ちょっとだけ改造オーバーロード?   作:エヌット

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途中まで書いたのを書き直したのもあって、予定より一週間以上遅れた投稿となりました。


ちょっとだけ色々改造?

 ──おかしい。

 

 人類が誕生する以前の地球の覇者であった恐竜。その頂点捕食者と言われる暴君竜(ティラノサウルス)と化したゼロが、轟音を立てながら尻尾を振って周囲を薙ぎ払う。

 アインズは漆黒の全身鎧(フルプレート)であることを感じさせない軽快な動きで尻尾の上を跳び、すれ違いざまにグレートソードで尻尾に斬りつける。

 

 ──おかしい。

 

 斬りつけられた尻尾が受けた傷は軽微なものだ。その傷もすぐに塞がってしまう事を考えると、暴君竜(ティラノサウルス)と化したゼロには自動回復の特殊技能(スキル)も備わっているようだ。

 上空からナーベラルとニニャの魔法による攻撃がゼロに降り注ぐが、第五位階という現地の存在からすれば英雄級の魔法詠唱者(マジック・キャスター)が行使できる高位魔法であっても、ゼロには致命傷となっていない。

 

 ──おかしい。

 

 ブレインとクライムはゼロの足元に張り付くように立ちまわりながら、ゼロの足に繰り返し斬りつける。

 ゼロが二人を中々引きはがせないのは、身体が全長十m以上という巨体に変貌した弊害で小回りが利かなくなってしまっているからだ。加えて、ティラが影渡りの術で二人を援護する事で、ゼロにとって攻撃の死角ともいえる密接距離を維持し続ける。

 

 ──おかしい。何故まだ戦っている? 何故まだ誰も死んでいない? 

 

 ゼロは困惑していた。

 直接戦って感じ取ったブレインの実力であれば、この姿であれば一方的に葬る事ができるはずなのだ。他のアダマンタイト級冒険者やイジャニーニャの女頭領も、自分にとっては脅威ではなかったはず。あの第三王女の御付きの騎士に至っては更に格下だ。

 数の差や連携の有無を考慮しても、既に自分が全滅させていてもおかしくないはずなのだ。

 それにも関わらず、未だに誰も始末できていない現実に、ゼロは苛立ちを募らせる。

 

「……これだけやってもまだ健在とは。レベルは……凡そ七十。自動再生の特殊技能(スキル)等も加味すると、難度換算では二百三十辺りと言ったところか?」

 

 アインズの呟きに、ゼロは僅かな驚愕と共に視線を向ける。

 アインズが呟いたゼロの推定難度は的中しており、十分にも満たない戦いの中で言い当てた観察眼を脅威と感じたからだ。

 

「ふむ、その反応を見るに大きくは外していないようだな」

「それがどうした。貴様らの攻撃は俺には通じず、俺の攻撃に対して逃げてばかり。例え俺の実力がバレたとしても、お前たちに対抗手段がなければ意味はない」

「それはどうかな? お前の手の内は凡そ読み切った。様子見は終わりだ」

 

 アインズがそう言うと、二本のグレートソードを背中に戻し、何処からともなく二つの武器を取り出す。

 それは穂の部分がまるで炎が渦巻いたような深紅の槍と、奇妙な形をした氷の刃だった。

 

「行くぞ、ゼロ」

「来い、モモン!」

 

 アインズとゼロが同時に駆け出す。

 ゼロがその獰猛な牙が生え揃った咢でアインズを噛み砕きにかかる。アインズはそれを躱さずに片足でゼロの下顎を踏みつけ、上顎に深紅の槍を上向きに突き立てて応戦する。

 しかし、戦っているのは二人だけではない。

 ブレインとクライムが足元でゼロの足を集中的に攻撃し、ナーベラルとニニャが空中からアインズを援護する。

 そのまま噛み砕こうとするゼロと顎を引き裂きにかかるアインズの力がほぼ互角なのは、アインズがナーベラルとニニャの支援に加えてある方法(・・・・)で身体能力を強化しているからだ。

