投稿前に読み返しているんですけど、減らないんですよねぇ…
プキンとの約束の日。
マッチは待ち合わせ場所で、本を読みながら待っていた。
以前メリスマンからもらった【マリリンの鍋】の文庫版で、上中下巻に分かれている。
もちろんサイン付きだ。滅多に公の場に姿を現さないのでオークションに出せば億は下らないだろうが気にせずに読んでいる。
「マッチ君~!ごめんね、遅れちゃって…」
「いえ、俺も今来た所です」
遠くからパタパタと走ってきたプキン。何時もの白衣ではなく、可愛らしい私服で登場した。
思わずマッチが見ていると、プキンが尋ねてきた。
「何、どうしたのマッチ君?お姉さんに見惚れちゃった?」
プキンが冗談交じりにそう言うと、マッチは真面目な顔をして答えた。
「ええ。白衣のプキンさんしか見たこと無かったので、とても可愛らしいです」
「へっ!そ、そうありがとう…」
ぼっと顔を真っ赤に染めてぷしゅーと湯気を上げながら、お礼を言うプキン。
「さて、行きましょうか。子供達の肌着と正装を買っておかないと、食事会で浮いてしまいますから」
「そ、そうね。行きましょうか」
頬の赤みが引かないうちに、グルメデパートの子供服売り場に行くことに。
「さてと。一緒に回りますか?」
「ええ、迷子になったら会えない自信があるもの。ところで肌着だけって言ってたけど普段着は良いの?」
「ははっ、この人混みですからねぇ。男児服は男連中が昔着ていた服をリメイクして、女児服は
「へぇ、意外と節約してるんだね」
「
人混みをかき分けつつ子供服売り場へと辿り着く。
「さてと、男児の服は適当なものを購入するので女児の服を任せてもいいですか?」
「ええ、良いわよ。購入したらここで落ち合いましょうか」
「分かりました」
グルメデパートの子供服売り場はかなりの大きさを誇っており、流行のファッションから少し外れた物は割引されている事が多い。
「さて、ガキ共の体格は何となく覚えているから購入していくか。お、ラッキー割引割引!」
買い物カゴに服を放り込んで、割引のワゴンに入っているものを購入しようとする
「よし、これだけあればいいだろう。後はチマチマ買っていくか」
レジに向かい購入を済ませて待ち合わせ場所に着くが、プキンはまだ来てないようだった。
「男の買い物は早いからな…のんびり待つか」
ところでマッチは原作で滝丸からおじさんと言われていたが、今は傷も無く女性たちがチラチラとみる程度にはイケメンだ。
「あれ、マッチじゃないか」
「ん?コプリ子さんか。調理器具でも買いに来たのか?」
そこに現れたのはコプリ子だった。バトルアイランドで出会った料理人で、デパートに調理器具を買いに来たらしい。流石に原作で登場した時の服装では無かった。
「ああ、ちょくちょくここには来てるんだよ。あんたは?」
「俺は子供達の服を買いにな。今度食事会があるから正装も買わなきゃならんが」
「へぇ、すっかり大家族の父親じゃないか。女の子の服ならあたしが選ぼうか?」
「いや、人に頼んであるからいいぞ?」
ついでにデートに誘うつもりが出鼻をくじかれたコプリ子は、何とか立て直しつつマッチが買い物を頼んだ女性が誰なのか
「マッチ君、ごめんね遅れちゃって…誰?その人」
「へぇ、可愛い女じゃない…隅に置けないねぇマッチ?」
「お、おう…」
プキンが待ち合わせ場所に現れた時に見たのは、楽しそうに褐色肌の女性と話しているマッチ。
対してコプリ子が見たのはおっとりした大人の女性だった。
その時2人の胸中では嵐が巻き起こり、一つの確信があった。
((
その場の2人が出す雰囲気に置いていかれつつ思わずグルメ細胞の悪魔に声を掛けるマッチ。
人はそれを現実逃避という。
(なぁ、将軍よ。二人の背後に悪魔みてえなのが見えるんだけど)
【そうじゃな。お主もあの
(おいおい、俺にはそんな器ねえよ。それに法律があるだろ)
【カッカッカ!それこそ愚問よ、マッチ。お主の出生国の無法地帯っぷりは良く知っておるであろう?法が無いのならば何人嫁を取っても良かろうて。皇の周りには女がおるのが鉄板じゃろう?儂も昔は侍らせておったよ】
