今回もお楽しみください!
三人称side
IS学園が襲撃を受けた学園祭から日は過ぎ、いろいろな処理が終わった後の最初の登校日。
朝の6:30に、操はベッドの上で目を覚ました。
「ん、んぁ…朝か……」
セットしていた目覚ましが鳴る前に起きた為、目を擦りながら目覚ましを止める。
身体をグググ、と伸ばしてからベッドから降りる。
あくびを一つ零してから、顔を洗ってから朝食を作り始める。
昨日まで、IS学園の敷地内にバラバラに散っていた第一アリーナの残骸回収作業に追われていたため、まだ絶妙に疲れが残っている。
だが、この程度だったら操には大した問題ではない。
朝食を食べ終わる頃には、何時もと同じテンションになっているだろう。
昨日の就寝前に殆どの下処理は終えているし、そもそも作るメニューは凝ったものでは無いので、大した時間を有さずに朝食を操は作り終えた。
コップに入れた水と共に、完成した朝食を机に運ぶ。
本日のメニューは白米に味噌汁、焼いたベーコンに卵焼き、納豆。
とても簡素ではあるが、朝にはこれくらいがちょうどいい。
朝から大量に食べると胃もたれするからである。
「数年前なら、朝っぱらから揚げ物食べても問題無かったような気がするんだけどな……」
操は苦笑いを浮かべながらそう呟くと、水を一杯飲んでから
「いただきます」
朝食を食べ始める。
やはりホカホカの温かいご飯を朝に食べるという行為だけで、一気に意識がハッキリとする。
「うん、まぁまぁかな」
相も変わらず操は自分の料理に対する評価がいまいちである。
もとより操は料理に対する向上心がかなり高く、こっちの世界に戻って来てからは忙しすぎて出来てはいなかったが、よく自分料理研究などを行っていた。
だが、その向上心故何時まで経っても自分で納得できず、結果として操の料理はプライドブレイカーへとなったのだ。
それでも納得していないのは、以前の操の落ち込みがちだった性格の名残でもあるのかもしれない。
前に自分で熱中して自分で落ち込んでレオに説教されたのに。
もうそんな事は忘れているのかもしれない。
「ご馳走様でした」
操は手を合わせてそう呟くと、そのまま食器とコップを流しに持っていく。
「いやぁ、昨日までマジで大変だったぁ…特に事故って大量の瓦礫が俺に降って来た時」
洗い物をしながら、操は昨日までの残骸回収作業を思い返していた。
クロコダイルフォームで大量の瓦礫を運んでいる最中、同じくらいの瓦礫を持ち上げようとしていた真耶がバランスを崩し転倒。
真耶に怪我は無かったものの、持っていた瓦礫が全てジュウオウザワールドへと降り注いだ。
変身していたし、咄嗟に持っていた瓦礫を捨てジュウオウザガンロッドのロッドモードで墜ちて来る瓦礫を全て叩き落したので事なきを得たのだ。
「山田先生滅茶苦茶焦ってたなぁ…減給とかになってなきゃいいけど」
前々から真耶がドジをする事はあった。
だが、最近はそれが落ち着いていたのだが、此処で結構な事故を起こしてしまった。
操自身怪我して無かったので、特にこれと問題にしたくないのだが、そこは学園の…引いて言うなら十蔵次第だろう。
「まぁ、織斑先生みたいに問題起こしてる訳じゃ無いから、そんなに重くないと思うけど」
操はそう呟くと、洗い物を終わらせ手を拭く。
パパっと制服に着替え、身だしなみを整える。
そして自然解凍が出来る冷凍食品と白米の残りを弁当箱に詰めれば、今日のお昼ご飯は完成。
教科書類は昨日の内に準備を終わらせているので、これを鞄に入れれば登校前にやる事は終了。
後は時間を潰して登校するだけ。
「何しよう……本でも読むかな」
