それらの多くは生み出された段階で魂を吹き込まれたり、長い年月を経てそれまで使ってきた者たちの想いの残滓から生まれた魂が宿る事で人格が形作られていく。
しかし、稀に異世界の魂が道具に宿る事があり、そういった道具は多くが神話や伝説で語られる超級の性能を発揮する。
帝国で有名な例を挙げるならば、鮮血帝ジルクニフが担い手となっている魔本であろう。
彼の魔本に選ばれたことによって、元々稀代の名君であった彼は、後世で戦術・戦略家としても大いに名を遺す事となったのだから。
それは、リ・エスティーゼ王国王都における八本指との戦いの一か月前に遡る。
アンデッドが蔓延る薄霧に覆われた呪われた地──カッツェ平野の北にある街道沿いの街であるヴァディス自由都市。
この街はアンデッド多発地帯のカッツェ平野対策のために、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国が共同で出資して作った街で、アンデッドを掃討する冒険者や帝国の騎士たちを支援している。
都市内の帝国騎士が駐屯する施設内における工房に、帝国四騎士の一人、”不動”ナザミ・エミックが訪れていた。
「できたか」
「ああ、どうにかな」
ナザミに声をかけられた職人が指をさして見せたのは、二つの盾であった。どちらも大柄な大人でも身体の半分以上を覆い隠せてしまうほどに大きく、一方は緻密で華美な装飾が施された盾。もう一方は装飾がほとんどない無骨な盾だ。
「装飾を施してある方はエネルギー攻撃に、そうじゃない方は物理攻撃に対して耐性が付与されている。それぞれ用途を特化させている分だけ効果は強力だが、適切に運用しないと活かしきれないから気を付けろよ」
「分かった。肝に銘じておく」
「それにしても……まさかアダマンタイトよりも硬い金属が持ち込まれるなんて思いもしなかったぞ。しかも俺の
「半年前に南方から北上してきた新種のモンスターが外骨格として纏っていた金属だ。フールーダ殿とヘジンマール殿がいなければ、討伐するまでに多くの犠牲が出ていただろう」
「となると、素材の安定した供給は無理かぁ……」
「此方としては、安定供給できるような頻度で来られても困るのだがな」
「まあ、そうだなぁ。今のままだとこれ一つ作るのにもつきっきりでも一か月近くかかるし、そうなると他の作業がストップしちまう。仮に素材があってもこの金属でできた武具を量産しようとしたら、日々のアンデッド討伐に必要な武具の作成や補修のリソースが足りなくなっちまうぞ。魔具槌持ちの師匠がいてくれれば、もっと楽なんだがねぇ。一体……今は何処ほっつき歩いているんだか」
職人はバハルス帝国を出国した師匠──意思持つ
バハルス帝国皇帝のジルクニフも彼を囲い込もうとしたが失敗し、悔しがっていた事をナザミは思い出し、苦笑する。
「お前も大変だな」
「そうなんだよ。しかもあれで腕はとびっきり良いから性質が悪い。おかげで、弟子だった俺に仕事がどんどん押し付けられて、暇がないったらありゃしない。それによぉ──」
ナザミはしばしの間、職人の愚痴を静かに聞き続ける。
「──。……おっと、もうこんな時間か。俺も溜まっている仕事に手を付けねえとな」
「此方も、もうそろそろカッツェ平野へ向かう時間か。お互い、一息ついたら酒場で何か飲むとしよう」
「そうだな」
二人は話を切り上げ、仕事の準備を始める。
ナザミに与えられた任務は、『カッツェ平野に出没するようになった正体不明のアンデッドの討伐』だ。
アンデッドは放置するとより強大なアンデッドを生み出す可能性が高まっていくという厄介な性質がある。
現在分かっている正体不明のアンデッドの情報は、
1,笑っているような仮面で顔を覆っていて、トレンチコートを着ている
2,指先が鋭利な刃物となっている
3,アンデッドらしからぬ高いテンションで笑いながら襲い掛かって来る
4,ミスリル級冒険者チームが、斥候一人を除いて全滅した
という事である。
危険なアンデッドとして有名な一体である
それは放置すれば周辺国家存亡の危機にもなりかねない重大事案であることを示している。
そのため、帝国は四騎士の内、”不動”と”重爆”の二人を派遣する事を決定したのだ。
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「ひゃっはは~!」
「ぐあぁっ!」
「あぐぅぅっ!」
薄霧に包まれて緑がほとんどない赤茶けて荒涼とした大地──カッツェ平野で、笑っているような仮面で顔を覆うトレンチコートを着たアンデッドが、帝国騎士たちの間をすれ違いながら指先から生えている鋭利な刃物で無作為に四肢を切り飛ばしていく。
