God don't even know our road   作:榊さん家の悠人くん

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始まりの日

 それがいつの話なのか、正確な時期などは誰も知らないらしい。

 

 ただ分かっているのは、調べようとしても、どういう訳か調べることすら出来ないということだ。図書館に行けば目的の本はなく、インターネットで検索を掛けてもヒットはしない。街行く人に尋ねても、皆が口を揃えて「知らない」と言う。

 

 だというのに、噂話として巷に確かに広がっている不思議な話。私はそれをここに纏めておく。とある小さな兄妹の話を。

 

 

 それはある満月の晩に起こった、7・8歳の兄妹の話。

 

 もう日付も変わろうかという時間に、その兄妹は庭で遊んでいた。

 

 遊び終わり家に戻ると、人気がなくなっていた。

 

 先ほどまで遊んでいた庭には、見慣れないオブジェと大量の水が溜まっていた。

 

 彼ら兄妹は両親を探しにもう一度家を出ると、その瞬間家が炎上し始める。

 

 燃え盛る家を背にしたまま兄は、妹の手を強く握り締め庭を見つめていた。

 

 数時間後、朝日が昇ると彼らも居なかった。

 

 燃えた家も見慣れぬオブジェもすべてがなくなり、そこは森の一部だった。

 

 

 簡単に、箇条書きにしてしまえばこの程度の話。ちょっとした都市伝説のようなものだろう。けれど私は、この話にある種の恐怖を感じている。“火のない所に煙は立たぬ”という言葉がある通りこの話にも何か、もとになった真実が隠されているのではないか。そう考えてしまうのだ。

 

 そもそも、深夜に子供たちだけで遊ぶなんてことは普通ならありえない筈だ。何らかの理由があったのかどうは定かではないが、それでも、小学生低学年ほどの彼らが遊ぶような時間ではない。

 

 けれど、彼らは何をして遊んでいたのだろうか。噂話では鬼ごっこ、隠れんぼ、達磨さんが転んだ、お飯事等々、昔ながらの遊びをしていたというのが大半を占めている。少数では、縄跳び、チャンバラ、物真似などもみられた。その中で私が注目したのは“お飯事”だ。一般的にお飯事は、女の子の遊びとして知られていると思う。姉弟ではなく、兄妹の彼らがお飯事をするのだろうか。しないということはないだろうが、私はどこか釈然としないものを感じるのだ。

 

 この兄妹のした“お飯事”。これはお飯事ではなかったのではないか。私はそう考えることにした。そもそもお飯事とは、ごっこ遊びといわれる遊びの1つで、お医者さんごっこや、チャンバラなどと同じものとして分類されるものである。つまり、この話でいわれる“お飯事”とは、真似事が本になっているのではないか。先にも述べたように、彼らがした遊びの候補中に物真似が入っているのは、これの名残だろうと考えられる。

 

 この考えに至った時、私はグリム童話に収録された“子どもたちが屠殺ごっこをした話”を思い出し戦慄を覚えた。内容は余りに残酷なため今回は割愛させてもらうが、タイトルから大凡の見当は付けていただけることと思う。つまり私は、彼らがこれと同じことを両親に対してしてしまったのではないかと考えているのだ。

 

 だから家には人気はないし遊んでいた庭には、彼らの両親がオブジェと化して転がり、大量の出血は地面に溜まるほどだったのだろう。そして最後、家に火を掛け彼らは何処かへといなくなってしまった。

 

 ただ、“燃えた家も見慣れぬオブジェもすべてがなくなり、そこは森の一部だった”だけが、いまだにハッキリとしない。森の端で家が燃えたのだとしても、森林火災は免れないだろうし、そもそも、家一軒が焼失するような火災がおこり、焼死ではない遺体が発見されればもっと問題になっているはずだ。噂話にとどまるレベルではない。

 

 “燃えた家も見慣れぬオブジェもすべてがなくなり、そこは森の一部だった”これも何かの例えであったり、変わっていってしまったものの可能性がないわけではないが、そうすると先述の内容を私自身で否定してしまうことになる。だからという訳ではないが私は、これはそのまま真実なのではないかと考えている。何らかの方法で、遺体と血を片付けたのは確かだろう。もしかしたら、彼ら兄妹に、何かを吹き込んだ第3者がいたのかもしれない。“すべてがなくなり”から“森の一部”までに時間があるのかもしれない。

 

 けれど、証明するために必要な資料は一切見つからず、場所の特定すら出来ない現状では、だれも信じてはくれないだろう。頭のおかしい学者が何か言っているくらいの感じだろうが、この何も資料の残っていない話に関して、あえて記録を残しておこうと思う。

 

(これ以上先は破り捨てられており消失している)

 

 

 

 

 

「今回の仕事はなに?」

 

 暗い部屋の中デスクスタンドの頼りない明かりだけを頼りに、渡された資料を読み終えた私はクライアントに訊ねる。

 

「簡単な仕事さ、この学者を殺した奴を見つけ出して殺せばそれでお終いだ。連絡をくれれば、遺体などの処理もこちらでやろう。それと、協力者をこちらから1人送ろう」

「やけに親切。なにを企んでるの?」

「クククク、そんなに疑わなくても大丈夫さ。ただただ、君のことを心配しているだけなのだがね」

 

 白々しい。どうせ送るという協力者も目的は私の監視か。

 

 クライアントは、スタンドライトの届かない位置までしか近づいてはこないため、表情などは分からないがその声色には心配しているような感じはみられない。

 

「仕事はする。だから、早く消えて」

 

 少し語気を強めて、クライアントに了承の意と共に退出を促す。

 

「クククク」

「何が可笑しいの」

「最初から素直になれば長居はしないのに、とね。クククク」

「余計なことはいいから、仕事をしろと?」

「君の理解が早くて助かるよ。では、明日の8時に人を寄越すから、詳細はそいつに聞くといい」

 

 そう言うと、クライアントは部屋から出ていった。

 

 

 このクライアントから仕事を請けるようになって、数年が経つが未だに顔も性別も分からない。先ほど話していた声は成人の男性のようだったが、時には少女のような声であったり、はたまた老人のような声の時もあれば、明らかな合成音声の時もある。それでも背格好はいつも同じで、160そこそこの身長に黒いフード付きのローブを羽織っている。とはいっても、この身長ですら本当かは分からない。もしかしたら、同一人物だと思い込んでいるだけで、全くの別人なのかもしれない。

 

「ふぅ」

 

 そこまで考えて、私は大きく息をついた。今さらあの人物について考えても仕方のないことだ。どうせ明日には協力者と言う名の監視が常に付くことになる。正直鬱陶しいが、クライアントの考えは全く読めない現状ではどうしようもない。なら、今のうちにやれる事をやっておかないといけない。今はまだ、誰にも知られるわけにはいかないのだから。

 

「だから、待っていてね……」

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