本日より、連載再開していきます!
あれから結局、ほとんど眠れないまま朝を迎えてしまった。寝不足でうまく働かない頭でなんとか体を動かし、洗面台で顔を洗う。冷たい水が効いたのか、ようやく目が覚めた心地がした。
着替えを終えて下に降り、フィアたちと共に食堂で朝食をとる。備え付けのテレビからは、朝のニュース番組が流れていた。
『……という戦法も考えられます。ですから、おそらく○○選手の狙いは……』
何かの大会だろうか。迫力満点のバトル映像を見ながら、バトルの専門家だという男性が映像の解説をしていた。
それを横目に見ながら口を動かすこと十数分。朝食を食べ終えた私たちはジム戦の準備をするため、ポケモンセンターをあとにした。
『……次のニュースです。今日未明……近くの草むらで、ポケモンの……が発見されました。発見したのは不審者がいるとの通報を受けて駆けつけた警察官で、不審な人物がその場から立ち去ったのを目撃したとのことから、警察は……事件として……』
準備を済ませてクチバジムに到着した私たちは、ハナダジムと同じように順調にジムトレーナーを倒していき、ジムリーダーへの挑戦権を得た。
そういえば、クチバジムといえばギミックの難しさが有名なジムだね。ジムトレーナーとのバトルよりもゴミ箱からスイッチを探す作業に苦戦した人は多いんじゃないかな?
実はこの世界では、そういったギミックは存在しない。というか、こんなギミック採用してたら、挑戦者が大渋滞を起こしてしまう。
そもそもポケモンジムは、純粋にトレーナーのバトルの力量を測るための場だ。頭の柔らかさや賢さを測るための資格なら、他にもたくさん存在するからね。
ジムの最奥のバトルフィールドは、一般的な砂の地面のものだった。ハナダジムのような特殊な環境でないことに安堵しつつ、足を進める。
フィールドでは既に一人の男性が
「ウェルカム トゥー クチバジム‼︎」
刈り上げられた明るい金髪に、西洋人らしい彫りの深い顔。迷彩柄の軍服は、おそらく軍人時代のものだろう。鍛え上げられた肉体は、健康的に日焼けしている。
「ハーイ、ベイビー! ユーがチャレンジャー? ミーにバトルを挑むとは、いい度胸ネー!」
自信満々に高笑いしながら、彼はモンスターボールを手に取る。それに合わせ、私もボールを握る。
「ワタシのでんきポケモンで、みんなビリビリ! シビれさせてあげマース!」
ジムリーダーのマチスが勝負を仕掛けてきた! ▼
マチスの先発は色も形もモンスターボールにそっくりのポケモン、ビリリダマ。高い素早さが特徴のポケモンで、進化先のマルマインはカントー図鑑150匹の中で一番の素早さを誇っている。
対してこちらの先発はルピィ。ハナダジム戦の時と同じく、まずは起点作りだ。
「いつも通り行くよ、ステルスロック!」
「ピッピィ!」
ルピィの周囲に鋭い岩が生成され、四方に散らばる。それらはすぐさま透明になり、肉眼では見えなくなった。
「ではミーたちも!」
「リィ!」
ビリリダマの周りに二種類の半透明の壁が現れ、そしてすぐに見えなくなる。“ひかりのかべ”と“リフレクター”、両方貼られたか……厄介だね。
でもステルスロックと違って、壁は永続じゃない。なるべく時間を稼ぎたいところだ。
「来ないのなら、コチラから行きマース!」
しかし、ジムリーダーはそんなに甘くない。マチスの指示と同時に、ビリリダマの目の前に小さな電気の塊が現れる。
「まずい……ルピィ、縮んで!」
しゅるしゅる……とルピィの体が小さくなった瞬間。一本の光の筋が、ルピィに向かって放たれる。
“チャージビーム”
少し命中したかと思ったが、ルピィは無傷。どうやらギリギリで指示が間に合ったようだ。
「今度はこっちの番! “チャームボイス”!」
お返しとばかりに技を放ったけど、綺麗に避けられてしまった。やはり素早い相手というのは厄介だ。このままでは防戦一方になってしまうし、ひとまずここは……
「一旦戻って、ルピィ。頼んだよ、フィア!」
「ブイ!」
今の私のパーティーで、一番素早さが高いのはフィアだ。ビリリダマに追いつけるわけじゃないけど、動きを捉えるのはできるはず。
「でんこうせっか!」
ボールから飛び出した勢いそのままに、フィアが加速する。フィールドの中央にいたビリリダマに肉薄するものの、これも簡単に避けられてしまう。
でも、避けられるのは想定済み。このまま上手く誘導して……
「おっとイケマセン、スパーク!」
「‼︎」
フィアに誘導されたビリリダマが、見えない“ステルスロック”にぶつかる直前。マチスの指示により電気を見に纏ったビリリダマは、そのまま“ステルスロック”を突き破った。
「ステルスロック、すごくいい技ネー。だから、ミーも使わせてもらいマース!」
さらにビリリダマは、近くにあったもう一つの見えない“ステルスロック”を駆け上がる。そして、フィアの真上へとジャンプした。
「まさか……フィア、避けて!」
私の指示を受けてフィアが動き出そうとするが、すぐには動けない。次の瞬間、真上から放たれた“チャージビーム”は、フィアの身体を正確に捉えていた。
「フィア、大丈夫?」
「ブイ……!」
私の問いかけに対して、力強く答えるフィア。真っ向から電撃を浴びたとはいえ、ビリリダマの特攻や技自体の威力がそれほど高くなくて助かった。でも、状況は変わらない。
元から持っていたあのスピードに加えて、今はチャージビームで特攻も上がってる。しかも両壁も貼られてるから、ハナダジム戦の時みたいに“どろかけ”も効かな……あっ!