「こ~のままぁ! バ~ラバラバラバラバラにしてやるよ~!」
負傷し戦闘力を失った帝国騎士たちにとどめを刺すべく、トレンチコートのアンデッドがUターンして襲い掛かるが、
「させるかぁ! 《一息・連突》!」
帝国四騎士の一人”重爆”レイナース・ロックブルズが高速の連続刺突を行う武技を放つ。
トレンチコートのアンデッドはそれを全て躱すが、それによって帝国騎士との距離は離された。
「おっとぉ~! 危ない危ない~♪」
「ロックブルズ様!」
「あのトレンチコートのアンデッドは私達が引き受けます。貴方達は負傷した騎士たちを連れて後方に下がり、治療を受けさせなさい!」
「了解!」
負傷を免れた帝国騎士達が、負傷した他の騎士たちを守る様にしながらその場を離れる。
「んんぅ? ひゃはっ♪ 女だ、女女女女~! 念入りにぃ……バッラバラにしてやるぅ~!」
トレンチコートのアンデッドの
「アンデッドにしても、あまりにも品性がないわね」
「だが、奴はかなり危険だ。此処で何としても仕留めるぞ」
ナザミがレイナースの前に出て、ヴァディス自由都市で受け取った二つの大盾を構える。すると、トレンチコートのアンデッドの様子に変化が起きる。
「んああぁ? 両手に盾だぁ? あぁ、あぁ、あぁ~! イライラするイライラするイライラするぅ~! あの粘液盾女を思いだしてイライラするぅ~!」
トレンチコートのアンデッドがそう叫びながら、仮面越しにナザミに向けて殺気のこもった視線をぶつける。
「あの女……異形種プレイヤーの分際で俺様の攻撃を全部捌きやがって~! 俺は気持ち良くバラバラにしてえんだよ~!」
「何を言っているの、こいつ……」
トレンチコートのアンデッドの理解できない叫びにレイナースは戦慄する。
「お前ら二人共ぉ、原形留めないくらいにバラバラにしてぶちまけてやるよ~!」
トレンチコートのアンデッドが再び動き出し、ナザミの盾に斬りかかる。
「《重要塞》! 《盾突撃》!」
「そんなんで~!」
ナザミは武技で攻撃を弾き、そのまま突進してトレンチコートの悪魔の体勢を崩しにかかるが、トレンチコートの悪魔は細身の肉体にそぐわないパワーでナザミの突進を耐える。
それでも生じた一瞬の硬直を、レイナースは見逃さない。
「《真槍重爆》!」
レイナースの切り札ともいえる武技が、トレンチコートのアンデッドの横腹に放たれる。
これまでの戦闘で、トレンチコートのアンデッドの身体能力は凡そ掴めている。このタイミング・この角度ならば回避する事はできない。そう確信していたレイナースの一撃。
しかし、
「……なんてなぁ~♪」
先ほどまで拮抗していたはずのナザミの突進を容易く押し返し、レイナースの槍の穂先を悠々を躱す。そして、すれ違いざまに彼女の両腕を切り飛ばした。
「……ぇ? あっ、あっぁぁあぁ!」
「ロックブルズ!」
「あぁ~、良いねぇ♪ 勝てると思い上がった雑魚に現実を見せて、絶望させるのはよ~!」
両方の肘から先を失ったレイナースが倒れ込み、絶叫をあげる。
「俺様が最初から本気で戦っていたと、本気で思っていたのか~? 最近、只ばらばらにするだけじゃマンネリ気味でつまらないからよ~。こうやって、相手に合わせて遊んでやって、希望を抱かせてから一緒にばらばらにしてやるのよ~♪」
「貴様ぁ!」
「ズラーノンだったかズラ野郎とかいう連中には感謝しなきゃなぁ♪ リアルではユグドラシルで粘液盾女にボロ負けしてから、人生にケチが付きっぱなしだった。職は失うは、食い扶持稼ぐために粘液盾女とそいつの弟をリアルの方で嬲り殺して金目の物奪ったら指名手配されて殺された。俺は! この世界で! 俺が望むままに! 好き勝手にバラバラにさせてもらうぜ~! ひゃっはっはっは~!」
レイナースに向けて振り下ろされる指先の刃を、ナザミは身体を割り込ませて大盾で防ぐ。
先ほどまでとはまるで違う身体が軋むような重い衝撃が、次々と大盾を通してナザミの身体に響く。
「とっととお前もバラバラになっちまえよ~! 女をバラバラにする時は、鮮度が第一なんだからよ~!!! すぐに死なないように爪先から丹念に切り刻んで! 恐怖と絶望をしっかりと味わわせながらバラバラにするんだからよ~!」
「ぐぅっ、重い! こ、このままでは……!」
思いあがっていたのだろうか? 四騎士最大の防御力を誇る自分がいれば、いかなる相手でも防ぎきることができると。トレンチコートのアンデッドの攻撃は重く、一撃ごとに身体がきしみ悲鳴を上げる。
それに自分ではあのトレンチコートのアンデッドに致命打を与える事はできない。そもそも、レイナースの渾身の一撃が通っていたとしても、本当の実力を隠していたあのアンデッドに本当に効いたのだろうか?
