーンレジェスター達が再び歌い始める。

歌声が強風に乗り、今まで以上の威力となってラウンダーに襲いかかる。

 

「ぐぁぁぁぁ!!」

 

強風に煽られ、ラウンダーが宙を舞う。視界に地面が迫るその直前、ラウンダーは仮面の奥で目をつむり、墜落の痛みに備える。

だが、覚悟していた衝撃は訪れなかった。目を開けると、そこにはかつて見た平原があったからだ。気がつけば自分は変身を解除している。

 

「大丈夫かい、聖葉卓人君?」

 

声の方へ振り返るとそこにはマーリンがいた。

 

「今、君の意識は私の魔法でこの世界にリンクしている。現実世界ではまだ、墜落の途中という訳さ」

 

そう言いながら、マーリンは懐から何かを取り出した。それはシルバーの台座の上に弓矢が突き刺さったアームズトロフィーだった。

 

「セイレーンレジェスター。流石に、カリバーンでは相性の悪い相手だね。」

 

マーリンが苦笑しながら言う。

 

「そんな時こそ私を頼ってほしい」

 

マーリンが優しく微笑み、手にしたアームズトロフィーを卓人に渡す。

 

「こんなふうに支援する事が出来るからね」

 

卓人は困惑しながらも受け取った。

 

「マー…リン」

「さぁて、新たなトロフィーを手に入れたんだ。思う存分逆転してくれたまえ」

 

そう言って、マーリンは右手で指を弾く。

瞬間、卓人の意識が遠のいていく。

 

「ハッ!?」

 

目を開けると墜落の途中。ラウンダーは性急に体勢を立て直し、足から地面に着地する。そして、ゆっくりと顔を上げる。

それを見て、セイレーンレジェスター達は何かを感じ取ったのか、警戒を強める。

ラウンダーが右手を見る。そこには、マーリンより渡されたアームズトロフィーが握られていた。

 

「反撃、開始だ」

 

トロフィー上部の弦を引っ張り、離す。すると、弦が引かれた反動により、トロフィーが起動する。

 

<フェイルノート!>

「変身」

 

ベルトにトロフィーをセット。横のスイッチを押し、トロフィー横のプレートが展開。ラウンダーの目の前に弓矢が舞い降りる。

 

<哀の騎士!撃ち抜け、無駄なしの弓!!>

 

弓矢より放たれた音符のエフェクトがラウンダーを包み、新たな装甲となって纏わりつく。

 

<フェイルノートアーチャー!>

 

羽飾りがついた仮面に光が灯る。

全身白と赤の軽装に身を包まれた仮面ライダーラウンダー。手を伸ばし琴に似た弓、音弓<フェイルノート>を握る。

 

「姿が変わった!?」

「……それが貴方の新しい力ってわけ?」

 

セイレーンレジェスター達が警戒して距離を取る。

 

「いくぞ」

 

フェイルノートを構え、弦を引き絞る。エネルギーが矢を形作り、光が収束していく。

 

「甘い!」

 

セイレーンレジェスターは歌声を放ち、強力な衝撃波がラウンダーを襲う。

 

「ハッ!!」

 

弦を離し、エネルギーの矢が放たれる。矢は衝撃波を打ち消し、まっすぐにセイレーンレジェスターへと飛ぶ。

 

「なっ!? きゃぁぁ!!」

 

不意を突かれたセイレーンレジェスターに命中。悲鳴と共に後方に吹き飛ばされる。

 

「こいつ!!」

 

もう一体のセイレーンレジェスターが空を飛び、ラウンダーの周囲を旋回。素早く動き回り、狙いをつけさせない様に立ち回る。一瞬でも気を緩めればたちまち鉤爪の餌食だ。だが、

 

「悪いけど、その動きは無意味だ」

<フェイルノート!>

<必殺神技!!>

 

ラウンダーはトロフィーをフェイルノートにセット。フェイルノートを構え、矢を放つ。

 

「この矢は必ず当たる」

 