 しかしゼロもこのまま黙っているわけがない。アインズと力のせめぎ合いをしている咢の奥、口内に眩い光が収束していく。

 それに気が付いたアインズが深紅の槍の力を解放し、豪炎がゼロの上顎を焦がすが、ゼロはそれを意にも介さずその光を解き放った。

 ゼロが放ったのは気弾だ。人間の姿の時は拳から放つ気弾だが、暴君竜(ティラノサウルス)の姿の時には口から放たれる。

 この時に放てる気弾は着弾時に爆発する球弾、大地を舐めるように燃やし尽くす吐息(ブレス)、そして高い貫通力を誇る光線(ビーム)の三種類。

 今までゼロがこの奥の手を使わなかったのは、放つために若干の溜めが必要であり、ただ放つだけでは躱されて対策されてしまうと考えたからだ。加えて、暴君竜(ティラノサウルス)の姿の時の気弾は人間の時よりも消耗が大きく、連発できないという事情もある。

 故にこそ、あえてアインズの挑発に乗って回避不可能な状況に持ち込み、必殺の一撃を至近距離でたたき込む。

 ゼロはこの時、勝利を確信していた。この技を受けて生き延びたものはたった一人、十年近く前に戦った漆黒聖典の隊員の一人だけだ。その隊員もその一撃で満身創痍の瀕死に陥り、成す術なくゼロに敗れた。

 だからこそ──、

 

「ああ。これはいささか驚いたな。まさか恐竜が光線(ビーム)を撃って来るとは」

「な!!?」

 

 ──、至近距離からの気弾を受けてなお、平然としているアインズの姿を見たゼロは動揺した。

 アインズが身に纏っている漆黒の全身鎧(フルプレート)は気弾によって損傷していた。特に兜は一部が砕け散り、その顔が露わになっている。そう、アインズの死の支配者(オーバーロード)としての肉のない頭蓋がだ。

 

「モモン様は、アンデッドだったのですか!?」

「ああ、事情は後で説明する。……たっちさん(・・・・・)とも色々話がしたいですしね」

 

 クライムは自分の中にいるたっち・みーの名前を挙げたアインズを見て、彼が何者なのかを大まかに察した。

 彼は恐らく、たっち・みーの知り合いだ。それも、ティラの中にいる弐式炎雷のように親しい間柄の。ならばアンデッドであっても悪戯に危害を加えるような悪人ではないだろう。

 ほんの少しの間だけ、クライムはたっち。みーと入れ替わる。アインズに言葉をかけるほんの少しの間だけ。

 

「分かりました。後でちゃんと話を聞かせてくださいね、モモンガさん(・・・・・・)

「っ! ええ!」

 

 アインズはクライムがユグドラシルでの名前で自分を呼んだ事に、セバスの情報通りクライムにたっち・みーが憑依している事を実感する。

 

「さて、予定もできた事だ。終わらせるとしようか。氷結爆散(アイシーバースト)!」

 

 アインズは気弾の第二射を撃とうとするゼロの口内に氷の刃を突っ込むと、武器から極寒の冷気の奔流が吹きあがる。

 

「グガ! ガガァッ!! アガアアァァアァァ!!!」

 

 恐竜系異形種の強みはその圧倒的な身体能力だが、致命的な弱点がある。それは冷気に対する著しい脆弱性。

 そしてアインズが使った氷の刃の名は凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)・改参型。この世界に来てからの弐か月の間にトブの大森林にある湖に住まう蜥蜴人(リザードマン)の部族の一つが所有する秘宝、凍牙の苦痛(フロスト・ペイン)を参考にして、そこで再会したギルドメンバーである、あまのまひとつが憑依した鍛冶用の鎚を振るうドワーフがナザリックの鍛冶長と協力して作り上げた試作品である。

 ゼロの肉体が内側から急速に冷却され、凍結し始める。強固だった外皮も凍結した事でしなやかさを失って脆くなり、クライムとブレインの集中攻撃に耐えられなくなったゼロの両足が砕け、横に倒れ込む。

 巨体を支えていた足が破壊されて倒れ込んだことで、凍結によって脆くなった肉体は地響きを立てながら頭部を残して砕け散った。

 

「ガ……アガ、ば……馬鹿な。この、俺が」

「ゼロよ、お前に言わなければならない事がある」

 

 薄れゆく意識の中、ゼロはアインズを睨みつけながら言葉を待つ。

 