バイトを始めた事でお金に多少余裕が出来た為、この間バイト帰りに購入した本を読む。
「もう少しシフト多くしたいけどな…平日は流石に学園外に出るの無理だし…仕方が無いか」
購入した本は、所謂生物学の本。
生物が辿ってきた進化、それに伴う生態系の変化について、通説に疑問を投げかける内容だ。
無理矢理通説を否定するのではなく、通説を認めたうえで違った視点もあるのではないか、と提案する形で執筆されていて、非常に引き込まれる。
読書する事数分。
時間を確認する為顔を上げた操は、不意に
「さっき思い出せって感じだけど、織斑先生本当に見てないな……」
そう呟いた。
学園祭の前日から酒を飲み、当日の夕方まで飲み明かした千冬。
その後の残骸回収作業に1回も姿を見せず、今日を迎えたのだ。
教員用の連絡端末で、何度も何度も連絡を入れたのにも関わらず、だ。
作業に参加するどころか姿も見せず返信も無い。
もしかしたら、連絡があった事にすら気が付いていないのかもしれない。
「今日は流石に織斑先生来るよな…?うちのクラスの担任だもんな…」
なんとなくの恐ろしさを感じていると、もう時間になっていた。
本を置き、寮の部屋から出て、しっかりと戸締りをしてから教室へと向かう。
その道中、遠くの方からザワザワとした声が聞こえて来る。
まぁ、第一アリーナが忽然と姿を消していたら、誰だってそんな反応になる。
アリーナを釣り上げた本人である操はなんとなくの気まずさを感じるも、出来るだけ無視しながら教室への歩みを再開する。
「おはよう」
「あ、おはようございまーす!!」
操が教室に来た時、クラスの半分程はもう登校していた。
操は軽く挨拶をしながら自分の席に荷物を置く。
「操さん操さん」
「ん?どうかした?」
その瞬間に、静寐を始めとした本音を除く1組の釣り組がやって来た。
視線をそっちに向けながら反応をする。
「気が付いてますか?第一アリーナが無くなってるの」
「……ああ、うん。流石に気が付くよ。アリーナが丸々なくなったら」
若干視線が泳ぎ声が震えているが、静寐達は気が付かなかったようだ。
「急に無くなってビックリしたよね~~」
「ね~。何があったんだろう?」
(……仕掛けられた爆弾が爆発しそうだったので、俺が空中に釣り上げてそのまま爆発させました)
静寐達が会話をする中、窓越しに遠くの海を見ながら操は心の中で白状する。
そんな感じで、会話を聞き適度に相槌を打っていると、ラウラもやって来た。
「あ、ラウラ!おはよう」
「おはよう」
操の声に反応したラウラは、自分の席に荷物を置いてから操達の所に少し急ぎ足でやって来る。
その時の動作が、完全に
テコテコテコ
という擬音で表せる感じだったので、操達は思わずクスッと笑顔を浮かべる。
そんな様子に、ラウラは小首を傾げる。
事件の際はまさしく軍人といった凛々しい雰囲気だったのだが、事件が終わると一転クラスのマスコットの1人に戻ったようだ。
元々軍人なのだから、『戻った』は適切では無いのかもしれないが。
「何の話をしていたんだ?」
「いやぁ、急にアリーナが無くなってたから、なんでだろうって」
「……ああ、なるほど」
ラウラはチラッと操に可哀想なものを見る表情で視線を送ってから、さゆかの言葉に反応した。
操は視線に対して反応しそうになったが、したら説明をしなきゃいけなくなるのでグッと堪えた。
周囲でラウラ達が会話しているのを聞きながら、操は教室をぐるりと見渡す。
続々と生徒は登校してきて、気が付けばほぼ全員が揃っている状態だった。
(今居ないのは…織斑春十達3人だけか)
操は教室の状況を確認すると、そのまま顔の位置を元に戻した。