トレンチコートのアンデッドの猛攻を防ぎながら、ナザミの思考がネガティブな方向へと沈んでいく。そのまま心折れてしまいそうになったその時、
『盾が下がってる! ちゃんと握って、相手をよく見て防ぐ!』
ドスの利いた女の声が盾から聞こえ、無意識の内に下がっていた盾を握りなおして持ち上げてトレンチコートのアンデッドの刃を防ぐ。
『直に受け止めていたら保たない! 相手の攻撃は滑らせて受け流すように!』
トレンチコートのアンデッドの攻撃を、大盾を微妙にずらして滑らせるようにして防ぐ。先ほどまでとは身体の軋み具合が全く違う、これならばいくらでも防ぐことができる。
『次に右腕の攻撃はフェイント! 左腕に注意!』
危うく惑わされそうになった攻撃をいなし、本命の攻撃を弾いて防ぐ。
「その声……はぁ! ふっざけんじゃねぇ~!」
トレンチコートのアンデッドが激昂し、攻撃がより苛烈に、しかし雑に荒くなっていく。
「またぁ! 手前が!! 邪魔するのか!!! 俺様の、楽しみを! この粘液盾女が~!!!」
『ぷくく~♪ 弱い者苛めしかできない三下PKなのぉ~? 雑~魚、雑~魚♪』
「殺す! 殺す殺す殺す~!!!」
幼子のような作った声で煽られて、あっさりと挑発に引っかかったトレンチコートのアンデッドは隙だらけの大ぶりな一撃を放つ。
散々攻撃を受け続けたナザミの身体は重い。しかし、不思議と負ける気はしない。
「『カウンターパリー!』!」
ナザミと女の声が重なる。武技とは異なるその技は、トレンチコートのアンデッドの大ぶりの一撃を完璧に反射して左腕を粉砕した。
「なぁ!? あ、ありえねえ!!!」
左腕を破壊されたトレンチコートのアンデッドが狼狽し、後退る。
『おい、手前……。
「ひぃっ! ……だ、だが! 手前らにはそっちから俺を倒せる攻撃はねえだろう! このまま逃げを打たせてもらうぜ!」
「な! 待て!」
捨て台詞を吐いてそのまま逃走しようとしたトレンチコートのアンデッドだったが、
「誰が待つかよバ──」
「《
「《
「あぎゃぁあぁあ!」
龍のごとくのたうつ白い雷撃が薄霧を突き破り、トレンチコートのアンデッドを貫いてその身を一瞬だけ白く輝かせる。更に人の頭ほどの大きさの火の玉が追撃で着弾した。
光は即座に薄れ、焼け焦げたトレンチコートのアンデッドが地面に転がってぴくぴくと弱弱しく痙攣するのみとなっていた。
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「ナーベよ、本当に気配を感じたのだな?」
「はい、モモン……さーん。確かこの辺りから至高の御方の気配が」
「モモンさん。このアンデッド……確か
「ああ、その通りだ。以前、ブレインが
薄霧の向こうから現れたのは三人組だ。一人は十代後半から二十代位の年齢の女性で、すっと線を引いたような切れ長の瞳は黒曜石のような光を放ち、ポニーテールの黒髪は艶やかかつ濡れたような光沢をもっている。
もう一人は漆黒に輝く絢爛華麗な
残る一人は二人と比べると小柄で中性的な少年だ。先の二人と比べると、特徴らしい特徴はあまりなさそうだ。
三人の胸元には冒険者であることを示すプレート。そのプレートの種類は二種類、一つは白金で作られたもの。もう一つは艶やかな光沢を帯びた漆黒の金属。それが意味するのは、
「ア、アダマンタイト級冒険者?」
最高位冒険者の証であるアダマンタイトのプレートを首から下げる二人組に、ナザミは息を呑む。
モモンとナーベと言えば、リ・エスティーゼ王国で新たに誕生したアダマンタイト級冒険者チーム”漆黒”の二人のはず。
両腕を失って呻いているレイナースが彼女を見た時、舌打ちをしたような気がするが気にしないでおこう。
「あが、あががが……」
「行動不能なようだが、一応とどめを刺しておくか」