「俺の本職は……魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。先ほどまでは、《完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)》で戦士化して戦っていたのだ。だから、本気では戦っていたが、全力では戦っていなかったのだよ」

 

 それは、ゼロにとって絶望の言葉であった。魔法詠唱者(マジック・キャスター)に肉弾戦で拮抗し、その事に最期の時まで気が付くことが出来なかった屈辱。

 心が折れ、打ちひしがれたゼロは、そのまま動かなくなった。

 

 

 ────────────────────

 

 

 ゼロの討伐を確認したアインズは、損壊した全身鎧(フルプレート)を脱ぎ捨てながら《完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)》を解除し、上位道具作成(クリエイト・グレーター・アイテム)》で見た目は寸分違わない鎧を身に纏う。アインズの身支度が整うのを待って、クライムは言葉を掛ける。

 

「ありがとうございます、モモン様。漆黒の皆様が六腕を全員討伐してくださったおかげで、八本指の各拠点を制圧する私たちの作戦が滞りなく進める事ができそうです」

「いえ、私達は依頼人──いや、たっちさんもいる事だし取り繕わなくてもいいか。俺達は個人的な理由で八本指を潰したかったので、礼には及びません」

「個人的な理由、ですか?」

『ええ。この()の姉であり、セバスの婚約者でもあるツアレニーニャ・ベイロンを八本指の連中が性懲りもなく攫おうとしましてね。このままだといつまでも付きまとわれるので、二度とこんな事ができないようにと叩いておく必要があったんですよ』

「なるほど」

 

 横から仮面をかぶったニニャ──正確には仮面の姿を取っているウルベルトが補足した説明を聞いて、クライムは頷く。

 

「そういや、セバスとツアレが夫婦になったら、ウルベルトとたっちの奴は親戚関係になるんだよな?」

「「……あっ」」

 

 顕現し姿を現した武人建御雷が零した言葉に、仮面のウルベルトと思わず表に出たたっち・みーが同時に顔を見合わせる。

 

『二人が結ばれるのは大いに結構ですけれども、たっちさんと親戚になるのは……』

「それはどういう意味ですか、ウルベルトさん?」

『どういう意味も何も、私とたっちさんですよ? 顔を合わせれば意見の違いでぶつかり合っていた二人が親戚関係になるとか、何処のラノベ展開ですか』

「それはそうですがね……これを機に互いに歩み寄ってみるのも良いのではないのですか? あの一件で多少は解りましたが、私とあなたは目指していた方向そのものは似通っています。方法論や矜持に大きな隔たりがあったので現実世界(リアル)ではぶつかり合い、最期は互いにあのような事になってしまいましたが……」

 

 また口論になるのかと仲裁の準備をしようとしていたアインズだったが、たっち・みーの予想外の言葉に面喰いつつも安堵する。

 

「あのウルベルトとたっち・みーが喧嘩しない、だと!?」

「ああ、これは驚きだぞ」

『ちょっと?』「武人建御雷さん? 弐式炎雷さん?」

 

 武人建御雷といつの間にか姿を現した弐式炎雷が信じられない光景を前に驚愕する。

 ギルドとしてのアインズ・ウール・ゴウンにおいて、ウルベルト・アレイン・オードルとたっち・みーの仲の悪さは有名であり、些細な意見の違いから口喧嘩に発展する事はよくあったので、ウルベルトと主義主張や意見のすり合わせを行おうとするたっち・みーの姿勢はかなり新鮮なのだ。

 なお、弐式炎雷の両脇には、ティラと歓喜の表情を表に出すナーベラルが彼と腕組みをしている。

 

(弐式炎雷さん……リア充爆発しろ)

 

 アインズは心の中で童貞の僻みを吐露しながら、話を戻す音頭を取る。

 

「そういえば、クライムさんは八本指の各拠点の制圧作戦と言っていましたが、何処を制圧する予定になっているのですか? 場所によってはブッキングしないように調整する必要が出てきますけれども」

「あっ、はい。此方が制圧する予定の拠点はここを含めてこの八か所になります」

 

 アインズが取り出した地図を広げ、クライムに場所を尋ねる。クライムが指さした箇所は、先に地図に記された×マークとはすべて異なっていた。

 

