都市伝説ハンター、リーフ行きます!   作:永夜 藤月

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またまた生存報告も兼ねての更新です。


サント・アンヌ号(後編)

 国際警察はその名の通り、世界中で起こる重大な犯罪を取り締まっている国際的な警察組織だ。主に現地の警察と連携して犯罪者の確保やポケモンによる事件の調査にあたっている。

 

 ゲームにおいては第一世代の赤緑の時点で既にサント・アンヌ号にてその姿が見られるが、特にイベントなどはない。本格的にストーリーに絡むのは第四世代のPtで、ギンガ団の残党確保のために登場する。

 

 その後もBWやXY、SMなどに登場するのだが、主人公の前に現れる捜査官は全作品で一貫して同じ人物である。その捜査官こそ、コードネーム「ハンサム」。今、私の目の前にいる男性その人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君がロケット団について見聞きしたことを、すべて教えてほしい」

 

 サント・アンヌ号にいた国際警察がまさか彼だとは思わなかった。というのも、彼は主要キャラクターの一人であるため、専用のグラフィックが用意されている。でも、サント・アンヌ号にいた人物は普通のジェントルマンの姿だった。

 

 もちろん彼のキャラが定まっていなかったからという理由も考えられるけど、彼が登場した後に発売されたピカブイでもそれは変わらなかった。だからあの国際警察は彼とは別人だと思っていたのだ。

 

 そんなことを考えていると、突然の質問に私が混乱していると思ったのだろう。彼は申し訳なさそうに話しかけてきた。

 

「すまない、いささか気が早かった。いくつか気になることもあるだろうから、遠慮なく聞いてくれ。答えられる範囲でなら、誠心誠意お答えしよう」

 

 どうやら心配させてしまったみたいだ。でも、ちょうどよかった。いろいろ聞きたいことがあったから、今のうちに聞いておこう。

 ただ、多少混乱していたのも事実。少し深呼吸して呼吸を整え、改めて彼に向き直り、口を開く。

 

「まず、ロケット団について聞きたいということですけど。どうして私に?」

 

 最初に気になったのは、なぜ私にこの質問をするのかだった。確かにロケット団には3回も会ってるけど、それはレッドにしか話してないはずだし。

 

「確かにそれは気になるだろう。実はここに来る前、カントーの警察と打ち合わせをしたのだが。その時に、君がロケット団に2回も遭遇したという話を聞いたのだ」

 

 ああ、なるほど。ジュンサーさん経由で話が伝わったのか。

 

「その流れで、私が君に聞き取りを行うことになったのだ。納得してもらえたかな?」

 

「はい、分かりました」

 

 とはいえ、ロケット団に2回会ったぐらいで話を聞こうと思うのかな? それぐらいなら他にもいそうなものだけど。まあいいか。

 

「では次に。どうしてロケット団について調べているんですか?」

 

 次に気になったのは「どうして国際警察が動いているのか」だった。ゲームで国際警察がロケット団に関わる話はなかったはずだけど。

 

「ふむ……その質問に答える前に。君がロケット団に抱いているイメージを、ざっくりとしたものでいいから教えてほしい」

 

 ロケット団のイメージ? そりゃもちろん……

 

「身勝手な理由でポケモンを無意味に傷つけたり、人のポケモンを奪ったりする悪い奴らです」

 

 ゲームをプレイしたことのある人なら誰もがこのようなイメージを持つだろう。何せロケット団は初代の悪の組織。子供にもわかりやすいように、とことん『悪』が強調されてたから。

 

 しかし、そんな私の思考とは裏腹に、私の答えを聞いた彼は目を見開いた。

 

「……驚いた。そこまで踏み込んだ、具体的なイメージを持っていたとは。君に話を聞いて正解だったな」

 

 その言葉に、私の中でたくさんの「?」が生まれる。あれ、私のイメージって何かおかしいのかな? 私の中では「ロケット団=悪」の式は証明するまでもなく成立してるんだけど。

 

「……どうやら分かっていないようなので説明しよう。まず、一般人の中でロケット団の存在を知っている者はほとんどいない」

 

 

 ………………え? 