「フィア、いくよ!」
「ブイ!」
私の掛け声と共に、フィアが再び走り出す。それを見たマチスも指示を飛ばし、ビリリダマはフィアを翻弄するように動き始める。フィアの周囲をぐるぐる回ってフィアが疲れるのを待つようだけど、それは悪手だ。
「フィア、すなかけ!」
「‼︎」
私の指示を受けたフィアが、自身の周囲に砂を撒き散らす。私の仮説が正しければ……
「リィイ!」
やはりそうだ。目に砂が入ったのだろう、大きな声をあげながら途端に動きが鈍くなったビリリダマを見て、私は確信する。
私は“すなかけ”の指示を出したけど、実は今フィアが使ったのは“どろかけ”だ。ハナダジム戦の時とは違ってここでは雨が降っていないから、“どろかけ”の材料となる泥がない。そんな環境で“どろかけ”を使えば、必然的に“すなかけ”と同じ挙動になる。
じゃあ“どろかけ”と“すなかけ”で何か違いがあるのかというと、そこには大きな違いがある。攻撃技である“どろかけ”に対し、“すなかけ”は変化技。つまり“すなかけ”は、“ひかりのかべ”に弾かれることがないのだ。
「今だ、でんこうせっか!」
「ブイブイ!」
ビリリダマの動きを完璧に捉えたフィアの一撃が、ビリリダマに突き刺さる。“リフレクター”で半減されるからダメージは少ないけど、まだ目はちゃんと見えてなさそうだ。この隙に、勝負を決めよう。
「畳み掛けるよ、フィア!」
ビリリダマは、素早さが高い代わりに防御が低い。途中で両壁の効果が切れたこともあり、ビリリダマが倒れるまでにそう時間は掛からなかった。
「ビリリダマ、お疲れ様デース。ユーの出番ネ、コイル!」
2体目はコイル。中心に一つ目がついた鉄球のような身体と、左右に浮かぶU字磁石のようなユニットが特徴のポケモンだ。ユニットからは電磁波が放射されており、重力を操作して宙に浮いているらしい。
はがねタイプ特有の頑丈な身体は、素早さを犠牲に高い防御力を誇る。ある意味ビリリダマと正反対の性質と言えるが、特攻はこちらの方が上だ。一撃もらうだけでも、下手をすれば大ダメージにつながるだろう。
「いきマース! コイル、でんきショック!」
身体に突き刺さった“ステルスロック”をものともせず、すぐさま攻撃を繰り出すコイル。ほとばしる電撃がフィアへと向かっていくが……
「走って!」
「ブイ!」
ビリリダマと比べると、そのスピードは遅い。いくら威力が高くとも、避けられるのなら問題はない。攻撃を避けたフィアはそのままコイルに向けて、一直線に突き進んでいく。
「ブイ……ブイ!」
“にどげり”
効果抜群の技をモロに食らったコイルは重力の制御を失い、ふらふらと地面に落ちていく。途中で何とか体勢を立て直したものの、フィアの追撃によって地面に叩きつけられた。
「コイル、ゆっくり休んでくださいネー」
労いの言葉をかけながら、コイルをボールに戻すマチス。その表情は、バトルが楽しくて仕方がないという感じだった。
「ユーは、ベリーベリーグッドなキッドネ! バトルをエンジョイしながらも、常にビクトリーを目指してマース!」
マチスが最後のボールを手にする。その中で待ち構えているのは、ジムリーダーの最後の砦。そして、ジムリーダーの一番の切り札。
「だからこそ! ユーの強さを今ここで、ミーに見せてくだサーイ!」
マチスに投げられたボールから飛び出す、1体のポケモン。オレンジ色の身体は、腹部のみ白くなっている。黒く細い尻尾の先端は、まるで稲妻のような形だ。頬の黄色い電気袋からは、微弱な電気がほとばしっている。
「いきマショウ! ミーのパートナー、ライチュウ!」
「フィア、でんこうせっか!」
ピカチュウの進化系であるライチュウは、素早く特攻も高い。その素早さは間違いなく、ビリリダマよりも早いだろう。だからこそ、先手必勝でダメージを与えにいく。
ライチュウも、フィールドに出てすぐに技の準備を始めた。しかし、その直後に“ステルスロック”が突き刺さる。ダメージはそれほど大きくなさそうだけど、一瞬でも怯ませられれば十分だ。
「いっけー!」
「ブイイイイ!」
“とっておき”
フィアの渾身の一撃が、ライチュウの身体を捉える。でも、それで終わらないのがジムリーダー。すぐに体勢を立て直したライチュウは、至近距離から強力な電撃をフィアに浴びせる。
“10まんボルト”
「ブ……イ……」
ビリリダマの“チャージビーム”とは、比べものにならないほど高い威力。すでにダメージを負っていたフィアが耐え切れるはずもなく、その身体は地面に崩れ落ちた。