「ふむ……幸い他にブッキングはなさそうですね」

「はい。それにしても……王都内にこれだけ八本指の拠点があるだなんて」

「八つも部門がある組織がそれぞれ一つずつしか拠点を持たないなって、考えにくいですからね。俺達は警備部門の拠点を集中的に狙ったので、部門の長を倒したことも含めて警備部門は再起不能と見て良いでしょう。そうなると、予想よりも多くの拠点が同時に制圧される事になるから、ひょっとすると、念のために後詰をお願いしたあっちの方の網に引っかかるのも思っているよりも出てきそうだな」

「後詰……ですか?」

「ええ。王国にとっては少々好ましくないかもしれませんが、俺達は帝国にも縁ができていまして。個人的な伝手と見返りで今回の八本指への報復に協力してもらっているんですよ」

 

 

 ────────────────────

 

 

 王都における八本指の拠点が摘発されている頃、地下水路を走る複数の人影があった。それは八本指の麻薬部門の長を務めるヒルマと彼女の護衛達だ。

 麻薬部門の拠点の一つで寝ていたものの自身の第六感が危険を告げて目を覚まし、自身とごく一部の物だけが知る隠し部屋を通して換金性の高い貴金属類やマジックアイテム、そして麻薬を持って地下水路へと逃走していたのだ。

 迷路のように張り巡らされている地下水路は普通ならば迷う可能性が非常に高いが、ヒルマは地下水路から王都内の別の拠点へと脱出する幾つかのルートを頭に叩き込んでいるため、迷う事はない。

 動くべき時に動かないものは、餌として喰われる。それが彼女の信念であり、それを守ってきたからこそ、高級娼婦からここまでの地位に上り詰められたのだ。

 護衛の一人を数m程前に先行させながら、ヒルマは地下水路の通路を淀みなく走る。広大で複雑な地下水路まで追手を差し向ける余裕は、今回の襲撃者たちには無いようだ。

 これならば拠点を一つ失うが逃げ切る事ができる。そう考えていたヒルマだったが、先行させていた護衛が通路を左に曲がった直後に鈍い音とともに弾かれるように反対方向の壁に叩きつけられて水路へと沈んでくのを目撃する。

 

「此処より先は、行き止まりだ」

 

 通路の曲がり角から姿を現したのは、両腕にそれぞれ大型の盾を構えた騎士であった。

 その独特な装備と強者としての威圧感が、ヒルマにその人物が何者なのかの答えを導き出させる。

 

「あ、あんたは帝国四騎士の”不動”ナザミ・エミック! なんでこんな所に!?」

「そんな事、これから捕まる貴方達には関係ないでしょ? 帝国まで逃げた末に捕まった(・・・・・・・・・・・・・)事になる貴方には」

 

 ナザミの後ろからさらに四人の男女が姿を現す。

 一人は身長百七十センチ程の青年だ。金髪碧眼で美形ではない容貌の、二本のショートソードを構えている戦士。

 もう一人は目つきの悪い森妖精(エルフ)──いや、特徴的な尖った耳の長さが森妖精(エルフ)よりも幾分か短いので、恐らくは半森妖精(ハーフエルフ)だろう。女性特有の胸や尻のまろやかさを一切感じさせないほっそりとした身体をしており、ぴっちりとした革鎧を着て弓矢を番えている。

 三人目は兜を外した全身鎧(フルプレート)を纏い、その上から聖印の描かれたサーコートを着ている三十代ぐらいの男。

 そして残る一人が、痩せぎすの少女だ。艶やかな金髪は肩口辺りでざっくりと切られ、目鼻立ちは非常に整っている。人形のような見気質差こそあるが、気品がある雰囲気の美を持っている。手に握る身長ほどの長さの金属の棒には、無数の文字とも記号ともしれないような物が彫り込まれており、着ているローブも含めて何故か冒涜的な気配を漂わせていた。

 いずれも冒険者のプレートは身に着けておらず、恐らくはワーカーの類だろう。

 

「地下水路に張り巡らせた探査魔法を組み込んだマジックアイテムが反応したからここまで転移したけれども、事前に情報として渡されていた麻薬部門の長と特徴が一致している。大当たり」

「へえ、大金星じゃない依頼人も謝礼をたっぷり弾んでくれるでしょ?」

 

 二人の女性の言葉に、ナザミは頷く。

 