(まぁ、織斑春十はもしかしたら、まだダメージから回復しきってない可能性もある…回収作業にもいなかったし)
学園祭から昨日までを思い返す。
ISの装甲が半壊するまでボッコボコにされていたうえ、専用機持ちが駆り出された作業にもいなかったとなると、まだ怪我から回復していないと考えるのが妥当だろう。
まぁ、怪我から回復していても大事を取って教師から参加しなくていいと言われた可能性もあるが。
それは大した問題ではない。
(篠ノ之箒とセシリア・オルコットは…正直分からん。学園祭準備は一応真面目だったが…途中から姿見えなかったし、もしかしたらサボってたかもな…まぁ、もう終わった事だからいいや)
しばしの間考えたが、考えても意味が無いという結論に至った為思考を放棄した。
そのまま会話を聞き続けていると、チャイムが鳴り響く。
生徒達は一瞬にして自分の席へと向かい、座る。
それと同時に教室の扉が開き、出席簿を持った真耶が姿を現した。
『……?』
その光景を見た1組生徒全員が同時に首を捻る。
結局チャイムが鳴っても春十達が来なかったというのもそうだが、千冬が教室に来ず、何時も千冬が持っている出席簿を真耶が持っているのだから、それは疑問を感じるに決まっている。
「はいみなさん!おはようございます!」
真耶は元気を通り越して心配になるくらいのハイテンションで真耶が挨拶をする。
((あ、これ絶対に深夜テンションとかのと一緒の疲労によるハイ状態だ))
『お、おはようございます』
操とラウラが真耶の状態を察するのと同時、クラス全員が若干引いたような声色で挨拶を返す。
「はい、みなさん元気ですね!早速出席確認をします!!」
真耶はそのままのテンションで出席確認を開始する。
だが、そこは流石のIS学園教員。
朝なのに深夜テンションを継続させる訳無く、出席確認が終わる頃には何時もの優しくて温厚な真耶に戻っていた。
「もう1回確認しますが、織斑君、篠ノ之さん、オルコットさんがいない理由は誰も知らないんですね?」
真耶は確認するように教室内を見回しながら再度そう確認する。
全員が頷いている事を確認すると、真耶は短くため息をつく。
「分かりました…後で確認をしておきます。さて、では連絡事項です」
居ない人間に時間をさけるほど、朝のSHRは余裕がある訳では無い。
切り替え、連絡事項に移る。
「先ず、気が付いている人も多いとは思いますが、第一アリーナが無くなりました。これはこの間の学園祭襲撃事件によるものです。授業への影響はそこまでありませんが、放課後の自主訓練には影響が出てしまいました」
真耶のその言葉に、数人の生徒達が表情を少し暗いものにする。
まさにアリーナの使用申請をしていた生徒達である。
折角予約を入れていたのに、影響が出ると言われたら当然そんな反応になる。
特に、放課後の訓練は多くの生徒が望む事で、中々予約出来ないのだからより顕著になるだろう。
「影響のある生徒には、後で個別で連絡が行きます。対象の生徒は、もし今後予約を取りたかったら優先的に取れますので、教員に相談をしてください」
『はい』
返事を聞き、真耶は満足そうな笑顔を浮かべると、次の連絡事項を話す。
今日の授業に関すること等、重要な事を述べていく。
「そろそろ時間ですね。ちょっと早いですかこれでSHRを…」
「山田先生!質問いいですか!?」
なにやら真耶が重要な事を説明せずにSHRを終わらせようとしたため、操が慌てて右手を上げ声を発する。
「はい門藤君、どうしましたか?」
「織斑先生はどうしました?」
学園祭の日からずっと姿を見せなかった千冬。