ラウンダーの言葉に呼応するように、矢は不規則に動き回り、セイレーンレジェスターを追尾する。

 

「なによ、これぇ!」

 

セイレーンレジェスターが慌てて、スピードを速めるが矢はどこまでもついてくる。

そして、ついに追いついた矢はセイレーンレジェスターを貫いた。

 

「ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

セイレーンレジェスターが断末魔を上げ、消滅する。

 

「チィッ! 覚えてなさい!」

 

もう一体のセイレーンレジェスターが忌々しげに翼を広げ、飛び去る。

 

「逃さなさいよ」

 

そう言って、ラウンダーはフェイルノートを引き絞る。放たれた矢は枝分かれし、セイレーンレジェスターの翼を撃ち抜く。

 

「ぐあっ!」

 

地面に落ちたセイレーンレジェスターは翼を広げるが、傷が深く、飛ぶ事が出来ない。

 

「君には聞きたい事がある。大人しく捕まってもらおうか?」

 

その眉間にフェイルノートを突き付け、言い放つ。

 

「くっ……」

 

セイレーンレジェスターが忌々しげな表情で唇を噛むのだった。

 

 

 

 

 

「ありがとうございました~」

 

居酒屋の扉を開け、燈哉達は外へと出る。

空を見上げれば月明かりが夜道を照らしていた。

 

「まさか、本当に奢ってもらえるとは……」

「ふっ。見たか、これが棟梁の気前の良さだ」

 

まるで自分の事のように茨木童子が自慢気に言う。

奢りとは言うが、そのほとんどは酒呑童子の酒代だったのだが……。次々と開けられる酒の数に燈哉達もドン引きであった。後でこっそり聞いたのだが、あれでもまだセーブしている方だったらしく、燈哉達は恐怖した。

 

「中々に良い酒であった」

 

会計を終えた酒呑童子が満足気な表情で居酒屋から出てくる。

 

「なぁ、酒呑童子」

 

そんな酒呑童子に燈哉が声をかける。

 

「さっきのお前の言葉を聞いて思ったんだ。お前達はレジェスターで、俺がやった事は人殺しじゃないのかもしれない。けど、それでも命を奪った事実は変わらない」

 

真っ直ぐな瞳を向ける燈哉を見て、酒呑童子もまた真っ直ぐ見つめ返す。

 

「だから、その事実を背負っていく。ちゃんと、命を奪ったって事を心に刻んで、その上で誰かを守る為にお前達と戦う」

 

その言葉を聞き、酒呑童子は口元を緩めた。

 

「そうか。ますます気に入ったぞ、立脇 

燈哉よ」

 

おもむろに酒呑童子が人差し指を立てる。

 

「ならば、一つ忠告をしてやろう」

「忠告?」

 

酒呑童子はその鋭い眼光を燈哉に向ける。

 

「この街を縄張りとするレジェスターについてだ」

 

その単語を聞いた瞬間、燈哉達の空気が変わった。

 

「その名はドラゴンレジェスター・ファブニール」

「ファブニール!?」

 

その名前を聞いて、紗耶が驚きの声を上げる。

 

「ファブニールって、あの北欧神話における最強の邪竜。世界で最も有名なドラゴン!」

 

その名は有名である。ゲームでも神話の中でも。

最強の名を冠するに相応しい存在であると言えるだろう。

 

「奴こそ最強と呼ぶに相応しい者であろう。その強さは我でも手を焼くほどの猛者だ」

「マジかよ!? そんなに……」

 

酒呑童子が嘘を言うとは思えない。燈哉は素直に驚く。

 

「戦い続けるならば、避けては通れん相手だ。せいぜい生き延びよ。その暁には我が引導を渡してやるゆえ」

 

そう言って、酒呑童子は踵を返し、歩き出す。後ろから茨木童子が付いていく。

その背に燈哉は声をかける。

 

「負けねぇよ! そいつにも、お前にも! 勝つのは俺達だ!!」

 

そう言って、燈哉達は酒呑童子に背を向け、逆方向へ歩き出す。決意の表情を浮かべながら。

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