 

 

「加えて、名前を聞いたことがあったとしても、どんな組織か把握している者は滅多にいない。それが実情だ」

 

 え、嘘⁉︎だってあんなに、

 

「あんなに目立つ怪しい格好で、ひどいことをしてるのに⁉︎」

 

 思わず考えていたことが口から飛び出してしまう。彼はそんな私の言葉に頷きながら、けれどもそれを否定するように言葉を紡ぐ。

 

「たしかに、胸にRの文字をつけた怪しい集団がたびたび目撃されていることは事実だ。しかし、奴らは基本的に他の人に見つからないように裏で動く。奴らが具体的にどんな行動をしているのかは、直接話をしたことがある者にしかわからないだろう」

 

 その言葉にハッと気がつく。思い返してみれば、私がロケット団に会った場所はトキワの森の奥地、お月見山の洞窟、そしてゴールデンボールブリッジの端。どこも人の気配の少ない場所だ。

 

「もしかすると最初の質問の際に『ロケット団に2回会うことなんて珍しくない』と思ったかもしれないが、そんなことはない。君はとても稀有な存在なのだ」

 

 確かにそう思った。そうか、そもそも会うこと自体が珍しいのか。なら、私に話を聞きたいというのも頷ける。

 

「さて、先程の質問に戻ろう。なぜ私たちがロケット団について調べているのか。それは、ロケット団にはポケモンを不法に捕獲・売買している疑いがかけられているからだ」

 

 あれ? どこかで聞いたようなセリフ……どこだっけ? それに……

 

「ポケモンを不法に捕獲・売買?」

 

「うむ、そうだ。知っていると思うが『不法に捕獲』とは、肉や毛皮などを目的としてポケモンを捕獲することだ。いわゆる密猟と言われるものだな」

 

 そう。食用ポケモンについては以前にも話したけど、それに限らず毛皮の採取などを目的としたポケモンの飼育にも資格が必要となる。

 

 そういえばこれは言ってなかった気がするけど、ポケモンの殺害はどんな理由であれ重罪となる。じゃあお肉はどうなっているかというと、実は時間が経てば再生する部位ばかりなのだ。ヤドンの尻尾なんかが典型的な例だね。

 昔は普通にポケモンを捕まえて食べたりしてたみたいだけど、人間が罪悪感や嫌悪感を覚えたのか、はたまたポケモン側の理由か。ある時からポケモンを食べるために殺すことがパタリとなくなったらしい。

 

 とはいえ、肉も食べなければ人間は生きていけない。そこで、強い再生力を持つポケモンに着目し、それを育てることで、ポケモンを殺さずに肉を得て食い繋ぐことが可能になったのだ。

 でも、それを気に食わない人もいるわけで。いつの時代も密猟は絶えなかったらしい。ただ、ポケモンは賢い生き物だ。殺気には敏感だし、凶暴な野生ポケモンに反撃を食らうことを考えると、これほど割に合わない仕事はないと思うけど。

 

「そして『不法に売買』。これは、ポケモンリーグを通さないポケモンの取引のことだな。野生産の珍しいポケモンが多いが、中には人から盗んだポケモンも扱われることがある」

 

 これもちょっと前に話したっけ。ポケモンの交換は両者の同意があれば誰でも可能だけど、お金とポケモンのやり取りとなると話が変わる。やむを得ない事情がある場合のみリーグが許可してるけど、基本的に売買は禁止だ。

 

「先日、これらの容疑でとある会社が摘発されたのだが。捜査を進めるうちに、ロケット団が関与している可能性が浮上したのだ。そこで調査のため、ロケット団の本拠地があると見られるカントーに私が派遣されたというわけだ」

 

 なるほど、そういう経緯があったんだ。というか……

 

「聞いた私が言うのもアレですけど、そこまで言ってよかったんですか? かなり重要なことを喋ってる気がするんですけど……」

 

 さっきの話って、完全に大人の話だよね。私、一応まだ子供なんですが。

 

「……もともと、ここまで話すつもりはなかった。ただ、私が想像していた以上に君は聡く、何よりロケット団に対して強い想いを抱いているようだからな。話をしても大丈夫だと判断した」

 

 流石に買い被りすぎじゃない? そこまで信用してもらえたのは嬉しいけどさ。

 

「さて、他に何か質問はあるかね?」

 

「いえ、もう大丈夫です」

 

 聞くことは聞いたし、今度は私が答える番だ。

 

 

 

 

 

 その後、私は自分が体験したことを彼に話した。

 

 リタを傷つけていたロケット団のこと。

 お月見山にいたロケット団のこと。

 橋で出会ったロケット団のこと。

 