そして朝のSHRも終わるという時間なのに教室に来ていないのだから、流石にどうなっているのか気になる。
操のその言葉に同調する様に、クラスメイト達が頷いて真耶に視線を向ける。
だが、その質問を投げかけられた真耶は数舜の間視線を泳がせる。
後頭部を数回掻き、ため息をついてから言葉を発する。
「その…織斑先生は数日前から連絡が取れなくて…」
『え゛!?』
思わず凄い声が出た。
だが、それも仕方が無いと思えるくらいには、衝撃的な言葉だった。
いくら駄目な部分が目立つとはいえ、自分達の担任の教師と連絡が取れないと知ったら、誰だってこんな反応になる。
なにより、千冬が暮らしているのは1年生寮の寮長室だ。
IS学園はその敷地が日本列島から離れた離島。
その離島に立っている寮なのだから、そう簡単にフラフラと外へはいけない。
「通信端末やスマホを使用しての連絡は全て無視。寮長室の前で呼びかけても反応無し。みなさんご存じのとおり、生徒寮の鍵は寮長室を含めスペアを学園で保管してますし、なんならマスターキーもあります。それを使って部屋の扉の施錠を解除しても、物理的に扉があかなくて中の確認が出来ないんです」
「物理的に開かない…?何かがつっかえて開かない、って事ですか?」
「そうなりますね……なので、もうどうしようも無いんです」
教室内の空気が少し重たいものになる。
「と、取り敢えずその事は教員に任せてください!これで、今日のSHRを終わります。今日も頑張っていきましょう!!」
真耶は無理矢理空気を切り替えると、そのまま逃げるように教室から出て行った。
キーンコーンカーンコーン
『…………』
チャイムが鳴っても、誰も声を発しなかった。
無言の時間がしばし続く。
「…さて、1時限目は数学だったかな」
わざと周囲に聞かれるくらいの音量で独り言を呟きながら、教科書類を取り出す操。
それに釣られるように、クラスメイト達も教科書の準備をし、こそこそではあるが会話を始める。
操はそれを見て、ため息を1つ。
(何が起こってるって言うんだ……)
ボーッとそんな事を考えていると、授業開始を意味するチャイムが鳴り響いたのだった。
「なんだろう、いろいろ考えて無駄に疲れた……」
時刻は進み昼休み。
操は屋上にいた。
別に大した理由があった訳では無く、ただ風に当たりながらご飯が食べたかったからだ。
いろいろな事が起こり過ぎて、歴戦の戦士でも流石にキャパオーバーだ。
「えーっとぉ?まず織斑先生が音信不通で?あの3人も結局連絡が取れなくて今日は無断欠席扱いになって?学園内だけでもこんなにもにいろいろ起こってるのに、オータムの後ろの組織だったりとの戦闘が予測される…はぁ、大変だなぁ……」
ため息をつきながら、良い感じに解凍されているおかずを1つ箸で口の中に放り込む。
力を持っているからこそ。
戦う覚悟を、とっくのとうに済ませたからこそ、様々な事を考えてしまう。
そんな操の事を心配するように、足元でキューブクロコダイルとキューブウルフが足元に寄り添っている。
キューブライノスは何時ものようにお留守番だ。
「……さて、俺はどう行動したら良いのだろうか……ずっと受身という訳にはいかないだろうし…だけど、俺にどうのこうの出来る情報力は無いし」
1人でぐるぐると考えていると、いつの間にかご飯を食べ終えていた。
「ご馳走様でした……と」
操はごそごそと弁当箱を風呂敷に仕舞う。
息を吐いてから、澄んだ青空を見上げる。
何処までも続いていそうなほど広く、綺麗な青空。
見ているだけで、煮詰まり切った思考がクリアになっていくような気がする。
ビュオオオオオ!!