(食欲しかねぇお前が何で侍らすんだ?性欲も睡眠欲もあらゆる欲がねえと聞いたが)
グルメ細胞の悪魔(マッチ命名:将軍)と話していると、面白い事が分かった。
【うむ、食欲しか持っておらん儂等は悠久の時を過ごす内に暇になってくるんじゃ。そこで様々なことをしながら過ごしていたうちの一つがそれじゃったということじゃよ】
(中々にスケールがでけえな。まぁ、結婚はボチボチ考えてみようかねぇ)
現実逃避をしていたマッチだったが、2人から声を掛けられ現実に戻ってくる。
「「
「はい、喜んで」
竜王とのサシの勝負には勝ったマッチだが、女王には勝てないようだ。
昼ドラのような展開を店先で繰り広げる訳にはいかないので、個室のある喫茶店に入ることに。
「えっと、プキンさんは子供を助けるためにうちの組長が呼んだんだよ。女児がいたしな」
「へぇ、腕の良い再生屋って訳かい。モーヤンシャイシャイと言えば美食人間国宝じゃないか」
「いえ、私なんかまだまだ未熟です。先生の足元にも及ばないし…」
「行き過ぎた謙遜は嫌味になるぜ?モーヤンシャイシャイさんも長年の研究とかでその地位に就いたんだ。実際に俺の傷を与作さんとの合同とはいえ治してくれたんだし誇って良いと思うが」
軽い自己紹介を終えて、出会った経緯を取り調べの如く話していくことに。
最初はプキンからで、マッチとコプリ子の褒め殺しに会っている。
「コプリ子さんとはバトルアイランドで苦戦していたところを助けただけだしなぁ」
「バトルアイランドで?!ダメでしょうそんな所に一人で行っちゃ!」
「え゛?!い、いやどうしても欲しい食材があったしさ…その、腕試しも兼ねてみたいな?」
「欲しい食材があるんならきちんと鍛えて二人以上で行って下さい!命は一つしかないんです!それに綺麗な肌に傷が付いたらどうするんですか?!」
「はい!もうしません!」
プキンがたまに見せる母性が爆発した。
思わず姿勢を正し、逆らわないようにするコプリ子。
その手にはいつの間にかプキン特製ハンドクリームが握られていた。
「マッチ君もマッチ君です!何でバトルアイランドにリエラちゃん達を連れて行ったんですか!」
「いや、あいつらが修行したいと言っていてな?んで、監督役に与作さんも連れて行ったしいざという時には守るように頼んでたし…」
「与作さんがいたならいいです!問題はマッチ君です!」
「俺?いや、サイガもいたし早々負けねえよ」
プキンの怒りの矛先がマッチに向けられるとバトルアイランドの事を聞かれた。
無理もない事だが、バトルアイランドのインフェルノ島はグルメ界よりも
悪い事をした子供が親に『グルメ界に放り込むよ!』と言われる事があるように、『地獄の鬼が食べにくるよ!』と言われる位、一般人には恐怖の象徴なのだ。
「絶対じゃないでしょう!そのサイガ君との戦いで体中に穴が空いたのに!」
「まあ、その時は弱かったからで…」
「マッチ?どういうことか説明してもらおうかい?」
コプリ子の背後に悪魔が見えたので、大人しく説明することに。
「はぁ、あたしにあんだけ言ってたのに自分はそこまでしてたのかい?普通の人間は体に穴が空きながら戦えないよ?」
「仕方ないだろ?サイガを止めるためだったし、決闘に逃げたら漢が廃る。逃げなかったからこそ、あそこでの戦いを完全に勝利する事が出来たんだ」
吞気に話していると、プキンが静かなことに気付く。
嵐の前の静けさか、凄まじい怒りを溜めているような気がする。
ふと何となくプキンの顔を見るとほんのりと赤くなっていた。
「ヒック…マッチ君!お説教です!」
「は?!ちょちょっと待った!プキンさん、酔ってねえか?」
「なんれわらひがよってるんでしゅかぁ?!」
「典型的な酔っ払いの症状だねぇ…ん?このパウンドケーキ…ああ、リキュールが使われているタイプか」
「噓だろ、しかも加熱されるから粗方抜けるはずなのに少量で酔いすぎだろう」
どうやらデザートとしてプキンが頼んだパウンドケーキには、酒豪諸島のラムササビという猛獣から獲れたラム酒を使っていたようだ。
ブランデータイガーと同じように体内に流れる血がラム酒という変わったムササビで、常に酔っぱらっているためフラフラしながら空を滑空している。
