私の名前は静香。
七星静香。
この世界ではサイレント・セブンスターの名でとおっている。
来たる日のために時間を引き延ばしている。
いわゆる
最近は健康的な体を維持するために彼女、シヴァリルに指導を受けている。
腹筋なんかもうっすら見えてきてちょっと嬉しかったりする。
私は今非常にお腹が空いている。
時間を止めると止まっていた分だけ空腹になるらしい。
控えめに言って死にそうだ。
とそんな事を思っていたら部屋からいいにおいが漂ってくる。
毎回来てくれるわけではないけど、ここ数日は連続記録更新中だ。
「こんにちは、ナナホシ」
「ええ、こんにちは」
今日はシルフィエットだ。
最近ルーデウスは来ていない。
忘れられたわけではない。
もうこの世にはいないのだ。
彼の料理を食べれなくなると思うと顔が歪みそうになる。
決して寂しいわけじゃない。
もう日本食のバラエティが増えないと思っただけだ。
寂しいわけじゃない。
コトッ
と、感傷に浸っている間にご飯はできたらしい。
香ばしい匂いがする。
いつだか嗅いだ懐かしい匂いだ。
焼きおにぎり。
お腹の中が早くものを入れてくれと言わんばかりに騒いでいる……気がする
口の中は唾液でいっぱいだ。
1秒でも早く食べたい。
「いただきます」
「うん」
かぷり。
美味しい。
醤油の味がする。
日本を感じる。
おこげがいい感じだ。
「スープもあるけど、どう?」
「いただくわ」
お味噌汁も用意してくれたらしい。
大好きな味噌の匂いがする。
この部屋だけ元の世界に戻ったみたいだ。
木のお椀にとくとく、とお味噌汁がそそがれていく。
ほぼ毎回味噌汁を持ってきてくれる。
私の好きなものがバレたみたいでちょっと恥ずかしい。
「どう…かな?」
不安げに感想を聞いてくる彼女は可愛い。
もう八十を過ぎようとしているのに若さを感じる。
長耳族の血が濃い彼女は特徴がよく出ているらしい。
「美味しいわ
私の故郷を思い出す優しい味よ」
「よかったぁ!」
本当に美味しい。
体の芯まで温まる。
おにぎりはまだまだある。
もう一個いただこう。
カリッとする。
梅だ。
空腹具合はマシになった筈なのに唾液が止まらない。
酸っぱい。
けどこの酸味がクセになる。
いい感じにお米が溶けて噛みやすい。
ごくん
唾液でとろとろしていて喉越しが気持ちいい。
指先に米粒が付いている。
お行儀は良くないけれどここにいるのはシルフィエットと私だけだ。
問題ない。
ぺろり
そのまま指を咥えた。
指がしょっぱい。
ベタつく。
ナプキンで指を拭く。
次はやめておこう。
「あのねボク、ルディが戦ってる時いっつも家にいたんだ。」
彼女はたまに独り言と言いながら何かを話し出す。
今日は何を聞かされるのだろうか。
九割型惚気だ。
「ルディはボロボロになって帰ってくるのにボクはぬくぬく家で子育てしてるだけで。
たしかに子育ては難しいけど腕がなくなったりはしないんだ。
傷だらけになってるルディを見てると自分が役立たずに見えて。
ルディはルディでボクを家に置いとこうとするし。」
ん、珍しく惚気じゃない。
いつもみたいに甘々じゃなさそうだ。
あたりを引いたかもしれない。
「エリスは隣で戦っているのに。
ロキシーは旅についていってるのに。
なんでボクだけって。
けど今になって思うんだ。
ルディは怖がりだから、ボクが傷つくのがすごく嫌なんだって。
ブエナ村でいじめられた時を思い出すんじゃないかって、気づかってくれたんだなって。
わかってはいたけど改めて思うと愛されてるんだなって。
嬉しくなっちゃて。」
フェイントはひどいと思う。
重い話だと思って構えて損した。
それはそれで疲れるけど。
「思うんだ。
あの時のルディに助けてもらってよかったって。
ルディと結婚できてよかったって。
最初はボクだけを愛してくれるなんて言ってたけど結局二人増えて。
けど毎日が楽しくなって。
当たり前だったけど再確認したよ。
ボクはルディが大好きだって、愛してるって。
……って何話してんだろボク」
顔を真っ赤にしてるシルフィエット可愛い。
やっぱりこの世界は美形が多い。
遺伝子が優秀すぎると思う。
「懐かしい匂いがすると思ったら
我の分もあろうな?」
そんな事を思っていると偉そうな顔をした男が入ってきた。
後ろには翼の生えている女もいる。
ペルギウス様とシヴァリルだ。
「もちろんありますよ。
冷めないうちにお召し上がりください。」
「うむ」
偉そうだ。
実に偉そうだ。
「懐かしいな。
奴がナナホシに食事を持ってきた当初からメニューに入っていたと記憶している。」
「ルディもこのおにぎりを気に入ってましたから」
「奴もこの世を去って7年か…
初めて見た時は驚いたぞ。
魔力が多すぎて転移させるのに一苦労だ。」
「ルディの魔力量は底なしですから」
ペルギウスとシルフィエットが話をしているけど私は参加しない。
単にめんどくさいってのもあるけど。
私は思い出に浸っていたかった。
初めて見た時はまだ体が小さくて、次会った時は転生者だって明かされて、転移魔術の研究も手伝ってくれて。
私が死にそうになった時には必死に解決法を探してくれて。
私のためにご飯も作ってくれた。
相談に乗ってくれるだけで十分お礼になっていると言ってくれたけど。
それでも恩を返しきれてないと思う。
彼は過去にとどまって、私は未来に行って。
もう会えなくて。
またどこか死後の世界でも会えたらもう一度お礼を言っておこう。
そう心に決めながら私は彼が託してくれた想いを胸に、おにぎりを飲み込んだ。