 お月見山の話は初耳だったらしく、随分と驚いていた。レッドのことも話すとあとで聞き込みに行くと言っていたので、無口だから難しいという話もしておいた。

 

 そしていくつかの質問に答え、話は終わった。

 

「非常に役に立つ情報をありがとう。そうだ、これを渡しておこう」

 

 そう言うと、彼は一枚の紙を取り出した。

 

「私の電話番号だ。何かあれば、ここに連絡してくれ」

 

「分かりました。では、これで」

 

「うむ、君の旅が素晴らしいものになることを願っている」

 

 そして、部屋を出ようとドアノブに手を掛けたとき。後ろからかすかに彼の独り言が聞こえてきた。

 

 

「しかし、奴らは謎が多すぎるな。ロケット・コンツェルンとの関連も調べておかなければ……」

 

 

「────え?」

 

 

 今、何て言った? 

 

「おっとすまない、聞こえてしまったか」

 

「いえ、大丈夫です。それより……ロケット・コンツェルン、ですか?」

 

「ああ、ロケット・コンツェルンは以前カントーにあった大企業だ。既に倒産して数十年が経っているが、名前からしてロケット団と関係があるのではと言われている」

 

 やっぱり聞き間違いじゃなかった。でも、あれ? 

 

「倒産したんですか?」

 

「うむ。なんでも、開発ラボで爆発事故があったらしい。何か気になることでも?」

 

「いえ、聞き覚えのない名前だったので……失礼しました」

 

 お辞儀をしてパタン、とドアを閉める。まさか最後の最後に、特大の爆弾があるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

 ロケット・コンツェルン。それは、アニポケに登場する会社である。社長はもちろんサカキで、一言でいえば「ロケット団の表の顔」。ロケット団の存在を隠すための隠れ蓑のようなものだ。

 

 その会社が、この世界にもあるというのだ。しかしどういうわけか、既に倒産してしまっている。いったいどういうことだろう? 頭の中で、新たな疑問が現れては消えていく。

 

「……まあ、考えても分からないし。今はいっか」

 

 さて、ちょっと遅い昼ごはんを食べに行こうかな。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

 リーフが去った後。ハンサムは椅子に座ったまま腕を組み、一人で思考を続けていた。

 

(奴らがカントー各地に出没しているのは確かなようだ。だがなぜ今になって、これだけ表に出てきているのだ?)

 

 実はロケット団が初めて目撃されたのはたった数年前、それも一度限りのこと。それから数年間は不審者の情報はあれど、明確にロケット団だと判別できる目撃情報は存在しなかった。

 

(だがここ一年は、明らかに奴らだと分かるような目撃情報が増えている。今まで裏で動いていたのが、隠れる必要がなくなったということか? だとすると……)

 

 ピリリリリリリリ……

 

「うん? 電話か」

 

 一度思考を中断し、電話に出る。相手は上司の捜査官だった。

 

「もしもし」

 

『もしもし。どうでしたか、サント・アンヌ号での船旅は』

 

「何もありませんでした。そちらは?」

 

『同じく。クチバシティ周辺に奴ららしき姿は無し。まあ予想通りですね、タレコミ自体が怪しかったので。それで、何もないと言う割には何かあったようですが?』

 

「……以前の打ち合わせで話に上がった、奴らに2回も遭遇したという少女と会いました」

 

『ふむ、それで?』

 

「話を聞いたところ、彼女の兄も奴らと遭遇していたようです。場所は遭遇した順にトキワの森、お月見山、ゴールデンボールブリッジ。これまでの証言と合わせて考えても、奴らの活動が活発化しているのは間違いないかと」

 

『なるほど。ではこちらからも情報を。奴らのアジトが判明しました』

 

「────ッ、本当ですか⁈」

 

『ええ。そして、私を含め数名は、これからそこに潜入することになります。ですので、そちらからの連絡は控えてください』

 

「……承知しました」

 

『詳しいことはヤマブキシティの捜査本部で聞いてください。連絡は以上です』

 

「御武運をお祈りします」

 

 電話の奥からツー、ツーという音が鳴るのを確認し、通話を切る。一息ついた後、荷物をまとめ始めた。

 

(情報は鮮度が命。ひとまずヤマブキシティへ向かい、そこで奴らの目的を考えるとしよう)

 

 もともと外に出していた物が少なかったため、作業はすぐに終了。忘れ物がないか確認したのち、ハンサムは部屋をあとにした。

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「はあ〜、いいお湯だった」

 