「んぉ、そこそこ強い」
その瞬間に、冷たい風が吹き抜ける。
咄嗟に右手で顔を覆う。
「…はは、ちょっと頭冷やせって地球が言ってるのかな?」
思考が行き詰ったタイミングで拭いた冷たい風に、操は思わず笑みを漏らす。
すると、唐突に屋上の扉が開く。
「ん?あ、ラウラ!簪!」
「操!」
「操さん、屋上に居たんですか」
屋上に入って来たのは、ラウラと簪だった。
操が右手を軽く振ると2人は駆け寄って来る。
「ああ、弁当を食べてたんだ。2人は何で屋上に?」
簪の問いに弁当箱が入っている風呂敷を掲げながら返し、2人が此処にやって来た理由を尋ねる。
2人は一瞬顔を見合わせると、気恥ずかしそうに頬を掻いてから言葉を発した。
「その…襲撃事件から今日まで、色々あったじゃないですか」
「だからまぁ、色々考えてたんだ。それで、気分転換に屋上にでもと」
「なんだ、俺と一緒か」
操と同様に、ラウラと簪も力を持ち、覚悟がある。
同じ様な思考になるのは、もはや当然なのかもしれない。
くすりと笑みを浮かべながら言う操に、2人は意外なものを見た表情を向ける。
「なんだその表情。俺が悩むのがそんな意外か?」
笑みを浮かべたまま、そうおどけるような声色でそう言う操。
「ああ、意外」
「操さんは、私達より何時も冷静っていうか、達観してる感じがしてるので」
「ははは、まぁ簪達より長く生きてる分いろいろな経験はしたが……」
いろいろな経験。
操の詳しい過去を知らない簪は、
(私より年上なら、その分人生経験も豊富だよね)
と言葉通り受け取っていたのだが、向こうの世界や決別した前の名前を含めた全ての過去を知っているラウラは、
(お前の過去は『いろいろな経験』だけで済ませたら駄目だろう)
と苦笑いを浮かべていた。
そんな2人の表情で各々が考えている事を大体察した操は後頭部を掻く。
「それでもさ、いろいろ悩む事はあるよ」
そう言った後、苦笑いを浮かべる。
それを見た2人も笑みを浮かべ返す。
「まぁ、取り敢えず座ったら?風が気持ちいいよ」
「そうするとするか。立ちっぱなしも辛いからな」
「そうですね。じゃあ失礼して」
操に言われ、操が座っているベンチに腰を掛ける2人。
中央に操が座っていたため、右にラウラが、左に簪が座る。
ビュォオオオオオ!!
その瞬間に、再び冷たく強い風が吹く。
操は先程と同様に右手で顔を覆い、簪とラウラは片手で髪を抑え、もう片方で顔を覆う。
「今日は風が強い日だな…」
「そうなのか?」
「ああ、さっき2人が来る前にも結構強い風が吹いてたんだよ」
「そうなんですね。何だか、『考えすぎんな、頭冷やせ』って言ってるんですかね」
「ふっ!」
簪の呟いた言葉に、操は思わず吹き出した。
その後、笑いを堪えるように口元を抑えるも、堪えきれず身体をピクピクさせている。
急に笑い出した操を見て、2人はキョトンと首を傾げる。
「ご、ごめんごめん。簪が思った事と同じような事をさっき俺も思ったからさ」
「!ふふふ、そうなんですか」
操が吹き出した理由を理解した簪は言葉と共に笑顔を浮かべ、ラウラも言葉は発さないものの同じ様な表情を浮かべる。
そのまま暫くの間、3人は笑い続けた。
「なんだか、悩んだのが馬鹿らしくなってきたね」
「いやいや、適度に悩むことは大事だぞ?悩み過ぎて塞ぎ込んだりネガティブになるのは駄目だが」
「うっ!?」
簪の軽口に、冗談めかして返したラウラの言葉が、深々と操に突き刺さった。
もとより内気な性格の操。
最近は改善されているが、向こうの世界でジュウオウジャーに加わったばかりの頃は相当酷く、色々と迷惑を掛けて来たのだ。
操の中ではもはやその事実は下手なポエムなどよりも恥ずかしい黒歴史となっており、面と向かって言われた訳では無いのに操に突き刺さるのだ。
その際の衝撃は、この間の本音のおじさん呼びに匹敵する。
「あっ……」
そんな反応を見て、やってしまった事に気が付いたラウラ。
慌てて操に向き直り、両手を慌ただしくバタバタさせながらフォローを開始する。