「ひぃっ! た、助け……!」
モモンが背中のグレートソードを抜いて、命乞いをしようとしたトレンチコートのアンデッド──どうやらジャック・ザ・リッパーという名前だったらしい──の首を一振りで断つ。
プライドが高いものであったらば獲物を取られたと激昂するかもしれないが、あのアンデッドを討伐する手段が残されてていなかったナザミは、これ以上の被害が出る前に討伐できたことに感謝する。
本来ならばまずは彼らに感謝の言葉を掛け、さらに帝国へ招いて礼を尽くすべきなのだが、それより先に同僚でもあるレイナースの傷をポーションで癒さなくてはならない。
今までのダメージで軋む身体を押してレイナースの下へ駆け寄り、残っているポーションを傷口に掛ける。
「うぐぅっ!」
「痛むが耐えてくれ」
傷口にポーションが染みて呻くレイナースに対して、気を強く持つように言うナザミ。
すると、モモンも此方に気が付いたのか、声をかけてきた。
「失礼、あなた方は?」
「これは申し訳ない。私は帝国四騎士の一人を任されているナザミ・エミックという者だ。この度はカッツェ平野で甚大な被害を出していた強大なアンデッドを討伐してくださり、誠に感謝する」
「帝国四騎士と言うと……バハルス帝国皇帝直属の最強の騎士ですよね?」
「その通りだ。……と言っても、あなた方が来てくださっていなければ、先ほどのアンデッドを取り逃がす失態を犯すところだったが」
少年の言葉に、ナザミは自嘲するように答える。
『いやいや~、プレイヤーがインストールされた
「!? この声は!」
「! この声は……ぶくぶく茶釜様!? ぶくぶく茶釜様、どちらにいらっしゃるのですか!」
盾から聞こえてくる何かの声が励ますと、その声に気が付いたモモンとナーベの二人が突然周囲を見まわし始めた。
『やっほ~、こっちだよ♪ 久しぶりだね、
「ぶほっ! 茶釜さん!? その声で冗談言うの止めてくれませんかねぇ!? というか、茶釜さんは彼に憑依したんですか?」
『それがね~。私は彼じゃなくて、この一対の盾に憑依しちゃったみたいでね。しかも、目が覚めたのはついさっきだから、何が何だかよく分からなくって』
「その割には、良く俺がモモンガだってわかりましたね。以前とは声も違うのに」
『ええ~。だって、身体の動かし方とか、声の抑揚のつけ方とか、基本的な部分はまんまモモンガさんだったし」
「え……何それ怖」
自らの盾に憑りついたという”ブクブクチャガマ”なる人物と、アダマンタイト級冒険者であるモモンが知り合いだったことにナザミは驚く。
『おやおや、あまのまひとつさん以外にも道具に意識が宿るパターンとこんなに早く遭遇するとは思いませんでしたねぇ』
『その声は、ウルベルトさん?』
『ええ。お久しぶりです、ぶくぶく茶釜さん。私は
『ほうほう、その僕っ娘属性が合いそうな女の子にねぇ』
少年だと思っていたが実は少女だった冒険者の顔半分を覆うように仮面が出現する。
そこでふと、皇帝陛下とヘジンマール殿が
──調べられる範囲で歴史を紐解くと、同じギルドに所属していた者同士は姿かたちは変われども、何かしらの切欠で一つの時代に集まりやすい傾向があるみたいだね。
六大神しかり、八欲王しかり、十三英雄しかり。そして、王国領内の村に現れたアインズ・ウール・ゴウンという
そうなると、僕が所属していたギルドも近いうちに集まる時が来るかもしれない。その時に帝国に少しでも有利になるように、君者たちには僕たちの情報を少し渡しておこうと思う。
例えばギルドマスターであるモモンガさん。彼の特徴はアインズ・ウール・ゴウンを名乗る
「(そうか……それが今まさにこの時なのだな……。ならば──)ああ、歓談中に済まないが宜しいだろうか?」
「はい、なんでしょうか?」
ナーベが此方をかなり睨みつけているように見えるが、此処で止まるわけにはいかない。