「フィア、お疲れ様。ゆっくり休んでね」
フィアをボールに戻しながら、ライチュウに勝つ方法を考える。一撃で倒すのは現実的じゃないから、ダメージを与え続けるしかないだろう。となると、一番安全な方法は……あれだね。
「もう一回頼んだよ、ルピィ!」
「ピィ!」
再びルピィをフィールドに出す。あの電撃を食らってはひとたまりもないので、すぐに“ちいさくなる”で回避率を上げていく。でも、それは向こうも織り込み済みだろう。ライチュウは電撃を放つのをやめ、ルピィに向かって駆け出した。
「遠くから技が当たらないのなら、近づけば問題アリマセーン!」
“でんこうせっか”
確かに対象に近づけば近づくほど、技の命中率は上がる。でもそれは、こちらも同じこと。引き付けられるだけ引き付けて────
「ルピィ、うたう!」
「⁉︎」
ルピィとの距離を詰めていたライチュウは、その歌を聴いた途端、一気に動きが鈍くなる。しばらくすると、すやすやと寝息を立てながら、地面に倒れ込んでしまった。
「ありがとう、ルピィ。仕上げだよ、フォルン!」
ルピィと交代で出てきたフォルンは、すぐさま“ねんりき”でライチュウの身体を持ち上げていく。そして、天井近くまでいったところで……一気に地面に叩きつける!
「ライッ⁉︎」
衝撃で目が覚めたのだろう、立ち昇る砂煙の中からライチュウの驚く声が聞こえてきた。あの高さから叩きつけられたのだ、相当なダメージを負ったはず。なんなら倒れていてもおかしくないけど……
「ラァ……イィ……!」
砂煙が晴れたとき、そこには、ゆっくりと立ち上がるライチュウの姿があった。さすがはジムリーダーの最後のポケモンだ。技の威力はさることながら、身体のタフさも尋常じゃない。
「良い攻撃だったネー。でも、ミーのライチュウは、それくらいではやられまセーン!」
二本の足でしっかりと立ち上がったライチュウが、全身に電気を見に纏う。それは、必殺の一撃を放つ準備。
「フォルン、サイケこうせん!」
「コォン!」
こちらも、今のフォルンが放てる最大火力で応戦する。そして、フォルンの光線がライチュウの身体を捉える直前。
「ラィ……ヂイイイイイ!」
“10まんボルト”
すべての力を振り絞ったような咆哮と共に、ライチュウの身体から電撃が放たれる。その勢いはフォルンの“サイケこうせん”を呑み込み、瞬く間にフォルンの身体へと到達した。
「コォッ!」
「ッ、フォルン!」
とてつもない威力の電撃が直撃したフォルンは、目を回して倒れる。ダメージを負っていなかったフォルンが一撃で戦闘不能にされたことに、私は驚きを隠せなかった。
ジムリーダー戦は3対3のシングルバトル。こちらに残っているのは、ダメージはないものの疲労しているルピィのみ。あの攻撃を避けながら、ここから勝つのは厳しいな……と思ったその時。
「ラァ……ィ……」
ドサッ、という音を立てて、ライチュウの身体が崩れ落ちる。どうやら、先程の一撃でかなり消耗したようだ。決めるなら、今しかない!
「お疲れ様、フォルン。行って、ルピィ!」
「ピィ!」
“チャームボイス”
ボールから飛び出してすぐにルピィが放った技は、先程の反動でライチュウの身体を正確に捉える。それがトドメとなったのか、それからライチュウが動くことはなかった。
「オーノー! ユーの強さ、トゥルース! つまり、本物ネー!」
バトル終了後。マチスは私の勝利を褒め称えた後、太陽の形をしたバッジを取り出した。
「これ、ミーに勝った証ネー。オレンジバッジ、渡すヨ!」
マチスの手からバッジを受け取る。これで、3つ目のバッジをゲットだ。順番的に次は……タマムシジムかな?
そして、しばらくマチスと言葉を交わした後。ポケモンセンターへと戻ってきた私は、みんなをジョーイさんに預け、一人借りたベッドに倒れ込んだ。
今回のジム戦は序盤からかなり苦戦したけど、何とか勝利をもぎ取ることができた。着実に、自分たちが強くなっているのを実感できている。これからも精進し続けることを誓いながら、私は天井へと伸ばした右手を、力強くギュッと握った。
お読みいただきありがとうございます!
半年近く失踪してしまい、本当に申し訳ありませんでした。
ようやくまとまった時間が取れそうなので、連載を再開いたします。
これからもリーフの冒険を、楽しんでいただければ幸いです!
感想等あれば、お気軽にお書きください。
作者が非常に喜びます。