「無論、八本指の中でも麻薬部門は最も周辺諸国への被害が大きい部門だ。陛下もお喜びになるだろう」

「薬物は確かに有効に使えば素晴らしいものですが、弱者を食い物にする商品とする輩には、不快感しかありませんからね。国は違えども此処で掃除しておきましょうか」

「よし。それじゃあ、”フォーサイト”と”不動”殿との共同作戦を始めるとしますか」

 

 ヒルマは焦る頭脳をどうにか落ち着かせながらこの状況をどうやって打破するかを必死に考える。

 ”不動”のみならば、護衛に相手させている数秒の内に自身の肉体に彫り込んでいる毒蛇の刺青(タトゥー・オブ・ヴァイパー)の強力な神経毒で仕留められる可能性があった。

 ワーカーチームだけならばこの身体による色仕掛けで仲違いさせ、その隙に逃げ出すだけの自信があった。

 しかし、この両者が揃っている事で、どちらの対抗策も潰されてしまっている。

 帝国の今代皇帝である鮮血帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは優秀な人材は平民であっても取り立てる度量があるが、帝国に害をなす相手に対しては一切容赦しない冷酷さを備えている。

 ヒルマ・シュグネウスは元高級娼婦であり優秀な薬師でもある。そこだけであれば、取り入り方次第では生き延びで帝国でのし上がる事もできただろう。しかし、麻薬部門の長として様々な麻薬を周辺諸国にもばらまいてきた事実が、此処で致命的な足枷となる。

 あのジルクニフが自分を生かしておくなどという甘い手を取るはずがないのだ。

 抵抗すれば待っているのは死。抵抗せずにいてもかなりの確率で処刑。

 動くべき時に動かないものは、餌として喰われる。今まで彼女を助けてきたこの信念が、巡り巡って彼女の足を掴む。要するに、ヒルマは精力的に動き過ぎたのだ。

 数日後、帝国領の王国との国境沿いの都市に潜伏していた(・・・・・・)ヒルマ・シュグネウスが帝国騎士団によって捕縛されたという一報が王国に伝わる事となるのは、別の話である。

 

 

 ────────────────────

 

 

 王国での八本指制圧作戦が実行に移された翌日。

 バハルス帝国の帝城にある皇帝執務室。普段は少ない人数しかいないこの部屋には今、バハルス帝国皇帝たるジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだけでなく、彼から深く信頼されている臣下達や帝国四騎士の一人である”雷光”バジウッド・ペシュメル、帝国主席魔術師であるフールーダ・パラダインやその直弟子達等、多くの者たちがいた。

 彼らはみな好きな場所に腰掛け、今後の帝国の方針についての討論を続けてきた。白熱した会議の様子はその周りに散らばった紙が物語っている。

 その中で、フールーダがふと虚空を見つめ、何か二、三言ほど独り言を呟く。そして、ジルクニフに声をかける。

 

「陛下、アルシェから伝言(メッセージ)による報告が挙がりましたぞ。八本指の麻薬部門長を捕らえたとの事。これより詳細を報告させるので魔法の使用許可を」

「分かった。通信魔法の使用を許可する」

「それではアルシェよ、合わせるのだぞ。《双方向の鏡像(デュアル・モニター)》」

 

 ジルクニフから許可を得たフールーダは席を立つと、魔法を発動する。

 すると、ジルクニフ達の前に投影映像が現れた。投影映像に映っているのは二人、痩せぎすの少女──アルシェと帝国四騎士の一人であるナザミ・エミックだ。

 

『陛下、この度は私の我儘を聞いていただき、ありがとうございます』

「よい。カッツェ平野での一件で彼らには、お前とレイナースが助けられている。それに、帝国にとっても八本指への対処は重要な問題であり、今回の彼らへの協力は帝国にも利する内容だ。協力要請を無下に扱う理由などあるまい。それにしても、地下水路に網を張って掛かったのが麻薬部門の長だったとはな。たしか彼らが襲撃した拠点はいずれも警備部門の拠点であったはず」

『それについては、私が説明させていただきます』

 

 ジルクニフの疑問に答えるのはアルシェだ。

 

『今回の任務と同日の夜、王国でも八本指の各拠点を同時に制圧する作戦が実行されました。その結果、麻薬部門の長は地下水路に逃れ、私達の探査に掛かった次第でございます。捕獲した麻薬部門の長をご確認になられますか?』