 やっぱりいいね、お風呂は! 疲れが一気に吹き飛ぶよ。えっ、そんなに疲れることあったかって? それがね、あったんだよ。

 

 お昼ごはんを食べた後、船を降りたんだけど。クチバシティを探索してたら、突然おばさんに声をかけられたんだ。

 そのおばさんはどうやらイーブイが大好きらしいんだけど、珍しいポケモンだから見られる機会がほとんどなかったみたい。で、たまたまフィアを頭に乗せていた私を見て、思わず声をかけてしまったらしい。

 

 そうして話しているうちに、なぜかこの街にある「ポケモン大好きクラブ」に行くことになって。うん、勘のいい人なら何があったのか分かったかな? 

 

 大好きクラブの会長のお話に、何時間も付き合わされました。はい。

 

「こんな見た目が〜」とか「こういう仕草が〜」とかの話から始まり、そこから自慢話が出るわ出るわ。もしこの人が前世の世界にいたら、各地のポケセンでグッズを買い占めてるね、絶対。

 

 私が途中で何度か同意したのも良くなかったと思う。ふと我に帰った頃には、会長の口を止める術はなくなっていた。おばさんに助けを求める視線を送っても、ス……と避けられた。

 その反応を見て逃れられないことを悟ったと同時、普段グリーンに話をするときの私はこの会長のような感じなんだと理解してしまった。おばさんの反応が、いつか見たレッドの反応にそっくりだったから。

 

 やっとのことで解放された時には、もう太陽は西の空の低いところに。さすがに話し過ぎたと思ったのか(いや思ってなかったなあれは)、話を聞いてくれたお礼だと言って「ひきかえけん」をくれた。いやー、日が暮れる前でよかったよかった。

 

 

 えっ、何でわざわざそんな長話に付き合ったんだって? 実はこれ、ゲームに存在するイベントなんだよね。とはいえピカブイには存在しないから、知らない人も多いかも。

 会長からもらった「ひきかえけん」。いったい何の引換券なのかというと、ハナダシティの「ミラクル・サイクル」で折り畳み式自転車と交換できる引換券なのだ。

 

 赤緑とFRLGにおいて、自転車を手に入れる方法はこれしかない。直接お店で買おうとすると、お小遣いの上限を超えた大金を要求されるからね。そう考えるとこの引換券をポンと子供に手渡せるあたり、会長が何者なのか気になるところだけど。

 

 

 そんなこんなで、今日は精神的にもいろいろと疲れたから、早めに寝ようと思う。明日は、多分ジム戦かな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと目を開けると、そこは私が泊まっている宿ではなかった。

 

 明かりの少ない薄暗い部屋で、壁にはたくさんのモニターがある。黒服の男たちが手元のパソコンでそれを操作する様子は、さながら映画に出てくる司令室のようだ。そのモニターには、カントー各地の様子が映っている。

 

(ああ、これは夢だね。何しろ、自分の体が認識できない。まるで幽霊になったみたい。夢だと自覚して見る夢……これが明晰夢?)

 

 しばらくすると、モニターの映像が切り替わっていく。赤いRの文字を胸につけた、不審な男たち。ゲームコーナーの奥に続く、謎の階段。そして隠し撮りのようなアングルで撮られた、サングラスをかけた黒髪の男の姿。

 

(もしかしなくても、あの男が────)

 

「ロケット団のボス。サカキの行方は、今もって不明であります」

 

(‼︎)

 

 背後から突然聞こえた声に驚く。振り返ると、二人の男性がモニターを見ながら会話をしていた。先程発言した方の男性に見覚えはないが、もう一人は今日会ったばかりの人物。国際警察のハンサムだ。

 

 男性が言葉を続ける。

 

「ロケット団はカントー地方の裏社会を支配し、ポケモンを不法に捕獲・売買しているとの疑いがもたれております」

 

(ああ、そうか。どこかで聞き覚えのあるフレーズだと思ったら、()()だったんだ)

 

 モニターの映像が切り替わる。ネオンランプの看板が目立つお店の前に、複数のパトカーが停車している。店の内部はカジノのような作りで、店員らしき人たちが複数の警察官に取り押さえられていた。

 

「既に我々は、彼らの重要な資金源であるタマムシシティのゲームコーナーを急襲、制圧に成功しました。そこに囚われていたポケモンたちの解放にも、成功しております」

 