「み、操!そんなに気にするな!」
「良いんだラウラ…どうせ俺なんか……」
両隣に人が座っているのに、器用にベンチの上で体育座りをする。
かなり久々の内気モードだ。
理解が出来ない簪がポカンとしている中、ラウラが操に語り掛ける。
しばしの時間が経過し、操は立ち直った。
「いやぁ、ごめんごめん」
「気にしなくていい…私も迂闊だった」
「ええっと……?」
なんとなく終わった事を察し、ずっと黙っていた簪が気まずそうに声を漏らす。
「ああ…普段の様子からは全く想像できないとは思うが、操は結構ネガティブ思考なんだ。最近改善したと思ったら、私が言葉のナイフで塞がりかけてた傷口を広げてしまったんだ」
ラウラが立ち上がり、簪の側に移動してからヒソヒソ声で簪に教える。
簪は驚きの表情を浮かべ、ラウラの事を見た後操に視線を向ける。
「ん?どうかした?」
「い、いや、なんでも無いです」
操の首を傾げながらの質問に、誤魔化すように返答するとラウラに向き直る。
「ほ、本当にそうなの?」
「ああ、本当だ。操が今はドイツ国籍なのは知ってるだろ?」
「うん、なんか前に言ってたのを聞いたような気がする」
「ふわっふわだな…まぁ良い。それで、4月で操が此処に入学する前に一時期一緒に過ごしていたのだが、その時も結構ボロボロでな」
「へぇ~、そんな事が…」
「本人談では前よりマシになっているとの事なんだがな」
「さっきから何の話をしてるんだ?」
ギリギリ聞こえないくらいの声量で、ずっとヒソヒソ話されていたら流石に気になって来る。
女子の話の内容を聞くだなんて無粋な事、しない方が良いと思っていたのだが、ついつい聞いてしまった。
2人は慌てて視線を操に向ける。
「ん~、あ~、なんだ。大した事では無い」
「そうですそうです。操さんは気にしなくて良いですよ」
「…なら良いか」
正直こうやってぼかされるとかえって気になるのだが、多分ここで追及しても話してくれないし、隠したい事を無理に聞き出す趣味も無いので、操は大人しく引き下がる事にした。
「危ない危ない、操が年上で助かった」
「どういう事?」
「いや、大人じゃ無かったら絶対にもっと追及されるという意味だ」
「なるほどね。実年齢が年上でも精神年齢は子供だったりする場合もあるけど、操さんは精神も大人だもんね」
「そう言う事だ。まぁ、なんだ、簪。この事は他言無用で頼む」
「うん、分かった」
ラウラと簪が操の秘密共有で更に仲を深めたのと同時、
「そろそろ良いか?」
会話が終わったのを察した操が声を掛ける。
「どうした?」
「いや、そろそろ昼休み終わるからさ」
操がスマホの画面を見せながらそう言う。
「あ、本当ですね。そろそろ戻っておかないと」
「5限目はなんだったか?」
「1組はIS座学」
そんな雑談と共に立ち上がる3人。
軽く伸びをすると、バキバキと固まっていた背骨が音を立てる。
「……まぁ、なんだ。多分今後もいろいろと悩むことはあるけどさ」
それと同時、操のあれこれで有耶無耶になっていた話題を操が引っ張り出してきた。
2人が視線を向けると、口を開く。
「俺達は1人じゃ無いんだ。みんなで協力して、これからも戦っていこう」
そう言った操は、決意の籠った表情を浮かべる。
それを見た2人も、笑みを浮かべてから同じような表情になる。
「ふふっ、そうだな」
「はい、頑張っていきましょう!」
3人はコツン、と右手で作った拳を合わせると、そのまま屋上から去って行った。
ラウラと簪が屋上にやって来た時に隠れるように離れていたキューブクロコダイルとキューブウルフは、満足そうに頷く動作をした後、扉が閉まり切る前に学園内に戻り、周囲の人間に気が付かれないように操の鞄に戻っていったのだった。
本当に平和だった。
不穏な影はあったけど。
次回も何時になるか分かりませんが、楽しみにしていてください!
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