「ふむ……。いや、それには及ばない。フールーダが推薦したワーカーチーム”フォーサイト”を信用しよう。約束通り、報酬を振り込んでおこう。それと、正式な報告が上がり次第、八本指の長の一人を捕縛した追加報酬も約束する」

『……! 感謝いたします、陛下』

「陛下、そろそろ……。これ以上は王国はともかく法国に気取られる恐れが」

「うむ、そうだな。それでは出来る限り目立たないように注意して、捕縛した者たちを連れて帝国領まで帰還する様に」

『畏まりました』

 

 投影映像が消えると共に、ジルクニフは席を立つ。それに合わせるように控えていたメイドたちが厚手のカーテンを捲り、半透明のガラスの向こうの光景──中庭のど真ん中に鎮座する存在へと声をかける。

 

ヘジンマール(・・・・・・)よ。君が提案した、王国の地下水路の構造を解析し、部隊を配置する案が成功したぞ。おかげで王国だけでなく帝国にも及んでいる犯罪組織の部門長を捕縛しただけでなく、王都に兵を送り込む際の侵攻経路も確立できた」

 

 ジルクニフが声を掛けた存在は、一体のドラゴンだ。

 種族は霜の竜(フロスト・ドラゴン)

 霜の竜(フロスト・ドラゴン)は本来はリ・エスティーゼ王国の北方に存在するアゼルリシア山脈の北寄りに生息していて、通常のドラゴンよりもほっそりとした蛇の様な肢体をしているが、ヘジンマールと呼ばれた霜の竜(フロスト・ドラゴン)は違う。はっきり言えばデブッているのだ。

 さらにヘジンマールは鼻の先に眼鏡を掛けており、その瞳には叡智の輝きが宿っている。

 

「おお。それは良かったです、陛下。先生(・・)からの教えが役に立って何よりでございます」

「君と先生の軍略にはよく助けられている。……思えば、君たちとは私が皇帝に即位して間もないころからの付き合いだな」

「そうでございますね。思えば、見識を広めるために故郷を旅立ってもう十年ですか。向かった方角がこの国の方で本当に幸いでした」

『ヘジンマール君は強さを重んじるドラゴン種でありながら、知識欲が貪欲ですからね。私としても教えた事を素直にどんどん身に着けてくれる教え子で嬉しい限りですよ。それはそれとして、ちゃんと運動して痩せるべきではありますがね』

 

 ヘジンマールの周囲を見てみると、一冊の本が宙をふよふよと宙を浮いている。その本こそ、ヘジンマールが先生と呼ぶ自我持つ魔本(インテリジェンスアイテム)である。

 元々は霜の竜(フロスト・ドラゴン)の一族が住み着いていたドワーフの王城にあった、一冊の本であった。

 二百年以上昔から続く伝承では、選ばれた物のみがその内容を読むことができる、意思持つ魔本と言われており、ヘジンマールとジルクニフこそが、魔本に選ばれた智者とされている。

 この世界には、元々この世界に住まう存在の他に、数種類の異世界からの来訪者が存在する。

 一つ目は六大神や八欲王の様な神々やそれに匹敵する力を持つ存在として降臨するパターン。

 二つ目は、この世界に住まう存在に憑依する降臨者(フォーリナー)

 そして三つ目が、様々な道具に憑依し、適合した相手が使う事でその真価を発揮する共鳴器(リゾネーター)

 ヘジンマールが所有する魔本は、帝国が確認している共鳴器(リゾネーター)の一つであり、その名は”ぷにっと萌え”と呼ばれていた。




※《双方向の鏡像(デュアル・モニター)
位階:第五位階魔法
分類:情報系魔法
特徴:同じ魔法を保有する者同士が魔法的に接続された状態で同時に発動する事で、距離や障害物を無視して互いの投影映像をリアルタイムで映し出す魔法。
   第八位階魔法である《次元の目(ブレイナーズ・アイ)》と比較すると消費魔力が少なく習得難易度も相対的に易しい利点があるが、複数名が使用できることが前提となっている欠点がある。
   魔法的な接続を《伝言(メッセージ)》にする事で、音声会話も可能。
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