 再び映像が切り替わる。今度は大都会にそびえ立つ高層ビル。おそらくヤマブキシティの中心部だろう。

 

「また情報によれば、シルフカンパニー乗っ取りの動きも見られましたが。複数の証言により、これも頓挫したことが判明しております」

 

 男性の報告は以上のようで、手に持っていた書類をしまっていた。そして、ここまで黙って話を聞いていたハンサムが口を開く。

 

「逮捕したロケット団員から、サカキの情報は得られないのかね」

 

「……残念ながら、その後の動向は部下にも知らされていないようです。また、彼らのサカキへの忠誠心は極めて高く。たとえ知っていても、容易には口を割らないでしょう」

 

 男性の答えに、ハンサムは一瞬だけ残念そうな表情を見せる。だがすぐに顔を背けると、顎に手をあててこう呟いた。

 

「それほどのカリスマだというのか。サカキという男は……」

 

 そこには僅かながらだが。ロケット団という大組織を束ねる男への、畏敬の念があるように見えた。

 

 

 

 

 

 ここで、パソコンで何かを調べていた男性の一人がハンサムの方を振り向き、声を上げる。

 

「捜査官ッ! サカキの居場所が判明しました!」

 

「何⁈どこだっ!」

 

 すぐに聞き返すハンサム。その言葉を受けた男性はモニターの方に目を向ける。それに合わせてハンサムもモニターを見ると、そこには一つの建物の姿が。

 

「ここは……まさか⁉︎」

 

 驚きの声を上げるハンサム。無理もない、そこは犯罪者とは無縁……いや、むしろ対極に位置すると言ってもいい場所なのだから。

 統一された茶色の屋根に、何かのバッジを象ったシンボルマーク。それはカントーに8つのみ存在する、リーグ公認施設の証。

 

 ハンサムの言葉を受けた男性は、ゆっくりとその場所の名を口にした。

 

 

「………………トキワジムです!」

 

 

 

 

 

 その後は怒涛の展開だった。警察の大部隊がトキワジム前に集結し、ハンサムの一声と共に突入。しかし中はもぬけの殻。ジムの最奥部にあるバトルフィールドに、真新しい爆発の跡が残るのみだった。

 

 そして、私の意識は別の場所に飛ばされる。

 

 

 

 

 

 

 そこはトキワシティを一望できる、小高い丘の上だった。人の気配はなく、辺りを見回してみても誰もいない……と思ったのだが。こちらに背を向けて立つ、一人の男の姿を見つけた。

 

 その姿を目にした瞬間、とてつもない悪寒と震えが私の全身を襲った。

 

 暗い闇夜に紛れるような、上下ともに真っ黒なスーツとロングコート。コートの隙間から見えるスーツの左胸には、よく目立つ赤い「R」の文字。警察が突入していくトキワジムを、睨みつけるように見つめている。

 男は静かに口を開き、力強く言葉を発する。

 

 

「……ロケット団は不滅だ。すべてのポケモンは、ロケット団のために存在する‼︎」

 

 

 それは、いったい誰に向けた言葉なのだろうか。男は手に持っていた帽子を深く被ると、ゆっくりとその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 男が去った後も変わらず、体の震えは止まらなかった。これは夢の中だというのに。

 あの人物が何者なのか。今まで何を行なってきたのか。どうしてここにいるのかすらも、私は知っているはずなのに。

 

(あれは、何?)

 

 相手に有無を言わせず、見た者すべてを圧倒し、惹きつけるような存在感。鋭い視線を発する瞳は、いったいどれほど強烈な野心を秘めているのだろうか。

 まるで、世界を征服するために生まれてきたかのような存在。初めて見た人間にさえ、そう思わせてしまう。

 

(……………………あれが、ロケット団のボス)

 

 そこで、私の意識は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………はっ!」

 

 気がつくと私の目は、見慣れた天井を映していた。激しかった体の震えも、いつのまにか収まっている。

 

「……夢、か。やけにリアルな夢だったな」

 

 なんだか暑苦しい。そう思って少し起き上がると、パジャマはぐっしょりと濡れていた。寝ている間にかなり汗をかいたみたいだ。

 

「……シャワー、浴びにいこう」

 

 寝起きの割にクリアな私の脳は、幸か不幸か。先程の夢の内容を、はっきりと記憶していた。




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