「だいたい、マッチくんは
「休みといっても飯作らなきゃいけねえし、子供達の相手してやらねえとあいつら拗ねるんですよ。ほら、これ飲んでちょっと落ち着いて下さい」
「大家族の父親じゃないか。パパって呼んだ方がいいのかい?それともア・ナ・タ?」
「ッゴホ!おい、変な事言うんじゃねえよ!ったく、そういうのは好いた奴に言うもんだ」
母親の様な事をプキンから言われつつ、ウコンウンコの錠剤を渡す。
これは常に持ち歩いている物で、組長であるリュウが酔っぱらうと必ず次の日に二日酔いになり仕事が滞るので、飲んだ後には必ず飲ませている。
プキンにウコンウンコの錠剤を渡し飲ませた後、コプリ子から爆弾が投げ込まれた。
それに驚き飲んでいたコーヒーが気管に入り咽るマッチ。
「あら、意外と硬派なのね。てっきりもう女の一人や二人はいるのかと思ってたわ」
「グルメヤクザってだけで敬遠する奴もいるし、子供達の教育やら何やらかんやらやってたら恋愛する暇もねえんだよ。まあ、結婚願望はあるっちゃあるがなぁ」
「へぇ、じゃあ立候補しようかしら?」
「やめときな、まだ若いのに人生を棒に振るような事したら後悔するぜ?それに、俺よりいい男なんて星の数ほどいるだろうに…何ですかプキンさん?」
コプリ子と会話をしていると、いつの間にかプキンが隣の席に来ていた。
「むぅ、わたしはむしですかマッチくん。おねえさんはさみしいです」
「無視した覚えは無いんすけど…ていうか何で腕を絡ませてくるんですか」
「えへへ~マッチくんのうで、かたくてプロテクトツリーみたいですきなんでしゅ」
「褒め方が再生屋の基準なんですよ。ほら、当たってますしその辺で…何やってんのコプリ子さん」
「ん~?プロテクトツリーは見たこと無いけど、確かにいい感触だなと思ってさ。まるでグレイトレッグの脚部みたいだ」
いつの間にか2人に挟まれて腕を触られているマッチ。プキンに至っては腕を抱き枕の様にしているため、色々と当たっている。一方のコプリ子は腕を揉む程度だが、何故かその手付きは艶めかしい。
二人にしばらく触られていたが、プキンが電池が切れたようにすぅすぅと寝息を立てて眠り始めた。
「はぁ、そろそろ帰るぞ?プキンさんは送らにゃならんし…そういえばコプリ子さんはどこに住んでんだ?」
「グルメタウンの外れにあるアパートさ。治安も良いしね」
「これ使ってタクシーで帰りな。釣りは要らんから」
そう言って財布から何枚かお札を取り出すマッチ。
目を白黒させるコプリ子。
「は?!いやいやこんな大金ポンと渡すなよ!」
「ん?いや、郊外にあるんだったらそこそこ掛かるだろ?心配すんな、これでも金はあるさ。すみません、会計お願いします」
テキパキと会計を済ませ、プキンを背負って荷物を持つ。
店を出てタクシー乗り場へと向かう。
「今日はありがとうね楽しかったわ」
「おう、こちらこそありがとうな」
タクシーに乗り込む前に、コプリ子が話しかけてきた。
「そうだ、マッチ。プキンが起きたら伝えてくれない?負けないよってさ」
「ああ、そのくらいなら良いが…何の事だ?」
「女同士の秘密さ。これはあたしからのお礼!」
タクシーのドアが開き乗り込もうとしたコプリ子が、マッチの頬にキスを落とした。
「は?!」
「ふふっ、また会おうね。あたしの王子様♪」
タクシーが発車し取り残されたマッチとその背中で眠っているプキン。
起こった事に驚愕しつつも、混乱している頭をフル回転させて何とかプキンを送り届けた。
ネルグへの帰路の途中、迎えに来たサイガの背に乗り考え事をしていた。
サイガは八王の血を引いているからか非常に賢く、人間界の地図なら把握しているらしい。
(しかし、好意を持たれるとは思わなかったな。プキンさんの事もあるしどうするべきか…正解なんざねぇんだろうなぁ)
【だから言ったであろうに。お主は器も広く顔も良く、性格も良いのじゃぞ?世の女からしたら最高物件ではないか】
(…
将軍と世間話をしつつネルグへと進路を取るマッチであった。
何か日間ランキングに載っていました…!
思わず二度見してしまいました。
期待に沿えるかどうか分かりませんが、頑張ります!