「実は……我が国には皇帝陛下を担い手の一人と認めた意思ある魔本、ぷにっと萌え殿がおられます。もし宜しければ、今回の強力なアンデッド討伐の報償という名目で、帝国の首都アーウィンタールに来訪していただけないだろうか?」
この時のナザミ・エミックによるモモン一行の招待が、後にアインズ・ウール・ゴウンとバハルス帝国が交流するようになる切欠であった。
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ヴァディス自由都市に帝国騎士たちが帰還した。
正体不明のアンデッドによって多くの騎士たちが負傷し、特に四騎士の一人であるレイナース・ロックブルズが一時は両腕を失う重傷を負った事は、驚きをもって伝えられた。
幸い、王国のアダマンタイト級冒険者チーム”漆黒”との協力によって正体不明のアンデッド──
そんな新たな話題で盛り上がっている自由都市ヴァディスにある酒場では、ナザミと鍛冶師が酒を交わしていた。
「しっかしまぁ、なんだ。まさか俺が作った盾に魂が宿るだなんてなぁ」
「彼女のおかげで俺達は無事に生き延びる事ができたし、帝国にとっても有益な出来事とも巡り合えた。本当に助かったぞ。これは俺からの少しばかりの礼だ」
「おっとっと、零れてるぞ。さてはお前さん、少し酔っていないか? 普段よりも饒舌だしよぉ?」「ふふ、こうも気分が良いのだ。少しくらいは大丈夫だろう?」
「まあ、それもそうか。そんじゃあついでにツマミも更に頼むとするか!」
「ああ、構わんぞ」
「おっ、言ったな?」
機嫌が良いナザミが快諾したのを聞いて、鍛冶師は悪い顔をして立ちあがる。
「お前ら! 今夜はここに居るナザミ・エミック殿の奢りだぁ! 好きに頼んでいいぞぉ!」
「なっ! お前なぁ!? ……ったく、分かった。俺も腹を括ろう。俺の奢りだからと言って、明日に響かないように気を付けろよ! 二日酔いとかで仕事ができなくても、それは俺の管轄外だからな!」
鍛冶師にしてやられた形だが、此処で退いては不動の名が廃るというもの。ナザミは言外に羽目を外しすぎないように注意こそしても奢りであることは肯定し、ジョッキに注がれているエールを口に運ぶ。
(彼らには大きな貸しができてしまったな。だが、帝国にとっては悪くない貸しだ。それに、あの御仁ならば求められる対価もそう悪いものにはならないだろう)
ほろ酔い気分の中、ナザミは今後の帝国の発展を願って笑みをこぼす。
蛇足ではあるが、後に帝国では今回の”漆黒”の功績を讃えた詩が帝国のアダマンタイト級冒険者チーム”銀糸鳥”のリーダー、フレイヴァルツによって謳われ、それに”漆黒”のリーダーであるモモンガが詩と踊りで応えるという一幕があったというが、真偽のほどは明らかではない。
○ヴァディス自由都市を拠点としている若き鍛冶師
「鍛冶に用いる道具の性能を強化する」
しかし、自分以上の腕を持つドワーフを師匠としたため、自らの実力は才能ではなくて師匠の教えと必要に駆られて自然と磨かれたものと考えている。
○
ズーラーノーンの十二高弟の一人がカッツェ平野で実験を行って生み出したジャック・ザ・リッパーに憑依した特異個体。
ユグドラシル時代は悪質なPKを繰り返すモブプレイヤーであったが、ぶくぶく茶釜によって完封されて敗北した事でユグドラシルを引退。ほどなくして職も失った事から女性をターゲットとする強盗犯へとクラスチェンジした重犯罪者。
ぶくぶく茶釜とぺロロンチーノを現実世界で殺害した人物でもある。
もしもこの事をモモンガが先に知っていた場合、殺して終わりなどという慈悲は下さなかっただろう。
○フレイヴァルツの詩に対するモモンの反応
あからさまに、中身がパンドラズ・アクターなのである!
モモンガは頭を抱えた。